241 / 265
第240話 地中の王
しおりを挟む
――――ズギャギャギャギャギャッ!!!!
頭の中に小気味よいユーロビートが流れている。
山間住宅街から平地市街へつづく細い国道を、中央線も対向車線もなんのその。
動画にでも撮られたら一発アウトなキレキレのドリフトでコーナーを抜ける偽島組ワゴン車。
興奮を増長させてくれる脳内ミュージックのボリュームを最大限に上げながらハンドルを右に左に回しまくるモジョ。
屋根もなく、飛ばされていきそうなアルテマを掴みながら、ぬか娘は「どうか対向車だけはこないでくださいお願い」と神に祈っていた。
「で、でも逃げちゃってよかったのっ!?? アンデットたちまだウヨウヨ湧いてきてるよっ!???」
流れる山の斜面からはどこからともなく、さっきと同じようなスケルトンが大小さまざま湧いて出て、車に飛びかかってきていた。
しかし大半の魔物はスピードに付いてこれず。真正面から襲いかかってきたモノはそのまま轢き倒飛ばしてしまっている。
おかげで道路は蠢《うごめ》く骨と砕けた骨でおおわらわ。
自分たちはそれで良いとしても、一般人の人たちはどうなんだろう?
さっきの家にだってオバさんがいたはずだ。
その人たちのことが心配で、気が気じゃないなぬか娘。
そんな彼女にアルテマが言う。
「……大丈夫。スケルトンの戦闘力はよほど巨大でもない限り人間よりも弱い。さらに人は窮地に立たされるととんでもない力を発揮する種族。無傷とまでは言わないが、しばらくの間なら民間人でもなんとか凌《しの》いでくれるだろう」
呪いや毒持ち、死霊使いにでも使役されたアンデットならそうはいかないが……。と、これは口に出さないアルテマ。
「凌ぐって!! いつまで!? ずっと湧いてきてるよこいつら!! ぎゃあぁぁああぁあぁああぁぁぁぁっ!!」
――――バシンバシンッ!!!!
割れたハッチバックドアに引っかかり、乗り込んでこようとする人型スケルトンを『魔素回収用付属空中線《ブラッディーソード》』でぶっ叩きまくるぬか娘。
魔素をヌカれたスケルトンは恍惚な表情でバラバラに砕け散り、落ちていく。
「さっきも言ったがこれは一時的な刺激による混乱だ。クモの巣状に張り巡らされたゴーレムたちの魔力が安定すれば、世界への刺激もなくなり、悪魔どもも大人しくなる」
―――――ギャギャギャギャギャッ――――ドバッ!!!!
山間部を抜け、横滑りしながら市街地へと入る暴走車《モジョ》。
なにかを跳ね飛ばし一瞬ヒヤッとするが、幸いこれもスケルトンだった。
街中は騒然としていて、車はあちこちで玉突き、店舗のガラスは割られ、四方八方から怒号と悲鳴が聞こえてくる。
まだまだ湧いて出てくるアンデット。
バットを振り回す若者。
ゴルフクラブで応戦するお父さん。
女たちは子供を抱えて逃げ回り、人々は本能的に一箇所に集まっていた。
「大人しくなるって!? 動かなくなるってこと!?」
「いや、新たに湧いて出ることがなくなるだけだ。すでに魔物化してしまったアンデットは倒してしまわなければならない」
「が、頑張ってくださいみなさん!!」
もう少しすれば警察から機動隊的な武装集団も出動してくれるだろう。
自衛隊だってきてくれるかもしれない。
それまでどうかごきげんよう。子供たちだけは守ってください。
見知らぬ人たちに、そう願いつつ通り過ぎるぬか娘。
「こ、こんな大騒ぎになって……わ、私たちのこと世間にバレたりしないかな!?」
街も心配だが自分たちのことも心配だ。
この騒動が元でアルテマの存在がバレてしまったらどうしよう。
そんな心配も湧き上がってきたそのとき、
――――ギャキキキキキキキキキキッ――ドゴンッ!!!!
車が急停止した!!
逆ウイリーして戻った車体がドゴンと地面に叩きつけられる。
「――ぐえっ!! し、舌噛んだっ!! モ、モジョ、いきなり何なの!? どうしたの!??」
運転席の裏側に顔面をめり込ませるぬか娘。
アルテマも助手席の裏に埋まっている。
「……そんな心配している場合じゃなさそうだぞ……?」
今の今までノリノリだったモジョ。
しかしその表情は一転、凍りつき、目の前の騒動を見つめていた。
「え……?」
視線の先は大きめの交差点で、そこにも逃げてきた人たちが集団を作っていた。
集団は固まりながらも何かに怯えて後退り、中には腰を抜かしてしまっている者もいる。
……なに? みんな何に怯えているの?
スケルトン騒ぎとはまた違う、もう一段増した緊迫感。
ぬか娘もただならぬ気配を感じ取り、うぶ毛を逆立てる。
そのとき。
――――ドガアッ!!!!
「うわぁっ!???」
「きゃぁああぁぁあぁぁあああぁぁぁぁっ!???」
激しい衝撃とともにアスファルトが突き上げられ、人が空中に吹き飛ばされた!!
