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第112話 悪だくみ

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 その日の晩。

「いやぁ~~痛快痛快!!」

 飲兵衛と酒を酌み交わしながらヨウツベが上機嫌で顔を赤らめる。
 あのあと、黒焦げになったクロードを捕獲しようとしたが、すんでのところで偽島の車に回り込まれ取り逃してしまった。
 逃げる際に偽島は、

『お、お、おぼえてろよ、この始末はあとでマン倍にして返してやりますからね!!』

 読んでなくとも台本通り、お決まり台詞を吐き去ってくれた。
 絵的に綺麗にまとまったことで、その後の編集が楽になったとご満悦なのだ。

 いつものメンバーは、校庭に面する教室にご馳走を広げて祝賀会をしていた。

「いや、ワシは逃してしまった無念のほうが強いがな。できればあのままスマキにして逆さに吊ってやりたかったわい」

 悔しげに酒をあおる六段。

「六段さん、今日も出番なかったもんね」

 ぬか娘がからかうと、

「馬鹿者。ゲンさんが先走りするから出遅れただけじゃ。それにすぐに占いさんがケリをつけてしまって、参戦しようにもそんな暇はなかったわい」
「そうそれ。なになに占いさん、あんな魔法(?)使えたの!?? なんか凄かったんですけど~~~~??」
「……まあな。しかしあれはこの杖の恩恵も大きい。さすが異世界の法具。こと魔法関係においてはかなわんのう……」

 そう言われてアルテマは誇らしげに胸をそらす。
 ぬか娘は目を大きく開いて、

「いやいやそれでもすごいよ!? ゲンさんの矢といい、魔法って私たちでも使えるんだよね? いいなぁ~~私も樽なんかじゃなくてマジックアイテムにしとけば良かったなぁ~~」

 今さらながら後悔し、悔しがった。

「うむ。まぁそれはまた機会があったら頼めばいいだろう。……それよりも荷物の転送はよいのかアルテマ?」

 元一は、校庭の真ん中に、山と積まれた物資を指して尋ねた。
 偽島たちを追い払ったあと、若者組は輸送班として再び集荷に出てもらった。
 昨日と違い邪魔が入らなかったので搬入は滞りなく、すんなりと終了した。
 とはいえ量が量だけに時間はかかって、終わったのがついさっきだったのだが。
 じゃが種いも、里芋の苗、蕎麦、アワ・ヒエの種それぞれ500キロずつ。
 小分けにして運ぶこと、6往復かかった。

「き、き、き、昨日……借りたトラックを水没させてしまったでござるから……軽トラしかなかったでござる。か、か、か、かなり疲れたでござる……」
「し……死ぬ……死ぬ……おえぇ~~……」

 戦闘時、熟睡して参加してなかったモジョとアニオタはとくにこき使われ、華奢なモジョはもう魂が抜けそうになっている。

「ああ、もう夜も遅いしな。明日の朝で良いだろう。みんなありがとう、これでまた帝国は救われる。皇帝に代わり深く礼を言わせてくれ」

 心から頭を下げて感謝を伝えるアルテマ。
 それに対し飲兵衛は、

「助け合うんはお互い様や。異世界魔法のおかげでこっちの老人たちもえらい助かっとるんやからな。のう、占いさんや?」
「そうじゃとも、今日も三体、悪魔を退治してやった。みなそれぞれ大喜びで帰っていったわ」

 そう言われてアルテマは吸魔《すいま》のアミュレットをなでてみる。
 朝の戦闘で消費した魔素は、昼間の除霊ですっかり補充された。
 自分の正体についても、ヨウツベが上手く誤魔化してくれるので心配ない。

 段々と、自分がここに住む為の地固めが進んでいく。
 それもこれも皆の協力があってこそのもの。
 アルテマはこんな私を快く受け入れてくれ、損得なしに協力してくれるこの集落のみんなに深く感謝し、盃を掲げる。
 そして言葉には出さず感謝の言葉を胸に浮かべるとそれを傾け――ようとして、

「お酒はダメだってアルテマちゃん」

 べしっとぬか娘にはたき落とされてしまった。




「……あの、偽島さん。……あいつ、本当に大丈夫ですかね」

 包帯まみれになりながらソファーにふんぞり返っているクロードを指差し、現場監督はヒソヒソと偽島に尋ねた。
 自分は異世界の聖騎士だと鳴り物入りで入ってきたわりには、対アルテマ戦、これで二連敗である。

 ここは街にある偽島組本社ビル。
 そこの応接室の一つを陣取り、誠たちは今後の作戦を練り直していた。

「……うむ。そうですね……しかし九郎さんがいないと我々だけではあの巫女娘に対抗すら出来ませんからね……」

 偽島は頭を抱える。
 まさかこちらの策を、あんな手で返されるとは思ってもいなかった。
 しかもあの異世界人だけでもやっかいなのに、どういうわけか取り巻きの村人まで魔法を使ってくる始末。

 最後の一撃にいたっては本家異世界人の二人よりも強力な魔法を放っていた。

 九郎もなかなかの使い手のようだが、こうなると多勢に無勢。
 しかし……かと言って工事を諦めるなんて選択肢はない。
 すでに金は回ってしまっているのだ。

「……しかし、このまま何度も痛い目に合わされちゃ、ウチの若いもんも堪りませんぜ? 今回も1人病院送りにされちまった」

 これはアルテマの攻撃で、ではなく、逃げる時にひっくり返って頭を強打しただけであるが。

「敵の戦力はあの巫女とジジイ二人、あと例の雷(?)魔法のババアの四人。九郎さん、この戦力にあなた一人で対抗するには無理がありますね? なにかいい作戦はありませんか? 異世界では指揮官をされていたと聞きましたが?」
「クロード、だ。……わかっている。対抗策も考えてある」

 不機嫌さを隠そうともせずに憎々しく答えるクロード。
 言われなくても正面撃破は無理だと理解している。
 聖騎士としてのプライドが多少傷つくことになるが、ここは搦《から》め手を使っていくしかない。

「……まったくもって不本意ではあるが……な」

 それでも三度の負けを刻むよりマシだ。
 クロードは腹をくくった目で、偽島を見返した。
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