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第219話 敵に回したくない
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「し、師匠っ!! ししょーーーーうっ!!??」
濡れた薄布。
透き通ったそれから見えるジルの肌はとても70代には見えない。
どうみても二十歳《ハタチ》そこそこのハリと、クビレをもったその見事な裸に、モジョは同性でありながらも、ちょっと赤面する。
「アニオタたちがいなくて良かった……」
なんなら……ぬか娘もいなくて良かった。
そう思いハンカチで頬を拭った。
アルテマが必死になってジルに呼びかけるが、画面の中のジルは静止画像。
当然反応は返ってこなかった。
女魔神像の下、魔法水が溜まった槽から水を汲み、それを頭からかぶって祈りを捧げている。まるで誰かの無事を願っているかのように、真剣な表情をしていた。
「お、おいモジョ!? どうなっている?? なぜ師匠は反応してくれないんだ? 声が届いていないのか!??」
「お……落ち着け落ち着け、そもそも止まっている相手に反応を求めてもしょうがないだろう、さっきも言ったが、これがいまの電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の限界だ。……というか……そもそもなぜジルさんの姿が映るのだろう……??」
モジョもいまいち状況を掴みかねているようす。
しかしそれにはアルテマが答えとなる情報を教えてくれた。
「そ、それは……アレだろう? 師匠のアイアンゴーレムを媒体として電波(?)を飛ばしているのなら、おそらくその受信先は師匠の周辺になる。なぜならあのゴーレムは師匠と精神世界で繋がっているのだからな」
「……精神世界?」
「精神世界というのは悪魔族や天使のブタ野郎どもが――――」
説明しようとしたアルテマを手で制するモジョ。
「いや……いい。その辺りの理屈はいま聞いてもわからん……。それよりも、そういう原理ならば……もしかしてそのゴーレムをどうにかして強化すれば、通信速度も早まって滑らかに交信ができるようになるかもしれないな……」
「そういうものなのか……??」
「開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の魔法が、こちらの回線と同じような原理ならばきっとな……。ゴーレムが媒体として機能しているんだ……たぶん互換性があるのだと思う……しかし……自分で言っておいてなんだが、強化ってどうすればいいのだろうな……」
「そこは魔法の分野だ。私に任せてもらおう。とにかくゴーレムのようすを見に行ってみよう。話はそれからだ」
「……そうだな。ちょっと待ってろ……」
そう言うと、モジョはキーボードをカチャカチャカチャと、物凄い勢いで叩きはじめた。その指先はアルテマでさえも追えないくらい。
「おお……な、なんて複雑奇っ怪な指さばき……」
普段寝ぼけてばかりのモジョだったが、いまはまるで覚醒したかのようにものすごい技術を披露している。
無数のキーを的確に、意味を持って叩く様《さま》は神業と言う他ない。
もし世界が繋がって帝国にもPC文化がもたらされるようになったら、モジョにはぜひ最高待遇の高文官として帝国に迎え入れたいものだ。
いや、電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》などととんでもない技術を作り出してしまう彼女を、他の国にでも取られでもしたら大事《おおごと》。その時には何としてでも専属契約を結ばねばならない。
電光石火で作業を片付けるモジョの背を、ちょっと引き気味に眺めながらアルテマはそう誓った。
「――――……て、おい、アルテマ。何をそんなところで立ち止まっているんだ?」
仮説橋梁の真ん中、ちょうど隣集落との境目でアルテマは立ち止まった。
大きな鞄を背負ったモジョは不思議そうに振り向いて首をかしげた。
ゴーレム化した電線は隣集落にある。そこに向かうため、どうしてもこの橋は渡ってしまわなければならない。
「い……いやその……私はこの先には行けないのだ。蹄沢集落から出てはイケナイと固い約束を交わしている」
「……ああ……そういうのあったな。でも……良いんじゃないか? 事情が事情なんだから……」
「そういうわけにはいかない。……それに約束を破ってしまったら、きっと罰が落ちてしまう。魔神は約束破りにはうるさいんだ。……見逃してはくれないだろう」
「……そんなものなのか」
「そんなものだ。だから我ら魔族は決して嘘をつかない」
「……こっちの世界では〝嘘をつかない〟って言ってるやつが一番嘘つきなんだがな?」
疑わしい顔を向けるモジョ。
アルテマはちょっと口をへの時にすると、ツツツと視線を横にやる。
「……いやまぁそりゃ……たまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~にはあるぞ? あるけども、基本的にはつかないし……ついたらついたで、ちゃんとあとで謝る!!」
「じゃあ――――」
――――タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタラッタタッタ。タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタタン――――……。
言いかけたモジョのスマホにまた連絡が入る。
アニオタからだった。
「――――おう……うん……うん。……そうか……わかった」
暗い顔で電話を切るモジョ。
「アニオタからだ。……元一の容態が思ったより良くないらしい。……化学治療だけだと、明日……明後日を乗り切るのは……」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサーーーーーーーーーーーーイッ!!!!」
魔神だろうが神だろうが。
大事な人を救う障害になるのなら、いくらでも喧嘩を売ってやる。
そんな覚悟のもと、アルテマは全力で一線を超えていった。
濡れた薄布。
透き通ったそれから見えるジルの肌はとても70代には見えない。
どうみても二十歳《ハタチ》そこそこのハリと、クビレをもったその見事な裸に、モジョは同性でありながらも、ちょっと赤面する。
「アニオタたちがいなくて良かった……」
なんなら……ぬか娘もいなくて良かった。
そう思いハンカチで頬を拭った。
アルテマが必死になってジルに呼びかけるが、画面の中のジルは静止画像。
当然反応は返ってこなかった。
女魔神像の下、魔法水が溜まった槽から水を汲み、それを頭からかぶって祈りを捧げている。まるで誰かの無事を願っているかのように、真剣な表情をしていた。
「お、おいモジョ!? どうなっている?? なぜ師匠は反応してくれないんだ? 声が届いていないのか!??」
「お……落ち着け落ち着け、そもそも止まっている相手に反応を求めてもしょうがないだろう、さっきも言ったが、これがいまの電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の限界だ。……というか……そもそもなぜジルさんの姿が映るのだろう……??」
モジョもいまいち状況を掴みかねているようす。
しかしそれにはアルテマが答えとなる情報を教えてくれた。
「そ、それは……アレだろう? 師匠のアイアンゴーレムを媒体として電波(?)を飛ばしているのなら、おそらくその受信先は師匠の周辺になる。なぜならあのゴーレムは師匠と精神世界で繋がっているのだからな」
「……精神世界?」
「精神世界というのは悪魔族や天使のブタ野郎どもが――――」
説明しようとしたアルテマを手で制するモジョ。
「いや……いい。その辺りの理屈はいま聞いてもわからん……。それよりも、そういう原理ならば……もしかしてそのゴーレムをどうにかして強化すれば、通信速度も早まって滑らかに交信ができるようになるかもしれないな……」
「そういうものなのか……??」
「開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の魔法が、こちらの回線と同じような原理ならばきっとな……。ゴーレムが媒体として機能しているんだ……たぶん互換性があるのだと思う……しかし……自分で言っておいてなんだが、強化ってどうすればいいのだろうな……」
「そこは魔法の分野だ。私に任せてもらおう。とにかくゴーレムのようすを見に行ってみよう。話はそれからだ」
「……そうだな。ちょっと待ってろ……」
そう言うと、モジョはキーボードをカチャカチャカチャと、物凄い勢いで叩きはじめた。その指先はアルテマでさえも追えないくらい。
「おお……な、なんて複雑奇っ怪な指さばき……」
普段寝ぼけてばかりのモジョだったが、いまはまるで覚醒したかのようにものすごい技術を披露している。
無数のキーを的確に、意味を持って叩く様《さま》は神業と言う他ない。
もし世界が繋がって帝国にもPC文化がもたらされるようになったら、モジョにはぜひ最高待遇の高文官として帝国に迎え入れたいものだ。
いや、電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》などととんでもない技術を作り出してしまう彼女を、他の国にでも取られでもしたら大事《おおごと》。その時には何としてでも専属契約を結ばねばならない。
電光石火で作業を片付けるモジョの背を、ちょっと引き気味に眺めながらアルテマはそう誓った。
「――――……て、おい、アルテマ。何をそんなところで立ち止まっているんだ?」
仮説橋梁の真ん中、ちょうど隣集落との境目でアルテマは立ち止まった。
大きな鞄を背負ったモジョは不思議そうに振り向いて首をかしげた。
ゴーレム化した電線は隣集落にある。そこに向かうため、どうしてもこの橋は渡ってしまわなければならない。
「い……いやその……私はこの先には行けないのだ。蹄沢集落から出てはイケナイと固い約束を交わしている」
「……ああ……そういうのあったな。でも……良いんじゃないか? 事情が事情なんだから……」
「そういうわけにはいかない。……それに約束を破ってしまったら、きっと罰が落ちてしまう。魔神は約束破りにはうるさいんだ。……見逃してはくれないだろう」
「……そんなものなのか」
「そんなものだ。だから我ら魔族は決して嘘をつかない」
「……こっちの世界では〝嘘をつかない〟って言ってるやつが一番嘘つきなんだがな?」
疑わしい顔を向けるモジョ。
アルテマはちょっと口をへの時にすると、ツツツと視線を横にやる。
「……いやまぁそりゃ……たまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~にはあるぞ? あるけども、基本的にはつかないし……ついたらついたで、ちゃんとあとで謝る!!」
「じゃあ――――」
――――タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタラッタタッタ。タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタタン――――……。
言いかけたモジョのスマホにまた連絡が入る。
アニオタからだった。
「――――おう……うん……うん。……そうか……わかった」
暗い顔で電話を切るモジョ。
「アニオタからだ。……元一の容態が思ったより良くないらしい。……化学治療だけだと、明日……明後日を乗り切るのは……」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサーーーーーーーーーーーーイッ!!!!」
魔神だろうが神だろうが。
大事な人を救う障害になるのなら、いくらでも喧嘩を売ってやる。
そんな覚悟のもと、アルテマは全力で一線を超えていった。
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