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第138話 面白かったけどね……。

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「でだ、アルテマ!! 貴様の見解を聞かせてもらおう」
「本の話か? ……まぁたしかに……面白かった」
「であろう? どれだ? どれが気に入ったのだ!?」
「まあ、これかな」

 一つの本を持ち上げ、タイトルを見せるアルテマ。
 クロードはそれを見て嬉しそうに納得し、

「『転生したらポヨっちゃった事件』か!! いいな、うん。それはいいぞ」

 クロードの説明によるとその小説は大人気で異世界転生物語の金字塔とまで称されるベストセラーらしい。原作はもちろん、漫画やアニメ、ゲームにまでコミカライズされクロードもブルーレイを持っているという。

「だろうな。とにかく面白くて三日で全巻読破してしまった」
「そうだろうな!! 俺もそれを読みはじめたときは会社を休んでまで没頭したものだ!! わははははははははははははははははははははは」
「……とにかくそれで思ったのは、この物語だけじゃなくほとんどの異世界物は主人公が死ぬことで世界を渡っているということだ」
「ぬ、なんだ作品非難か? 言っておくがそれは様式美であって決してワンパターンというものではないぞ!! それに最近は他に色々な趣向を凝らしている作品も多い。今回持ってきたものがたまたまそういうパターンのやつが多かったと言うだけだ!!」
「いやいや、べつにケチをつけているわけではなく、むしろ参考になったと言っているんだが?」

 言ってるそばから趣旨を忘れているクロードに疲れた目を向けるアルテマ。

「おお、そうか!! ならば良い。……で、なにが参考になったというのだ?」
「……だから」

 こいつ本気で言っているのかと信じられなくなる。
 こんなもの考えるまでもなく自分たちの経緯と照らし合わせれば答えは出てくるではないか。
 アルテマは、自分たちもすでに向こうの世界で死んだのではないか? という可能性を説明して聞かせた。




「はっ!? いやいやいや……ありえんな……ありえんありえん!!」

 説明を聞いたクロードはしばらく放心していたが、やがて気がつくと言葉を振り払うように頭を振った。

「しかし……お前もあの吊り橋から落ちたのだろう? ならば普通に考えて生きてはいまい? ならば……」
「私は生きているぞ!? これがその証拠だ!!」

 クロードは手にラグエルの光を照らしてみせた。
 それは紛れもなく異世界でクロードが使っていた魔法で、死んで別人になったとすれば使えるはずもない代物である。

「顔も姿も、ほらこの通り、どっからどうみても見目麗《みめうるわ》しいあのクロードだろう?」
「うっとおしい、という意味ではそうだな。しかし姿かたちは変わらないままの転生もあるんじゃないか? 転移でもいいが。どのみちまともな方法で来たわけじゃないんだ最悪な展開を考えていた方がいい」
「どうしてお前ら帝国の人間はそう悲観的なのだ!?」
「現実的と言ってもらおう」

 言い合う二人に元一が間に入って質問をしてくる。

「……もし仮に死んでいたとなると、どうなるんじゃ? 帰れなくなるのか?」
「どうなんだろうな……私が読んだ話の中では主人公の全員が転生後の世界で生きているように書かれていたがな。一人を除いてはな」
「その一人は帰れたのか?」
「帰れたが、特殊な力で死んだことを無かったことに変えている。そんな芸当、私たちには到底無理だな」
「まあ、そこはお話だからな」

 うんうんとうなずき合うクロードとアルテマ。
 元一と節子は「いや、お前たちも魔法とか使うし」と言いたかったが、それよりも嬉しい吉報で心が舞い上がっていた。

「というとこはアルテマ。あなたはもうすでに向こうで亡くなっていて、帰れないと言うことね? それならそれでいいじゃない。もうあまり帰るとか無茶なこと考えないでこの世界にずっといなさい。クロードちゃんも住む所とか困っているなら面倒を見ますよ?」

 これ幸い。はいお開きお開き、と手を叩いて話をお終いにしようとする節子。
 だが、

「うむ、それはありがたい申し出だが、私は自分が死んだなどと微塵も認めていないのでな。帰ることを諦める気はないぞ?」

 クロードがその申し出をピシャリと断った。
 そして問う。

「アルテマよ、そもそも貴様はどこに転移したのだ!? その状況も聞かせてもらおう」
「だからぁ……」

 アルテマは自分がこの世界に渡ってきたときのようすを細かく説明した。

「ほう、祠……か。……それはもう、それが絶対あやしいのではないか?」
「うむ、そうなのだが……しかしいまは危険でな。私も調べたいのだが、なかなか近づけない状況なのだ」
「なにを甘いことを言っている!! 多少の危険なぞ大義を成すためには当然乗り越えねばならぬ障害。問題ない。その祠に案内してみせろアルテマ」
「え~~~~……」

 さっそく立ち上がるクロードを、アルテマはすごく渋い顔をして見上げた。
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