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第159話 拒絶の悪魔・季里姫①
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「ノーマクサマンダ バザラダンカン ・オンベイ シラマンダヤ ソワカ・ノーボータリツ ハラボリツ シャキンメイ シャキンメイタラサンダン カエンビイ ソワカ 」
祓い棒を力強くふりふり、占いさんがお祓いを開始する。
その後ろで退魔の暗黒魔法『呪縛《スパウス》』を密かに唱えるアルテマ。
「……のお六段や」
「なんだ、ゲンさん?」
「占いさんの法力って本物なんじゃろう? なら悪魔祓いも自分でできるんじゃないのか?」
「ああ……それはワシも気になって聞いたが、どうやら退治はできるのだが取り憑いたモノを引っ張り出すのは苦手なんじゃと。よくはわからんが、人の魂と悪魔を引き離すのは相当器用に術を操らんとできない芸当らしい」
「……ほお、するとそれができるアルテマはやはり大したモノということじゃな?」
「ああ、だが攻撃魔法の威力は占いさんに軍配が上がるらしい」
二人は、かつて占いさんが放った雷魔法(?)の一撃を思い出す。
たしかにあれはアルテマもびっくりしていた。
それに校舎を覆った結界魔法も強力なものだと評価していたし、どうやら魔法の世界にも、それぞれ得手不得手があるようだ。
技巧派のアルテマとメガトンパンチの占いさん、といったところだろうか。
歳を考えると逆な気がするが……。
そうこう会話しているうちにアルテマの魔法が完成する。
「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――呪縛《スパウス》!!」
結びの力言葉を唱え終えると、紫色をした不思議な光がエツ子婆さんを取り囲む。
バチ、バチバチッ!!
そして小さな火花を散らすと、
――――ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
地響きが、家全体を揺るがした。
「ひ、ひあぁああぁぁぁぁあぁあぁっ!?? な、な、なんだなんだ!??」
目隠しで状況が全くわからない誠司は情けない声を出しながら腰を抜かす。
政志も怯えているが、それよりもエツ子が心配らしく手探りでエツ子の背中に抱きついていた。
「大丈夫、おばあちゃん!?」
しかしエツ子からの返事はない。
術のせいで体が固く硬直して人形のようになっていた。
感じる刺激と異様な気配。
「おばあちゃん!?」
慌てて目隠しを取ろうとする政志だが、
「大丈夫じゃ。心配することはない」
そんな政志の肩を押さえ、落ち着かせる元一。
「で、でも……!!」
納得できない政志だが、強く押さえられて身動きができない。
やがてエツ子の背中から、一体の悪魔が姿を現した。
――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「……出おったな、悪霊よ」
六段が拳を鳴らし戦闘態勢に入る。
手には霊鳥の爪を模した手甲が装備されていた。
開門揖盗《デモン・ザ・ホール》で交換した異世界の魔法具『ホーリークロウ』であった。
霧が集められるように、徐々にその姿をはっきりさせていく悪魔は、綺麗な女性の姿を形作っていく。
長い黒髪に白い無地の着物。
手には日本刀の一種である脇差しをだらりとぶら下げ、はだけた胸からは血をにじませていた。
その容姿からなんとなく、アニオタ騒動の淫魔どもを思い出してしまい、嫌な顔をする六段。
しかしあのときのふしだらな悪魔どもとは決定的に違う、狂気にも似た強者の雰囲気がその悪魔からは出ていた。
アルテマはすぐに婬眼《フェアリーズ》を唱えた。
魔界の妖精が瞬時に悪魔を解析してくれる。
『怨霊季里姫《おんりょうきりひめ》。上級悪魔。怨念の塊。近づいたらダメ。呪われるゾ☆』
「上級……悪魔、だと!? い、いや……それよりも」
悪魔の視線がアルテマを見据える。
瞬間、感じる圧倒的な魔素の力。
元一も、六段も、占いさんすらもその威圧感に気圧されて動けない。
霊的な抵抗力のない誠司は意味もわからず震え上がり、やがて気を失う。
政志も気絶しかけるがエツ子が心配でギリギリのところで意識を保っていた。
悪魔はそんな政志に気が付くと一瞬悲しそうに揺らいだが、すぐにアルテマへと向き直り言葉を発した。
『お前が……我を引いたのか? 我は怨霊季里姫。我を目覚めさせた罪……重々に覚悟してのことだろうな……?』
その言葉一つ一つに耐え難い殺気が込められている。
悪魔は他者に居場所を追われるのを極端に嫌う。
どんな理由があろうとも、強制的に姿を引き出すということは、その時点で宣戦布告になるのだ。
だが、アルテマは剣を構えるよりも先に言葉を出した。
「ま、まて!! お前の名は季里というのか!? ……まさか……難陀《なんだ》の……源次郎の恋人の――――季里なのか!??」
「「なにっ!??」」
アルテマの叫びに、元一、六段、占いさんが目を向いて怨霊を見上げた。
だが怨霊は答えず、
『滅するがいい、愚か者どもよ……』
無造作に脇差しを振り上げる。
と、胸元に流れる血が霧になり部屋を赤く染め始めた。
「ぐ……こ、これは!?」
「むぐ!?」
「ぐあっ!!」
「む……の、呪いじゃ……こ、これは強いぞ!??」
部屋に充満した赤い霧はアルテマたちを包み込み、とたんに激痛を引き起こす。
同時に体が動かなくなり、皮膚が沸騰したように荒れ、アザが浮き上がった。
精神がかき乱され、痛みと錯乱が意識を飲み込む。
並の人間ならこの時点でのたうち回り、抵抗の余地なく狂い死ぬ。
だが暗黒騎士のアルテマにはこの類の術は効果が薄い。
魔神の加護が闇を吸収するからである。
アルテマは呪いに心乱されることなく呪文を唱えた。
「まずは……やり合うしかないのか――――魔呪浸刀《レリクス》!!」
祓い棒を力強くふりふり、占いさんがお祓いを開始する。
その後ろで退魔の暗黒魔法『呪縛《スパウス》』を密かに唱えるアルテマ。
「……のお六段や」
「なんだ、ゲンさん?」
「占いさんの法力って本物なんじゃろう? なら悪魔祓いも自分でできるんじゃないのか?」
「ああ……それはワシも気になって聞いたが、どうやら退治はできるのだが取り憑いたモノを引っ張り出すのは苦手なんじゃと。よくはわからんが、人の魂と悪魔を引き離すのは相当器用に術を操らんとできない芸当らしい」
「……ほお、するとそれができるアルテマはやはり大したモノということじゃな?」
「ああ、だが攻撃魔法の威力は占いさんに軍配が上がるらしい」
二人は、かつて占いさんが放った雷魔法(?)の一撃を思い出す。
たしかにあれはアルテマもびっくりしていた。
それに校舎を覆った結界魔法も強力なものだと評価していたし、どうやら魔法の世界にも、それぞれ得手不得手があるようだ。
技巧派のアルテマとメガトンパンチの占いさん、といったところだろうか。
歳を考えると逆な気がするが……。
そうこう会話しているうちにアルテマの魔法が完成する。
「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――呪縛《スパウス》!!」
結びの力言葉を唱え終えると、紫色をした不思議な光がエツ子婆さんを取り囲む。
バチ、バチバチッ!!
