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「ヒナさん! 大丈夫ですか!」
黒い物がこびりついた鉄パイプを握りしめながら、腰にタオルを巻いて旅館の中を探し回る。
服はさっき怪異に食われて粘液まみれになってしまったからな。幸運なことにこの旅館にはヒナさんと受付のおばあさんしかいない。
不慮の事態だし、仕方のないことだ。
「……っち、怪異が湧いて出てくるな」
粘土のような怪異が隙間という隙間から湧いて出てくる。
正直言って気色悪い光景だ。
怪異の頭部を狙って殴り殺していくが、無限に湧いて出てくるからキリがない。
そもそも、何故こんなに怪異がいるんだよ。
もしかして旅館に人がいないのは怪異のせいだったりするのか?
「真夜さん! こっちです!」
怪異の対処に追われていると、視界の端に女湯の暖簾から顔だけを出しているヒナさんが私を呼んでいる。
「ついでに真夜さんの横にある浴衣を取ってきてください。……服を化け物に食べられて今何も着てないんです……」
「あぁ……なんかすいません。今すぐ渡しますね」
浴衣をヒナさんに渡してから、私も浴衣に身を包む。
肌触りがとても良い。
しばらくして、ヒナさんが着替え終わったようで私に語りかけてきた。
「真夜さん、早くここから逃げましょう! この化け物の量は普通じゃありません」
逃げるって、何処へ逃げるっていうんだ。それに私はまだ捨てた記憶が見つかっていない。
ヒナさんには適当を言って、先に何処かへ行ってもらおうか。
「私はまだ探しものを見つけていないので逃げることは出来ません。なので先に逃げてください。後で必ず追いつきます」
「真夜さんが何を探しているのかはわかりませんが、命に変わる物はありませんよ!」
ヒナさんは私の手を引っ張る。酷く震えているようだ。
……まぁ無理もないか。突然見知らぬ土地に迷い込んだ挙げ句に正体不明の怪異に襲われる。
「私にとっては──命よりも大切なものなんですよ。それがないと死ねないっていうか……。価値がないように見えても、私にとっては大事なんです」
どうせ死ぬなら悔いのない状態で死にたい。
全部思い出してから死なないと昔の私も、唯一の友も浮かばれないだろう。
「そこまで真夜さんが言うなら……わかりました。先に行ってますね」
「それと真夜さんに渡したいものが」──と旅館の入口まで歩くヒナさん。
おもむろに傘立てから赤色の番傘を取り出して、私に微笑む。
「真夜さんにこの番傘をあげようと思います。……遠慮しないでください。お近づきの印として真夜さんにと思って」
よく見たらこの番傘結構使い込まれているようで、所々色褪せている。
「きっとこの傘が真夜さんを導いてくれると思うので、遠慮なく貰ってください。役に立つはずです」
「じゃあ……大事に使わせていただきます……。えっと、それじゃあヒナさんはこの雨の中どうやって──」
その刹那。私が言葉を言い終わるよりも先に、旅館の小さな入口を突き破って大量の怪異が押し寄せてきた。
数が多すぎて、何がなんだかわからないほどの量の怪異。
「真夜さん。悪く──思わないでくださいね」
ヒナさんは私に微笑みながら怪異に体を突き刺されていく。
さながら、銃に撃ち抜かれたようにヒナさんの体は穴だらけになる。
「ヒナさ──」
私がヒナさんの名前を呼ぶ前に、毛むくじゃらが男風呂から飛び出してきた。
「この量は俺でも捌ききれねぇ! 一旦引くぞ!」
毛むくじゃらの腕に掴まれる。すごいスピードでどんどんヒナさんから離れていってしまう。
大きな体の割に結構な速さが出るんだな。
「でもヒナさんがっ!」
「あの人間はもう助からねぇ! こんなところで真夜まで死んでどうするんだよ!」
確かに、怪異の言う通りではあるが……こんな目の前で死なれたら良心が痛むってもんだ。
助けられたかもしれない場所で死ぬなんて。
「……っ」
心の中の焦燥感がまた一つ大きくなった気がした。
黒い物がこびりついた鉄パイプを握りしめながら、腰にタオルを巻いて旅館の中を探し回る。
服はさっき怪異に食われて粘液まみれになってしまったからな。幸運なことにこの旅館にはヒナさんと受付のおばあさんしかいない。
不慮の事態だし、仕方のないことだ。
「……っち、怪異が湧いて出てくるな」
粘土のような怪異が隙間という隙間から湧いて出てくる。
正直言って気色悪い光景だ。
怪異の頭部を狙って殴り殺していくが、無限に湧いて出てくるからキリがない。
そもそも、何故こんなに怪異がいるんだよ。
もしかして旅館に人がいないのは怪異のせいだったりするのか?
「真夜さん! こっちです!」
怪異の対処に追われていると、視界の端に女湯の暖簾から顔だけを出しているヒナさんが私を呼んでいる。
「ついでに真夜さんの横にある浴衣を取ってきてください。……服を化け物に食べられて今何も着てないんです……」
「あぁ……なんかすいません。今すぐ渡しますね」
浴衣をヒナさんに渡してから、私も浴衣に身を包む。
肌触りがとても良い。
しばらくして、ヒナさんが着替え終わったようで私に語りかけてきた。
「真夜さん、早くここから逃げましょう! この化け物の量は普通じゃありません」
逃げるって、何処へ逃げるっていうんだ。それに私はまだ捨てた記憶が見つかっていない。
ヒナさんには適当を言って、先に何処かへ行ってもらおうか。
「私はまだ探しものを見つけていないので逃げることは出来ません。なので先に逃げてください。後で必ず追いつきます」
「真夜さんが何を探しているのかはわかりませんが、命に変わる物はありませんよ!」
ヒナさんは私の手を引っ張る。酷く震えているようだ。
……まぁ無理もないか。突然見知らぬ土地に迷い込んだ挙げ句に正体不明の怪異に襲われる。
「私にとっては──命よりも大切なものなんですよ。それがないと死ねないっていうか……。価値がないように見えても、私にとっては大事なんです」
どうせ死ぬなら悔いのない状態で死にたい。
全部思い出してから死なないと昔の私も、唯一の友も浮かばれないだろう。
「そこまで真夜さんが言うなら……わかりました。先に行ってますね」
「それと真夜さんに渡したいものが」──と旅館の入口まで歩くヒナさん。
おもむろに傘立てから赤色の番傘を取り出して、私に微笑む。
「真夜さんにこの番傘をあげようと思います。……遠慮しないでください。お近づきの印として真夜さんにと思って」
よく見たらこの番傘結構使い込まれているようで、所々色褪せている。
「きっとこの傘が真夜さんを導いてくれると思うので、遠慮なく貰ってください。役に立つはずです」
「じゃあ……大事に使わせていただきます……。えっと、それじゃあヒナさんはこの雨の中どうやって──」
その刹那。私が言葉を言い終わるよりも先に、旅館の小さな入口を突き破って大量の怪異が押し寄せてきた。
数が多すぎて、何がなんだかわからないほどの量の怪異。
「真夜さん。悪く──思わないでくださいね」
ヒナさんは私に微笑みながら怪異に体を突き刺されていく。
さながら、銃に撃ち抜かれたようにヒナさんの体は穴だらけになる。
「ヒナさ──」
私がヒナさんの名前を呼ぶ前に、毛むくじゃらが男風呂から飛び出してきた。
「この量は俺でも捌ききれねぇ! 一旦引くぞ!」
毛むくじゃらの腕に掴まれる。すごいスピードでどんどんヒナさんから離れていってしまう。
大きな体の割に結構な速さが出るんだな。
「でもヒナさんがっ!」
「あの人間はもう助からねぇ! こんなところで真夜まで死んでどうするんだよ!」
確かに、怪異の言う通りではあるが……こんな目の前で死なれたら良心が痛むってもんだ。
助けられたかもしれない場所で死ぬなんて。
「……っ」
心の中の焦燥感がまた一つ大きくなった気がした。
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