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第216話 なんとしてでも
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――――朝。
スズメの可愛らしい鳴き声がチュンチュンと奏でられ、清々しい朝日に照らされた露《つゆ》がアジサイの葉の上で、宝石のように輝く。
そんな清らかな陽の光を横顔に受けて、しかしアルテマの顔は沈んだままだった。
結局昨晩は一睡もできなかった。
魔力は尽きて、体力も限界なはずなのに。
そんなことよりも、元一がいなくなってしまう心配のほうがよほど怖くて。
飲兵衛とぬか娘は、それぞれ一升瓶を抱いて寝ている。
アルテマはずっとぬか娘の携帯《スマホ》を見ていた。
なにかあったらコレに連絡すると六段が言ってくれた。
こないと言うことは、元一はまだ怪我と戦っているのだろう。
それとも――――。
考えてはいけない可能性を浮かべてしまい、強く頭を振るアルテマ。
もし……もしも……。もしものことがあったら……。
……あの神龍……ただ殺すだけではすまさんぞ……。
神の化身がかなんだかしらないが、地獄の先の、そのまた地獄へ落とし、その魂の最後の一滴が尽きるまで、苦しみにのたうち回らせて焼き殺してやる。
とうてい叶わぬ相手のはずなのに。
アルテマはそんな復讐を胸に誓った。
頭の角がビキビキと伸びてくる。
収まらない怒りが怨念へと昇華して心を支配してゆく。
鬼の底に眠る狂気が目を冷まそうとしていた。
そんなとき――――、
――――ぶりっぎゅあ、ぶりっぎゅあ、デデン。
――――ぶ~りぎゅあっ、ぶ~りぎゅあっ、ぶ~りぎゅあっ、ぶ~りぎゅあっ(初代プリ◯ュアのOP)
「――――はっ!?」
突然、携帯が鳴りはじめた。
待ちかねた連絡に、アルテマは飲み込まれそうになっていた意識をグッと現実に引き戻した。
軽妙な音楽とともにカラフルに光る携帯《スマホ》。
それを慌てて手に取ったアルテマは応答しようとするが、
「え、あ……!? こ、これ……どうやって使うのだっけ!??」
そういえば携帯など、一度も使ったことがなかった。
タブレットなら操作していたので〝すわいぷ〟はできるのだが、どれをどう触っていいのか……!?
「お、おい、ぬか娘!! で、電話に出てくれ、おいったらおいっ!!」
ベシベシッ!!
ほっぺたを叩くが(強めに)昨日の騒動で疲れ果てていたぬか娘はまるで目覚める気配をみせなかった。
「お、おい、飲兵衛。飲兵衛ったら、起きてくれ、おい!!」
ぐぐぐぐ……一升瓶を取り上げて起こそうとするが、こちらも予想外の馬鹿力で抵抗されてダメだった。
そうこうしているうちに。
――――い~の~ち~の花~~咲~かせて思~いっきり~~―――プツっ。
一番切れてほしくないフレーズの場所で電話は切れてしまった。
「やぁ~~めぇ~~ろぉーーーーーーーーっ!!」
不吉な予感に、アルテマは半泣きになって頭を抱えた。
カチャカチャカチャカチャ……。
鉄の結束荘。その地下作業室でモジョはひとりPC向かっていた。
元一たちの怪我は心配だったが、自分がついていったところで何もできない。
それよりもやるべきことを進めるほうが、みなの為になるとモジョは考えていた。
自分がすべきこと。
それは電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の構築。
はじめは冗談じみた発想でやってみた実験だったが、ジルのゴーレムによって魔装化されたケーブルをアンテナとし、こちらのネットワーク網と異世界の魔力網の波長を合わせてみたら成功した。
ほんとに冗談みたいな話だが、実際出来てしまったのだからしょうがない。
ネットワーク回線と魔法世界に、いったいどんな関係性があるのか?
それを解明できたら、モジョの名は一躍両世界の歴史に残ることになるだろう。
しかしそれは後の話でいい。
いまはとにかくこの状況を打開するために、なんとしてでも、このプログラムを組み上げなくてはならない。
難陀《なんだ》に封じられてしまったアルテマの魔法。
龍穴を閉じられてしまったのが原因と聞いている。
しかしこの電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》は龍穴とは違う、独自のルートで異世界と繋がる。
これを介すれば、アルテマの魔法もきっとまた自由になるはず。
それで勝てる相手でもないらしいが、それでも使えないよりはよほどマシ。
――――タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタラッタタッタ。タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタタン――――。(アレッ◯スキッド)
突然携帯が鳴った。
びっくりして飛び上がるモジョ。
ここ一年ほど、ろくに鳴ったことがなかったので免疫がなくなっていた。
ドキドキ高鳴る胸を押さえて確認すると、相手はアニオタだった。
ちょっと安心して応答する。
「――――……もしもし……こちらモジョ……どうしたの……?」
『ああ、よかった……こっちは出てくれたでござる。……じつは』
アニオタの声はずいぶんと慌てていた。
まさか……元一が……?
嫌な予感に背筋を冷たくする。
しかしアニオタが説明した状況は、想像とは少しちがうトラブルだった。
「……なんてことだ……それじゃあ元一は……どうなるんだ? 偽島だって……」
言われてみればその通り。
なぜ誰も気付いていなかったのか?
