上 下
206 / 274

第205話 複雑な気持ち

しおりを挟む
 ――――どがががががががががががががががががが。

 仮設橋梁の上を、資材を一杯に積んだトラックが通過していた。
 クロードによって半壊させられた橋は突貫工事で修復され、不格好ではあるが、なんとかその役割を果たしている。
 川を渡ったトラックはそのまま鉄の結束荘の校庭へと入り込み、どんどんと資材を下ろしていた。

 そろそろ日が傾こうとしていた。
 それでも彼らの作業は終わる気配を見せない。
 その光景を、アニオタとモジョがなんともやるせない表情で眺めている。

「……せ、せ、せっかくここまで抵抗していたでござるに……。な、なんだか、いままでの苦労が台無しになった気分でござるよ……」
「……しかたないだろう、事情が変わったんだ。もうわたしらにあの山を護る理由はないし、それどころか偽島組の力を借りねばならなくなってしまっている」
「し、し、しかし……今朝、あんなにヤラれたというのに、この人たちタフでござるな……」

 偽島組との大乱闘があったのは今朝の話。
 元一の必殺技(?)で一度は壊滅状態になってしまった作業員たちだったが、魔法の効果が切れたのと、クロードの回復魔法のおかげで昼過ぎには半数ほどが動けるようになっていた。

 偽島からすべては誤解だったと事情を聞かされ、そしてこれからの作戦を説明された彼らは、疲労した身体もなんのその、現場監督を中心に動けるの者から順に作業を始めていた。

「……それだけ真子とかいう娘を救いたいのだろうな……」

 作業の目的は最初の通り『太陽光発電ソーラーパネル』の設置。
 ただし。
 その目的はSDGsに乗っかった金儲けなどではなく、難陀《なんだ》という凶悪な龍を始末するための結界陣を構築することだった。

 村長の木戸誠司が現場監督となにやら話している。
 図面を広げているところをみると、陣を形作るための詳しい配列を説明しているようだ。

 作り出そうとしている結界陣の源となる力。
 それはこの国、日本の最高神とも言われる女神――――天照大神《あまてらすおおみかみ》から引き出される。
 その計り知れない法力(魔力)は、誠司はもちろん占いさんでさえ扱いきれない。
 だがアルテマは『自分ならできるかもしれない』と、みなにそう言った。

 もちろん、この世界の魔神(神)など知らない。
 なので確証があるわけではない。
 しかし異世界時代の経験から、一瞬、力を借りるぐらいは、なんとかなるかもしれないというのだ。

 しかし当然、それには危険が伴う。
 強大な力を扱いそこねた時、その術者がどうなってしまうのか。
 それは元一が堕天の弓で見せてくれた。
 だから全員が反対した。
 アルテマもその心配を受け入れた。

 しかしいざというとき、どうしても難陀《なんだ》に対抗できなかったとき、最後の切り札として準備はしておかねばならない。
 それが格上との戦いにおける〝帝国騎士の覚悟〟だと説得された。

 だから偽島組は動いているのだ。
 彼女の、いざというときの〝覚悟〟のために。

「……こ、こ、こんなもの使う羽目にならなければいいでござるがなぁ……」

 アニオタが珍しく真面目な顔をする。
 しかしモジョは、相変わらず眠たそうに軽いあくびをした。

「……あふぅ。……まぁ、それぞれできることをヤルしかないってことだな。わたしも一応やっとかないとね……ふぁぁ~~あ……」
「れ、れ、れ、例のデジタル開門揖盗《デモン・ザ・ホール》でござるか?」

 噴き出す汗とともに眼鏡を光らせるアニオタ。
 モジョは地下室へと向かいながら、ダルそうに言った。

「あと少しで、できそうなんだよね」




「大丈夫か偽島よ? ……貴様、血の気が引いて顔が真っ青じゃないか?」

 裏山を登りながら、元一が振り返った。
 そこには、ボロボロにほころんだスーツもそのままに、山道を革靴で登る偽島誠が息も絶え絶えに肩を揺らしていた。
 組員たちに指示を出した偽島は、アルテマたちとともに真子の足取りを追って難陀《なんだ》の元を目指していた。

『気持ちはわかるが、ただの人間であるお前が行くのは無謀だ』とアルテマは止めたが『あなたが私の立場なら、どう行動するんですか?』と返され、それ以上はなにも言わなかった。
 その代わりアルテマも同行することと、あと、これは言いにくいことだったが『難陀《なんだ》に戦いを挑む真似はするな』と約束させた。

 本当は結界陣ができあがるのを待って動きたかったのだが、それは無理な話。
 ともかく真子、そして消えた他の娘たちの安否は確認しなければならない。
 なので慎重に、あくまでも偵察として山に入った。

 メンバーはアルテマ・偽島・元一・ぬか娘・ヨウツベ。
 元一とぬか娘はアルテマを心配し。
 ヨウツベは『一度、難陀《なんだ》を撮影しておきたい』と同行を申し出た。
 遊びじゃないと言いたかったが、彼の記録と動画作成は〝集落の生活を守る〟という意味で重要な成果を出している。無視はできない。

 だったら、盾&回復要員としてクロード〶ィンポも引きずって来たかったが、ヤツは回復魔法《ヒール》の使いすぎで使い物にならなくなってしまっていた。

 いまごろ飲兵衛の家で非合法な点滴でも刺されていることだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。

七彩 陽
ファンタジー
 異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。  しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?  この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。 『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。  実はヒロインも転生者!  クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?  クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?    そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!  異世界転生、痛快ラブコメディ。 どうぞよろしくお願いします!

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...