上 下
219 / 285

第218話 プロトタイプ

しおりを挟む
「電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》!??」

 言われた言葉の意味を理解できず、頭の上に無数の〝?〟を浮かべるアルテマ。
 まぁ、それも仕方ないよな。と、モジョは苦笑いを浮かべる。

 インターネット回線を通じて異世界と交信する。
 コッチ側の人間でも到底信じられない絵空事を、科学文明においては遅れている異世界人のアルテマが理解できるはずもないだろうから。

「ああ……もしモノになれば、コレを通じて魔法の使用も可能になるんじゃないかと思ってな……。ほら、以前ジルさんも開門揖盗《デモン・ザ・ホール》を通じて異世界から魔法を使ってくれただろう?」
「通信ゲーブルのときか……ああ、たしかに開門揖盗《デモン・ザ・ホール》は声や物質と同じく魔法も飛ばすことができる……」
「……それはつまり、魔神とやらの信仰も繋がっているということだろう?」
「そうなるな。……しかしその電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》とやらがどんなものか……見てみないことにはわからない」
「……ちょうど、さっきプロトタイプ版を打ち終わったところだ」

 そう言ってソフトを立ち上げる。
 アルテマの巫女姿をロゴ化したシンボル。それをクリックするとランチャーが立ち上がる。これにはかつてヨウツベがもらっていた異世界の絵画『見渡しの丘』がデザインに使われており、モジョならではのこだわりが感じられた。

 しばらく待つと画面が切り替わる。
 そして映し出された映像を見て、アルテマは口をポカンと開けた。

 ノイズだらけでかなり見ずらい景色だったが、それはどこか高いところから見下ろした街の風景。
 以前見た草原の景色と違ったことにモジョは眉を寄せたが、アルテマは口を開けたまま目をまん丸に見開いて、

「こ……これはシュテーンライブルからの城下町……?」

 そう細くつぶやいた。

「シュテーンライブル?」
「我が帝国の本城だ。映っているのはそのバルコニーからの景色……しかしどうしてこんなものが……!?」
「……へぇ~~……そうなのか……どうしてだろうな……?」
「いや、お前がわからなくてどうする!?」

 首を傾げるモジョの体を揺すって文句を言うアルテマ。

「いや……だからプロトタイプだと言っただろう? ……わたしにだってわからないコトのほうが多いんだ……とりあえず原理を説明するとだな……」

 モジョは、この回線とアイアンゴーレムの関係性について説明した。
 聞いたアルテマは頭からプスプスと煙を上げる。

「あ~~……うん……。その……つまりこの世界のデジタル信号? が、師匠のアイアンゴーレムを通過することによって……なんだろう? ……どうにかなって異世界へと繋がってしまっていると……?」
「……そうそう、そんな感じ……。ホント、どうにかなってって言うのはいい表現だ……わたしも正直細かいところはまったくわかっていない。……とにかく思いつきの発想でやってみたらうまくいった」
「うまく……いくものなのか??」
「回線速度が安定していなかったので、それを調べていたのがきっかけなんだが……説明いるか?」

 モジョの問いに、無言で首を横に振るアルテマ。
 これ以上わけのわからんカタカナを詰め込まれたら、頭がどうにかなってしまいそうだからだ。

「ともかく……この景色は師匠のアイアンゴーレムが繋げてくれているモノなのだな?」
「たぶんな。……それ以外考えられない」

 アルテマは少し考え込んで質問した。

「……これ、画面が止まっているように見えるのだが。動画にはできないのか?」
「うん? う~~~~ん……いろいろ調べたんだが……どうにも、コッチで言うところの通信速度が足らないようでな、すぐ固まってしまうんだ。だから動画にはできないが……こうやって再読み込みすれば、次の景色に切り替わるはず……」

 前回はただの草原。飛ぶ龍や、風になびく草が確認できた程度だった。
 それからすぐに警察が入ってきたため検証はできなかったが、景色が様変わりしているところを見ると、なにか移動するものを視点しているのかもしれない。
 そう思いエンターキーを押し、次の景色を表示させる。

 すると出てきたのは――――

「げっ!?」
「え? あ、し……師匠っ!???」

 出てきたのは、スケスケの薄布一枚で水浴びをしているジルの姿だった。




「……山から滑落《かつらく》したと聞きましたが、それは本当なんですか?」

 疑わしい目で医者が六段を睨んでくる。
 六段は顔面に青筋をいっぱいに浮かべてそれを睨み返した。
 同じことを聞かれるのはこれで五回目だからだ。

「しつこいな……本当だと言っとるだろうが。……疑うのなら本人に直接聞けばいいだろう。完璧に治療して目覚めさせた後でなっ!!」

 言われた医者は目線を外し軽いため息を吐く。

「……偽島誠さんの方は重症ですが、命に問題はないでしょう。……しかし有手《あるで》さんの方は……高齢ですから……ここ二、三日が山となってくるでしょう」
「ゲンさんはこんなことでは死なんっ!! そんじゃそこらの若者よりもよっぽど頑丈なジジイなんだ!! 二十年前ワシが軽トラで撥《は》ね飛ばしたときもピンピンして怒り狂ってきたもんだっ!!」
「二十年も経てば人は衰えますよ(てか、すごいなオイ)……ともかく、遺族の方には万一のことを考えて心構えをしておくように、お伝え下さい……」

 事務的に頭を下げるとその医者は去っていった。
 六段は窓越しに見える元一の姿を見て、無念そうに消え入る声でつぶやいた。

「……お前……せっかく……のに。……これからだった……ろ……絶対に死ぬんじゃないぞ……!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩
ファンタジー
 道に迷った少女ミーナが子猫(?)のラルに案内されてたどり着いたのは、人里離れた山中にポツンとあるわらぶき屋根の一軒家。  そこに住むおばあさんに孫と間違われ、異世界で魔法薬を作る薬師見習い生活が始まります。  異世界生活も順調と思った矢先、おばあちゃんが心臓の発作で倒れて意識不明のまま入院。病院には、おばあちゃんの本当の孫や意地悪な借金取りが現れ、ミーナとラルの生活は急変してしまいます。  おばあちゃんを救うために必要な黄金の実は手に入るのか!? ※ チート無双というほどではありません ※もちろん逆ハーレムもなし ※ ダンジョン攻略描写はありません ※ ダンジョンのある村で子猫(?)と暮らすお話です ※文化レベルは大正時代+ファンタジー ーーーー ジャンルをファンタジーに戻しました。 ーーーー  異世界転移ものなのでジャンルをファンタジーにしていましたが、第1回きずな児童書大賞の応募可能ジャンルに異世界ファンタジーがあるので、ジャンルを児童書・童話に変更してエントリーしてみます。  主人公が転生ではないリアル小学生であること、主人公と魔獣/周りの人達との関係(絆)が元々テーマであること、既刊作を見ると対象年齢が低すぎることはなさそうなのが理由です。  第二章(本日は晴天なり)で完結の予定でしたが、一応続けてます。遅くてすいません。  よろしくお願いします。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》

新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。 趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝! ……って、あれ? 楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。 想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ! でも実はリュシアンは訳ありらしく……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...