上 下
108 / 274

第107話 お好きなように

しおりを挟む
 ――――ぎゃきゃきゃきゃきゃっ!!!!
 黒炎に包まれた川辺の広場に、猛スピートで突っ込んでくるワゴン車。
 タイヤを滑らせ止まるなり、中から転がり出てくる偽島誠。

「な、な、な、なんですかこれはーーーーっ!!!!」

 燃える重機やトラックを見て金切り声を上げる。
 そして対岸に立っているアルテマに気がつくと、拡声器を取り出し、

「ま、またあなたですか、この子供巫女め!! 昨日あれだけ忠告したのにまだ性懲りもなく!! いいのですか? あなたの正体、全世界にバラしますよ!!」

 額に青あざを何本も浮かべて、携帯を振りかざした。
 その中にはアルテマが異世界人だと証明するデータがいくつも入っていて、クリック一つでネット上にばら撒かれるように設定してある。
 これを脅迫材料に、二度と工事の邪魔をしないよう忠告したのだが、あの子供巫女は事態を理解しているのか、いないのか。まったく恐れるようすもなく大事な部下たちを全滅させてしまっている。

「いますぐ火を消してそこからどきなさい!! さもなくば――――」

 言いながら偽島は、いまのこの光景も画面に収めつつ、アルテマをアップに動画を回し始めた。

「この場面もライブ配信で流しますよ!!」

 動画投稿サイトを開けて忠告する。
 しかしアルテマは何も恐れず、ただ眠そうなあくびを浮かべるだけ。

「な、な、な、な、なんですか、その余裕の表情は!? ……ははぁん、さてはあなた、私がやろうとしている事をわかっていませんね? まぁ……それは異世界から来た田舎者。我々世界の高度文明を理解できないのは致し方ないでしょう。よろしい、あなたでは話になりません。保護者を呼んでもらいましょう。誰ですか? 昨日のおかしな弓を持った爺さんですか? 誰でもいいです、さあ、出てきなさい。そして忠告を無視した報いを」
「――――アモン」

 どごんっ!!!!

「ぐわっしゃらっしゃちゃちゃちゃちゃ!???」

 がちゃがちゃわめく偽島の足元から、有無を言わさずアモンの炎が噴出した。
 下から股間を焼かれた偽島は奇っ怪な叫び声を上げながらプレハブ小屋の流しへと突撃し、下半身に水をかけまくる。

「ぺらぺらぺらぺらと相変わらず耳障りな男だなお前は……」

 ――――しゅうぅぅぅぅぅぅ……。

 余韻の湯気を立ちのぼらせる偽島に、イラついた目を向けるアルテマ。
 ただでさえムカつくインテリ気取りの高い声が、寝不足な状態だといつもの五倍はストレスに感じる。
 とくに撃つ気はなかったのだが、反射的にやってしまった。

「……お、おのれおのれ!! いいでしょう、わかりました!! あなたがそういう態度に出るのなら私ももう容赦はしませんよ!! やりますよ? いいんですか、本当にやりますからね!??」
「ああ、勝手にすればいいだろう」

 怒り心頭で凄《すご》む偽島に、そう返したのは六段だった。

「なに!? ……貴様、昨日血祭りにしてやったジジイですね? 勝手にすればいいとはどういうことです!? まさかあなたまで状況を理解していないということじゃないでしょうね?」
「だれが血祭りじゃい!! あんなものはただのかすり傷だ、一晩寝たら跡すら残っとらんわ!!」

 まあそれは大げさだったが。

「ともかく、クソメガネよ!! お前の卑怯な企みなんぞ、もはやとっくに対策済みだと言っとるんだ!! ワシらはここから動かん!! 工事も認めるつもりはない!! わかったらお前こそ出ていけぃっ!!!!」
「対策? は、ははは、馬鹿なことを言ってはいけません。そんなもの用意できるわけがありませんよ」

 データを持っているのはこっちだ。
 仮にこのスマホを奪われるか壊されるかしたところで、複製データはとっくに事務所のPCに映してある。個人情報がうんぬんカンヌン言うつもりだとしても、そんなもの会社の弁護士に任せれば、はした金ですぐに解決できるだろう。

 なにを対策しようが動画を流すことは止められやしない。
 どんな問題があろうとも、流してしまえば大きなダメージを負うのは向こうのほうなのだ。

「どうせ悔し紛れのハッタリでしょう? もし、やれたとしても、せいぜいが民事に訴え出ることくらいでしょうが、生憎うちの会社はその類の――――」
「いえいえ、裁判なんて。そんな大げさなことしませんよ?」

 その声は少し上の方から聞こえた。
 見ると、アルテマの背後の古ぼけた校舎。
 昨日の魔法で破損した数々の穴。
 それを粗末な板やダンボールで塞いだ不格好なその建物の二階から、かすかに見覚えのある顔が覗いていた。
 その男――ヨウツベはわりと高級そうなカメラでこちらを撮影しながら、横の窓に向かって何か合図を送る。
 すると、その窓との間に丸めてあった布の束がハラリと解け、

『愛と正義の巫女戦士・マジカル☆ミコブラック』

 とペンキで雑に書かれた垂れ幕が、でろん、と広がった。

「な、な、な!?? マジカル……ミコブラック?? なんのつもりですか??」

 それを唖然と見つめる偽島に、垂れ幕の端を支えているぬか娘が怒りの声で、

「マジカル『☆』ミコブラック!! 星を忘れないで!! ここ重要なんだから、私昨日寝ないで考えたんだから!!」

 怒鳴ってくる。
 だから何なんだと困惑している偽島にヨウツベが言った。

「詳しいことはいま送ったURLを御覧くださ~~い」
「URL……だとう?」

 スマホを見ると、偽島組公式HP宛にたしかにそれが送られてきていた。
 開けると、某有名動画サイトに繋がってすぐに動画のサムネイルが表示される。
 そこには垂れ幕と同じタイトルが七色のコロコロしたフォントで光っており、画面の中央には、妙にダサい決めポーズで、赤黒く燃える竹刀を掲げた子供巫女が映っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖人様は自重せずに人生を楽しみます!

紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。 人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。 そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。 助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。 裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く! 『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』 ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!

転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。

七彩 陽
ファンタジー
 異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。  しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?  この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。 『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。  実はヒロインも転生者!  クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?  クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?    そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!  異世界転生、痛快ラブコメディ。 どうぞよろしくお願いします!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...