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第221話 型落ちアンドロイド
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「くそう……ここまで来ておきながら……結局私は何もできないのか……」
悔しそうに、情けなさそうに、通信ケーブルを見上げるアルテマ。
よくよく考えれば魔法をすべて封じられている自分なんて、ただの幼女。
そんな自分がどうやって師匠《ジル》のような最高級クラスの神官が造ったゴーレムを解析しようというのだ……。
近づくこともできず、途方に暮れているアルテマの隣でモジョがなにやら携帯をいじくっている。
「……なにをしているんだ?」
「ん? ……ああ……これはさっきの電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》だよ……携帯に移して持ってきた……」
「そ、そんなことが……できるのか???」
「もちろん。PCでできることは大抵、携帯でもできる。もちろんスペックはいるが、電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の場合、プログラムそのものは軽いから、私のオンボロスマホでもなんとか動いてくれるはずだ」
モジョの言う通り、画面を見てみると起動時のロゴが映し出され、やがていくつかのメニューが表示された。
その内の『ビデオ通話』をタッチすると――――ヴンッ。
地下室のときと同じく、画面に異世界の景色が映し出された。
「おお~~~~……」
なんだか感動するアルテマ。
しかしその顔がだんだんと焦《あせ》りに変わっていった。
画面の中にはやはりジルが映っていた。
向こうの時間は深夜のようで、彼女はベッドて眠っているのだが、その寝相がまぁ~~~~~~~~~~~~……。
「……お前の師匠は……なんだ? キン肉バ◯ターでもかけられながらじゃないと眠れないのか?」
「……い、いや、そ、そんなことは……。た、たぶん師匠は酒を飲んだのだと思う……。飲んだ後は必ずおかしな格好で眠る癖があるから……」
「……ほぉ……」
パンツ丸出し、股おっぴろげ状態で逆さまに眠るジルの姿を、そっと手で隠して恥じるアルテマ。
「も、もういいだろう……これ以上はやめてあげてくれ。……一応、師匠も帝国ではかなりの権力者なのだ……威厳がぶっ壊れる」
「……うむ……まぁ最初っから威厳など感じていなかったが……? しかし、やっぱり異世界とコッチとでは時間の進みが少しおかしいようだな」
「?」
「……さっき水浴びしていたジルさんが、いまはもう酔っ払って寝ている……どんなに急いでいたとしてもこの短時間でこうはならないだろう?」
「そう……だな。確かに……。私がここに飛ばされたときも、異世界との時間にかなりズレがあった……」
とはいえ、いまのズレは感覚的にいって3~4倍、向こうが早く進んでいる気がする……。普段の通信ではそんなにズレている感じはしなかったが……?
「……もしかして時間の流れが乱れてきている?」
難陀《なんだ》が龍脈を閉じたことで、世界の繋がりにおかしな変化をもたらしてしまっているとしたら……?
「……うぅぅぅ……どうなのだろうか……そこは私もさっぱりわからないな……」
難しくなってきた話に頭を抱えるアルテマ。
モジョもなんだかわからなくなってきた。
「……ただ一つ言えるのは、お前もクロードも一度子供に戻ってしまったのは、この時間のズレが関係しているのだと思う……」
「……そうだな。そうかもしれないな」
あともう一つ、モジョには気付いたことがあった。
それはさっき、ジルの寝相を〝キン肉バ◯ター〟と表現したとき、アルテマがそれを聞き返さなかったことだ。
すんなりと、それがなんだか知っているように会話していた。
この不思議に、アルテマ本人は気付いていないようだが……。
「……ともかく、この問題は後回しだな。いまは先に試したいことがある」
「なんだ? 試したいことって」
聞くアルテマの前で、モジョは思いっきり背伸びをして携帯を上に掲げてみせた。
そしてそのままチョコチョコと、爪先立ちで周囲を歩く。
すると、とある場所で――――ザザッ!!
