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第240話 地中の王

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 ――――ズギャギャギャギャギャッ!!!!

 頭の中に小気味よいユーロビートが流れている。
 山間住宅街から平地市街へつづく細い国道を、中央線も対向車線もなんのその。
 動画にでも撮られたら一発アウトなキレキレのドリフトでコーナーを抜ける偽島組ワゴン車。
 興奮を増長させてくれる脳内ミュージックのボリュームを最大限に上げながらハンドルを右に左に回しまくるモジョ。
 屋根もなく、飛ばされていきそうなアルテマを掴みながら、ぬか娘は「どうか対向車だけはこないでくださいお願い」と神に祈っていた。

「で、でも逃げちゃってよかったのっ!?? アンデットたちまだウヨウヨ湧いてきてるよっ!???」

 流れる山の斜面からはどこからともなく、さっきと同じようなスケルトンが大小さまざま湧いて出て、車に飛びかかってきていた。
 しかし大半の魔物はスピードに付いてこれず。真正面から襲いかかってきたモノはそのまま轢き倒飛ばしてしまっている。

 おかげで道路は蠢《うごめ》く骨と砕けた骨でおおわらわ。

 自分たちはそれで良いとしても、一般人の人たちはどうなんだろう?
 さっきの家にだってオバさんがいたはずだ。
 その人たちのことが心配で、気が気じゃないなぬか娘。
 そんな彼女にアルテマが言う。

「……大丈夫。スケルトンの戦闘力はよほど巨大でもない限り人間よりも弱い。さらに人は窮地に立たされるととんでもない力を発揮する種族。無傷とまでは言わないが、しばらくの間なら民間人でもなんとか凌《しの》いでくれるだろう」

 呪いや毒持ち、死霊使いネクロマンサーにでも使役されたアンデットならそうはいかないが……。と、これは口に出さないアルテマ。

「凌ぐって!! いつまで!? ずっと湧いてきてるよこいつら!! ぎゃあぁぁああぁあぁああぁぁぁぁっ!!」

 ――――バシンバシンッ!!!!

 割れたハッチバックドアに引っかかり、乗り込んでこようとする人型スケルトンを『魔素回収用付属空中線《ブラッディーソード》』でぶっ叩きまくるぬか娘。
 魔素をヌカれたスケルトンは恍惚な表情でバラバラに砕け散り、落ちていく。

「さっきも言ったがこれは一時的な刺激による混乱だ。クモの巣状に張り巡らされたゴーレムたちの魔力が安定すれば、世界への刺激もなくなり、悪魔どもも大人しくなる」

 ―――――ギャギャギャギャギャッ――――ドバッ!!!!

 山間部を抜け、横滑りしながら市街地へと入る暴走車《モジョ》。
 なにかを跳ね飛ばし一瞬ヒヤッとするが、幸いこれもスケルトンだった。
 街中は騒然としていて、車はあちこちで玉突き、店舗のガラスは割られ、四方八方から怒号と悲鳴が聞こえてくる。

 まだまだ湧いて出てくるアンデット。
 バットを振り回す若者。
 ゴルフクラブで応戦するお父さん。
 女たちは子供を抱えて逃げ回り、人々は本能的に一箇所に集まっていた。

「大人しくなるって!? 動かなくなるってこと!?」
「いや、新たに湧いて出ることがなくなるだけだ。すでに魔物化してしまったアンデットは倒してしまわなければならない」
「が、頑張ってくださいみなさん!!」

 もう少しすれば警察から機動隊的な武装集団も出動してくれるだろう。
 自衛隊だってきてくれるかもしれない。
 それまでどうかごきげんよう。子供たちだけは守ってください。
 見知らぬ人たちに、そう願いつつ通り過ぎるぬか娘。

「こ、こんな大騒ぎになって……わ、私たちのこと世間にバレたりしないかな!?」

 街も心配だが自分たちのことも心配だ。
 この騒動が元でアルテマの存在がバレてしまったらどうしよう。
 そんな心配も湧き上がってきたそのとき、

 ――――ギャキキキキキキキキキキッ――ドゴンッ!!!!

 車が急停止した!!
 逆ウイリーして戻った車体がドゴンと地面に叩きつけられる。

「――ぐえっ!! し、舌噛んだっ!! モ、モジョ、いきなり何なの!? どうしたの!??」

 運転席の裏側に顔面をめり込ませるぬか娘。
 アルテマも助手席の裏に埋まっている。

「……そんな心配している場合じゃなさそうだぞ……?」

 今の今までノリノリだったモジョ。
 しかしその表情は一転、凍りつき、目の前の騒動を見つめていた。

「え……?」

 視線の先は大きめの交差点で、そこにも逃げてきた人たちが集団を作っていた。
 集団は固まりながらも何かに怯えて後退り、中には腰を抜かしてしまっている者もいる。

 ……なに? みんな何に怯えているの?
 スケルトン騒ぎとはまた違う、もう一段増した緊迫感。
 ぬか娘もただならぬ気配を感じ取り、うぶ毛を逆立てる。
 そのとき。
 ――――ドガアッ!!!!

「うわぁっ!???」
「きゃぁああぁぁあぁぁあああぁぁぁぁっ!???」

 激しい衝撃とともにアスファルトが突き上げられ、人が空中に吹き飛ばされた!!
 恐怖の悲鳴とともに散り散りになって逃げる人々。
 その割れ目から見えたのは――――。

『グゴゴゴゴォォォォォォ……』

 背筋をも揺らすような低い唸り声。
 地割れを作り、地の底から這い上がってくる一体の巨大な骨。

 それは人でも、犬でも、馬でも、牛でもない。
 もっともっと巨大な――――古代生物。

「き………………………………………………………………恐竜……!?」

 引いた血の気をさらに引かせて絞りきって。
 かすれる声で、ぬか娘はそう目を丸くした。
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