恐怖の悲鳴とともに散り散りになって逃げる人々。
その割れ目から見えたのは――――。
『グゴゴゴゴォォォォォォ……』
背筋をも揺らすような低い唸り声。
地割れを作り、地の底から這い上がってくる一体の巨大な骨。
それは人でも、犬でも、馬でも、牛でもない。
もっともっと巨大な――――古代生物。
「き………………………………………………………………恐竜……!?」
引いた血の気をさらに引かせて絞りきって。
かすれる声で、ぬか娘はそう目を丸くした。
頭の中に小気味よいユーロビートが流れている。
山間住宅街から平地市街へつづく細い国道を、中央線も対向車線もなんのその。
動画にでも撮られたら一発アウトなキレキレのドリフトでコーナーを抜ける偽島組ワゴン車。
興奮を増長させてくれる脳内ミュージックのボリュームを最大限に上げながらハンドルを右に左に回しまくるモジョ。
屋根もなく、飛ばされていきそうなアルテマを掴みながら、ぬか娘は「どうか対向車だけはこないでくださいお願い」と神に祈っていた。
「で、でも逃げちゃってよかったのっ!?? アンデットたちまだウヨウヨ湧いてきてるよっ!???」
流れる山の斜面からはどこからともなく、さっきと同じようなスケルトンが大小さまざま湧いて出て、車に飛びかかってきていた。
しかし大半の魔物はスピードに付いてこれず。真正面から襲いかかってきたモノはそのまま轢き倒飛ばしてしまっている。
おかげで道路は蠢《うごめ》く骨と砕けた骨でおおわらわ。
自分たちはそれで良いとしても、一般人の人たちはどうなんだろう?
さっきの家にだってオバさんがいたはずだ。
その人たちのことが心配で、気が気じゃないなぬか娘。
そんな彼女にアルテマが言う。
「……大丈夫。スケルトンの戦闘力はよほど巨大でもない限り人間よりも弱い。さらに人は窮地に立たされるととんでもない力を発揮する種族。無傷とまでは言わないが、しばらくの間なら民間人でもなんとか凌《しの》いでくれるだろう」
呪いや毒持ち、死霊使いにでも使役されたアンデットならそうはいかないが……。と、これは口に出さないアルテマ。
「凌ぐって!! いつまで!? ずっと湧いてきてるよこいつら!! ぎゃあぁぁああぁあぁああぁぁぁぁっ!!」
――――バシンバシンッ!!!!
割れたハッチバックドアに引っかかり、乗り込んでこようとする人型スケルトンを『魔素回収用付属空中線《ブラッディーソード》』でぶっ叩きまくるぬか娘。
魔素をヌカれたスケルトンは恍惚な表情でバラバラに砕け散り、落ちていく。
「さっきも言ったがこれは一時的な刺激による混乱だ。クモの巣状に張り巡らされたゴーレムたちの魔力が安定すれば、世界への刺激もなくなり、悪魔どもも大人しくなる」
―――――ギャギャギャギャギャッ――――ドバッ!!!!
山間部を抜け、横滑りしながら市街地へと入る暴走車《モジョ》。
なにかを跳ね飛ばし一瞬ヒヤッとするが、幸いこれもスケルトンだった。
街中は騒然としていて、車はあちこちで玉突き、店舗のガラスは割られ、四方八方から怒号と悲鳴が聞こえてくる。
まだまだ湧いて出てくるアンデット。
バットを振り回す若者。
ゴルフクラブで応戦するお父さん。
女たちは子供を抱えて逃げ回り、人々は本能的に一箇所に集まっていた。
「大人しくなるって!? 動かなくなるってこと!?」
「いや、新たに湧いて出ることがなくなるだけだ。すでに魔物化してしまったアンデットは倒してしまわなければならない」
「が、頑張ってくださいみなさん!!」
もう少しすれば警察から機動隊的な武装集団も出動してくれるだろう。
自衛隊だってきてくれるかもしれない。
それまでどうかごきげんよう。子供たちだけは守ってください。
見知らぬ人たちに、そう願いつつ通り過ぎるぬか娘。
「こ、こんな大騒ぎになって……わ、私たちのこと世間にバレたりしないかな!?」
街も心配だが自分たちのことも心配だ。
この騒動が元でアルテマの存在がバレてしまったらどうしよう。
そんな心配も湧き上がってきたそのとき、
――――ギャキキキキキキキキキキッ――ドゴンッ!!!!
車が急停止した!!
逆ウイリーして戻った車体がドゴンと地面に叩きつけられる。
「――ぐえっ!! し、舌噛んだっ!! モ、モジョ、いきなり何なの!? どうしたの!??」
運転席の裏側に顔面をめり込ませるぬか娘。
アルテマも助手席の裏に埋まっている。
「……そんな心配している場合じゃなさそうだぞ……?」
今の今までノリノリだったモジョ。
しかしその表情は一転、凍りつき、目の前の騒動を見つめていた。
「え……?」
視線の先は大きめの交差点で、そこにも逃げてきた人たちが集団を作っていた。
集団は固まりながらも何かに怯えて後退り、中には腰を抜かしてしまっている者もいる。
……なに? みんな何に怯えているの?
スケルトン騒ぎとはまた違う、もう一段増した緊迫感。
ぬか娘もただならぬ気配を感じ取り、うぶ毛を逆立てる。
そのとき。
――――ドガアッ!!!!
「うわぁっ!???」
「きゃぁああぁぁあぁぁあああぁぁぁぁっ!???」
激しい衝撃とともにアスファルトが突き上げられ、人が空中に吹き飛ばされた!!
恐怖の悲鳴とともに散り散りになって逃げる人々。
その割れ目から見えたのは――――。
『グゴゴゴゴォォォォォォ……』
背筋をも揺らすような低い唸り声。
地割れを作り、地の底から這い上がってくる一体の巨大な骨。
それは人でも、犬でも、馬でも、牛でもない。
もっともっと巨大な――――古代生物。
「き………………………………………………………………恐竜……!?」
引いた血の気をさらに引かせて絞りきって。
かすれる声で、ぬか娘はそう目を丸くした。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる