175 / 274
第174話 事件発生
しおりを挟む
「……とは言ってしまったものの……一体どうすればいいのだ……」
朝ごはんのお味噌汁(小松菜)に箸を沈めながら、アルテマは深い深いため息をついた。
「格好つけて大見得を切るからじゃろう」
考え込んで眠れなかったのだろう、赤い目をしたアルテマ。
それを眺めながら元一が納豆をまぜている。
あのあとアルテマは、攻撃してきた真相を聞き出すため直接難陀の元へと乗り込もうとした。
しかし危険だと元一に止められてしまう。
真相もなにも、目的はあきらかだった。
生贄の本命を食うに邪魔な存在を処分したのだ。
「不用意に近づかんかぎり何もしてこないと思っておったが……。こうなっては、こちらも警戒していかなければならん。話し合いたい気持ちはわかるが、むやみに行くのは危険すぎる」
元一の言うことはもっとも。
だが、異世界との門が閉ざされかけているいま、呑気《ノンキ》にようすを見ている場合でもない。なんとかして早急に、奴を倒すか、もしくは封印しなおす手段を見つけなければならない。
「何事も急いては事を仕損ずる。気持ちはわかるが、まずは落ち着いてようすを見よ。……いいなアルテマよ」
「…………うむ」
しぶしぶうなずく。
そのくらい自分にもわかっているのだ。
しかし異世界の戦況や、エツ子の気持ちを考えるとどうにも気がはやっていけない。これも幼児化してしまった副作用なのかと、アルテマは憮然としながらもごはんをかき込んだ。
「た、た、大変やっ!!」
事件が起こったのは、お昼がまわってからのことだった。
いつものように、鉄の結束荘でカップラーメンをご馳走になりつつ今後のことを相談していたアルテマ。そこに血相を変えた飲兵衛が走り込んできた。
「む? ど、どうしたのだいきなり」
「ちょっと飲兵衛さん、ご飯どきにそんな酒臭い体で入ってこないでよ~~~~」
迷惑そうに団扇《うちわ》をパタパタするぬか娘。
「酔っ払って走ると危ないですよ? いや、医者にこんなこと言うのも釈迦に説法かもしれませんが……」
水をコップに一杯。ヨウツベが心配した。
いったいなにをそんなに慌てているんだろう?
「わ、ワシかてなぁ……ゴクゴク……走りたくなかったわ……ゴクゴク……ほ、ほんでもなあ……ゴクゴク、一大事やってんから、しゃーないやろ、おかわり」
「それで、一大事とは?」
おかわりを注ぎながら聞いてみるヨウツベ。
アルテマやぬか娘も注目する。
飲兵衛は二杯目の水を飲み干すと、
「犠牲者や、とうとう生贄の犠牲者が出たかもしれんのや!!」
「「ぶーーーーーーーーーーっ!!!!」」
その言葉に、アルテマとぬか娘は同時に麺を吹き出した。
「な、な、な、な、な、なんだってっ!? ど、ど、どういうことだ飲兵衛!?」
鼻から一本、麺を垂らしながら、おもいっきり飲兵衛の肩を揺さぶるアルテマ。
難陀《なんだ》が生贄を引き寄せる能力があるのはしっていた。
どういう手段で呼ぶのかはしらないが、しかし集落への道が閉ざされている以上、あるていどは安全だと思っていたが……。
「さ……さささ、さっき町の診療所で聞いたんや、最近、ここら周辺の町村から若い女の行方不明者がたくさん出ているってな、あばばばば!!」
「行方不明者が……」
「たくさん……」
穏やかじゃない話に、ヨウツベとぬか娘の表情が固くなる。
「ここ二、三日の話らしいわで。しかもな、行方不明になった者の数人が、ここ蹄沢集落の方へ向かって行ったって話が出ててな」
「……この集落に?」
「そうや」
「向かったって……どんなふうに?」
ぬか娘が聞く。
「……なにか心あらずって感じでな……こう……取り憑かれたようにユラユラ揺れながら歩いとったらしいで? ……しかも夜中やで?」
「夜中に……取り憑かれたように」
「こっち方向に……」
四人は顔を見合わせる。
これだけの話だと、たんに酔っ払いとか、夜遊びの不良がフラフラしてただけ、と考えることもできるが難陀《なんだ》の存在を知っているアルテマたちから言わせれば、それはもう完全にヤツの仕業と思ってしまう。
というか多分そう。
「……昔の伝承や祭りを知っている年寄り連中は、すでに噂しとるわ……〝蹄沢《ひずめさわ》の龍が呼び込んだ〟てな」
「蹄沢の龍……それって完全に難陀《なんだ》のことだよねぇ~~。やばい~~バレてるってこと~~? え~~と……それってどうなんだろう……マズイのかな? マズイことなのかな??」
狼狽《うろた》えるぬか娘に、ヨウツベが考え込みながら、
「……マズイ……というか。……うん……マズイだろうね。一番良くないのはもちろん犠牲者が出たってことなんだけど……。くわえてそんな噂が広まってしまえば……」
言ってる矢先、リビング(職員室)に一つだけある黒電話がけたたましく鳴った。
嫌な顔をしてヨウツベが出ると、
『あ~~もしもし……こちら和歌山県警の者なんですけどもね。ここ最近起こっている行方不明者のことで……ええ、ええ、少しお話を聞きたいとね、思っておりましてね。よろしいでしょうかね?』
「……こうなるんだよ」
送話口を押さえながら、引きつった笑顔をみなに向けた。
朝ごはんのお味噌汁(小松菜)に箸を沈めながら、アルテマは深い深いため息をついた。
「格好つけて大見得を切るからじゃろう」
考え込んで眠れなかったのだろう、赤い目をしたアルテマ。
それを眺めながら元一が納豆をまぜている。
あのあとアルテマは、攻撃してきた真相を聞き出すため直接難陀の元へと乗り込もうとした。
しかし危険だと元一に止められてしまう。
真相もなにも、目的はあきらかだった。
生贄の本命を食うに邪魔な存在を処分したのだ。