一瞬だけ画面の静止画が動画へと変わった。
「――――きた」
思った通り、モジョは画面を確認する。
するとさっきまで〝逆さおっぴろげ〟だったジルの体勢が、上半身だけベッドからずり落ちた〝一人バックドロップ〟状態に変わっていた。
残念ながら画面はまた静止画に戻っていたが、再読み込みせずに変化したと言うことは画面が動いたということ。
それはすなわち、その瞬間だけ通信の速度が上がったということである。
「??? ……な、なにがきたって……?」
モジョがしていることの意味が分からず困惑するアルテマ。
「……最初に思ってな。通信がぎこちないのは速度が遅いのに加えて、電波も弱いのかもしれないと……。地下室のPCは一般的なWi―Fiで繋いでいるんだが、その通信状況を分析したところ――――」
「こ……子供でもわかるように頼む……」
また小難しいことを説明しようとするモジョに、汗だくで待ったをかけるアルテマ。コッチの世界の〝科学〟の話など、正直まったくわからない。ゆくゆくは正式に勉強するつもりだが、いまの自分は子供――いや、それ以下の知識しかない。
モジョは「おっと……」と口をつぐんで、しばし考える。
そして言い直した。
「……つまり、ゴーレムに近づけば近づくほど電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》は滑らかに動いてくれるようになる……かもしれない、ということだ」
悔しそうに、情けなさそうに、通信ケーブルを見上げるアルテマ。
よくよく考えれば魔法をすべて封じられている自分なんて、ただの幼女。
そんな自分がどうやって師匠《ジル》のような最高級クラスの神官が造ったゴーレムを解析しようというのだ……。
近づくこともできず、途方に暮れているアルテマの隣でモジョがなにやら携帯をいじくっている。
「……なにをしているんだ?」
「ん? ……ああ……これはさっきの電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》だよ……携帯に移して持ってきた……」
「そ、そんなことが……できるのか???」
「もちろん。PCでできることは大抵、携帯でもできる。もちろんスペックはいるが、電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の場合、プログラムそのものは軽いから、私のオンボロスマホでもなんとか動いてくれるはずだ」
モジョの言う通り、画面を見てみると起動時のロゴが映し出され、やがていくつかのメニューが表示された。
その内の『ビデオ通話』をタッチすると――――ヴンッ。
地下室のときと同じく、画面に異世界の景色が映し出された。
「おお~~~~……」
なんだか感動するアルテマ。
しかしその顔がだんだんと焦《あせ》りに変わっていった。
画面の中にはやはりジルが映っていた。
向こうの時間は深夜のようで、彼女はベッドて眠っているのだが、その寝相がまぁ~~~~~~~~~~~~……。
「……お前の師匠は……なんだ? キン肉バ◯ターでもかけられながらじゃないと眠れないのか?」
「……い、いや、そ、そんなことは……。た、たぶん師匠は酒を飲んだのだと思う……。飲んだ後は必ずおかしな格好で眠る癖があるから……」
「……ほぉ……」
パンツ丸出し、股おっぴろげ状態で逆さまに眠るジルの姿を、そっと手で隠して恥じるアルテマ。
「も、もういいだろう……これ以上はやめてあげてくれ。……一応、師匠も帝国ではかなりの権力者なのだ……威厳がぶっ壊れる」
「……うむ……まぁ最初っから威厳など感じていなかったが……? しかし、やっぱり異世界とコッチとでは時間の進みが少しおかしいようだな」
「?」
「……さっき水浴びしていたジルさんが、いまはもう酔っ払って寝ている……どんなに急いでいたとしてもこの短時間でこうはならないだろう?」
「そう……だな。確かに……。私がここに飛ばされたときも、異世界との時間にかなりズレがあった……」
とはいえ、いまのズレは感覚的にいって3~4倍、向こうが早く進んでいる気がする……。普段の通信ではそんなにズレている感じはしなかったが……?
「……もしかして時間の流れが乱れてきている?」
難陀《なんだ》が龍脈を閉じたことで、世界の繋がりにおかしな変化をもたらしてしまっているとしたら……?
「……うぅぅぅ……どうなのだろうか……そこは私もさっぱりわからないな……」
難しくなってきた話に頭を抱えるアルテマ。
モジョもなんだかわからなくなってきた。
「……ただ一つ言えるのは、お前もクロードも一度子供に戻ってしまったのは、この時間のズレが関係しているのだと思う……」
「……そうだな。そうかもしれないな」
あともう一つ、モジョには気付いたことがあった。
それはさっき、ジルの寝相を〝キン肉バ◯ター〟と表現したとき、アルテマがそれを聞き返さなかったことだ。
すんなりと、それがなんだか知っているように会話していた。
この不思議に、アルテマ本人は気付いていないようだが……。
「……ともかく、この問題は後回しだな。いまは先に試したいことがある」
「なんだ? 試したいことって」
聞くアルテマの前で、モジョは思いっきり背伸びをして携帯を上に掲げてみせた。
そしてそのままチョコチョコと、爪先立ちで周囲を歩く。
すると、とある場所で――――ザザッ!!
一瞬だけ画面の静止画が動画へと変わった。
「――――きた」
思った通り、モジョは画面を確認する。
するとさっきまで〝逆さおっぴろげ〟だったジルの体勢が、上半身だけベッドからずり落ちた〝一人バックドロップ〟状態に変わっていた。
残念ながら画面はまた静止画に戻っていたが、再読み込みせずに変化したと言うことは画面が動いたということ。
それはすなわち、その瞬間だけ通信の速度が上がったということである。
「??? ……な、なにがきたって……?」
モジョがしていることの意味が分からず困惑するアルテマ。
「……最初に思ってな。通信がぎこちないのは速度が遅いのに加えて、電波も弱いのかもしれないと……。地下室のPCは一般的なWi―Fiで繋いでいるんだが、その通信状況を分析したところ――――」
「こ……子供でもわかるように頼む……」
また小難しいことを説明しようとするモジョに、汗だくで待ったをかけるアルテマ。コッチの世界の〝科学〟の話など、正直まったくわからない。ゆくゆくは正式に勉強するつもりだが、いまの自分は子供――いや、それ以下の知識しかない。
モジョは「おっと……」と口をつぐんで、しばし考える。
そして言い直した。
「……つまり、ゴーレムに近づけば近づくほど電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》は滑らかに動いてくれるようになる……かもしれない、ということだ」
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