247 / 274
第246話 ケンカは場数だ。
しおりを挟む
――――ドガンッ!! ドゴドゴドゴドゴドゴォォンッ!!!!
ドバギャギャギャギャンッ!!!!
グールの拳がいくつもの残像を作り、六段に襲いかかる。
六段はその全てを、壊れた左腕を盾にして受け流していた。
「うぬぅっ!!??」
腕の骨はとうにグシャグシャに砕け、肉も避け、血が吹き出している。
気が遠くなるほどの激痛が走るが、コレを犠牲に立ち回らなければ他の部位が破壊されてしまう。
グールの攻撃はそれほどまでに重く、速かった。
「お、お、お、おかしいでござる!! グ、グ、グールと言えばゾンビの兄弟みたいなもの。ちょっと新鮮なだけで動きは鈍いはずでは!??」
脂ぎった顔面からさらに油を噴出させ狼狽《ろうばい》するアニオタ。
「いや、グールの定義は様々でゾンビの一種と考えられるものもあれば、吸血鬼の仲間と解釈される場合もある!! 共通するのはものすごく凶暴で人の血と肉が好物だということだよ!!」
冷静にスマホをピコピコ、ヨウツベが回答する。
そこに飲兵衛が、
「お前ら二人揃って縮こまっとらんと、加勢にでもいったらどうやっ!??」
なんて怒鳴ってくる。
が、二人は無理無理無理無理と真っ青になって激しく首を振った。
「どぉれ、それじゃあわたしが一発デカイのを落として――――ごにょごにょ……」
占いさんがその気になって、陰陽術的な呪文を唱え始めるが、
「あかんわ!! そんなもん病院内で炸裂させてみい、大惨事じゃ済まされへんで!???」
かつてのクロード戦での広範囲雷撃《さんげき》を思い出し、こちらも真っ青になる飲兵衛。
ついでにクロードも青くなった。
戦いは六段があきらかに劣勢。
力、素早さ、耐久力。すべてグールが勝っていたからだ。
唯一、六段が勝っていたのは経験値。
これまで子供時代のケンカもふくめ、数えきれないほどの荒場を踏み抜いてきたその泥臭い経験だけで渡り合っている。
ためらわず腕を犠牲にできたのも、相手が格上だと経験が教えてくれたからだ。
拳は極力受け止めず、流す。
足を意識し、動きを予測する。
膝を上手く使い、間合いを支配する。
すべての経験と技と小細工を総動員し、化け物の相手をしていた。
それでも戦闘力の差は歴然。
ジリジリ、ジリジリとダメージは蓄積されて、しだいに動きと反応が鈍くなってくる。
そしてとうとう――――、
――――ブチィッ!!
「ぐぅっ!?」
『グルゥウゥワァッ!!!!』
肉が食いちぎられた!!
左前腕に歯型の凹みができ、骨が突き出し、血が舞った。
「――――六段さんっ!!」
ヨウツベが悲鳴をあげる!!
苦痛にゆがむ六段の顔。
しかし――――、
『グルオォォワァッ!!??』
怯んだのはむしろグールのほうだった。
「「「っ!??」」」
なにが起こったか、わからないヨウツベたち。
肉を飲み込んだグールは、身体から激しい湯気を吹き出し、もがき苦しむ。
「バカが、ひねたジジイの肉なんぞ美味くはないだろう!?」
――――バキィッ!!!!
そこに間髪入れず薙ぎ払われた、後ろ回し蹴り!!
痛みに汗を湧き上がらせながらも、してやったりと六段が笑う。
そんな腕の、食いちぎられた断面は青白く、聖なる加護の輝きが点っていた。
「そ、そうか、ホーリークロウの加護!?」
「ああ、そういうことだ!!」
装備するホーリークロウは聖なる加護を有している。
そしてそれは本体だけに留まらず、装備者の身体全部を加護で護ってくれている。
その肉をアンデッドが飲み込んだらどうなるか。
――――ドガァンッ!!!!
廊下まで吹き飛び、壁に激しく打ち付けられるグール。
『グ、グガァアアァァアァアァッ!!!!』
痛覚など機能していないはずの化け物が、のたうち回り、喉を掻きむしる。
六段はそんなグールの腹を――――ドズンッ!!
足で踏みつけ、動きを止めてやる。
――――チリ……チリチリチリ……。
「手間ぁ……かけさせおって」
青く血の気のない肉が、足裏の聖気に焼かれ、ただれていく。
純粋な霊体である悪魔ならば、もっとはるかに効果はあったが、肉体を持った魔物となるとそれも通りづらかった。
一瞬、一瞬の打撃攻防では効果が薄かったのだ。
短い戦闘の中でその性質を読んだ六段は、もっと深く直接的に聖気をぶち込む必要かあると考え――――肉を食わせてやった。
「毒は好物にこそ潜ませておくもんだ。……力はあっても――――それだけじゃ戦いには勝てんよ。若いの?」
『ぐ……グアがぁアアああぁァァがぁアあアァッ!!!!』
もがき、開けられた口の中に、
「ついでだ、こいつも飲んどけ」
――――ぼたぼたぼたぼた――――じゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!
腕から流れ落ちる、聖気を含んだ鮮血。
トドメとばかりに流し込んでやった。
『グボアグルぼあらあがらばぁぁゴルビョルアぼがあるあっ!!???』
押し込まれた濃い聖気に、グールはたまらず海老反り、痙攣する。
そして身体の端から徐々に――――サラサラサラサラ……。
細胞が砂のように砕け、やがて――――ぐしゃ――――。
流された砂山のように崩れてしまった。
ドバギャギャギャギャンッ!!!!