「不用意に近づかんかぎり何もしてこないと思っておったが……。こうなっては、こちらも警戒していかなければならん。話し合いたい気持ちはわかるが、むやみに行くのは危険すぎる」
元一の言うことはもっとも。
だが、異世界との門が閉ざされかけているいま、呑気《ノンキ》にようすを見ている場合でもない。なんとかして早急に、奴を倒すか、もしくは封印しなおす手段を見つけなければならない。
「何事も急いては事を仕損ずる。気持ちはわかるが、まずは落ち着いてようすを見よ。……いいなアルテマよ」
「…………うむ」
しぶしぶうなずく。
そのくらい自分にもわかっているのだ。
しかし異世界の戦況や、エツ子の気持ちを考えるとどうにも気がはやっていけない。これも幼児化してしまった副作用なのかと、アルテマは憮然としながらもごはんをかき込んだ。
「た、た、大変やっ!!」
事件が起こったのは、お昼がまわってからのことだった。
いつものように、鉄の結束荘でカップラーメンをご馳走になりつつ今後のことを相談していたアルテマ。そこに血相を変えた飲兵衛が走り込んできた。
「む? ど、どうしたのだいきなり」
「ちょっと飲兵衛さん、ご飯どきにそんな酒臭い体で入ってこないでよ~~~~」
迷惑そうに団扇《うちわ》をパタパタするぬか娘。
「酔っ払って走ると危ないですよ? いや、医者にこんなこと言うのも釈迦に説法かもしれませんが……」
水をコップに一杯。ヨウツベが心配した。
いったいなにをそんなに慌てているんだろう?
「わ、ワシかてなぁ……ゴクゴク……走りたくなかったわ……ゴクゴク……ほ、ほんでもなあ……ゴクゴク、一大事やってんから、しゃーないやろ、おかわり」
「それで、一大事とは?」
おかわりを注ぎながら聞いてみるヨウツベ。
アルテマやぬか娘も注目する。
飲兵衛は二杯目の水を飲み干すと、
「犠牲者や、とうとう生贄の犠牲者が出たかもしれんのや!!」
「「ぶーーーーーーーーーーっ!!!!」」
その言葉に、アルテマとぬか娘は同時に麺を吹き出した。
「な、な、な、な、な、なんだってっ!? ど、ど、どういうことだ飲兵衛!?」
鼻から一本、麺を垂らしながら、おもいっきり飲兵衛の肩を揺さぶるアルテマ。
難陀《なんだ》が生贄を引き寄せる能力があるのはしっていた。
どういう手段で呼ぶのかはしらないが、しかし集落への道が閉ざされている以上、あるていどは安全だと思っていたが……。
「さ……さささ、さっき町の診療所で聞いたんや、最近、ここら周辺の町村から若い女の行方不明者がたくさん出ているってな、あばばばば!!」
「行方不明者が……」
「たくさん……」
穏やかじゃない話に、ヨウツベとぬか娘の表情が固くなる。
「ここ二、三日の話らしいわで。しかもな、行方不明になった者の数人が、ここ蹄沢集落の方へ向かって行ったって話が出ててな」
「……この集落に?」
「そうや」
「向かったって……どんなふうに?」
ぬか娘が聞く。
「……なにか心あらずって感じでな……こう……取り憑かれたようにユラユラ揺れながら歩いとったらしいで? ……しかも夜中やで?」
「夜中に……取り憑かれたように」
「こっち方向に……」
四人は顔を見合わせる。
これだけの話だと、たんに酔っ払いとか、夜遊びの不良がフラフラしてただけ、と考えることもできるが難陀《なんだ》の存在を知っているアルテマたちから言わせれば、それはもう完全にヤツの仕業と思ってしまう。
というか多分そう。
「……昔の伝承や祭りを知っている年寄り連中は、すでに噂しとるわ……〝蹄沢《ひずめさわ》の龍が呼び込んだ〟てな」
「蹄沢の龍……それって完全に難陀《なんだ》のことだよねぇ~~。やばい~~バレてるってこと~~? え~~と……それってどうなんだろう……マズイのかな? マズイことなのかな??」
狼狽《うろた》えるぬか娘に、ヨウツベが考え込みながら、
「……マズイ……というか。……うん……マズイだろうね。一番良くないのはもちろん犠牲者が出たってことなんだけど……。くわえてそんな噂が広まってしまえば……」
言ってる矢先、リビング(職員室)に一つだけある黒電話がけたたましく鳴った。
嫌な顔をしてヨウツベが出ると、
『あ~~もしもし……こちら和歌山県警の者なんですけどもね。ここ最近起こっている行方不明者のことで……ええ、ええ、少しお話を聞きたいとね、思っておりましてね。よろしいでしょうかね?』
「……こうなるんだよ」
送話口を押さえながら、引きつった笑顔をみなに向けた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。
七彩 陽
ファンタジー
異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。
しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?
この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。
『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。
実はヒロインも転生者!
クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?
クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?
そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!
異世界転生、痛快ラブコメディ。
どうぞよろしくお願いします!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる