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第217話 まかせろ
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「ど、どうしよう……。私……どうにも嫌な予感がするんだ。もし……元一の身になにかあったんだとしたら……」
ぐちゃぐちゃの顔になって泣きじゃくるアルテマ。
こうやっているとまるで年相応の幼女にしか見えない。
それほどに元一が心配だということなのだろうが……。
「あ~~……それなんだがアルテマ……。たったいま私のところにも連絡があった……アニオタからだ」
「な、なに、それは本当か!? で、なんと言っていた!? 元一は!??」
そう聞かれるモジョだったが、内容を説明しようとする彼女の顔は曇っていた。
蹄沢集落よりかなり離れた市の総合病院。
元一と偽島は、そこの集中治療室に寝かされていた。
一応の処置は終わり、二人とも一命こそ取り留めたものの傷は深く、このままでは偽島はともかく元一の体力が持たないかもしれない。
節子と集落のメンバーはクロードの回復を待って、朝方いの一番で〝ヒール〟を唱えてもらった。
しかしそこで予想していなかった事態がおきた。
「む!? ……おかしい、魔法が発動しないぞ……」
傷ついた二人を窓越しに、クロードはなにも起きない自分の手の平を見つめた。
「……おい貴様……こんなところでまさか冗談を言っているんじゃないだろうな?」
不安げに手を合わせる節子を背に、六段が額に青筋を浮かべる。
胸ぐらを掴まれ、凄《すご》まれたクロードは焦りながら、
「い……いやまて、俺は冗談など言っていない!! も、もう一度……」
改めて神経を集中させるクロード。
一語一言、心を込めて呪文をなぞらえる。
「……神の加護よ。我が力を彼に授け、奇跡の炎を灯さん――――〝ヒール〟」
しかし――――し~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
神秘な輝きに光るはずのクロードの手の平には――――なにも起きない。
当然、二人の身も回復などしていなかった。
「……おい」
二度目の失態に耐えかねて、クロードの頭を鷲掴みにする六段。
その目は、笑いながら怒っていた。
「い……いやいや、だから違う違う!! え? ヒール!! ヒール!! なぜだ!? ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、ヒーーーーーーーールゥゥゥゥッ!!!!」
殺気に脅されて、三度《みたび》全力の魔法詠唱をするクロードだったが、やはり一向に発動してくれる気配はなかった。
「……お、おかしい……な、なぜだ……!???」
「ま、ま、ま、魔素とやらが足りていないのではござらぬか?」
アニオタが確認してみるが、クロードは心底わからない。
「いや……魔素は足りている。全回復まではしていないが……1回分のヒールを唱えるくらいは回復しているはずだ……」
「ならなんで、発動せんのだ!? お前まさか……この期に及んでまだ、しぶとくアルテマへの当てつけで協力を拒んでいるんじゃないだろうな!?」
「バカな、俺はそんな卑怯者ではない!!」
「つい昨日、卑怯な手に出ておいてどの口で言うんだお前は!! もう一度、今度はワシの鉄拳を食らってみるかっ!! おうっ!!??」
もがもがもがっ!!
片手で口を塞ぎ、拳を振り上げる六段。
いつにも増して暴力的だが、元一の切迫した容態に彼も余裕がないのだ。
そんな男をたしなめるように占いさんが間に割って入った。
「やめんか、患者の前じゃぞ。……それに責めたところで、どうにもならんじゃろう。……これはコヤツの落ち度ではない」
「ど、どういうことでござるか?」
「……クロードよ、おぬしアルテマの話を聞いておったか? ……難陀《なんだ》に龍欠を塞がれ魔法を封じられたと」
「「「……あ」」」
その言葉を聞いた全員がその場でハッとなった。
「ワシは異世界の魔法のことなどわからんが、おぬしの魔法もアルテナと同じく向こうの世界の信仰が力の源となっておるのじゃろう? ……アルテマの信仰する魔神の力が届かなくなったのであれば、おぬしの信仰する神の力も届いておらんのじゃないか?」
「そ……そうだ……なにか心がポッカリと軽くなったと思ったら……」
両手を見つめ、愕然とうなだれるクロード。
どうやら占いさんの読み通り、クロードも魔法が封じられているようだ。
「……そ、そ、そ、それならば……ゲンさんの怪我はどうなる? 魔法を使ってやれないとなると……」
六段に言われ、寂しそうに背を向ける占いさん。
「……医者に任せるしかないようじゃの。これも神龍に逆らった報いか。……わたしらは……思っているよりも大きな存在を敵に回してしまったのかもしれんな……」
その話を聞いたアルテマがギリギリと歯を鳴らす。
肩は怒りに震え、角もまた伸びはじめた。
「お……のれ……難陀《なんだ》め……、ど……どこまでも……」
――――ダッ!!
