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第164話 拒絶の悪魔・季里姫⑥
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『青いのお、異国の戦士』
「しまっ――――!!」
思わず注意を逸してしまったアルテマ。
その隙を逃さず聖剣が振り下ろされる。
――――ゴッ!!
「――――くっ!?」
躱せないタイミング。
アルテマは痛恨の一撃を覚悟する、
――――が、そこに、
「アルテマちゃんっ!!」
茂みに隠れていたぬか娘が飛び出してきた!!
『まだ邪魔者がいたか? ――――だが物の数ではないわ!!』
アルテマとの間に飛び込んできた、ハレンチ極まりない格好をした謎の娘。
怨霊はかまうことなく剣を振り下ろす。
何者かは知らぬが、まとめて叩き切ってやればいいだけのこと。
――――ドゴッ!!
うなる剛剣。
ぬか娘は半ば無意識。必死に体を捻り、その剣を盾で迎え撃った!!
『そんな細腕で受け止めきれるものか!!』
愚か者め!! と、怨霊は盾ごと粉砕してやるつもり。
アルテマも、ぬか娘の行動は無茶だと思ったが、体勢的にフォローができない。
――――ギギャンッ!!
聖剣と盾が衝突した!!
「きゃあっ!!」
盾が割られるとこはなかった。
しかし、腕が衝撃に耐えられず弾かれてしまう。
全身ごと半回転してしまい横腹がガラ空きに、
『盾は頑強なようだったが、宝の持ち腐れであったな!!』
そこに返す刀の一撃!!
――――バシュッウ!!!!
肉が斬れる音。
血しぶきが宙に舞う。
「ぬか娘!!」
やられた!! とアルテマは悲痛に叫ぶ。
が。
『ぐぅううぅぅぅぅうううぅぅ……?』
苦痛の呻きをあげたのは、ぬか娘ではなく怨霊の方だった。
「――――!?」
なにが起こったのか?
一瞬理解できなかったアルテマだが、怨霊の体を縦に走る切り口を見て、状況を理解した。
切り口には聖魔法『ロンギヌス』の残滓がくすぶっていた。
「――――『逆神《ぎゃくしん》の鏡』……か!?」
ぬか娘が装備しているビキニアーマーは趣味で着ているものではない。
これもれっきとした魔法具。
しかも聖属性の魔法ならば、たとえ神の威光であろうとも弾き返してしまうというチート級の一品であった。
『……ばかな、弾かれたのは我の……方だと!?』
まさかのカウンター。
剣撃であろうとも、聖属性が付与されていれば魔法と同じ。
斬撃もろとも跳ね返した。
それに気付かずスローモーションで「ごめ……んね……アルテマ……ちゃん……。一度でいいから、一緒に……お風呂に……入りた……かった……」などと玉の涙を散らして地面に倒れ込もうとしているぬか娘。
アルテマはそんな痴女の体を空中で押しのけ、怨霊へと飛びかかった!!
『――――ぬぅっ!?』
怯む怨霊。
その隙をついて懐に入り、開いたばかりの切り口に、
――――ざすっ!!
魔呪浸刀《レリクス》の魔剣を突き刺した!!
元は短い竹刀。それでも半分は埋まった。
充分だ。
アルテマは全ての魔素を魔力に変換し、得意呪文を詠唱する。
『地獄の業火よ、我の業をその贄とし、零鱗をこの地に具現せよ――――黒炎竜刃《アモン》!!!!』
――――どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!
魔剣を通じ、アモンの黒炎が怨霊の体内で爆発する。
さっきとほぼ同じ攻撃だが、ダメージを入れられたのはこのパターンしかない。
ならば芸がなくとも繰り返すまで!!
「アモン!! アモン!! アモン!! アモンッ!!!!」
どごぉっ!! ずごぉっ!! どがぁんっ!! ががぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!
