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第251話 聞けよ!!
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「アルテマちゃんっ!?」
「アルテマ!?」
「ちょっと、え!? 待ってください!!?」
――――ブォンッ!!
アルテマの体を聖なる加護が覆う。
近づいてきていたゾンビたちはその光を恐れ、たじろぐ。
ぬか娘たち三人はアルテマの判断に驚き、足を動かせないでいた。
「お前たち、私の側に来い!! このまま屋上まで突っ切るぞ!!」
「で、でもゲンさんはっ!?」
「そうだ、いま上に行ってしまえば元一を助ける時間がなくなってしまうぞ」
めずらしく動揺した表情のモジョ。
アルテマにとって元一はかけがえのない存在のはず。
記憶がなくても、絆は感じているはず。
たしかにゾンビ化してしまった一般人を見捨てるのは騎士として、人として間違った選択なのかもしれない。が、しかし、だからといってその非情な判断をこうも簡単につけられるものなのだろうか?
それが、魔神に使える暗黒騎士というものなのだろうか?
「わかっている!!」
アルテマが怒鳴ってきた。
こちらもめずらしく、本気の怒鳴り声だった。
目は真っ赤に充血していた。
小刻みに身体が震えている。
そんなアルテマを見てモジョはすぐに自分の考えは間違いだったと思い直した。
「わかっている……そんなこと……。でも、元一なら……きっと自分より、人を生かそうとする。もし私が元一を選んだのなら、それを叱るだろう。そして私情を優先した愚かな私を嫌うだろう……」
目から涙がこぼれた。
歯も、カチカチと音を鳴らして震えていた。
「た……たとえ嫌われても……。そ、それでも私は元一を選択したい。たとえ汚い娘だと罵倒されても、生きていてくれるのなら……それでも全然かまわない。……でも……大勢の人を犠牲にして、自分が助かったなどと知ったら……元一はその罪の重さに耐えられなくなるとも思う……そ、そんな思いは……させたくないんだ」
ポタポタと落ちる涙。
たとえ生き返らせたとしても、その後の時間を健やかに過ごさせてあげられないとすれば、意味などない。
うつむく誠司。
モジョもぬか娘もなにも言ってやれなかった。
『……アルテマ、急ぎなさい』
「はい、師匠」
アルテマは涙を拭う。
そして足元に落ちていた残骸から鉄パイプを拾うと、これに加護を通した。
「ごめんなさい元一……これから私はアナタを見捨てます。でもいつの日か……必ずこの罪は償います。そう……あの龍を殺したらすぐにでも……」
先に懺悔し、覚悟を決める。
目を開けたとき、瞳の光は消えていた。
かわりに大きな闇のオーラが生み出される。
聖なる加護と共鳴し、バチバチと火花を生んだ。
「……あ……アルテマ……ちゃん?」
その姿は〝鬼〟の如く。
大きな――。
とても大きく大切なものを捨てた覚悟の姿に変わっていた。
『グルワアァアアァァァアアァッ!!』
ゾンビの中の一体が襲いかかってきた。
アルテマはなにも動じず、それに向かって進む。
『グルワァァッ!!』
――――どすぅ。
掴みかかってきた名も知らぬゾンビ。
その肩を聖なる鉄パイプが貫いた。
「殺しはしない。しばらくのたうっていろ」
――――じゅぅぅぅぅっ!!!!
ゾンビの傷口から焼けたような煙が上がった。
聖気が身を焼いたのだ。
『グアガアァアアァァッ!???』
――――ドガッ!!
「いくぞっ!!」
その一体を蹴り飛ばすと、アルテマは階段へ向けて走った。
群がってくるゾンビを焼き退かせながら。
ぬか娘たち三人もその後に続く。
階段は右が屋上、左が地下へ続く階段。
アルテマは迷わず右へ。
モジョ、誠司もその後に続く。
ぬか娘も続くのだが、その視界は涙でにじんでいた。
あの小さな背中はいま、どんな思いで非情の階段を進もうとしているのか。
引き裂かれる心が見えるようで、見ていられない。
その痛みを和らげてあげることはできないけれど。でも、一緒に背負ってあげることはできる。
(ごめんなさい元一さん。アルテマちゃんは私がきっと護ってみせます。そしていつか二人で……ともにあなたを父と呼んで――――)
考えたところで、
「だから下りてこいって言ってるんだろうがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
――――カカッ!!!!!!!!
地下へ下りる階段。
その奥からクロードの怒声。
そして目の前が真っ白になる強い聖光が、瀑布《ばくふ》のように爆破した!!
「「「なっ!???」」」」
その光は解呪の魔法リスペルのもの。
光にあてられたゾンビたちは、固まり、そしてみるみる血の気を取り戻していく。
魔法が呪いを解かし、人を人間に戻したのだ。
それを唖然と見るアルテマ。ぬか娘たち。
そしてバカが地下から飛び出してきた。
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ、全部聞こえていたぞ!! 人が限界ギリギリだと言っとるだろうが!! いいから来いっつったら来いよっ!!!!」
ゲッソリとコケた頬で、それでも怒りに真っ赤になって怒鳴り散らす。
「あ……」
モジョの携帯はまだ繋がっていた。
「アルテマ!?」
「ちょっと、え!? 待ってください!!?」
――――ブォンッ!!