そう途方に暮れたとき――――、
――――がちゃっバァンッ!! ごろごろーーーー。
蹴破る勢いで、地下室の扉をぶち開けアルテマが転がり込んできた。
息を切らしたアルテマは、ぬか娘の携帯を差し出して、
「すまんモジョ、こいつの使いかたを教えてくれ!!」
汗まみれホコリまみれ、鼻水を垂らしながらそう頼んできた。
スズメの可愛らしい鳴き声がチュンチュンと奏でられ、清々しい朝日に照らされた露《つゆ》がアジサイの葉の上で、宝石のように輝く。
そんな清らかな陽の光を横顔に受けて、しかしアルテマの顔は沈んだままだった。
結局昨晩は一睡もできなかった。
魔力は尽きて、体力も限界なはずなのに。
そんなことよりも、元一がいなくなってしまう心配のほうがよほど怖くて。
飲兵衛とぬか娘は、それぞれ一升瓶を抱いて寝ている。
アルテマはずっとぬか娘の携帯《スマホ》を見ていた。
なにかあったらコレに連絡すると六段が言ってくれた。
こないと言うことは、元一はまだ怪我と戦っているのだろう。
それとも――――。
考えてはいけない可能性を浮かべてしまい、強く頭を振るアルテマ。
もし……もしも……。もしものことがあったら……。
……あの神龍……ただ殺すだけではすまさんぞ……。
神の化身がかなんだかしらないが、地獄の先の、そのまた地獄へ落とし、その魂の最後の一滴が尽きるまで、苦しみにのたうち回らせて焼き殺してやる。
とうてい叶わぬ相手のはずなのに。
アルテマはそんな復讐を胸に誓った。
頭の角がビキビキと伸びてくる。
収まらない怒りが怨念へと昇華して心を支配してゆく。
鬼の底に眠る狂気が目を冷まそうとしていた。
そんなとき――――、
――――ぶりっぎゅあ、ぶりっぎゅあ、デデン。
――――ぶ~りぎゅあっ、ぶ~りぎゅあっ、ぶ~りぎゅあっ、ぶ~りぎゅあっ(初代プリ◯ュアのOP)
「――――はっ!?」
突然、携帯が鳴りはじめた。
待ちかねた連絡に、アルテマは飲み込まれそうになっていた意識をグッと現実に引き戻した。
軽妙な音楽とともにカラフルに光る携帯《スマホ》。
それを慌てて手に取ったアルテマは応答しようとするが、
「え、あ……!? こ、これ……どうやって使うのだっけ!??」
そういえば携帯など、一度も使ったことがなかった。
タブレットなら操作していたので〝すわいぷ〟はできるのだが、どれをどう触っていいのか……!?
「お、おい、ぬか娘!! で、電話に出てくれ、おいったらおいっ!!」
ベシベシッ!!
ほっぺたを叩くが(強めに)昨日の騒動で疲れ果てていたぬか娘はまるで目覚める気配をみせなかった。
「お、おい、飲兵衛。飲兵衛ったら、起きてくれ、おい!!」
ぐぐぐぐ……一升瓶を取り上げて起こそうとするが、こちらも予想外の馬鹿力で抵抗されてダメだった。
そうこうしているうちに。
――――い~の~ち~の花~~咲~かせて思~いっきり~~―――プツっ。
一番切れてほしくないフレーズの場所で電話は切れてしまった。
「やぁ~~めぇ~~ろぉーーーーーーーーっ!!」
不吉な予感に、アルテマは半泣きになって頭を抱えた。
カチャカチャカチャカチャ……。
鉄の結束荘。その地下作業室でモジョはひとりPC向かっていた。
元一たちの怪我は心配だったが、自分がついていったところで何もできない。
それよりもやるべきことを進めるほうが、みなの為になるとモジョは考えていた。
自分がすべきこと。
それは電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》の構築。
はじめは冗談じみた発想でやってみた実験だったが、ジルのゴーレムによって魔装化されたケーブルをアンテナとし、こちらのネットワーク網と異世界の魔力網の波長を合わせてみたら成功した。
ほんとに冗談みたいな話だが、実際出来てしまったのだからしょうがない。
ネットワーク回線と魔法世界に、いったいどんな関係性があるのか?
それを解明できたら、モジョの名は一躍両世界の歴史に残ることになるだろう。
しかしそれは後の話でいい。
いまはとにかくこの状況を打開するために、なんとしてでも、このプログラムを組み上げなくてはならない。
難陀《なんだ》に封じられてしまったアルテマの魔法。
龍穴を閉じられてしまったのが原因と聞いている。
しかしこの電脳開門揖盗《サイバー・デモン・ザ・ホール》は龍穴とは違う、独自のルートで異世界と繋がる。
これを介すれば、アルテマの魔法もきっとまた自由になるはず。
それで勝てる相手でもないらしいが、それでも使えないよりはよほどマシ。
――――タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタラッタタッタ。タランタラ~~。タランタラ~~。タランタラッタタン――――。(アレッ◯スキッド)
突然携帯が鳴った。
びっくりして飛び上がるモジョ。
ここ一年ほど、ろくに鳴ったことがなかったので免疫がなくなっていた。
ドキドキ高鳴る胸を押さえて確認すると、相手はアニオタだった。
ちょっと安心して応答する。
「――――……もしもし……こちらモジョ……どうしたの……?」
『ああ、よかった……こっちは出てくれたでござる。……じつは』
アニオタの声はずいぶんと慌てていた。
まさか……元一が……?
嫌な予感に背筋を冷たくする。
しかしアニオタが説明した状況は、想像とは少しちがうトラブルだった。
「……なんてことだ……それじゃあ元一は……どうなるんだ? 偽島だって……」
言われてみればその通り。
なぜ誰も気付いていなかったのか?
そう途方に暮れたとき――――、
――――がちゃっバァンッ!! ごろごろーーーー。
蹴破る勢いで、地下室の扉をぶち開けアルテマが転がり込んできた。
息を切らしたアルテマは、ぬか娘の携帯を差し出して、
「すまんモジョ、こいつの使いかたを教えてくれ!!」
汗まみれホコリまみれ、鼻水を垂らしながらそう頼んできた。
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