怨霊の内、いたる箇所から黒炎が吹き出し、空を焦がした。
真っ黒な煙とともに舞い散るのは、怨霊の着物の切れ端。
それはやがて空に溶けるように、魔素へと変わっていく。
「はぁはぁはぁはぁ……」
アモンの連撃で魔力が突きたアルテマ。
燃える黒炎を見ながら両膝をつく。
「こ……これだけ食らわせれば……さしもの上級悪魔とて……」
消滅はなくとも、瀕死にはなっているだろう。
息を整えつつ、魔素吸収《ソウル・イート》の詠唱も始める。
しかしすぐにその呪文を飲み込んだ。
「……しぶとい……やつめ……」
黒炎の中から、薄っすらと、紫の光が輝き出した。
それは、例の破壊の光玉。
黒炎の切れ目から、燃え落ちた着物をさらにはだけさせ、鬼の形相で光玉を持ち上げている怨霊が見えた。
まさか……これだけ食らわせても……効いていないというのか……?
焦りと絶望の縦割れがアルテマの眉間に走る。
ぬか娘は何が起こったとキョロキョロ辺りを見回し、やがて怨霊と目が合うと、慌ててアルテマの背中に隠れた。
『一度ならず二度までも……貴様ら……もはや楽には殺さん……』
「ひえぇぇぇぇぇぇ……」
その鬼気迫る形相に怯えるぬか娘。
アルテマも、怨霊の計算違いなしぶとさに動けないでいた。
「何やっとる!! いまが好機じゃ、手を緩めるな!!」
そこに投げられる元一の怒鳴り声。
瀕死の獲物ほど恐ろしく見えるもの。
猟師の経験と勘でそれを読み取った元一は、間を与えてなるものかと、怯むことなく魔法の矢を弓につがえた。
『…………ふん、老兵が……賢《さか》しいわ』
虚勢を見抜かれた怨霊。
それでも魔力を振り絞り、もう一つの術を繰りだす。
しゅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
胸元に流れる血が空気に溶け、霧になり、辺りに漂い始めた。
「ぬ!? また呪いか!?」
しかし辺りに漂った血の赤は、始めのそれとは濃さが違った。
与えられたダメージで、血という呪物が大量に流れたためだ。
「ぐ……く……!?」
「う……うあぁぁぁ……」
「な、なんだ? わ、私まで……」
元一、ぬか娘に続き、アルテマまでも苦しみだした。
一度目とは比べ物にならない強力な呪いに、その場の全員が崩れ、苦しみ始めた。
「しまっ――――!!」
思わず注意を逸してしまったアルテマ。
その隙を逃さず聖剣が振り下ろされる。
――――ゴッ!!
「――――くっ!?」
躱せないタイミング。
アルテマは痛恨の一撃を覚悟する、
――――が、そこに、
「アルテマちゃんっ!!」
茂みに隠れていたぬか娘が飛び出してきた!!
『まだ邪魔者がいたか? ――――だが物の数ではないわ!!』
アルテマとの間に飛び込んできた、ハレンチ極まりない格好をした謎の娘。
怨霊はかまうことなく剣を振り下ろす。
何者かは知らぬが、まとめて叩き切ってやればいいだけのこと。
――――ドゴッ!!
うなる剛剣。
ぬか娘は半ば無意識。必死に体を捻り、その剣を盾で迎え撃った!!
『そんな細腕で受け止めきれるものか!!』
愚か者め!! と、怨霊は盾ごと粉砕してやるつもり。
アルテマも、ぬか娘の行動は無茶だと思ったが、体勢的にフォローができない。
――――ギギャンッ!!
聖剣と盾が衝突した!!
「きゃあっ!!」
盾が割られるとこはなかった。
しかし、腕が衝撃に耐えられず弾かれてしまう。
全身ごと半回転してしまい横腹がガラ空きに、
『盾は頑強なようだったが、宝の持ち腐れであったな!!』
そこに返す刀の一撃!!
――――バシュッウ!!!!
肉が斬れる音。
血しぶきが宙に舞う。
「ぬか娘!!」
やられた!! とアルテマは悲痛に叫ぶ。
が。
『ぐぅううぅぅぅぅうううぅぅ……?』
苦痛の呻きをあげたのは、ぬか娘ではなく怨霊の方だった。
「――――!?」
なにが起こったのか?
