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第181話 木戸誠司②

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「源次郎の……墓じゃと」

 話を聞いた元一と集落の一同。
 誠司の意外な影の努力に感心させられる。
 こいつはこいつで……ひとり戦っていたということか……。

「ええ。難陀《なんだ》の元は、大昔の流れ者〝源次郎〟です。言い換えれば、その躯《むくろ》こそが本体だと、私はつきとめたのです」

 それを聞いた占いさんは深くうなずき同意をしめす。

「御神体のことじゃな。難陀《なんだ》だけにあらず〝神〟と呼ばれるものはみなその核となる神体を持っておるものじゃ。すべての霊力はそこから発せられ、形作られておる。龍の姿はその神体が見せた幻覚のようなものじゃ。……しかしその程度の話、霊能者の間では常識のようなものじゃぞ?」
「はい……実は私もそこまではわりと早くに辿りつけたのですが――――と言っても10年ほどかかりましたが……。問題はその神体がどこにあるのか、でした。これにかなりの時間を使ってしまったんです」
「ちょちょ、ちょっと待って。御神体って、あの祠にあった玉のことじゃないの? ほら、クロードくんがいたずらして難陀《なんだ》を起こすキッカケになったあの玉だよ!!」

 そうじゃないの? と不思議な顔をしてみんなを見回すぬか娘。
 アルテマ以外はみなうなずいている。
 それについても占いさんは説明してくれた。

「ああいう小さな祠に飾られているのはすべて〝御霊代《みたましろ》〟という神体の代替のようなものじゃ。……それも神体には変わりないが、あくまで代替品。本体とは言えん」
「へぇ~~。……じゃあその本体はどこにあるっていうの?」
「大神を祀る神社などは、たいてい奥の院に隠し、人目につかんようにしておる。万が一、傷つけられたり盗まれたりせんようにの。とくに昔はいまと違い、神を信じる者も多かったからな。恩讐《おんしゅう》がらみの騒動も多かったのじゃ」

 ほほぅ、と納得する一同。

「じゃあ村長は、その隠されている難陀《なんだ》の本体――――〝源次郎〟を見つけたってこと?」

 ぬか娘の問いに、みなが注目する。
 誠司は力強くうなずいた。

「はい。さきほども言いましたが難陀《なんだ》の場合。本体である御神体は源次郎の躯《むくろ》、つまり墓の中にあります。そしてその墓とは――――」

 言って、誠司は職員室の窓からも見ることができる、難陀《なんだ》が巣食う、あの裏山を見つめた。

「死んだのがあの裏山やって話やから、墓も当然そこにあるか? しかしワシもここに住んで長いんやが、そんな墓の話は聞いたことあらへんなぁ……」

 飲兵衛の言葉に、しかし誠司は首を振って答えた。

「いえ……あの山の中ではなく、あの山こそが源次郎の墓。難陀《なんだ》の御神体だったのです」




「な……なんやて?」
「山……全部がお墓……?」

 呆気に口を開く飲兵衛とぬか娘。
 山全体が源次郎の墓。つまり古墳だったということか?

「いや……しかし、それこそ聞いたことがないぞ?」

 元一が眉をひそめるが、それについてはまた誠司が説明する。

「古墳とは本来、天皇や豪族など位の高いものを神格化し、眠らせるのが目的で作られるものです。それらはすべて名をつけられ、永きにわたり祀られますが、中には名もなき者を祀った古墳もあるのです。そういったものはすぐに忘れ去られ、ただの山として扱われます。なのであの裏山も登記上は名もなき自然山となっています」
「ううう……よ、よくわからないけど……つまりあの山は源次郎を埋めた隠れ古墳だったってこと?」

 歴史に興味がないぬか娘とモジョは、話を飲み込むのに苦労している。
 古墳とか飛鳥時代とか、聞いただけで眠たくなるのだ。
 誠司はできるだけ簡潔に説明しようと言葉を選ぶ。

「その通りです。が、作ったのは当時の村人ではなく、源次郎本人のようです」
「は? 死んだ本人が? どうやってです??」

 ヨウツベの質問。

「難陀《なんだ》を使ったんです。かの龍の神通力で村人を操り、少しずつ自らの躯に土を盛り山にしていきました。やがて躯が土へと帰り、山と同化したとき、それは神を祀る山〝神体山〟となったのです」
「なんと……では源次郎の躯はすでに山に溶け込んでいるということか。ならばどうやって……――――いや……そうか。お前、まさか……」

 そこで、あることに気付いた元一は、なにか腑に落ちた顔で誠司を見返した。
 誠司は少し後ろめたげにうつむくと、話を続ける。

「はい……。難陀《なんだ》の本体である源次郎の躯。それを浄化するには神体山である、あの裏山を破壊するしかない。しかしただの一般人である自分の力などで、小さいとはいえ山一つを削るなど到底できることじゃありません。そこで私はまず村長になろうと思ったのです」
「そうして村の財源を使って、偽島組の太陽光発電パネル工事事業を引き入れ、山を破壊しようとしたのじゃな……」

 元一の言葉に、観念するよう誠司はうなずいた。

「自分勝手な家の事情に村を巻き込むのは悪いことだと、わかっていました。……でも私はどうしても難陀《なんだ》を退治したかった……。長年、木戸家を……いえ、村全体を食い物にしてきたあの悪竜を消し去りたかったのです」

 深々と頭を下げる誠司。
 元一はもう責める気など失せていた。
 まわりのみなも同じ顔。
 やりかたは強引だったかもしれないが、本当のことを話せないでいた誠司にはこうするしか方法がなかったのだろう。

 しかし、いまは事情を共有する仲間同士。
 これまでのわだかまりを捨て、協力すべき時がきたのだ。
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