【本編完結】聖女は辺境伯に嫁ぎますが、彼には好きな人が、聖女にはとある秘密がありました。

彩華(あやはな)

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1章、契約の内容

19.

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 机の上の蒸留機から流れ出る液をシェリルは眺めていた。一滴一滴、ビーカーの中に溜まっていく。
 やっと、丸薬第三弾めの試作品もでき、現在、冒険者と騎士たちに使ってもらっての意見待ちになっていた。
 そろそろ、薬草も足りなくなってきた・・・、ポタポタ落ちる滴を見つめながら考えていた。 

「シェリル様。お疲れですか?」

 過保護者2であるアリスがお茶を入れてやってきた。
 過保護者1のアシュリーは今日はギルドへて行ってもらっていた。エルバスから呼び出されたからだ。今日はどうしても行けないのでアシュリーが変わりに行ってもらっていた。

「そうじゃないけど・・・」

 蒸留機から離れソファーに座るとアリスの入れてくれた紅茶に口をつける。

「アリス。本館の様子は?」
「やはりそちら、でしたか?」

 感情を見せることの無いアリスの眉がほんの僅かに動いた。それ程まで嫌なことなのだろう。
 出会った頃より感情を表に出せるようになってきたことがシェリルは嬉しくなる。

「昨日騒がしくなかった?」
「昨日、発作を起こされたようです」
「四日に一回くらい?」
「そうです。ですが、その半分はメイドの勘違いです」
「勘違い・・・」
「あちらも過保護に守られています」

 絶対に名前を呼ばない徹底ぶりに苦笑する。

「今日もハイセン医師には見せてる?」
「はい、この後、いらっしゃいます」
「そう。薬作りも出回り具合もいい感じだし、そろそろ動こうかな・・・」
「シェリル様・・・」



*******

 ニーナの主治医であるハイセン医師は王都で最新の医療を学び35歳という若さで王立病院の院長になったものの、40歳で病院を辞めて故郷に帰り、個人病院を開業している変わり者だった。
 そんな彼は五度目となるシェリルの部屋で居心地悪そうに座っていた。

 一度目はここにいるアリスにニーナの部屋を出た所で拉致られ、連れてこられたのだった。

 噂で聞く北側の棟に足を向けた時、足が震えた。

 まさか、街でも辺境伯が王命を受け、聖女を妻に迎えたと聞いてはいた。
 ニーナのことを溺愛している辺境伯が聖女を愛する事はないだろうことは思っていたが、まさか北の棟とは思わなかったからだ。
 虐げられ、悪礫な環境かと思いきや、部屋に入って見てると、その考えは一掃された。

 部屋に入ってすぐに、靴を脱いで生活のフロアーライフに驚く。床は絨毯が敷かれ温かい。窓にはカーテンが引かれているのに部屋全体は明るく華やかに彩られていた。
 女の子らしい部屋にほっとした。

 部屋の中に座る少女に目がいく。
 幼さが残る、銀色の少女。夕焼けのような瞳を見て彼女が聖女なのだと確信する。
 医者目線で彼女を見てしまう。
 15歳と聞く割に小柄で線が細い。太らない体質なのかもしれないが、それにしても痩せているようにみえる。
 少し顔色も悪い気が・・・。

「お呼びだてしてすいません。どうぞ、お座りください」

 少女の声に彼はギクシャクと座った。




 あれから一ヶ月たつが、未だになれない。伯爵からは関わらないでくれ、と言われている為、後ろめたさを感じていた。
 でもここにくるのには理由があった。

「前回の薬、効き目がありました」

 そう、シェリルの作った薬をニーナに処方していたのだ。
 ニーナの症状を聞いてきたかと思えば、彼女は薬の提案をしてきたのだった。
 薬草や効能に詳しい彼女。医師としてニーナにできる限りしてあげたいハイセン医師。

 彼には断る理由が思いつかなかったのだ。
 二人で意見を交わし、ニーナの為に新薬を作った。
 魅力的な時間だった。

 そして、何よりもう一人患者はいる。

 目の前の少女だ。

 アシュリーから、少女のカルテの写しをもらっていた。
 以前よりはふっくらとしてはきたが、まだ線が細い。
 また寝不足なのだろう。目の下にうっすら隈ができている。

 外見だけでわかるところはさりげなくチェックをしながら、話を進めていく。

「ニーナ様の発作は最近は軽くなっています。薬のおかげで、貧血なども改善されており、食事も進むようです」
「では、わたしが手を貸してもかまいませんか?」
「それは、ぜひお願いします。何もできず死に行くものは見たくありませんので。ですがニーナ様がお元気になられた場合・・・あなた様は・・・」

 ニーナが元気になった後が心配だった。

「お二人が幸せならかまいませんよ~」

 心配もどこ吹く風。
 ハイセン医師はいたたまれず、困ったように息をはいた。








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