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第124話 なんとかしてよ!!

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『ありがとう御座います。では今回の代品はこちらで』

 開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の向こう側で、ジルが申し訳無さそうに頭を下げた。
 クロードとの三度目の戦いを終えて早三日。
 以降、連中の邪魔も入ることなく帝国への救援物資は順調に輸送されていた。
 転送を繰り返すにつれ、帝国側に用意してもらう品の質が段々と落ちてきた。
 これはジルが出し渋っているわけでは決してなく、現世側の作業効率が上がったためである。
 今回送った種の代わりに帝国側から送られてきたのは、代金に見合う砂金と、色とりどりの装飾が散りばめられた綺麗な衣装だった。

『これは我が帝国に古くから伝わる伝統衣装で、お祭りや式典の際にはみなこれを着て一日を過ごすのです。……が、そこまで高価なものではありません。本当にこんなものでよろしいのでしょうか……』
「よろしいもなにも、それで針が釣り合っとるんだからかまわんじゃろ? ワシらとしてはべつに仕入れ値分の砂金だけで充分なんじゃがの」

 遠慮がちに微笑むジルに、何も気にすることはないと元一も微笑みを返す。
 ちなみに砂金は仕入額のほかにきっちり手間賃分も割増で送られてきていた。
 なので若者たちには元一からしっかりと賃金が支払われている。

 久々に入ってきた収入に普段はニートな若者たちも大喜びで、よりいっそう帝国との交流に積極的になっていた。

「種の輸送はもうしばらく続けるが、だいぶまとまった量になっているだろう? 異世界の方はどんな感じじゃ?」
『はい、こちらも教わった通りに畑を開梱し、それぞれの植え付け作業も順調に進んでおります』
「そうか……ちゃんと育つといいがのう」
「……大丈夫じゃろう。このあいだ送ってもろうた帝国の土は確かに痩せてはいたが、わたしらの土とそうは変わらんもんじゃった。ほれこの通り、朝顔も元気に芽吹いておるわ」

 占いさんが小さく芽を出した植木鉢を持ってきた。
 その鉢には先日試しに送ってもらった異世界の土が敷かれていて、そこに育てていた朝顔の芽を移植したのだ。
 芽は問題なく大きくなり、ツルも伸び始めていた。
 それを見てジルが感激に頬を赤らめ涙ぐむ。

「まあ……すばらしいですわ。私たちの世界の土が、そちらの命を変わらず育んでいるのですね……なんだか神秘的で涙が出てきそうです……」
「肥料は追加したがな。それも一緒に送っておいたし。じゃから心配はいらんじゃろう。……きっとしっかり育ってくれるじゃろうて」
『はい……きっと』

 涙ぐむジルに、ぬか娘がちょっとゴメンナサイヨと、

「あの……それで私の呪いはいつ解いてくれるのでしょうか……?」

 もじもじ恥ずかしそうにビキニアーマー姿で質問した。
 聞かれたジルは、つつつ……と視線をずらし、

『さ、ではアルテマ、今回もご苦労さまでした。では皆様、次回もまたよろしくお願いしますごきげんよう』
「待ちんしゃぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!??」

 消えようとするジルを全力ツッコミで止めるぬか娘。
 アルテマを羽交い締めに、門を閉じらせないようにする。

「誤魔化しましたね!? いま誤魔化しましたね!?? どーーーーーーなってるんですか!! この鎧いいかげんに外してもらわないと私そろそろ街の噂になってきてるんですけど~~~~~~~~!???」

 いつまた襲ってくるかわからないクロード対策のため、ぬか娘には毎回、集荷につき合ってもらっている。
 幸いこの三日間襲撃はなかったが痴女同然の格好で街中を走り回るぬか娘の噂は『軽トラ☆コス姉ちゃん』の名で地元のオジサマたちに注目されはじめていた。

「まあまあいいじゃないかぬか娘。どうせまたあいつらはちょっかいかけてくるんだから、いまそれを外すわけにはいかないだろう?」
「そ、そ、そ、そうでござるそうでござる。なんなら一生そのままでいてもいいのではござらぬか、と提案するでござるでござる」

 鼻の下を伸ばした男二人が、むくれるぬか娘をなだめているが、その本心はダダ漏れである。

「よく言うわあんたら!! こら見るな撮るな!!」

「むぅ~~……。まあ……クロードをどうにかするまでは、いましばらく我慢してもらうしかないが……。しかしこのまま冬を迎えるとなると……ちょっと気の毒にはなってくるわな。見ているこっちも寒々しいだろうしな」

 いまは夏だからギリギリセーフとされているが、同じ格好で秋、ましてや冬を過ごすとなると、それはそれでまた別の問題が出てくるなと六段は苦い顔をする。

「せやのう……ヒック。真冬の雪ん中、下着姿に盾と剣を持ってコンビニおでんを持ち帰っとる若い女やなんて……異常を通り越して世紀末すら感じるもんなぁ……ヒック」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!」

 飲兵衛の想像とシンクロし、近い将来の自分を見てしまい悶絶するぬか娘。
 その姿を見かねたジルが、さすがにもう誤魔化してはいられないと、言い辛らそうに口を開いた。

『あ……あの……ぬか娘さん……その、怒らないで聞いてくださいね?』
「……うぅぅぅぅぅ……なんだか嫌な予感がする……」
『……結論から申しますと……』

 もじもじもじ……と指をこねくり回すジル。
 その仕草でぬか娘には次に出てくる言葉がわかった。

『その鏡の呪いを解くことは……その……私にはできないのです』
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