【本編完結】聖女は辺境伯に嫁ぎますが、彼には好きな人が、聖女にはとある秘密がありました。

1章、契約の内容

22.

　突然の声に振り向くと一人のメイドがたっていた。


「ここでなにしてるの？」
「す、すみません。実は今日からここで働き出したのですが、厨房のほうで聖女様よりニーナ様が良いと聞きまして、えっと、それで･･･」
「そうなの！じゃあ、ニーナ様を紹介してあげるわ。さあ、入って入って」

　彼女はニーナな名前を聞いて、パァっと明るくなると強引に中に連れ込んだ。
　メイドとしてのマナーはどこにいったのだろう。ノックの一つもない。

「ニーナ様。新しいメイドです」

　引っ張るようにして、わざわざニーナの前に立たせる。

「ニーナよ。よろしくね」

　ベッドの上で座っているニーナは口の端をそっとあげ微笑んだ。
　
　その笑みを見て、シェリルは自然に身体が動いた。

「失礼します」

　そう言うなり、腕を取り脈を測る。
　
「なにしてるの！！」

　一斉にメイドたちが殺気だった。

「静かに」

　アシュリーの通る声に、全員が動きを止めて、シェリルのすることを見守った。なにかあれば一気に襲い掛かれるように一挙一動を見守る。

「疲れてますね。熱はないですが、今日はゆっくり休んだほうがいいですよ」

　冷たい手をさすりながら言った。
　ニーナの目が僅かに見開かれる。
　
「ニーナ様が大切なら体調をよく見てあげて下さい」

　メイドたちを見回し言った。
　
　彼女たちは顔が青くなっていた。

「どうしたの？」

　突然の声に、メイドたちは振り向いた。
　真っ赤な派手なドレスに濃い化粧のおばさん。ケリー夫人のようだ。

「ケリー様、、」
「どうしたの、と言ったのよ」

　高圧的なものの言い方。
　持っていた扇をパチンと閉じ、人を蔑むように見てきた。
　メイドたちは一斉に目線をそらす。
　代わりにシェリルが一歩前に進み、すっと姿勢を正したまま頭をさげた。

「失礼します。ニーナ様がお疲れになったので退出しようと話していたところでございます」
「またなの。ほんと弱いわね。まあ、しかたないわね。ゆっくりおやすみなさい」

　それだけ言うとケリー夫人は去って言った。
　ニーナは目を逸らし、俯いている。

　シェリルの目だけは冷たくケリー夫人を追っていた。
　いなくなるのを待って、最初のメイドにきつめに言う。

「メイドの人数を減らして、無駄口を減らすこと。水に少しの砂糖と塩、あと柑橘を混ぜた物を用意してこまめに水分補給。風通しが良いのはかまわないけど、身体を冷やさないこと。いいわね！あと、病人に無理をさせない！」
「は、はいっ」
「あなたも、無理な時は無理と言いなさい。我慢はしないこと。身体も心も。我慢が一番悪いからね」

　ニーナにも言うと、シェリルはアシュリーを連れて颯爽と出て行ったのだった。

　残されたものは呆然と見送った。


「ねぇ、誰なの。あの子？」
「さあ？」

　誰も答えられる者はいなかった。