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第145話 皇帝の決断
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「やばいじゃんっ!?」
翌日。
話を聞いたぬか娘はご飯粒をまき散らしながら立ち上がった。
ここは鉄の結束荘のリビング(職員室)。
朝ごはんの真っ最中である。
ちなみに献立は、六段からもらった伊賀の白米と小松菜の味噌汁、ぬか娘特製ナスの古漬け。朝一で異世界の状況を説明しにきたアルテマも、ちゃっかりご相伴にあずかっている。
ぬか娘以外の三人もみんなアルテマの話に言葉をなくし、箸を止めていた。
「え~~……と、祠の龍に帝国のピンチ……そして開門揖盗《デモン・ザ・ホール》までもが使えなくなるかもしれないと……。こりゃまた……ずいぶんと問題が渋滞してませんか……?」
つつつと汗を一筋、ヨウツベが苦笑う。
「ア、ア、ア、アルテマちゃん、まさかまた帰るなんて言わないよね!? 私、嫌だよそんなの!!」
涙ぐむぬか娘。
モジョは黙ったまま眠そうに箸をチュパチュパしている。
「ま、ま、ま、待つでござる待つでござる!! それならぼ、ぼ、僕とルナちゅわんの遠距離らゔぁ~~はどうなるのでござるか!? 開門揖盗《デモン・ザ・ホール》が閉じてしまったら僕らの愛はどこに行ってしまうのでござるか~~~~!?」
泣きわめくアニオタは無視してアルテマはみなに言った。
「……もちろん帰るつもりはない。私一人が戻ったところでどうにかできる問題ではないし、そもそもその方法すらまだわかっていないしな……」
「じゃあどうするの!?」
「……そこで相談なんだが」
アルテマは、昨日ジルから提案されたことをみなに話した。
「ぐ……軍事……ですか!?」
相談されたのは、この世界の軍事技術の提供についてだった。
いきなり物騒な話になり、ヨウツベの汗は二筋へと増えた。
「タブレットでこの世界の軍事事情は調べさせてもらった。どれも興味を引く素晴らしい技術ばかりだが……」
「ま、待ってくださいアルテマさん!!」
焦ったヨウツベがアルテマの話を止める。
「い……言いたいことはわかりますが……。でも、軍事兵器なんて僕たち……手に入れるなんてとても無理ですよ!? 仮に出来たとしても後々、国家間の大問題になりかねません。マズいですって、そうだろうアニオタ!?」
「……用意するものはRPG7、AK47……あと120ミリ迫撃砲……。いますぐ海外へ飛ぶでござる!! 中東的なところに僕の知り合いがいるでござる、そこの裏ルートを使わせてもらうでござる。とりあえずドルを準備して……」
完全に目を座らせたアニオタは、すでにリュックを背負って飛び立つ気満々である。
「ダメダメちょっと、だから大問題になるって!!」
「ええい!! 離すでござる離すでござる!! 僕とルナとぅわんの恋路を邪魔するものは全て吹き飛ばしてやるでござる、トラトラトラでござる!!」
何処《いずこ》かへ出ていこうとするアニオタにしがみつくヨウツベ。
二人は取っ組み合いドッタンバッタンと見苦しく絡み合う。
そこにアルテマが、
「いや……提供してほしいのは武器ではない。勇む気持ちは嬉しいがここはどうか落ち着いてくれ」
と言って二人をなだめた。
「武器じゃないの? じゃあ何が欲しいの??」
「欲しいのはそれだ」
首をかしげるぬか娘。
その手元に置かれていた携帯をアルテマは指差した。
「これ? ……こんな物で敵が倒せるの?」
「ああ、もちろんだ。戦争において速やかな情報伝達はどんな兵器よりも強力……というのは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の有用性を説明するときに語ったと思うが、あいにくとこの魔法は私以外、数えるほどしか使い手がいない。しかしこの道具を使えば魔法力を持たぬ者でも意思疎通がたやすい。これを……せめて中隊長クラスの者全員に持たせることができれば、相手がどんな大軍であろうとどうとでもなる」