アルテマの体を聖なる加護が覆う。
近づいてきていたゾンビたちはその光を恐れ、たじろぐ。
ぬか娘たち三人はアルテマの判断に驚き、足を動かせないでいた。
「お前たち、私の側に来い!! このまま屋上まで突っ切るぞ!!」
「で、でもゲンさんはっ!?」
「そうだ、いま上に行ってしまえば元一を助ける時間がなくなってしまうぞ」
めずらしく動揺した表情のモジョ。
アルテマにとって元一はかけがえのない存在のはず。
記憶がなくても、絆は感じているはず。
たしかにゾンビ化してしまった一般人を見捨てるのは騎士として、人として間違った選択なのかもしれない。が、しかし、だからといってその非情な判断をこうも簡単につけられるものなのだろうか?
それが、魔神に使える暗黒騎士というものなのだろうか?
「わかっている!!」
アルテマが怒鳴ってきた。
こちらもめずらしく、本気の怒鳴り声だった。
目は真っ赤に充血していた。
小刻みに身体が震えている。
そんなアルテマを見てモジョはすぐに自分の考えは間違いだったと思い直した。
「わかっている……そんなこと……。でも、元一なら……きっと自分より、人を生かそうとする。もし私が元一を選んだのなら、それを叱るだろう。そして私情を優先した愚かな私を嫌うだろう……」
目から涙がこぼれた。
歯も、カチカチと音を鳴らして震えていた。
「た……たとえ嫌われても……。そ、それでも私は元一を選択したい。たとえ汚い娘だと罵倒されても、生きていてくれるのなら……それでも全然かまわない。……でも……大勢の人を犠牲にして、自分が助かったなどと知ったら……元一はその罪の重さに耐えられなくなるとも思う……そ、そんな思いは……させたくないんだ」
ポタポタと落ちる涙。
たとえ生き返らせたとしても、その後の時間を健やかに過ごさせてあげられないとすれば、意味などない。
うつむく誠司。
モジョもぬか娘もなにも言ってやれなかった。
『……アルテマ、急ぎなさい』
「はい、師匠」
アルテマは涙を拭う。
そして足元に落ちていた残骸から鉄パイプを拾うと、これに加護を通した。
「ごめんなさい元一……これから私はアナタを見捨てます。でもいつの日か……必ずこの罪は償います。そう……あの龍を殺したらすぐにでも……」
先に懺悔し、覚悟を決める。
目を開けたとき、瞳の光は消えていた。
かわりに大きな闇のオーラが生み出される。
聖なる加護と共鳴し、バチバチと火花を生んだ。
「……あ……アルテマ……ちゃん?」
その姿は〝鬼〟の如く。
大きな――。
とても大きく大切なものを捨てた覚悟の姿に変わっていた。
『グルワアァアアァァァアアァッ!!』
ゾンビの中の一体が襲いかかってきた。
アルテマはなにも動じず、それに向かって進む。
『グルワァァッ!!』
――――どすぅ。
掴みかかってきた名も知らぬゾンビ。
その肩を聖なる鉄パイプが貫いた。
「殺しはしない。しばらくのたうっていろ」
――――じゅぅぅぅぅっ!!!!
ゾンビの傷口から焼けたような煙が上がった。
聖気が身を焼いたのだ。
『グアガアァアアァァッ!???』
――――ドガッ!!
「いくぞっ!!」
その一体を蹴り飛ばすと、アルテマは階段へ向けて走った。
群がってくるゾンビを焼き退かせながら。
ぬか娘たち三人もその後に続く。
階段は右が屋上、左が地下へ続く階段。
アルテマは迷わず右へ。
モジョ、誠司もその後に続く。
ぬか娘も続くのだが、その視界は涙でにじんでいた。
あの小さな背中はいま、どんな思いで非情の階段を進もうとしているのか。
引き裂かれる心が見えるようで、見ていられない。
その痛みを和らげてあげることはできないけれど。でも、一緒に背負ってあげることはできる。
(ごめんなさい元一さん。アルテマちゃんは私がきっと護ってみせます。そしていつか二人で……ともにあなたを父と呼んで――――)
考えたところで、
「だから下りてこいって言ってるんだろうがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
――――カカッ!!!!!!!!
地下へ下りる階段。
その奥からクロードの怒声。
そして目の前が真っ白になる強い聖光が、瀑布《ばくふ》のように爆破した!!
「「「なっ!???」」」」
その光は解呪の魔法リスペルのもの。
光にあてられたゾンビたちは、固まり、そしてみるみる血の気を取り戻していく。
魔法が呪いを解かし、人を人間に戻したのだ。
それを唖然と見るアルテマ。ぬか娘たち。
そしてバカが地下から飛び出してきた。
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ、全部聞こえていたぞ!! 人が限界ギリギリだと言っとるだろうが!! いいから来いっつったら来いよっ!!!!」
ゲッソリとコケた頬で、それでも怒りに真っ赤になって怒鳴り散らす。
「あ……」
モジョの携帯はまだ繋がっていた。
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