一瞬理解できなかったアルテマだが、怨霊の体を縦に走る切り口を見て、状況を理解した。
切り口には聖魔法『ロンギヌス』の残滓がくすぶっていた。
「――――『逆神《ぎゃくしん》の鏡』……か!?」
ぬか娘が装備しているビキニアーマーは趣味で着ているものではない。
これもれっきとした魔法具。
しかも聖属性の魔法ならば、たとえ神の威光であろうとも弾き返してしまうというチート級の一品であった。
『……ばかな、弾かれたのは我の……方だと!?』
まさかのカウンター。
剣撃であろうとも、聖属性が付与されていれば魔法と同じ。
斬撃もろとも跳ね返した。
それに気付かずスローモーションで「ごめ……んね……アルテマ……ちゃん……。一度でいいから、一緒に……お風呂に……入りた……かった……」などと玉の涙を散らして地面に倒れ込もうとしているぬか娘。
アルテマはそんな痴女の体を空中で押しのけ、怨霊へと飛びかかった!!
『――――ぬぅっ!?』
怯む怨霊。
その隙をついて懐に入り、開いたばかりの切り口に、
――――ざすっ!!
魔呪浸刀《レリクス》の魔剣を突き刺した!!
元は短い竹刀。それでも半分は埋まった。
充分だ。
アルテマは全ての魔素を魔力に変換し、得意呪文を詠唱する。
『地獄の業火よ、我の業をその贄とし、零鱗をこの地に具現せよ――――黒炎竜刃《アモン》!!!!』
――――どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!
魔剣を通じ、アモンの黒炎が怨霊の体内で爆発する。
さっきとほぼ同じ攻撃だが、ダメージを入れられたのはこのパターンしかない。
ならば芸がなくとも繰り返すまで!!
「アモン!! アモン!! アモン!! アモンッ!!!!」
どごぉっ!! ずごぉっ!! どがぁんっ!! ががぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!
怨霊の内、いたる箇所から黒炎が吹き出し、空を焦がした。
真っ黒な煙とともに舞い散るのは、怨霊の着物の切れ端。
それはやがて空に溶けるように、魔素へと変わっていく。
「はぁはぁはぁはぁ……」
アモンの連撃で魔力が突きたアルテマ。
燃える黒炎を見ながら両膝をつく。
「こ……これだけ食らわせれば……さしもの上級悪魔とて……」
消滅はなくとも、瀕死にはなっているだろう。
息を整えつつ、魔素吸収《ソウル・イート》の詠唱も始める。
しかしすぐにその呪文を飲み込んだ。
「……しぶとい……やつめ……」
黒炎の中から、薄っすらと、紫の光が輝き出した。
それは、例の破壊の光玉。
黒炎の切れ目から、燃え落ちた着物をさらにはだけさせ、鬼の形相で光玉を持ち上げている怨霊が見えた。
まさか……これだけ食らわせても……効いていないというのか……?
焦りと絶望の縦割れがアルテマの眉間に走る。
ぬか娘は何が起こったとキョロキョロ辺りを見回し、やがて怨霊と目が合うと、慌ててアルテマの背中に隠れた。
『一度ならず二度までも……貴様ら……もはや楽には殺さん……』
「ひえぇぇぇぇぇぇ……」
その鬼気迫る形相に怯えるぬか娘。
アルテマも、怨霊の計算違いなしぶとさに動けないでいた。
「何やっとる!! いまが好機じゃ、手を緩めるな!!」
そこに投げられる元一の怒鳴り声。
瀕死の獲物ほど恐ろしく見えるもの。
猟師の経験と勘でそれを読み取った元一は、間を与えてなるものかと、怯むことなく魔法の矢を弓につがえた。
『…………ふん、老兵が……賢《さか》しいわ』
虚勢を見抜かれた怨霊。
それでも魔力を振り絞り、もう一つの術を繰りだす。
しゅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
胸元に流れる血が空気に溶け、霧になり、辺りに漂い始めた。
「ぬ!? また呪いか!?」
しかし辺りに漂った血の赤は、始めのそれとは濃さが違った。
与えられたダメージで、血という呪物が大量に流れたためだ。
「ぐ……く……!?」
「う……うあぁぁぁ……」
「な、なんだ? わ、私まで……」
元一、ぬか娘に続き、アルテマまでも苦しみだした。
一度目とは比べ物にならない強力な呪いに、その場の全員が崩れ、苦しみ始めた。
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