「……なるほど。異世界にはまだ電話のようなものはないのでしたね。それならば……たしかにどんな武器よりも強力かもしれません。でも……これは電話局がないと使えませんよ」
アルテマの説明に納得したようすでうなずくヨウツベ。
しかし携帯だけ送っても意味がないと逆に説明を返す。
「……むう、そうか……いいアイデアだと思ったんだがな」
「だったらトランシーバーでいいんじゃない?」
「……いやトランシーバーでは距離が短いでござる。ここはやはり無線機がオススメでござる。……でも武器もいるでござろう? そこは遠慮せずにまかせてほしいでござるよ。大丈夫、バレないようにやるでござるから」
ぐふふふふふふふふ……と不気味な笑いを上げるアニオタ。
だがアルテマは首を振って、
「いや、ありがたい申し出だが。兵器については異世界もなかなかなものでな。こっちの世界の武器も優秀だが送ってもらうほどではない」
「え? そ、そ、そうなのでござるか?? いやでもマシンガンやロケットランチャーでござるよ??」
「……最強兵器の一つとしてイージス艦とやらがこの世界にあるらしいが。……たとえばクロードのラグエルならばその船体に大穴を空けることなど容易いだろう。他に魔法の火を吹く飛龍に乗った竜騎士や不死身のゴーレム、尽きない矢を放つ攻城弓など……まぁこっちの世界の戦闘ヘリや戦車と同等の兵器はそろっている。心配は無用と言っておこう」
少し誇らしげに話すアルテマに、アニオタは、
「そ、そうでござるか……」
と、大人しく席に座った。
「しかし、いいんですか? 通信機器は兵器ではありませんが戦力です。それをしてしまったら帝国が受けている誤解が真実になってしまいますよ」
神妙な顔で忠告してくるヨウツベ。
アルテマは少し顔を曇らせるが、すぐに騎士の目になって言った。
「それでも、民の命を最優先に守るとカイギネス皇帝はご判断なされた。ならばそれに従うまでだ」
翌日。
話を聞いたぬか娘はご飯粒をまき散らしながら立ち上がった。
ここは鉄の結束荘のリビング(職員室)。
朝ごはんの真っ最中である。
ちなみに献立は、六段からもらった伊賀の白米と小松菜の味噌汁、ぬか娘特製ナスの古漬け。朝一で異世界の状況を説明しにきたアルテマも、ちゃっかりご相伴にあずかっている。
ぬか娘以外の三人もみんなアルテマの話に言葉をなくし、箸を止めていた。
「え~~……と、祠の龍に帝国のピンチ……そして開門揖盗《デモン・ザ・ホール》までもが使えなくなるかもしれないと……。こりゃまた……ずいぶんと問題が渋滞してませんか……?」
つつつと汗を一筋、ヨウツベが苦笑う。
「ア、ア、ア、アルテマちゃん、まさかまた帰るなんて言わないよね!? 私、嫌だよそんなの!!」
涙ぐむぬか娘。
モジョは黙ったまま眠そうに箸をチュパチュパしている。
「ま、ま、ま、待つでござる待つでござる!! それならぼ、ぼ、僕とルナちゅわんの遠距離らゔぁ~~はどうなるのでござるか!? 開門揖盗《デモン・ザ・ホール》が閉じてしまったら僕らの愛はどこに行ってしまうのでござるか~~~~!?」
泣きわめくアニオタは無視してアルテマはみなに言った。
「……もちろん帰るつもりはない。私一人が戻ったところでどうにかできる問題ではないし、そもそもその方法すらまだわかっていないしな……」
「じゃあどうするの!?」
「……そこで相談なんだが」
アルテマは、昨日ジルから提案されたことをみなに話した。
「ぐ……軍事……ですか!?」
相談されたのは、この世界の軍事技術の提供についてだった。
いきなり物騒な話になり、ヨウツベの汗は二筋へと増えた。
「タブレットでこの世界の軍事事情は調べさせてもらった。どれも興味を引く素晴らしい技術ばかりだが……」
「ま、待ってくださいアルテマさん!!」
焦ったヨウツベがアルテマの話を止める。
