上 下
249 / 274

第248話 いっぱいいる~~。

しおりを挟む
「ぎゃあぁああぁぁぁああぁっ!! もう!! よるなよるな、引っかかるなぁぁああぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 激走するモジョ車に、それでもワラワラと群がってくるスケルトンたち。
 跳ね飛ばされ、粉々に粉砕されても残った手足が蠢《うごめ》き続け、魔素に群がってくる。
 車体のいたるところにぶら下がり、這い上がって車内に侵入してくる骨もあり、ぬか娘たちは、それらの撃退におおわらわになっていた。

「ちょっとこら、やめろやめろ!! そこ入っちゃダメっ!!」

 ビキニアーマーの隙間に侵入してくる、煩悩まみれの恥骨たち。

「あいたたたっ!! 噛むな噛むなっ!!」

 アルテマも体に群がってくる顎骨を引きはがすのに苦労している。
 市内に入ってからアンデッドの密度が増した。
 幸い、さっきみたいな古代竜《おおもの》が出てくる気配はいまのところないが、そのぶんザコどもの数が増えてきている。
 ジルの魔法で何度も何度も撃退してもらっているが、それでもキリがなく。アルテマの魔力のほうが尽きそうになっていた。
 そんなとき、

「――――はっ!??」

 気絶していた誠司が目を覚ました。
 顔を上げて、周囲を見回し、また気絶する。

「いやいやいやいや!! ダメダメ起きて!! 現実逃避しないで!! 貴重な男手なんだから手伝ってよっ!!」
「……無理です無理です、なんですかこれは? ゲームですか? ゲームの中の世界に入り込んじゃってますか? だめなんですよこういうの、若い頃スイートホームってRPGでトラウマ作ってから無理なんですよ」
「ああ~~じゃあ仕方がないな……」

 襟を引っ張るぬか娘と拒絶する誠司。
 モジョは良き理解者として寛容になる。

「仕方なくないわよ!! 村長さん除霊の研究とかしてたんでしょ!? だったら加勢してよ!! なんか出来ないの!? 法術的なカッコいいやつっ!??」
「無理です無理です。私、知識だけで……術とかなんにも使えません」
「役に立たねぇ~~~~~っ!! ってモジョあんたも噛まれてるってっ!!」
「あいよ」

 言われたモジョは冷静に、アクセル全開のままサイドブレーキを引き、ハンドルを回す!!
 ――――ギャキキキキキキキキキキッ!!!!
 制御を失った車は、そのまま社交ダンスでも踊っているかのように道路上を高速回転し――――バラバラバラバラッ!!!!
 遠心力に振られた骨たちは一斉に車外に放り出された。

「よっと」

 逆ハンを切り、すました顔で制御を取り戻すモジョと車。
 骨クズたちは綺麗に掃除され、車内はピカピカになった。

「……あれだな。知識だけでも車なんて案外操縦できるもんだな。こんどはミゾオトシ的な荒業に挑戦してみようと思うのだが」
「思うなそんなもんっ!!」

 骨たちと一緒に飛ばされそうになったぬか娘。アルテマとともに、なんとかドアにしがみついていた。
 街にはとうとう、パトカーや救急車が出始めてきていた。
 機動隊らしき車両も停まっていて、物々しい雰囲気が拡がってきている。
 飛んでしまいそうな意識の中、誠司は村長として、どうやってこの騒ぎの説明をすればいいのか涙を浮かべていた。




「見えたぞ、病院だ」

 アンデッドどもを踏み潰し跳ね飛ばし、時には回転しながらゴリ押しで辿り着いた総合病院。
 あそこに元一がいるのか。
 身を乗り出し建物を確認するアルテマ。
 ここに来るまでにも、大きな建造物はたくさん見た。
 その一つ一つに驚異的な建築技術を感じ、こんな場合でなければ深く感動していたところだが、しかしいまはそんな気分にはなれない。
 それでも他の施設とは違う、こちらの世界随一の科学力を感じ、ツバをのんだ。

「……ちょっと、様子がおかしくないですか」

 青い顔をさらに青くして誠司が病院を指さした。
 言われなくても、モジョも、ぬか娘も異変に気がついていた。
 病院の回りには人だかりができていた。
 人たちは誰かを背負い、誰かを担いで中から避難している。
 病院の窓はところどころ割られていて、その向こうから暴れる人影も見えた。

「あ、あ、あ、あれって……アルテマちゃん……?」
「ゾンビだ……マズイな。連中はスケルトンよりもパワーがある上に、噛んだ人間を同じくゾンビにする呪いを持っている。集団になられたらヘタな傭兵団よりもやっかいな相手だぞ?」
「中には六段たちがいるんだったな?」

 モジョがつぶやく。
 めずらしく、額に冷や汗を浮かべながら。

 ――――ガシャァアァァァン――――……。

 玄関のガラス扉を破壊し、ゾンビの群れが外に出てくるのが見えた。
 人たちは動けない患者を背負い、逃げ惑う。
 しかし遅れた者は次々と噛まれ、ゾンビと化してしまっていた。

「た……大変……。も、もしかして……あの中……もうすでにゾンビだらけなんじゃ……」

 涙目になるぬか娘。
 中にいる六段たちは無事なのだろうか……。

「大丈夫だ。六段たちならきっと耐えてくれている。モジョ、このまま建物内に突っ込んでくれ。一気に合流する。――もう時間がない!!」
「わかった」

 ためらわずアクセルを踏み込むモジョ。
 ここで怖気づいていてもどうにもならない。
 アルテマを信じ、突き進むのみである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。

七彩 陽
ファンタジー
 異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。  しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?  この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。 『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。  実はヒロインも転生者!  クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?  クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?    そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!  異世界転生、痛快ラブコメディ。 どうぞよろしくお願いします!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界のリサイクルガチャスキルで伝説作ります!?~無能領主の開拓記~

AKISIRO
ファンタジー
ガルフ・ライクドは領主である父親の死後、領地を受け継ぐ事になった。 だがそこには問題があり。 まず、食料が枯渇した事、武具がない事、国に税金を納めていない事。冒険者ギルドの怠慢等。建物の老朽化問題。 ガルフは何も知識がない状態で、無能領主として問題を解決しなくてはいけなかった。 この世界の住民は1人につき1つのスキルが与えられる。 ガルフのスキルはリサイクルガチャという意味不明の物で使用方法が分からなかった。 領地が自分の物になった事で、いらないものをどう処理しようかと考えた時、リサイクルガチャが発動する。 それは、物をリサイクルしてガチャ券を得るという物だ。 ガチャからはS・A・B・C・Dランクの種類が。 武器、道具、アイテム、食料、人間、モンスター等々が出現していき。それ等を利用して、領地の再開拓を始めるのだが。 隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。 ガルフの苦難は続いていき。 武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。 馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。 ※他サイト様にても投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

処理中です...