踵を返し、走り出すアルテマ。
その襟首をモジョは素早く掴んで吊り上げた。
「おっと……どこに行くつもりだ?」
「聞くまでもないだろう!! あのクソトカゲの所だっ!! いますぐ行って殺して元一を治させてやる!! 離せモジョ、行かせてくれ!!!!」
「アホか……つい昨日、完全敗北しておいてなにを言っている? ……魔法を封じられたいまのお前はただのガキンチョ。闇雲に突っ込んでいってもなにもできん。そんなことくらい、暗黒騎士ならば冷静に判断しろ」
「し……しかし元一が!!」
ジタバタもがくアルテマに、言い聞かせるようモジョは言った。
「あの龍を倒すのは……お前一人じゃ無理だ。……集落全員の力を合わせて攻略しなければならない大ボス。……いまはわたしのターンなんだよ」
ぐちゃぐちゃの顔になって泣きじゃくるアルテマ。
こうやっているとまるで年相応の幼女にしか見えない。
それほどに元一が心配だということなのだろうが……。
「あ~~……それなんだがアルテマ……。たったいま私のところにも連絡があった……アニオタからだ」
「な、なに、それは本当か!? で、なんと言っていた!? 元一は!??」
そう聞かれるモジョだったが、内容を説明しようとする彼女の顔は曇っていた。
蹄沢集落よりかなり離れた市の総合病院。
元一と偽島は、そこの集中治療室に寝かされていた。
一応の処置は終わり、二人とも一命こそ取り留めたものの傷は深く、このままでは偽島はともかく元一の体力が持たないかもしれない。
節子と集落のメンバーはクロードの回復を待って、朝方いの一番で〝ヒール〟を唱えてもらった。
しかしそこで予想していなかった事態がおきた。
「む!? ……おかしい、魔法が発動しないぞ……」
傷ついた二人を窓越しに、クロードはなにも起きない自分の手の平を見つめた。
「……おい貴様……こんなところでまさか冗談を言っているんじゃないだろうな?」
不安げに手を合わせる節子を背に、六段が額に青筋を浮かべる。
胸ぐらを掴まれ、凄《すご》まれたクロードは焦りながら、
「い……いやまて、俺は冗談など言っていない!! も、もう一度……」
改めて神経を集中させるクロード。
一語一言、心を込めて呪文をなぞらえる。
「……神の加護よ。我が力を彼に授け、奇跡の炎を灯さん――――〝ヒール〟」
しかし――――し~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
神秘な輝きに光るはずのクロードの手の平には――――なにも起きない。
当然、二人の身も回復などしていなかった。
「……おい」
二度目の失態に耐えかねて、クロードの頭を鷲掴みにする六段。
その目は、笑いながら怒っていた。
「い……いやいや、だから違う違う!! え? ヒール!! ヒール!! なぜだ!? ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、ヒーーーーーーーールゥゥゥゥッ!!!!」
殺気に脅されて、三度《みたび》全力の魔法詠唱をするクロードだったが、やはり一向に発動してくれる気配はなかった。
「……お、おかしい……な、なぜだ……!???」
「ま、ま、ま、魔素とやらが足りていないのではござらぬか?」
アニオタが確認してみるが、クロードは心底わからない。
「いや……魔素は足りている。全回復まではしていないが……1回分のヒールを唱えるくらいは回復しているはずだ……」
「ならなんで、発動せんのだ!? お前まさか……この期に及んでまだ、しぶとくアルテマへの当てつけで協力を拒んでいるんじゃないだろうな!?」
「バカな、俺はそんな卑怯者ではない!!」
「つい昨日、卑怯な手に出ておいてどの口で言うんだお前は!! もう一度、今度はワシの鉄拳を食らってみるかっ!! おうっ!!??」
もがもがもがっ!!
片手で口を塞ぎ、拳を振り上げる六段。
いつにも増して暴力的だが、元一の切迫した容態に彼も余裕がないのだ。
そんな男をたしなめるように占いさんが間に割って入った。
「やめんか、患者の前じゃぞ。……それに責めたところで、どうにもならんじゃろう。……これはコヤツの落ち度ではない」
「ど、どういうことでござるか?」
「……クロードよ、おぬしアルテマの話を聞いておったか? ……難陀《なんだ》に龍欠を塞がれ魔法を封じられたと」
「「「……あ」」」
その言葉を聞いた全員がその場でハッとなった。
「ワシは異世界の魔法のことなどわからんが、おぬしの魔法もアルテナと同じく向こうの世界の信仰が力の源となっておるのじゃろう? ……アルテマの信仰する魔神の力が届かなくなったのであれば、おぬしの信仰する神の力も届いておらんのじゃないか?」
「そ……そうだ……なにか心がポッカリと軽くなったと思ったら……」
両手を見つめ、愕然とうなだれるクロード。
どうやら占いさんの読み通り、クロードも魔法が封じられているようだ。
「……そ、そ、そ、それならば……ゲンさんの怪我はどうなる? 魔法を使ってやれないとなると……」
六段に言われ、寂しそうに背を向ける占いさん。
「……医者に任せるしかないようじゃの。これも神龍に逆らった報いか。……わたしらは……思っているよりも大きな存在を敵に回してしまったのかもしれんな……」
その話を聞いたアルテマがギリギリと歯を鳴らす。
肩は怒りに震え、角もまた伸びはじめた。
「お……のれ……難陀《なんだ》め……、ど……どこまでも……」
――――ダッ!!
踵を返し、走り出すアルテマ。
その襟首をモジョは素早く掴んで吊り上げた。
「おっと……どこに行くつもりだ?」
「聞くまでもないだろう!! あのクソトカゲの所だっ!! いますぐ行って殺して元一を治させてやる!! 離せモジョ、行かせてくれ!!!!」
「アホか……つい昨日、完全敗北しておいてなにを言っている? ……魔法を封じられたいまのお前はただのガキンチョ。闇雲に突っ込んでいってもなにもできん。そんなことくらい、暗黒騎士ならば冷静に判断しろ」
「し……しかし元一が!!」
ジタバタもがくアルテマに、言い聞かせるようモジョは言った。
「あの龍を倒すのは……お前一人じゃ無理だ。……集落全員の力を合わせて攻略しなければならない大ボス。……いまはわたしのターンなんだよ」
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