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第100話 川沿いの攻防②

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 対岸にあるプレハブの屋上で、一人の背の高い青年が大の字に足を開き立っていた。バサバサと金色の長髪が風になびき、夕日にきらめいている。

 ラフなジーンズにジャケットはまるっきりこちらの世界の青年だが、隠しきれない魔法力と特徴的な長耳は、彼がこの世界の者ではないと物語っている。
 っていうかアルテマは彼のことを知っていた。
 忘れたいが、忘れるわけにいかない相手。

「……聖騎士……クロード……か?」

 信じられないもをの見る目で、アルテマはそう男の名をつぶやいた。
 普通の者ではとうてい聞き取れないほど離れた距離だが、耳の良いエルフ族には容易に聞き取れる。
 聖騎士と言う名で呼ばれるのは実に15年ぶり……。
 クロードは懐かしさと感動で、そしてなにより、失いかけていた誇りを思い出させてくれるその言葉にしばし酔いしれ身を震わせる。
 やがてイカンイカンと首を振ると、

「ふふふ……ふはははははは……はーーはっはっはっはーーーーっ!! 見つけたぞ、とうとう見つけたぞ我が宿敵アルテマよ!! 落ちたこの奈落の世界で……それでも貴様がここにいると信じ、探し続けること15年……おかしな幻術で正体を隠しているつもりだろうが、その程度で俺の目はごまかされんぞ!!」

 やけに芝居がかった大げさな動きでアルテマに指を突きつける。
 アルテマはあまりに意外な珍客に言葉を失い、目を見開いている。
 そこに、若者たちの無事を確認し終わった元一がやってきて、

「おい、アルテマ。あの頭の悪そうな馬鹿は何者なんじゃ、変質者か?」
「……偽島組のプレハブにいるってことは組員か? ……まさか橋を崩したのはあいつの仕業じゃないだろうな」

 六段もやってきてクロードを遠目で睨みつけた。
 アルテマはハッと我に返って汗を拭うと、

「半分は正解だ……だが、やつは偽島組の人間なんかではない。……やつは私と同じ異世界の者。聖王国ファスナの聖騎士……クロードと呼ばれる者だ」

 アルテマの言葉に、元一と六段はもちろん、びしょ濡れでへたり込んでいたぬか娘たちも驚き目を丸くする。

「な、なんじゃと!? 異世界の聖騎士じゃと!? なぜそんな者がここに……? お前を追ってきたじゃと!?」
「らしいな……。どうやってこの世界に転移してきたかは分からぬが……そして多少意味不明なことも言っているが……どうやらそうらしい。この事故もやつの魔法『ラグエル』によって引き起こされたものよ」
「ラグネル? なんじゃそれは!?」

 元一の焦りにクロードは得意げに笑って、

「ふふふふ……実践で唱えるもの久しぶりだがな。……この15年……人目をしのぎ、溜めに溜めまくったこの魔法力――――」

 ――――バババ……バチバチバチッ!!!!
 クロードの右腕から魔法力が弾け出る。
 広げた手の上には橋桁を破壊したあの光が、こんどはさらに大きく練り上げられていた。

「まずい、さがれ元一!!」
「くらえっ、そして無力になれアルテマよ!! ――――ラグエル!!」

 結びの言葉と同時に空気が揺れる。
 そして――――ゴッっという唸りとともに、鋼鉄さえも塵に返す究極聖魔法がアルテマに向かって一直線に放たれた!!
 アルテマの背丈をまるまる飲み込もうかというまでに巨大化したラグエルは砲弾のごとき迫力でアルテマに迫る!!

「くっ!? ――――アモ――――んっ!?」

 咄嗟に対抗魔法を唱えようとするアルテマだが、それを発動するより一瞬早く、

「だめ!! アルテマちゃん!!」

 アルテマの危機を察し、ぬか娘が飛び込んできた。
 彼女は全身でアルテマを守ろうと両手両足を広げ、ラグエルの前に立ち塞がる。

「なにっ!?」
「おいっ!!」
「……死ぬきか……」
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬか娘さん!??」
「無茶だっ!!」

 無謀な行動に悲鳴があがる。
 そして光はぬか娘に直撃する。
 
 ――――バシュゥッ!!
 刹那の間、破壊の光の中で、

「……アルテマちゃん……ごめん。最後まで一緒にいてあげられなくて。短い間だったけれど……私……楽しかっ……た」

 そう涙を散らせ、消えていくぬか娘――――。

「「ぬか娘ーーーーーーーーーーっ!!!!」」

 みなの痛ましい叫びが響く中、彼女は光に飲み込まれていく。
 そして突き抜けた残光は、校舎の一部も破壊し、校庭の砂利に止められ消滅した。

「ば……馬鹿な……ぬか娘……お、お前……なんて無茶なことを」

 六段の悲痛の声。
 やがて光の尾が弱まり視界がひらける。
 と、そこには彼女を飲み込んだ無の空間が広がっていると思いきや、

「……あちゃあ~~……」

 目を覆うアルテマと、

「――――ん??」

 スッポンポンになったぬか娘がいろんなモノをさらけ出して立っていた。

「……なんじゃこれは?」

 予想外すぎる光景とつぜんのラッキースケベに、事態が把握できないで戸惑う元一と六段。

「ぎゃあぁぁっっぁぁあああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁあぁっ!???」

 一瞬の沈黙のあと、爆発したように叫ぶぬか娘。
 アニオタは鼻血を流し、ヨウツベはさり気なくカメラをぬか娘に合わせる。
 そしてモジョは何が起こったのかなんとなく理解して頭を掻き、アルテマは大きなため息をついて、

「やつの得意魔法『ラグエル』は神の理に外れる物――――人の生み出した加工物をことごとく破壊する神聖魔法。その光に触れた物はたとえ鍛え抜かれた剣であっても、伝説の鎧であっても全てを塵に返す。……むろん衣服も、自然の産物である生身を残して綺麗さっぱり剥ぎ取られる」
「いやあぁぁぁぁぁ!! み、み、み、見るな、撮るな馬鹿者ーーーーーーっ!!」

 元一の背に隠れ、真っ赤になって騒ぎまくるぬか娘。
 モジョは遠くに見えるクロードをジッと見つめて、

「……いろんな意味で恐ろしいやつが現れたな……」

 と、自分だけはそそくさと、そこらの葉っぱを体中に貼り付けた。
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