暗黒騎士様の町おこし ~魔族娘の異世界交易~

盛り塩

文字の大きさ
上 下
222 / 292

第221話 型落ちアンドロイド

しおりを挟む
「くそう……ここまで来ておきながら……結局私は何もできないのか……」

 悔しそうに、情けなさそうに、通信ケーブルを見上げるアルテマ。
 よくよく考えれば魔法をすべて封じられている自分なんて、ただの幼女。
 そんな自分がどうやって師匠《ジル》のような最高級クラスの神官が造ったゴーレムを解析しようというのだ……。
 近づくこともできず、途方に暮れているアルテマの隣でモジョがなにやら携帯をいじくっている。

「……なにをしているんだ?」
「ん? ……ああ……これはさっきの電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》だよ……携帯に移して持ってきた……」
「そ、そんなことが……できるのか???」
「もちろん。PCでできることは大抵、携帯でもできる。もちろんスペックはいるが、電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の場合、プログラムそのものは軽いから、私のオンボロスマホでもなんとか動いてくれるはずだ」

 モジョの言う通り、画面を見てみると起動時のロゴが映し出され、やがていくつかのメニューが表示された。
 その内の『ビデオ通話』をタッチすると――――ヴンッ。
 地下室のときと同じく、画面に異世界の景色が映し出された。

「おお~~~~……」

 なんだか感動するアルテマ。
 しかしその顔がだんだんと焦《あせ》りに変わっていった。
 画面の中にはやはりジルが映っていた。
 向こうの時間は深夜のようで、彼女はベッドて眠っているのだが、その寝相がまぁ~~~~~~~~~~~~……。

「……お前の師匠は……なんだ? キン肉バ◯ターでもかけられながらじゃないと眠れないのか?」
「……い、いや、そ、そんなことは……。た、たぶん師匠は酒を飲んだのだと思う……。飲んだ後は必ずおかしな格好で眠る癖があるから……」
「……ほぉ……」

 パンツ丸出し、股おっぴろげ状態で逆さまに眠るジルの姿を、そっと手で隠して恥じるアルテマ。

「も、もういいだろう……これ以上はやめてあげてくれ。……一応、師匠も帝国ではかなりの権力者なのだ……威厳がぶっ壊れる」
「……うむ……まぁ最初っから威厳など感じていなかったが……? しかし、やっぱり異世界とコッチとでは時間の進みが少しおかしいようだな」
「?」
「……さっき水浴びしていたジルさんが、いまはもう酔っ払って寝ている……どんなに急いでいたとしてもこの短時間でこうはならないだろう?」
「そう……だな。確かに……。私がここに飛ばされたときも、異世界との時間にかなりズレがあった……」

 とはいえ、いまのズレは感覚的にいって3~4倍、向こうが早く進んでいる気がする……。普段の通信ではそんなにズレている感じはしなかったが……?

「……もしかして時間の流れが乱れてきている?」

 難陀《なんだ》が龍脈を閉じたことで、世界の繋がりにおかしな変化をもたらしてしまっているとしたら……?

「……うぅぅぅ……どうなのだろうか……そこは私もさっぱりわからないな……」

 難しくなってきた話に頭を抱えるアルテマ。
 モジョもなんだかわからなくなってきた。

「……ただ一つ言えるのは、お前もクロードも一度子供に戻ってしまったのは、この時間のズレが関係しているのだと思う……」
「……そうだな。そうかもしれないな」

 あともう一つ、モジョには気付いたことがあった。
 それはさっき、ジルの寝相を〝キン肉バ◯ター〟と表現したとき、アルテマがそれを聞き返さなかったことだ。
 すんなりと、それがなんだか知っているように会話していた。
 この不思議に、アルテマ本人は気付いていないようだが……。

「……ともかく、この問題は後回しだな。いまは先に試したいことがある」
「なんだ? 試したいことって」

 聞くアルテマの前で、モジョは思いっきり背伸びをして携帯を上に掲げてみせた。
 そしてそのままチョコチョコと、爪先立ちで周囲を歩く。
 すると、とある場所で――――ザザッ!!
 一瞬だけ画面の静止画が動画へと変わった。

「――――きた」

 思った通り、モジョは画面を確認する。
 するとさっきまで〝逆さおっぴろげ〟だったジルの体勢が、上半身だけベッドからずり落ちた〝一人バックドロップ〟状態に変わっていた。
 残念ながら画面はまた静止画に戻っていたが、再読み込みせずに変化したと言うことは画面が動いたということ。
 それはすなわち、その瞬間だけ通信の速度が上がったということである。

「??? ……な、なにがきたって……?」

 モジョがしていることの意味が分からず困惑するアルテマ。

「……最初に思ってな。通信がぎこちないのは速度が遅いのに加えて、電波も弱いのかもしれないと……。地下室のPCは一般的なWi―Fiで繋いでいるんだが、その通信状況を分析したところ――――」
「こ……子供でもわかるように頼む……」

 また小難しいことを説明しようとするモジョに、汗だくで待ったをかけるアルテマ。コッチの世界の〝科学〟の話など、正直まったくわからない。ゆくゆくは正式に勉強するつもりだが、いまの自分は子供――いや、それ以下の知識しかない。

 モジョは「おっと……」と口をつぐんで、しばし考える。
 そして言い直した。

「……つまり、ゴーレムに近づけば近づくほど電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》は滑らかに動いてくれるようになる……かもしれない、ということだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...