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第209話 窮鼠猫を噛む②
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照準が、ピタリと眉間で止まる。
向けられた難陀《なんだ》はあえて避けようとせず、その一撃を楽しみに待っていた。
しかし元一は引き金に指をかけるものの、そこから先が引けないでいた。
「ダメだ元一!! 銃をおろせっ!!」
アルテマが叫んでいる。
正しい意見だ。
この龍の強さはかつて元一も体感している。
いくら加護があるとはいえ、こんな銃ではおそらく傷一つ付かないだろう。
しかし、偽島の無念を考えると、このままおめおめと引き下がるわけにはいかなかったのだ。
なかなか撃ってこない元一に難陀《なんだ》が焦れったそうに首を傾ける。
『……ふん、威勢のわりに、肝は大したことなさそうだな? ……それとも経験が怒りの邪魔をするか?』
皮肉に笑い、そして、
『ならば、もっと怒りを足してやろうか?』
邪気を深めると――――ゴォッ!!!!
一度飲み込んだ神力を再び燃え上がらせた。
そして元一へと狙いを定めると――――、
「よせ、止めろ難陀《なんだ》っ!!」
アルテマの悲鳴を無視して、
ごがぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!
空間を引きちぎり、神龍の咆哮を撃ち出した!!
ごがっドガバリバリドガガァァァァァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
真銀に輝く咆哮。
木々を薙ぎ払い、土岩を砕き、山肌をめくれ上がらせる!!
「きゃぁぁぁぁぁっアルテマちゃん!!!!」
「な、な、なっ!?」
「――――元一っ!??」
衝撃に吹き飛ばされ、茂みに転がるぬか娘たち。
土を噛みながらもアルテマは元一の身を案じ、大木の幹を掴んだ。
咆哮の衝撃が余韻となって地面を揺るがしている。
周囲は光に飲み込まれ、状況がわからない。
やがて光が晴れると、
「あ……」
そこにはまるで隕石でも落ちたかのように大きく抉《えぐ》られた地面と、粉々に引きちぎられた樹木たちが、ぶち撒けられた釘のように散乱していた。
その光景をみて呆然と立ちすくむアルテマたち。
「え……な、なにこれ……ゲ、ゲンさんは……!?」
腰を抜かしてしまったか、へたり込みながらぬか娘が口を開ける。
「う……うそだろ……まさか」
ヨウツベも跡形もなく消えてしまった二人に、カメラを構えるのを忘れてしまう。
アルテマは膝を折り、土を握りしめながら肩を震わせていた。
『……他愛もない。人間風情が我に怒気など、身の程知らずなものを向けるからそうなるのだ。とくに汚らしいヒネた雄など、黄泉に送ってやる価値もない』
吐き捨てるように笑う難陀《なんだ》。
そのままギロリ、とぬか娘の方へ視線を回す。
「――――え?」
『ヌシは……うむ。多少歳はくっているようだが、生娘のようだな? ……いいだろう貴様も我の慰めに、三途の川へと流してやろう』
言うと難陀《なんだ》は彼女に向け、目をカッと光らせた。
「え??」
途端に体が言うことを聞かなくなり、勝手に動き始める。
「ちょ……ちょと、な、なに……??」
必死に抵抗しようとするが、どうにもできず、ぬか娘はどんどんと難陀《なんだ》の方へと近づいていった。
「お、おいダメだぬか娘……おいっ!!」
ヨウツベがそんな彼女の体を羽交い締めにして止めるが、操られた身体は恐ろしい力でまるで止まろうとしない。
『……雄はいらぬ。死にたくなければ下がれ。それとも爺のように消えてみるか?』
「……あ、いや……それはちょっと……」
人ならざる眼力に背筋が凍る。
しかし、ぬか娘を見捨てて逃げるわけにも行かず、ズルズルと難陀《なんだ》の側まで引きずられて、
ゴッ――――ドゴンッ!!!!
顎の下に入ったところで、虫けらを払うよう尻尾で横殴りに吹き飛ばされた。
「ぎゃぁっ!!??」
「よ、ヨウツベさん!!?」
軽く弾かれ、しかし本人にとっては大きなダメージを受けながら茂みの奥へと吹き飛ばされていくヨウツベに、ぬか娘が悲鳴を上げる。
その額に――――ベチャっと粘性の液体がかけられた。
「……え?」
見上げると、そこには大きく開かれた難陀《なんだ》の口が。
『……大丈夫。痛みは一瞬……運が良ければ来世も人の姿に生まれよう』
――――ぬちゃぁ……。
ヨダレまみれの牙が迫ってくる。
その一本は人の足よりも大きく、ツルハシよりも尖っていた。
「あ……あ……ああ……」
突然おとずれてしまった絶体絶命。
大きすぎる暴力に、声を上げる抵抗さえできないぬか娘。
無情に閉じていく顎。
牙が彼女の頭を噛み潰そうとしたとき、
――――ぬ。
その顔を越えて、小さなかわいい手が突き出された。
そして唱えられる暗黒呪文。
『地獄の業火よ、我の業をその贄とし、零鱗をこの地に具現せよ――――黒炎竜刃《アモン》』
――――ド―――――――――――――――――――――――――――ゴォッッォォォォオオォォォォォッォォォォッォォォォォオォォォオォォンッ!!!!
怒りによって召喚された黒炎は、かつてないほどの凶悪さを秘め、難陀《なんだ》の口の中で炸裂した!!
