117 / 292
第116話 どうしよう……?
しおりを挟む
という昨晩の話を、朝一番、若者衆に話して聞かせた。
「ははあ……逆神《ぎゃくしん》の鏡ですか、それはまた強力そうなアイテムですね。いいですよ、そういうのは絵になりますから……もぐもぐ」
「……ふむ……光に対して鏡か……捻りはないが問答無用で効果はありそうだ……ぐうぐう……」
「ル、ル、ル、ルナ殿と連絡は取れないのでござるか?? 彼女は無事なのでござるか!!?? もし何かあったら、ぼ、ぼ、ぼ、僕は……僕は……」
「今度は異世界に助けてもらうのか~~。なんか良いよねこういうの協力してるって感じで……ずずず……うん久しぶりのお味噌汁おいしい、しみるわぁ~~」
皆は職員室で朝ごはんを食べながら思い思いの感想を言っている。
今日の朝ごはんは節子が持たせてくれたおにぎり各種に大根の味噌汁、夕食の残りの筑前煮だった。
元一たち老人組は、クロードの呼び出し対策に朝早くから出かけていて留守。
なのでこっちに相談しようと差し入れ持参で訪ねたのだ。
慣れない労働のおかげで全員爆睡していて、多少呼んでも誰も起きて来てくれなかったが、水筒に入れた味噌汁をあたため始めると、どこからともなく湧いて出て、料理をすべて並べ終わる頃には寝ぼけ眼《まなこ》ながらも全員席に座っていた。
疲労よりも一食分のごはんのほうが大事だったようである。
「でも……ぐうぐう……そんな貴重そうなものを……すやすや……送ってもらうとしたら……相応の対価を用意しなければ……むにゃむにゃ……ならんのじゃないのか……ごんっ」
半分寝ながらモジョが聞いてくる。最後の『ごん』はテーブルに額をぶつけた音。
「うむ、そうなのだ。そのことでお前たちに相談しにきたのだ」
「対価として用意する品についてですか?」
「そうだ。本来なら食糧援助の対価として扱うべきなのだが……いまはあのクロードたちのせいで用意はできん。しかし用意するためには鏡が必要だ」
「おう……ニワトリが先か卵が先か……だね、アルテマちゃん」
ちなみに前回は対価として、壊れてしまった車両ぶんの砂金と異世界の歴史を記した巻物を送ってもらった。
これから交流を深めていくにあたって、それぞれの世界の歴史を知ることは重要だと思ったからである。
ちなみにこちらの世界は、アルテマがタブレットで猛勉強中。
「……そうなのだ。なので今回は種とは別のなにかを用意しなければならないと思ってな……」
「なるほど、それで僕たちになにか良い物ないかと相談しにきたってわけですね?」
「うむ」
「う~~~~~~ん……て言っても私たち貧乏ニートだし……これといって高価な物なんてなにも持っていないよ?」
「いや、お前たちにとってはなんでもない物でも、我ら異世界人にとってはお宝な物もある。とりあえず譲ってくれてもいいものはないか? あれば釣り合うか試してみたい」
「う~~~~~~~~ん……私のガラクタ――――もとい、宝物ならべつにいいよ持ってっても。……他ならぬアルテマちゃんの頼みだしね」
「……私も……価値の薄いゲームくらいなら手放してもいいが……」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕は……血の涙を流して『美人双子転校生シャリン&シーリン』アダルトフィギュアをぉぉぉぉぉ……」
「こらこら、そんなもの送ったら異世界国際問題になるから」
なんだかんだ頭を捻りながらも、みなそれぞれ快く協力を申し出てくれた。
『みなさんご協力ありがとう御座います。これが逆神《ぎゃくしん》の鏡でございます』
開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の向こう側で、大きな鏡……というよりは細かな装飾を施された大きな金属製の丸い板を掲げるジル。
「え……と、それは鏡……なんでしょうか?」
とてもそうは見えない、と首を傾げ尋ねるアルテマ。
というのも鏡らしき鏡面はどこにも見当たらなかったからだ。
あるのは、どこかの女神だか悪魔だかの雰囲気を持つ女性を荊棘《いばら》で縛り吊るしているという趣味の悪い模様が彫り物だけ。
集まってくれた若い衆も同様にハテナ顔でそれを見ていた。
『はい。とは言ってもこれの本来の姿は盾なのですよ』
言って板の裏側を見せてくる。
すると腕を固定する輪っかと握り手が備わっていた。
「……なるほど盾の姿をした鏡か……さしずめ『みかがみの盾』といったところだな……光ではなく魔法力そのものを反射する特殊性能持ちか……」
モジョが目を光らせる。
それにジルがニッコリと笑ってうなずく。
『さすがモジョさん、察しが良いですね。その通りです。これは鏡と言っても毎日の身だしなみを整える物ではなく、ある特定の魔法を跳ね返す魔法具なのです』
「……ほうほう……して、特定の魔法とは?」
『エルフ族が特異とする神聖魔法ですね。クロードが使うラグエルもその一つです』
「……なるほど……ならそれがあればやつの妨害工作も容易に防げるということだな……いいじゃないか……対クロードにはうってつけのアイテムだ」
モジョがうなずくとアルテマも興奮したようすで、
「いいですよ、師匠、これですよ!! こんな便利なアイテムどうしていままで使わないでいたのです? これさえあればクロードどころか聖王国軍なんて恐るるに足らずじゃないですか!?」
『いえ、これは聖神魔法にこそ威力を発揮しますが、それ以外には脆いのです。さらにとても貴重でこの世に二つと無い品物ですから、おいそれと戦場に持ち込むわけにもいかなかったのです』
「……そんな希少なもの、私らが貰ってしまっていいのか……?」
『ええモジョさん。……むしろこちらの世界の者が迷惑をかけているみたいで申し訳ないぐらいです。どうかお役立てください』
少しも惜しむ素振りは見せずに、にっこり微笑んでみせるジル。
ありがたい……ありがたい――――のだが。
その代償はどのくらいのなるのかと、若者衆は笑顔を保ちながらも頬に汗を浮かべるのだった。
「ははあ……逆神《ぎゃくしん》の鏡ですか、それはまた強力そうなアイテムですね。いいですよ、そういうのは絵になりますから……もぐもぐ」
「……ふむ……光に対して鏡か……捻りはないが問答無用で効果はありそうだ……ぐうぐう……」
「ル、ル、ル、ルナ殿と連絡は取れないのでござるか?? 彼女は無事なのでござるか!!?? もし何かあったら、ぼ、ぼ、ぼ、僕は……僕は……」
「今度は異世界に助けてもらうのか~~。なんか良いよねこういうの協力してるって感じで……ずずず……うん久しぶりのお味噌汁おいしい、しみるわぁ~~」
皆は職員室で朝ごはんを食べながら思い思いの感想を言っている。
今日の朝ごはんは節子が持たせてくれたおにぎり各種に大根の味噌汁、夕食の残りの筑前煮だった。
元一たち老人組は、クロードの呼び出し対策に朝早くから出かけていて留守。
なのでこっちに相談しようと差し入れ持参で訪ねたのだ。
慣れない労働のおかげで全員爆睡していて、多少呼んでも誰も起きて来てくれなかったが、水筒に入れた味噌汁をあたため始めると、どこからともなく湧いて出て、料理をすべて並べ終わる頃には寝ぼけ眼《まなこ》ながらも全員席に座っていた。
疲労よりも一食分のごはんのほうが大事だったようである。
「でも……ぐうぐう……そんな貴重そうなものを……すやすや……送ってもらうとしたら……相応の対価を用意しなければ……むにゃむにゃ……ならんのじゃないのか……ごんっ」
半分寝ながらモジョが聞いてくる。最後の『ごん』はテーブルに額をぶつけた音。
「うむ、そうなのだ。そのことでお前たちに相談しにきたのだ」
「対価として用意する品についてですか?」
「そうだ。本来なら食糧援助の対価として扱うべきなのだが……いまはあのクロードたちのせいで用意はできん。しかし用意するためには鏡が必要だ」
「おう……ニワトリが先か卵が先か……だね、アルテマちゃん」
ちなみに前回は対価として、壊れてしまった車両ぶんの砂金と異世界の歴史を記した巻物を送ってもらった。
これから交流を深めていくにあたって、それぞれの世界の歴史を知ることは重要だと思ったからである。
ちなみにこちらの世界は、アルテマがタブレットで猛勉強中。
「……そうなのだ。なので今回は種とは別のなにかを用意しなければならないと思ってな……」
「なるほど、それで僕たちになにか良い物ないかと相談しにきたってわけですね?」
「うむ」
「う~~~~~~ん……て言っても私たち貧乏ニートだし……これといって高価な物なんてなにも持っていないよ?」
「いや、お前たちにとってはなんでもない物でも、我ら異世界人にとってはお宝な物もある。とりあえず譲ってくれてもいいものはないか? あれば釣り合うか試してみたい」
「う~~~~~~~~ん……私のガラクタ――――もとい、宝物ならべつにいいよ持ってっても。……他ならぬアルテマちゃんの頼みだしね」
「……私も……価値の薄いゲームくらいなら手放してもいいが……」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕は……血の涙を流して『美人双子転校生シャリン&シーリン』アダルトフィギュアをぉぉぉぉぉ……」
「こらこら、そんなもの送ったら異世界国際問題になるから」
なんだかんだ頭を捻りながらも、みなそれぞれ快く協力を申し出てくれた。
『みなさんご協力ありがとう御座います。これが逆神《ぎゃくしん》の鏡でございます』
開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の向こう側で、大きな鏡……というよりは細かな装飾を施された大きな金属製の丸い板を掲げるジル。
「え……と、それは鏡……なんでしょうか?」
とてもそうは見えない、と首を傾げ尋ねるアルテマ。
というのも鏡らしき鏡面はどこにも見当たらなかったからだ。
あるのは、どこかの女神だか悪魔だかの雰囲気を持つ女性を荊棘《いばら》で縛り吊るしているという趣味の悪い模様が彫り物だけ。
集まってくれた若い衆も同様にハテナ顔でそれを見ていた。
『はい。とは言ってもこれの本来の姿は盾なのですよ』
言って板の裏側を見せてくる。
すると腕を固定する輪っかと握り手が備わっていた。
「……なるほど盾の姿をした鏡か……さしずめ『みかがみの盾』といったところだな……光ではなく魔法力そのものを反射する特殊性能持ちか……」
モジョが目を光らせる。
それにジルがニッコリと笑ってうなずく。
『さすがモジョさん、察しが良いですね。その通りです。これは鏡と言っても毎日の身だしなみを整える物ではなく、ある特定の魔法を跳ね返す魔法具なのです』
「……ほうほう……して、特定の魔法とは?」
『エルフ族が特異とする神聖魔法ですね。クロードが使うラグエルもその一つです』
「……なるほど……ならそれがあればやつの妨害工作も容易に防げるということだな……いいじゃないか……対クロードにはうってつけのアイテムだ」
モジョがうなずくとアルテマも興奮したようすで、
「いいですよ、師匠、これですよ!! こんな便利なアイテムどうしていままで使わないでいたのです? これさえあればクロードどころか聖王国軍なんて恐るるに足らずじゃないですか!?」
『いえ、これは聖神魔法にこそ威力を発揮しますが、それ以外には脆いのです。さらにとても貴重でこの世に二つと無い品物ですから、おいそれと戦場に持ち込むわけにもいかなかったのです』
「……そんな希少なもの、私らが貰ってしまっていいのか……?」
『ええモジョさん。……むしろこちらの世界の者が迷惑をかけているみたいで申し訳ないぐらいです。どうかお役立てください』
少しも惜しむ素振りは見せずに、にっこり微笑んでみせるジル。
ありがたい……ありがたい――――のだが。
その代償はどのくらいのなるのかと、若者衆は笑顔を保ちながらも頬に汗を浮かべるのだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!


明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる