【本編完結】聖女は辺境伯に嫁ぎますが、彼には好きな人が、聖女にはとある秘密がありました。

彩華(あやはな)

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5章、最終章

12.シェリル視点

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 手が悴むほど寒い。
 冷たい風が天幕の隙間から吹き込んでくる。

 冷たい手を時折温めながら、自分に与えられた天幕の中で、ひたすらポーションと風邪薬を作り続けていた。
 自分では薬草の採取しに行く事ができないため、アシュリーとアリスに必要な薬草を調達してきて貰って作っている状況。

 お姉様たちも自分のできる事をしているため、バラバラに活動していた。この地に来た時に会って以来、落ち着いて話すこともできていない。

 アシュリーからお姉様たちの事を聞くくらいしかわからない。

 わたしは、ウララお姉様の旦那様であるアイザック様の屋敷の中庭に天幕の張り、その一つをわたし用の薬制作の部屋にしていた。
 薬を作るのに必要な器具と簡易ベッドしかない部屋。
 あとは、作った薬を保管する木箱が大量にあるくらい。

 作っても作っても足りないのか、ポーションの依頼がたくさん舞い込んでいた。
 
  アシュリーから聞くには、戦況はあまり良くないらしい。

 負けているとは言わないが、この気候に兵士の動きが悪いらしい。

 以前の戦争時も冬場は同じだったようだ。
 寒さにより、戦意喪失、病気の蔓延・・・、同じ道を辿っているのでなかろうか?

 わたしの記憶には残っていないが、日記の記録には残っている。
 
 ポーション作りと風邪薬を同時に作っているのはそのためだった。
 
 もう一つ、気になっているのは風土病。それが一番怖い。
 アイザック様から聞き取りをし、本を読み漁ったが、実際に見たこともなければ、わたしの日記に記述はなかった。
 もし、それが広がれば、わたしはすぐに薬を作ることができるのだろうか・・・?
 今なら、記憶が定かな今のうちに作ることができれば、でも作りやすくなるかもしれない。

 いつ、わたしが前線に赴くようになるかもわからなかった。

 あの国王なのだから。いつ、声がかかるかわからない。一ヶ月後?もしかすると明日かもしれない。
 そんな恐怖が襲ってくる。


 だからなのか、無性に寂しくなる事があった。
 逢いたくなる。

 グレンさまにー。


 わたしは寂しくて、自分で創った歌を口ずさむ。

『渓谷より見える暗き闇に瞬く星が見え
赤い夕焼けの緑の草原にいるのは大山羊
茶色の大地に緑の葉をつけるのが好きで
金の稲穂がそよぐ青い空のもと食べるトマト
赤茶色の枯れ葉に青い雫を落とした場所の 愛称を北の辺境地という
わが頼りべにし心安らぐ』

 駄作な歌なのはわかっている。
 語呂合わせで創った歌だから、意味なんてほとんどない。でも、しか考えられなかった。


 アイザック様が一度、顔合わせに来られた時「待っていて欲しい」と言っていた。

 どう言う意味なのか・・・。
 その言葉に、期待してしまいそうになる。

 
 今なら、まだ忘れていない。

 いつ、わたしの力を必要とするのか?
 そうなれば、わたしは『忘れて』しまう。
 
 その事が怖かった。

 今までなら諦めていたのに。

 これほど、『忘れる』ことが怖いとは思わなかった。
 今までは、忘れたことの悲しみが強かっただけ。
 それと、他人にバレたくないと言う気持ちが大きかった。

 でも今は、『忘れたくない』と言う気持ちが強くある。

 皆の事を、覚えていたい。
 忘れたくない。


 そう思いながら、わたしは薬を作り続けてる。

 
 


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