向けられた難陀《なんだ》はあえて避けようとせず、その一撃を楽しみに待っていた。
しかし元一は引き金に指をかけるものの、そこから先が引けないでいた。
「ダメだ元一!! 銃をおろせっ!!」
アルテマが叫んでいる。
正しい意見だ。
この龍の強さはかつて元一も体感している。
いくら加護があるとはいえ、こんな銃ではおそらく傷一つ付かないだろう。
しかし、偽島の無念を考えると、このままおめおめと引き下がるわけにはいかなかったのだ。
なかなか撃ってこない元一に難陀《なんだ》が焦れったそうに首を傾ける。
『……ふん、威勢のわりに、肝は大したことなさそうだな? ……それとも経験が怒りの邪魔をするか?』
皮肉に笑い、そして、
『ならば、もっと怒りを足してやろうか?』
邪気を深めると――――ゴォッ!!!!
一度飲み込んだ神力を再び燃え上がらせた。
そして元一へと狙いを定めると――――、
「よせ、止めろ難陀《なんだ》っ!!」
アルテマの悲鳴を無視して、
ごがぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!
空間を引きちぎり、神龍の咆哮を撃ち出した!!
ごがっドガバリバリドガガァァァァァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアァァァァァァァァンッ!!!!!!!!
真銀に輝く咆哮。
木々を薙ぎ払い、土岩を砕き、山肌をめくれ上がらせる!!
「きゃぁぁぁぁぁっアルテマちゃん!!!!」
「な、な、なっ!?」
「――――元一っ!??」
衝撃に吹き飛ばされ、茂みに転がるぬか娘たち。
土を噛みながらもアルテマは元一の身を案じ、大木の幹を掴んだ。
咆哮の衝撃が余韻となって地面を揺るがしている。
周囲は光に飲み込まれ、状況がわからない。
やがて光が晴れると、
「あ……」
そこにはまるで隕石でも落ちたかのように大きく抉《えぐ》られた地面と、粉々に引きちぎられた樹木たちが、ぶち撒けられた釘のように散乱していた。
その光景をみて呆然と立ちすくむアルテマたち。
「え……な、なにこれ……ゲ、ゲンさんは……!?」
腰を抜かしてしまったか、へたり込みながらぬか娘が口を開ける。
「う……うそだろ……まさか」
ヨウツベも跡形もなく消えてしまった二人に、カメラを構えるのを忘れてしまう。
アルテマは膝を折り、土を握りしめながら肩を震わせていた。
『……他愛もない。人間風情が我に怒気など、身の程知らずなものを向けるからそうなるのだ。とくに汚らしいヒネた雄など、黄泉に送ってやる価値もない』
吐き捨てるように笑う難陀《なんだ》。
そのままギロリ、とぬか娘の方へ視線を回す。
「――――え?」
『ヌシは……うむ。多少歳はくっているようだが、生娘のようだな? ……いいだろう貴様も我の慰めに、三途の川へと流してやろう』
言うと難陀《なんだ》は彼女に向け、目をカッと光らせた。
「え??」
途端に体が言うことを聞かなくなり、勝手に動き始める。
「ちょ……ちょと、な、なに……??」
必死に抵抗しようとするが、どうにもできず、ぬか娘はどんどんと難陀《なんだ》の方へと近づいていった。
「お、おいダメだぬか娘……おいっ!!」
ヨウツベがそんな彼女の体を羽交い締めにして止めるが、操られた身体は恐ろしい力でまるで止まろうとしない。
『……雄はいらぬ。死にたくなければ下がれ。それとも爺のように消えてみるか?』
「……あ、いや……それはちょっと……」
人ならざる眼力に背筋が凍る。
しかし、ぬか娘を見捨てて逃げるわけにも行かず、ズルズルと難陀《なんだ》の側まで引きずられて、
ゴッ――――ドゴンッ!!!!
顎の下に入ったところで、虫けらを払うよう尻尾で横殴りに吹き飛ばされた。
「ぎゃぁっ!!??」
「よ、ヨウツベさん!!?」
軽く弾かれ、しかし本人にとっては大きなダメージを受けながら茂みの奥へと吹き飛ばされていくヨウツベに、ぬか娘が悲鳴を上げる。
その額に――――ベチャっと粘性の液体がかけられた。
「……え?」
見上げると、そこには大きく開かれた難陀《なんだ》の口が。
『……大丈夫。痛みは一瞬……運が良ければ来世も人の姿に生まれよう』
――――ぬちゃぁ……。
ヨダレまみれの牙が迫ってくる。
その一本は人の足よりも大きく、ツルハシよりも尖っていた。
「あ……あ……ああ……」
突然おとずれてしまった絶体絶命。
大きすぎる暴力に、声を上げる抵抗さえできないぬか娘。
無情に閉じていく顎。
牙が彼女の頭を噛み潰そうとしたとき、
――――ぬ。
その顔を越えて、小さなかわいい手が突き出された。
そして唱えられる暗黒呪文。
『地獄の業火よ、我の業をその贄とし、零鱗をこの地に具現せよ――――黒炎竜刃《アモン》』
――――ド―――――――――――――――――――――――――――ゴォッッォォォォオオォォォォォッォォォォッォォォォォオォォォオォォンッ!!!!
怒りによって召喚された黒炎は、かつてないほどの凶悪さを秘め、難陀《なんだ》の口の中で炸裂した!!
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