【完結】悪女を殺したわたしは・・・

彩華(あやはな)

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 醜い。
 わたしは醜い。
 とても、醜い。

 わたしは、嫉妬に狂った、愚かな女。
 
 あの女を殺したいくらい憎い。
 それほどまで、嫉妬をしている。

 あの方はわたしの婚約者モノなのに、ベタベタと触る。


 触らないで!
 声をかけないで!
 笑いかけないで!
 近づかないで!

 それが言えたなら、どんなにいいものか。

 令嬢として教育されたわたしには言えない。
 言えば、あの方に嫌われるかもしれない。

 軽蔑されるかもしれない。
 蔑まれた眼差しで見られるかもしれない。
 
 苦しいわ。
 泣きたいの。
 叫びたい。
 貴方のその胸に飛び込んで、慰められたい。

 それをひた隠して、生きているの。
 笑っているの。
 微笑みをむけるの。

 歪んでいくわたしの心。

 
 あの女をひどく虐めれば、わたしの気持ちが楽になれるかもしれない。
 きつい言葉で攻めて、気を落としている姿を見れば、スッキリするかもしれない。
 物を隠して、探し回っている姿を見れば、いい気味だと笑えるかもしれない。
 噴水に突き落として、泣いている姿を見れば、高らかに笑えるかもしれない。
 階段から落として、怪我をした姿を見れば、ほっとするかもしれない。

 そんなわたしの中の悪女が囁く。
 やるんだ、と。
 やればいいのだ、と。
 悪女のわたしが囁く。

 そんなわたしの中の悪女が嫌い。
 なぜ、存在するの?

 黒い影がわたしの心を支配する。
 願っていないのに。

 醜い。
 浅ましい。
 醜悪。
 おぞましい。


 わたしの中の嫉妬を無くして。
 わたしの中の悪を消して。
 わたしの中の悪女をー

           殺してー。


*******

 外出できない日が続く。
 部屋に閉じこもる。
 お父様もお母様も見にこない。
 それでいい。
 醜いわたしを見て欲しくない。


 外に出れば、わたしは嫉妬から彼女に危害を加えるだろう。
 
 あの女のー、
 顔を見たくない。
 声を聞きたくない。
 あの甘い声で彼を呼ぶ声なんてもってのほか。
 愛おしく向ける彼の顔が浮かぶ。
 嫌っ!!!
 そんな顔を見せないで。

 わたしを見て。
 わたしだけを・・・。

 考えるだけで心が苦しい。
 心臓がちくちくと痛む。
 息が出来なくなる。

 
  
 
 幼馴染でメイドのカナンが部屋にやってくる。
 わたしを抱きしめてくれる。

「カナン。わたしを殺して。わたしの中の悪女を殺して」

 泣いて縋る。

「お嬢様。わたしには無理です。ですが、森の魔女様なら・・・」
 
 魔女?

「対価を払えば、なんでも願いを叶えてくれると言います」
 
 対価を払えばなんでも?

 わたしの中の悪女も?
 醜い心も?
 全て殺してくれる?
 殺してくれる?

 ならばー。


 わたしは、カナンの協力を得て、内緒で家を出て魔女の元へ行った。


 悪女を殺してもらうためにー。
 
 

 
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