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第172話 なんかくやしい。

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「ぐあっ!?」
「な、なんじゃっ!!??」
「きゃああぁぁああぁぁぁぁっぁああぁっ!!!!」
「結界っ!!」

 ――――バキィィィィイイィィィィンッ!!!!

 正体不明の破壊波。
 爆裂し、舞い上がる土砂の中。
 一瞬だけ、桃色の結界が全員を包み保護した。
 結界はすぐに砕けてしまったが、同時にエネルギーも霧散した。
 大きくえぐられた地面に残されたアルテマたちは、

「……な、なん……なん……」
「……なにが起こった!?」
「わからん、突然、光が降って……」
「……これは……難陀《なんだ》の咆哮だ」

 うろたえ、唖然と周囲を見回す。
 結界を張ってくれたのは占いさん。
 おかげでなんとかみな無事だっが、しかしいきなりの攻撃に状況がつかめないでいた。

「な、難陀《なんだ》じゃと!? なぜあいつが攻撃してきた!??」

 アルテマの言葉に元一が反応する。
 それに対する答えを返すよりも、先に問題が起こった。

「おばあちゃん、おばあちゃんっ!!」

 政志が倒れたエツ子を抱きかかえている。
 エツ子は頭から血を流し、力なく気を失っていた。
 占いさんがすぐに寄って具合を確認する。

「……まずいの、血が止まらんわい……」

 結界で守ったつもりだったが、攻撃の中心にいた彼女には衝撃が届いてしまったようだ。
 頭だけでなく、体のいたるところが滲んだ血で赤く染まってきていた。
 怪我の具合は深刻だった。

「おばあちゃん、おばあちゃん!! ……そんな、なんで!?」

 ぐったりとしてしまっている祖母の頬に、政志はボロボロと涙をこぼす。

「六段、救急に電話じゃ!!」
「お、おう!! ……くそ、携帯はどこに!?」

 叫ぶ元一に、あわてる六段。
 服をまさぐるが、どこを探しても携帯は見つからなかった。
 戦いの邪魔になるからと、家に置いてきたのだ。
 しまったと思ったが、しかしどのみち集落に続く車道は塞がれていて、救急車を呼んだとしてもここまでは来られない。

「くそ、そうじゃった!! な、なら飲兵衛じゃ、飲兵衛をよべ!!」
「ぼ……僕が呼びます!!」

 と、草むらから、土だらけになったヨウツベが携帯片手に這い出てきた。

「おわ!! な、なんじゃお前、いたのか!??」
「……いましたよ。僕だけ結界から外されて死ぬかと思いましたけど、隠れていたおかげでなんとか範囲からは外れました……ちょっと漏らしましたけど」
「お……おう……そ、そりゃ、ラッキーだったな」

 ヨウツベは回していたカメラを止め、いそぎ電話を繋いだ。
 しかし……いつまでたっても出てくれるようすはなかった。

「……ダメです。飲兵衛さん……たぶん飲んで寝てます」
「むうぉうっ!! 肝心な時に役に立たん!! いい、とにかくエツ子を橋まで運ぶんじゃ!! 救急車は呼んでおいてくれ」
「は、はい!!」

 連絡先を呑兵衛から119へと変更しようとするヨウツベだが。

「どけ」

 そこにクロードが割って入ってきた。
 なにをするつもりだと、みなが怪訝に見るが、視線を無視してクロードは大真面目な顔でエツ子の額に手をかざす。  
 そして静かに呪文を唱え始めた。

「……神の加護よ。我が力を彼に授け、奇跡の炎を灯さん――――〝ヒール〟」

 唱えたのは回復呪文。
 自身の体力を聖なる炎に変換し、送ることで、相手の回復力を爆発的に上昇させる聖魔法最大の秘術である。
 クロードから命の加勢を受け取ったエツ子は、体の全体を神秘的な青に光らす。
 その中で、傷がみるみるうちに塞がっていった。

「「おお~~~~~~~~~~……」」

 その神秘的な光景を見たアルテマ以外の全員が、驚きと感嘆の声をあげた。

「こ、こ、こ、これは、魔法の世界でもっとも有名で、もっとも有効とされてる回復魔法〝ヒール〟 す、す、すご~~い。生で見たの初めて~~~~」

 ぬか娘が目の中に星を浮かべて興奮する。
 ヨウツベも電話を放り投げてすかさずカメラを回した。
 すっかり傷が塞がり、血も消えたエツ子。
 その顔色を確認し、クロードは満足そうにうなずいた。

「……よし、問題ない。これだけ回復すれば、じき目も覚ますだろう」

 慣れたようすで、エツ子の服の乱れを直してやるクロード。
 その横顔を熱い眼差しで政志は見つめていた。




「……すまんな、一応礼を言っておく」

 立ち上がるクロードに、アルテマは少し言いづらそうに礼をいう。

「聖騎士として当然の行動をしたまでだ。魔族に礼を言われるまでもない」

 しかし、何事でもない、という風に返事を返すクロード。
 聖騎士にとってこの程度の人助けなど、息をするように当然の行いだったからだ。
 性格には難のあるクロードだったが、己の信じる正義と使命感の強さはアルテマも認めていた。 
 神と悪魔。
 信仰の違いが両国をいがみ合わせているが、もとは同じ土地に生きる者。
 わかり合えないはずもない――――のか。 

「……あれ~~……なんだがクロードくんが有能に見える」

 ぬか娘が、信じられないモノでも見るように目をこすると、他のみなもぎこちなくうなずいた。
 クロードは空気中にある何かを探るように手を泳がせると、少し眉を沈めた。
 そしてアルテマに背を向けると、

「……やられてしまったものは仕方がない。目をつむっててやるから早くすませろ」
「ふん、偉そうに言うな。お前がなにを邪魔しようが私は平気だぞ?」

 魔素吸収《ソウル・イート》の光を宿らせ、負け惜しみまじりに口を尖らせるアルテマ。
 手をかざすと、辺りからポワポワと魔素の塊が生まれ出て、腕に吸収されていく。

「アルテマちゃん……これは?」
「怨霊季里姫の〝魂〟だ。魔素に変換して吸収させてもらっている」
「え?」
「なっ!?」
「なんじゃと!?」

 驚くみなに、アルテマは苦々しい顔で起こったことを短く伝えた。

「怨霊季里姫は難陀《なんだ》によって、消滅させられた」
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