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第116話 どうしよう……?

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 という昨晩の話を、朝一番、若者衆に話して聞かせた。

「ははあ……逆神《ぎゃくしん》の鏡ですか、それはまた強力そうなアイテムですね。いいですよ、そういうのは絵になりますから……もぐもぐ」
「……ふむ……光に対して鏡か……捻りはないが問答無用で効果はありそうだ……ぐうぐう……」
「ル、ル、ル、ルナ殿と連絡は取れないのでござるか?? 彼女は無事なのでござるか!!?? もし何かあったら、ぼ、ぼ、ぼ、僕は……僕は……」
「今度は異世界に助けてもらうのか~~。なんか良いよねこういうの協力してるって感じで……ずずず……うん久しぶりのお味噌汁おいしい、しみるわぁ~~」

 皆は職員室で朝ごはんを食べながら思い思いの感想を言っている。
 今日の朝ごはんは節子が持たせてくれたおにぎり各種に大根の味噌汁、夕食の残りの筑前煮だった。
 元一たち老人組は、クロードの呼び出し対策に朝早くから出かけていて留守。
 なのでこっちに相談しようと差し入れ持参で訪ねたのだ。

 慣れない労働のおかげで全員爆睡していて、多少呼んでも誰も起きて来てくれなかったが、水筒に入れた味噌汁をあたため始めると、どこからともなく湧いて出て、料理をすべて並べ終わる頃には寝ぼけ眼《まなこ》ながらも全員席に座っていた。

 疲労よりも一食分のごはんのほうが大事だったようである。

「でも……ぐうぐう……そんな貴重そうなものを……すやすや……送ってもらうとしたら……相応の対価を用意しなければ……むにゃむにゃ……ならんのじゃないのか……ごんっ」

 半分寝ながらモジョが聞いてくる。最後の『ごん』はテーブルに額をぶつけた音。

「うむ、そうなのだ。そのことでお前たちに相談しにきたのだ」
「対価として用意する品についてですか?」
「そうだ。本来なら食糧援助の対価として扱うべきなのだが……いまはあのクロードバカものたちのせいで用意はできん。しかし用意するためには鏡が必要だ」
「おう……ニワトリが先か卵が先か……だね、アルテマちゃん」

 ちなみに前回は対価として、壊れてしまった車両ぶんの砂金と異世界の歴史を記した巻物を送ってもらった。
 これから交流を深めていくにあたって、それぞれの世界の歴史を知ることは重要だと思ったからである。
 ちなみにこちらの世界は、アルテマがタブレットで猛勉強中。

「……そうなのだ。なので今回は種とは別のなにかを用意しなければならないと思ってな……」
「なるほど、それで僕たちになにか良い物ないかと相談しにきたってわけですね?」
「うむ」
「う~~~~~~ん……て言っても私たち貧乏ニートだし……これといって高価な物なんてなにも持っていないよ?」
「いや、お前たちにとってはなんでもない物でも、我ら異世界人にとってはお宝な物もある。とりあえず譲ってくれてもいいものはないか? あれば釣り合うか試してみたい」
「う~~~~~~~~ん……私のガラクタ――――もとい、宝物ならべつにいいよ持ってっても。……他ならぬアルテマちゃんの頼みだしね」
「……私も……価値の薄いゲームくらいなら手放してもいいが……」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕は……血の涙を流して『美人双子転校生シャリン&シーリン』アダルトフィギュアをぉぉぉぉぉ……」
「こらこら、そんなもの送ったら異世界国際問題になるから」

 なんだかんだ頭を捻りながらも、みなそれぞれ快く協力を申し出てくれた。




『みなさんご協力ありがとう御座います。これが逆神《ぎゃくしん》の鏡でございます』

 開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の向こう側で、大きな鏡……というよりは細かな装飾を施された大きな金属製の丸い板を掲げるジル。

「え……と、それは鏡……なんでしょうか?」

 とてもそうは見えない、と首を傾げ尋ねるアルテマ。
 というのも鏡らしき鏡面はどこにも見当たらなかったからだ。
 あるのは、どこかの女神だか悪魔だかの雰囲気を持つ女性を荊棘《いばら》で縛り吊るしているという趣味の悪い模様が彫り物だけ。
 集まってくれた若い衆も同様にハテナ顔でそれを見ていた。

『はい。とは言ってもこれの本来の姿は盾なのですよ』

 言って板の裏側を見せてくる。
 すると腕を固定する輪っかと握り手が備わっていた。

「……なるほど盾の姿をした鏡か……さしずめ『みかがみの盾』といったところだな……光ではなく魔法力そのものを反射する特殊性能持ちか……」

 モジョが目を光らせる。
 それにジルがニッコリと笑ってうなずく。

『さすがモジョさん、察しが良いですね。その通りです。これは鏡と言っても毎日の身だしなみを整える物ではなく、ある特定の魔法を跳ね返す魔法具なのです』
「……ほうほう……して、特定の魔法とは?」
『エルフ族が特異とする神聖魔法ですね。クロードが使うラグエルもその一つです』
「……なるほど……ならそれがあればやつの妨害工作も容易に防げるということだな……いいじゃないか……対クロードにはうってつけのアイテムだ」

 モジョがうなずくとアルテマも興奮したようすで、

「いいですよ、師匠、これですよ!! こんな便利なアイテムどうしていままで使わないでいたのです? これさえあればクロードどころか聖王国軍なんて恐るるに足らずじゃないですか!?」
『いえ、これは聖神魔法にこそ威力を発揮しますが、それ以外には脆いのです。さらにとても貴重でこの世に二つと無い品物ですから、おいそれと戦場に持ち込むわけにもいかなかったのです』

「……そんな希少なもの、私らが貰ってしまっていいのか……?」

『ええモジョさん。……むしろこちらの世界の者が迷惑をかけているみたいで申し訳ないぐらいです。どうかお役立てください』

 少しも惜しむ素振りは見せずに、にっこり微笑んでみせるジル。
 ありがたい……ありがたい――――のだが。
 その代償はどのくらいのなるのかと、若者衆は笑顔を保ちながらも頬に汗を浮かべるのだった。
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