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第232話 想いの扉
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誠司の運転するワゴン車に乗ったぬか娘とモジョ。
アルテマの背を求め、蹄沢集落から病院までの道を徹底的に探して回った。
飲兵衛たちが見てくれていたはずだが、それでもまだまだ見落としはあるはず。
交番に駆け込んで聞いてもみたが、それらしい女児は見なかったという。
「彼女は何を目的に出ていったのでしょうか?」
「わからん……最初は難陀《なんだ》に復讐するため、怒りのまま飛び出したのかと思ったが。……裏山にも、ソーラーパネルのところにもいなかったとなると、じゃあ何をしに出ていったのか……」
爪を噛みながらモジョが誠司に答えた。
もしかしてアマテラスの力をムリヤリにでも行使しようと企んだのではないか?
そう考えて誠司の元にやってきた二人だったが、それも当てが外れて……。
そうなってしまうともう、アルテマの意図が読めなくなってしまう。
途方に暮れるモジョだったが、そこにぬか娘が意見を言ってきた。
「私は……アルテマちゃん、そんな無茶な行動してないと思う……」
「? なぜそう思う?」
「だって……アルテマちゃん、ホントは私たちよりズッと年上なんだよ? 暗黒騎士なんだよ? ……そんな人が……たとえ恩人の死でも……取り乱しちゃうなんて……ないんじゃないかなぁぁぁわあああぁぁぁぁぁぁん……」
話しながら、元一の死をあらためて実感し、泣きじゃくってしまうぬか娘。
よしよしと肩を抱いて擦ってやるモジョだが、なるほど……確かにその通りだと考えを整理する。
アルテマは自暴自棄になったわけじゃない。
冷静に、なにかキチンとした考えがあって飛び出したのだ。
「元一の訃報を聞いたアルテマが……一番に求めたものは何だ……?」
モジョのつぶやきに、
「ぐすん……。そ、それはやっぱり回復魔法でしょ……? いまからでも……ヒールをかければ生き返ってくれるかもしれないし……。私だったらそうする」
「そうだな。……だめでもとにかく回復《ヒール》は絶対試すだろうな……。そのために必要なものは何だった……?」
順を追って考え始めるモジョに、鼻をすすったぬか娘がじれったそうに言う。
「……だからぁ……電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》を病院まで持って行って……。そのためにはゴーレムをそこまで延ばさなくちゃいけなくて……。それにはアルテマちゃんの魔力が必要でぇ……ぐす……」
「そうだな。そのために魔素を集めていた最中に連絡があったんだ。……ならアルテマの目的は一つだ」
「……魔素を補給しに行った?」
「そうだ」
「え……? だってどこに? そんな場所があれば最初っからそこに……」
「いや、魔素はあるんだが近寄るなと約束されていた場所があったはずだ……」
そう言われてぬか娘は、かつての騒動『悪魔ザクラウ』との戦いを思い出した。
占いさんに契約不履行の呪いをかけていたあの巨大な化け物は、アルテマがこの世界で初めて退治した悪魔。
そのためにまとまった量の魔素が必要で、それは元一家のとある部屋に溜まっていた。
「……ま、まさか……アルテマちゃん、あの部屋に……?」
「ああ。……そうとしか考えられん」
「だ、だったら大変。止めなきゃ」
実を言うとぬか娘は――――いや、モジョも、集落のメンバー全員も、あの部屋の秘密を知っていた。
最初からすべてを知っていて、ずっと黙っていた。
「……なんの話です?」
誠司だけが話についてこれず、戸惑った顔をしている。
ぬか娘とモジョは同時に叫んだ。
「アルテマちゃんはゲンさんの家です!!」「元一のウチに向かってくれ!!」
アルテマはひとり寂しげに立っていた。
目の前には自分と同じように、やはり寂しく閉まっている扉があった。
家の二階にあるこの部屋は、二人から決して近寄ってはならないと、かたく言いつけられている。
かつてあの悪魔を倒すため、ここから魔素をいただいたことがある。
あのときは節子が立ちふさがって、部屋に入らないでくれと縋《すが》られた。
だから扉に染み込んでいた魔素だけを絞り出して吸収したのだ。
それだけで、当時の自分には余るほどの魔素量だった。
いまの扉にはもう魔素は残っていない。
だけども。
きっと部屋を開ければ、とんでもない量の魔素が溜まっているに違いない。
なぜこの家に?
なんの変哲もなさそうなこの部屋に。
それだけの魔素が溜まっているのだろうか?
魔素は〝人の想いの強さ〟で量が決まる。
それは呪いでも、怒りでも、恨みでも、そして愛でも同じ。
部屋の魔素はいったいなんの想いで溜められているものだろうか?
アルテマには察しがついていた。
だけども聞けなかった。
聞いたらつらい思いをさせると思ったから。
この部屋はきっと――――二人の子供の部屋だっただろう。
婬眼《フェアリーズ》で探ってなどいない。
そんな無粋なことをしなくても、人としての感覚でわかった。
そんな大切な部屋を荒らされたくないという、節子の気持ちは当然だった。
たとえ扉一枚だったとしても、そこにあった魔素は二人と、その子供の大切な大切な想いの形だったのだから。
だから絶対もう、この部屋には近づかない。
そうかたく誓い、約束もした。
だけども、もう一度。
もう一度だけ使わせてほしい。
元一を救うために……ほんのわずかな奇跡のために。
約束破りの罪など、我が信仰の魔神だろうが、この世界の閻魔だろうが、好きな方が裁けばいい。
アルテマはすべての罰を覚悟して。
ひっそりと閉じる、扉の持ち手に手をかけた。
アルテマの背を求め、蹄沢集落から病院までの道を徹底的に探して回った。
飲兵衛たちが見てくれていたはずだが、それでもまだまだ見落としはあるはず。
交番に駆け込んで聞いてもみたが、それらしい女児は見なかったという。
「彼女は何を目的に出ていったのでしょうか?」
「わからん……最初は難陀《なんだ》に復讐するため、怒りのまま飛び出したのかと思ったが。……裏山にも、ソーラーパネルのところにもいなかったとなると、じゃあ何をしに出ていったのか……」
爪を噛みながらモジョが誠司に答えた。
もしかしてアマテラスの力をムリヤリにでも行使しようと企んだのではないか?
そう考えて誠司の元にやってきた二人だったが、それも当てが外れて……。
そうなってしまうともう、アルテマの意図が読めなくなってしまう。
途方に暮れるモジョだったが、そこにぬか娘が意見を言ってきた。
「私は……アルテマちゃん、そんな無茶な行動してないと思う……」
「? なぜそう思う?」
「だって……アルテマちゃん、ホントは私たちよりズッと年上なんだよ? 暗黒騎士なんだよ? ……そんな人が……たとえ恩人の死でも……取り乱しちゃうなんて……ないんじゃないかなぁぁぁわあああぁぁぁぁぁぁん……」
話しながら、元一の死をあらためて実感し、泣きじゃくってしまうぬか娘。
よしよしと肩を抱いて擦ってやるモジョだが、なるほど……確かにその通りだと考えを整理する。
アルテマは自暴自棄になったわけじゃない。
冷静に、なにかキチンとした考えがあって飛び出したのだ。
「元一の訃報を聞いたアルテマが……一番に求めたものは何だ……?」
モジョのつぶやきに、
「ぐすん……。そ、それはやっぱり回復魔法でしょ……? いまからでも……ヒールをかければ生き返ってくれるかもしれないし……。私だったらそうする」
「そうだな。……だめでもとにかく回復《ヒール》は絶対試すだろうな……。そのために必要なものは何だった……?」
順を追って考え始めるモジョに、鼻をすすったぬか娘がじれったそうに言う。
「……だからぁ……電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》を病院まで持って行って……。そのためにはゴーレムをそこまで延ばさなくちゃいけなくて……。それにはアルテマちゃんの魔力が必要でぇ……ぐす……」
「そうだな。そのために魔素を集めていた最中に連絡があったんだ。……ならアルテマの目的は一つだ」
「……魔素を補給しに行った?」
「そうだ」
「え……? だってどこに? そんな場所があれば最初っからそこに……」
「いや、魔素はあるんだが近寄るなと約束されていた場所があったはずだ……」
そう言われてぬか娘は、かつての騒動『悪魔ザクラウ』との戦いを思い出した。
占いさんに契約不履行の呪いをかけていたあの巨大な化け物は、アルテマがこの世界で初めて退治した悪魔。
そのためにまとまった量の魔素が必要で、それは元一家のとある部屋に溜まっていた。
「……ま、まさか……アルテマちゃん、あの部屋に……?」
「ああ。……そうとしか考えられん」
「だ、だったら大変。止めなきゃ」
実を言うとぬか娘は――――いや、モジョも、集落のメンバー全員も、あの部屋の秘密を知っていた。
最初からすべてを知っていて、ずっと黙っていた。
「……なんの話です?」
誠司だけが話についてこれず、戸惑った顔をしている。
ぬか娘とモジョは同時に叫んだ。
「アルテマちゃんはゲンさんの家です!!」「元一のウチに向かってくれ!!」
アルテマはひとり寂しげに立っていた。
目の前には自分と同じように、やはり寂しく閉まっている扉があった。
家の二階にあるこの部屋は、二人から決して近寄ってはならないと、かたく言いつけられている。
かつてあの悪魔を倒すため、ここから魔素をいただいたことがある。
あのときは節子が立ちふさがって、部屋に入らないでくれと縋《すが》られた。
だから扉に染み込んでいた魔素だけを絞り出して吸収したのだ。
それだけで、当時の自分には余るほどの魔素量だった。
いまの扉にはもう魔素は残っていない。
だけども。
きっと部屋を開ければ、とんでもない量の魔素が溜まっているに違いない。
なぜこの家に?
なんの変哲もなさそうなこの部屋に。
それだけの魔素が溜まっているのだろうか?
魔素は〝人の想いの強さ〟で量が決まる。
それは呪いでも、怒りでも、恨みでも、そして愛でも同じ。
部屋の魔素はいったいなんの想いで溜められているものだろうか?
アルテマには察しがついていた。
だけども聞けなかった。
聞いたらつらい思いをさせると思ったから。
この部屋はきっと――――二人の子供の部屋だっただろう。
婬眼《フェアリーズ》で探ってなどいない。
そんな無粋なことをしなくても、人としての感覚でわかった。
そんな大切な部屋を荒らされたくないという、節子の気持ちは当然だった。
たとえ扉一枚だったとしても、そこにあった魔素は二人と、その子供の大切な大切な想いの形だったのだから。
だから絶対もう、この部屋には近づかない。
そうかたく誓い、約束もした。
だけども、もう一度。
もう一度だけ使わせてほしい。
元一を救うために……ほんのわずかな奇跡のために。
約束破りの罪など、我が信仰の魔神だろうが、この世界の閻魔だろうが、好きな方が裁けばいい。
アルテマはすべての罰を覚悟して。
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