「い……言いたいことはわかりますが……。でも、軍事兵器なんて僕たち……手に入れるなんてとても無理ですよ!? 仮に出来たとしても後々、国家間の大問題になりかねません。マズいですって、そうだろうアニオタ!?」
「……用意するものはRPG7、AK47……あと120ミリ迫撃砲……。いますぐ海外へ飛ぶでござる!! 中東的なところに僕の知り合いがいるでござる、そこの裏ルートを使わせてもらうでござる。とりあえずドルを準備して……」
完全に目を座らせたアニオタは、すでにリュックを背負って飛び立つ気満々である。
「ダメダメちょっと、だから大問題になるって!!」
「ええい!! 離すでござる離すでござる!! 僕とルナとぅわんの恋路を邪魔するものは全て吹き飛ばしてやるでござる、トラトラトラでござる!!」
何処《いずこ》かへ出ていこうとするアニオタにしがみつくヨウツベ。
二人は取っ組み合いドッタンバッタンと見苦しく絡み合う。
そこにアルテマが、
「いや……提供してほしいのは武器ではない。勇む気持ちは嬉しいがここはどうか落ち着いてくれ」
と言って二人をなだめた。
「武器じゃないの? じゃあ何が欲しいの??」
「欲しいのはそれだ」
首をかしげるぬか娘。
その手元に置かれていた携帯をアルテマは指差した。
「これ? ……こんな物で敵が倒せるの?」
「ああ、もちろんだ。戦争において速やかな情報伝達はどんな兵器よりも強力……というのは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の有用性を説明するときに語ったと思うが、あいにくとこの魔法は私以外、数えるほどしか使い手がいない。しかしこの道具を使えば魔法力を持たぬ者でも意思疎通がたやすい。これを……せめて中隊長クラスの者全員に持たせることができれば、相手がどんな大軍であろうとどうとでもなる」
「……なるほど。異世界にはまだ電話のようなものはないのでしたね。それならば……たしかにどんな武器よりも強力かもしれません。でも……これは電話局がないと使えませんよ」
アルテマの説明に納得したようすでうなずくヨウツベ。
しかし携帯だけ送っても意味がないと逆に説明を返す。
「……むう、そうか……いいアイデアだと思ったんだがな」
「だったらトランシーバーでいいんじゃない?」
「……いやトランシーバーでは距離が短いでござる。ここはやはり無線機がオススメでござる。……でも武器もいるでござろう? そこは遠慮せずにまかせてほしいでござるよ。大丈夫、バレないようにやるでござるから」
ぐふふふふふふふふ……と不気味な笑いを上げるアニオタ。
だがアルテマは首を振って、
「いや、ありがたい申し出だが。兵器については異世界もなかなかなものでな。こっちの世界の武器も優秀だが送ってもらうほどではない」
「え? そ、そ、そうなのでござるか?? いやでもマシンガンやロケットランチャーでござるよ??」
「……最強兵器の一つとしてイージス艦とやらがこの世界にあるらしいが。……たとえばクロードのラグエルならばその船体に大穴を空けることなど容易いだろう。他に魔法の火を吹く飛龍に乗った竜騎士や不死身のゴーレム、尽きない矢を放つ攻城弓など……まぁこっちの世界の戦闘ヘリや戦車と同等の兵器はそろっている。心配は無用と言っておこう」
少し誇らしげに話すアルテマに、アニオタは、
「そ、そうでござるか……」
と、大人しく席に座った。
「しかし、いいんですか? 通信機器は兵器ではありませんが戦力です。それをしてしまったら帝国が受けている誤解が真実になってしまいますよ」
神妙な顔で忠告してくるヨウツベ。
アルテマは少し顔を曇らせるが、すぐに騎士の目になって言った。
「それでも、民の命を最優先に守るとカイギネス皇帝はご判断なされた。ならばそれに従うまでだ」
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