【本編完結】聖女は辺境伯に嫁ぎますが、彼には好きな人が、聖女にはとある秘密がありました。

彩華(あやはな)

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1章、契約の内容

32.ニーナ視点

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 全てが終わった時、清々しい気分だった。
 全てを許されたような気がした。
 柵がとけ、自由を感じた。

 グレン様がやってきて、わたしを抱きしめた。

 ちょっ、
 聖女様!!

 彼は聖女様を押し退けた。
 倒れた聖女様。
 
 初めて『怒り』が生まれた。



 ハイセン先生に見てもらう。

「ニーナ様。気分が悪いとかはありますか?」
「気分?腹は立ってます。そう言う意味では気分が悪いですね・・・」
「ははっ。そう言うことでしたら、大丈夫ですね」

 先生は口元を引き攣らせていた。

 先生は部屋に入ってきたグレン様たちに向かって完治を告げた。

 その時初めて、自分の病の完治を信じることができた。

 夢じゃないのね。

 嬉しい。

 喜んでいるとグレン様がわたしの前にひざまづいた。そして言った。

「ニーナ、わたしと結婚してくれ」

 軽蔑の眼差しのハイセン医師以外のメイドたちはうっとりと聞いていた。

 ふんっ!

 誰が!!




「嫌です」




 目が点。
 




「ニーナ?」



 聞こえなかったのね?
 じゃあ、もう一回言ってあげる。





「嫌です。しません」





 誰がするもんですか!



 もう一度、確認してみるわ。

「ハイセン先生。本当にわたし、大丈夫なんですよね?」
「えっ、あ、はい。大丈夫です」
「発作もなくなったのですよね。走っていいんですよね?」
「はい、走ってもダンスをしても、倒れることも、発作をおこすことはありません」
「ベッドを降りていいのよね?」
「はい。筋力が落ちているので、しばらくはリハビリが必要かと・・・」
「ううん、大丈夫みたい。わたしもう我慢しなくていいのよね」
「はいっ。我慢なさらなくて、もういいですよ」

 我慢しなくていいのね。
 これほど嬉しいことはない!!
 つい、泣いてしまった。
 生きている実感が湧いてくる。
 わたしは生きている。
 嬉しい。
 わたしの好きなこと言っていいのよね。

 ひとしきり泣いた後、グレン様を真っ直ぐにみて言った。
 

「グレン様。わたしグレン様をお兄様のように感じているだけで恋愛感情はありません!」
「ニーナ?」
「わたし好きな人がいるのですの。その方は、わたしが我慢していることも、悲しいことも理解してくれました。
 わたし、ずっと我慢してたの。でもグレン様たちはわたしに理想を押し付けるだけでしたわ。
 気分が悪いのに何時間も居座るし、ゆっくり読書をしたくても、あれこれ言って最後にはネタバレしてくるし。花の匂いが嫌な時だってあるのに押し付けてくるし、ほんと、なんなのよ!」

 やっと言えた。
 不敬罪であろうとどうでもいいわ。
 所詮、平民同然なんだから、当たってくだけろ、よ。
 この際、いいわよ。

「それに、わたしを治してくれた聖女様を押し倒して・・・正直に言って、最低、幻滅ですっ!!それに、聖女様はグレン様の奥様になりましたよね?ありえませんけど!!そんな人嫌いです!」

 ふん、言ってやったわ。
 ほんと、ひどいことをする!!
 聖女様、大丈夫かしら?

「ニー・・・ナ?」
「すっきりした。やっと言えたわ。グレン様。わたしこんな人間よ。知らなかったでしょ」
「ニ・・・ナ・・・」

 わたしは床にしっかり足をつけ立ちあがる。やっぱり、筋肉の衰えなんていない。

 聖女様の力はすごいわ。
 感謝しかない!!
 ありがとうございます。

 わたし、一世一代のことします。
 もう、我慢はしませんっ!!
 聖女様、ありがとうございます。

 言うわ。

「わたし、マクロン様が好きなの」

 そう言ってわたしは彼の元に飛び込んできた。

 受け止めてくれた。
 抱きしめてくれた。

「ニーナ様・・・」
「ニーナ、よ。マクロン様。わたしをあなたのお嫁さんにしてください」
「勿論です。わたしも・・・わたしも貴女を、愛しています。妻になってください」


 やった。
 幸せだわ・・・。

 マクロン様はキスをしてくれた。
 



 ーとろけそう・・・。








◇◇◇◇◇

これで1章が終了になります。
2章から哀れなフラレ男と聖女様がすこしだけ絡んでいきます。

できれば、哀れなフラレ男にも声援を送ってあげてほしいですが・・・無理ですね・・・。

明日、登場人物紹介をいれます。
進行都合で一章と二章の登場人物紹介だけになります。

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