グールの拳がいくつもの残像を作り、六段に襲いかかる。
六段はその全てを、壊れた左腕を盾にして受け流していた。
「うぬぅっ!!??」
腕の骨はとうにグシャグシャに砕け、肉も避け、血が吹き出している。
気が遠くなるほどの激痛が走るが、コレを犠牲に立ち回らなければ他の部位が破壊されてしまう。
グールの攻撃はそれほどまでに重く、速かった。
「お、お、お、おかしいでござる!! グ、グ、グールと言えばゾンビの兄弟みたいなもの。ちょっと新鮮なだけで動きは鈍いはずでは!??」
脂ぎった顔面からさらに油を噴出させ狼狽《ろうばい》するアニオタ。
「いや、グールの定義は様々でゾンビの一種と考えられるものもあれば、吸血鬼の仲間と解釈される場合もある!! 共通するのはものすごく凶暴で人の血と肉が好物だということだよ!!」
冷静にスマホをピコピコ、ヨウツベが回答する。
そこに飲兵衛が、
「お前ら二人揃って縮こまっとらんと、加勢にでもいったらどうやっ!??」
なんて怒鳴ってくる。
が、二人は無理無理無理無理と真っ青になって激しく首を振った。
「どぉれ、それじゃあわたしが一発デカイのを落として――――ごにょごにょ……」
占いさんがその気になって、陰陽術的な呪文を唱え始めるが、
「あかんわ!! そんなもん病院内で炸裂させてみい、大惨事じゃ済まされへんで!???」
かつてのクロード戦での広範囲雷撃《さんげき》を思い出し、こちらも真っ青になる飲兵衛。
ついでにクロードも青くなった。
戦いは六段があきらかに劣勢。
力、素早さ、耐久力。すべてグールが勝っていたからだ。
唯一、六段が勝っていたのは経験値。
これまで子供時代のケンカもふくめ、数えきれないほどの荒場を踏み抜いてきたその泥臭い経験だけで渡り合っている。
ためらわず腕を犠牲にできたのも、相手が格上だと経験が教えてくれたからだ。
拳は極力受け止めず、流す。
足を意識し、動きを予測する。
膝を上手く使い、間合いを支配する。
すべての経験と技と小細工を総動員し、化け物の相手をしていた。
それでも戦闘力の差は歴然。
ジリジリ、ジリジリとダメージは蓄積されて、しだいに動きと反応が鈍くなってくる。
そしてとうとう――――、
――――ブチィッ!!
「ぐぅっ!?」
『グルゥウゥワァッ!!!!』
肉が食いちぎられた!!
左前腕に歯型の凹みができ、骨が突き出し、血が舞った。
「――――六段さんっ!!」
ヨウツベが悲鳴をあげる!!
苦痛にゆがむ六段の顔。
しかし――――、
『グルオォォワァッ!!??』
怯んだのはむしろグールのほうだった。
「「「っ!??」」」
なにが起こったか、わからないヨウツベたち。
肉を飲み込んだグールは、身体から激しい湯気を吹き出し、もがき苦しむ。
「バカが、ひねたジジイの肉なんぞ美味くはないだろう!?」
――――バキィッ!!!!
そこに間髪入れず薙ぎ払われた、後ろ回し蹴り!!
痛みに汗を湧き上がらせながらも、してやったりと六段が笑う。
そんな腕の、食いちぎられた断面は青白く、聖なる加護の輝きが点っていた。
「そ、そうか、ホーリークロウの加護!?」
「ああ、そういうことだ!!」
装備するホーリークロウは聖なる加護を有している。
そしてそれは本体だけに留まらず、装備者の身体全部を加護で護ってくれている。
その肉をアンデッドが飲み込んだらどうなるか。
――――ドガァンッ!!!!
廊下まで吹き飛び、壁に激しく打ち付けられるグール。
『グ、グガァアアァァアァアァッ!!!!』
痛覚など機能していないはずの化け物が、のたうち回り、喉を掻きむしる。
六段はそんなグールの腹を――――ドズンッ!!
足で踏みつけ、動きを止めてやる。
――――チリ……チリチリチリ……。
「手間ぁ……かけさせおって」
青く血の気のない肉が、足裏の聖気に焼かれ、ただれていく。
純粋な霊体である悪魔ならば、もっとはるかに効果はあったが、肉体を持った魔物となるとそれも通りづらかった。
一瞬、一瞬の打撃攻防では効果が薄かったのだ。
短い戦闘の中でその性質を読んだ六段は、もっと深く直接的に聖気をぶち込む必要かあると考え――――肉を食わせてやった。
「毒は好物にこそ潜ませておくもんだ。……力はあっても――――それだけじゃ戦いには勝てんよ。若いの?」
『ぐ……グアがぁアアああぁァァがぁアあアァッ!!!!』
もがき、開けられた口の中に、
「ついでだ、こいつも飲んどけ」
――――ぼたぼたぼたぼた――――じゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!
腕から流れ落ちる、聖気を含んだ鮮血。
トドメとばかりに流し込んでやった。
『グボアグルぼあらあがらばぁぁゴルビョルアぼがあるあっ!!???』
押し込まれた濃い聖気に、グールはたまらず海老反り、痙攣する。
そして身体の端から徐々に――――サラサラサラサラ……。
細胞が砂のように砕け、やがて――――ぐしゃ――――。
流された砂山のように崩れてしまった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。
七彩 陽
ファンタジー
異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。
しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?
この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。
『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。
実はヒロインも転生者!
クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?
クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?
そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!
異世界転生、痛快ラブコメディ。
どうぞよろしくお願いします!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる