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3章 サバイバル林間学校編

信の抱く不安

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前期末の感情能力体術試験が終わると感統高校は夏休みに入る。
信たちは感統高校の2年生となり、林間学校へ行かなければならない。
その林間学校の成績によって将来の就職先が決まると言っても過言ではなく、必ず参加しなければならないこととなっている。
ーー「はぁ~寝れねぇな」
ため息混じりに信はベットの上で呟いた。
明日に林間学校が控える信は不安を抱え、中々寝付けなかった。
信は今、使のだ。
原因は全く検討がつかない。突如感情能力が使えなくなる、と言う前例がないのだ。
感情オーラは多少なりとも使えるため、感情能力が無くなったと言うことではない。
このような状態で明日から始まる林間学校に適応できるとは、考えられなかった。圧倒的に他の生徒たちと差がついてしまう。感情能力が使えないことは花と鉄、冷華、エリスしか知らない。
学校側には伝えていない。伝えてしまった場合、初の感情能力が使えなくなった人間として研究材料にされてしまう危険性が高い。
スマートグラスをかけ、時計機能を見ると夜9時を過ぎていた。そろそろ寝ないといけないが明日への不安で全く寝付けない。
そこで、信は外に行こうと考える。
「一回は試してみておくか……」
信はジャージを履き、家の近くにある空き地へと向かった。
「この辺でいいかな」
信は空き地の中心まで歩き、止まる。
一呼吸おき、全身に力を一気に込める。
「はぁっ!」
全身からドス黒い色の感情オーラが放たれ、纏わりつく。そのまま信を中心にして感情オーラが地面を這いつくばり始める。
「相変わらず俺の感情オーラは気持ちワリーなぁ」
自分の感情オーラを見て嘆いた。
ーーこの感情オーラを見た奴らは大抵近寄って来なくなる。なぜなら、信の感情能力オーラは犯罪者が放つオーラの色と似ているからだ。
このような色はと呼ばれている。
悪魔色の感情オーラに遭遇した場合は戦闘態勢となれ、それが感統高校での教えだ。
信は全身の感情オーラを右腕に込める。そして、右手を前に突く。
何も起きない。
「やっぱり、能力は使えない……か」
信は深呼吸をして脱力する。全身から出ていた感情オーラが瞬時に消える。
ショッピングモールでもやはり感情能力は発動しなかった。感情オーラも完全に使えたわけではなかった。そのせいで自分よりも歳が下の少女に吹き飛ばされ、気絶してしまった。
その記憶を信は思い出し、再び大きなため息をついた。
「君、高校生だよね?夜更けにこんなところで何をやっているのかな?」
信の後ろからスーツを着た男が話しかけてくる。
「あ、僕は怪しい者じゃないよ」
そう言い、男は警察手帳を信に見せる。
そこには名前の上に所属している部署が記載されていた。
「感情能力特別取り締まり課の国島さんですか?」
しまった、と信は思った。
空き地で自分の感情オーラを出していたことが何らかの能力法令に引っかかった可能性があったからだ。信の表情が強張る。
「あ、そんな緊張しないでいいよ、俺はもう残業で疲れてるし……時間外だしね」
よく見ると表情は非常に疲れていた。
「けど、俺も一応職業柄、ちょっと話を聞いてもいいかな?まぁ、世間話程度にね」
苦笑いしながら国島は信に伝え、2人は空き地の隅にある木製のベンチに座った。
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