そして小さな火花を散らすと、
――――ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
地響きが、家全体を揺るがした。
「ひ、ひあぁああぁぁぁぁあぁあぁっ!?? な、な、なんだなんだ!??」
目隠しで状況が全くわからない誠司は情けない声を出しながら腰を抜かす。
政志も怯えているが、それよりもエツ子が心配らしく手探りでエツ子の背中に抱きついていた。
「大丈夫、おばあちゃん!?」
しかしエツ子からの返事はない。
術のせいで体が固く硬直して人形のようになっていた。
感じる刺激と異様な気配。
「おばあちゃん!?」
慌てて目隠しを取ろうとする政志だが、
「大丈夫じゃ。心配することはない」
そんな政志の肩を押さえ、落ち着かせる元一。
「で、でも……!!」
納得できない政志だが、強く押さえられて身動きができない。
やがてエツ子の背中から、一体の悪魔が姿を現した。
――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「……出おったな、悪霊よ」
六段が拳を鳴らし戦闘態勢に入る。
手には霊鳥の爪を模した手甲が装備されていた。
開門揖盗《デモン・ザ・ホール》で交換した異世界の魔法具『ホーリークロウ』であった。
霧が集められるように、徐々にその姿をはっきりさせていく悪魔は、綺麗な女性の姿を形作っていく。
長い黒髪に白い無地の着物。
手には日本刀の一種である脇差しをだらりとぶら下げ、はだけた胸からは血をにじませていた。
その容姿からなんとなく、アニオタ騒動の淫魔どもを思い出してしまい、嫌な顔をする六段。
しかしあのときのふしだらな悪魔どもとは決定的に違う、狂気にも似た強者の雰囲気がその悪魔からは出ていた。
アルテマはすぐに婬眼《フェアリーズ》を唱えた。
魔界の妖精が瞬時に悪魔を解析してくれる。
『怨霊季里姫《おんりょうきりひめ》。上級悪魔。怨念の塊。近づいたらダメ。呪われるゾ☆』
「上級……悪魔、だと!? い、いや……それよりも」
悪魔の視線がアルテマを見据える。
瞬間、感じる圧倒的な魔素の力。
元一も、六段も、占いさんすらもその威圧感に気圧されて動けない。
霊的な抵抗力のない誠司は意味もわからず震え上がり、やがて気を失う。
政志も気絶しかけるがエツ子が心配でギリギリのところで意識を保っていた。
悪魔はそんな政志に気が付くと一瞬悲しそうに揺らいだが、すぐにアルテマへと向き直り言葉を発した。
『お前が……我を引いたのか? 我は怨霊季里姫。我を目覚めさせた罪……重々に覚悟してのことだろうな……?』
その言葉一つ一つに耐え難い殺気が込められている。
悪魔は他者に居場所を追われるのを極端に嫌う。
どんな理由があろうとも、強制的に姿を引き出すということは、その時点で宣戦布告になるのだ。
だが、アルテマは剣を構えるよりも先に言葉を出した。
「ま、まて!! お前の名は季里というのか!? ……まさか……難陀《なんだ》の……源次郎の恋人の――――季里なのか!??」
「「なにっ!??」」
アルテマの叫びに、元一、六段、占いさんが目を向いて怨霊を見上げた。
だが怨霊は答えず、
『滅するがいい、愚か者どもよ……』
無造作に脇差しを振り上げる。
と、胸元に流れる血が霧になり部屋を赤く染め始めた。
「ぐ……こ、これは!?」
「むぐ!?」
「ぐあっ!!」
「む……の、呪いじゃ……こ、これは強いぞ!??」
部屋に充満した赤い霧はアルテマたちを包み込み、とたんに激痛を引き起こす。
同時に体が動かなくなり、皮膚が沸騰したように荒れ、アザが浮き上がった。
精神がかき乱され、痛みと錯乱が意識を飲み込む。
並の人間ならこの時点でのたうち回り、抵抗の余地なく狂い死ぬ。
だが暗黒騎士のアルテマにはこの類の術は効果が薄い。
魔神の加護が闇を吸収するからである。
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