101 / 280
第100話 川沿いの攻防②
しおりを挟む
対岸にあるプレハブの屋上で、一人の背の高い青年が大の字に足を開き立っていた。バサバサと金色の長髪が風になびき、夕日にきらめいている。
ラフなジーンズにジャケットはまるっきりこちらの世界の青年だが、隠しきれない魔法力と特徴的な長耳は、彼がこの世界の者ではないと物語っている。
っていうかアルテマは彼のことを知っていた。
忘れたいが、忘れるわけにいかない相手。
「……聖騎士……クロード……か?」
信じられないもをの見る目で、アルテマはそう男の名をつぶやいた。
普通の者ではとうてい聞き取れないほど離れた距離だが、耳の良いエルフ族には容易に聞き取れる。
聖騎士と言う名で呼ばれるのは実に15年ぶり……。
クロードは懐かしさと感動で、そしてなにより、失いかけていた誇りを思い出させてくれるその言葉にしばし酔いしれ身を震わせる。
やがてイカンイカンと首を振ると、
「ふふふ……ふはははははは……はーーはっはっはっはーーーーっ!! 見つけたぞ、とうとう見つけたぞ我が宿敵アルテマよ!! 落ちたこの奈落の世界で……それでも貴様がここにいると信じ、探し続けること15年……おかしな幻術で正体を隠しているつもりだろうが、その程度で俺の目はごまかされんぞ!!」
やけに芝居がかった大げさな動きでアルテマに指を突きつける。
アルテマはあまりに意外な珍客に言葉を失い、目を見開いている。
そこに、若者たちの無事を確認し終わった元一がやってきて、
「おい、アルテマ。あの頭の悪そうな馬鹿は何者なんじゃ、変質者か?」
「……偽島組のプレハブにいるってことは組員か? ……まさか橋を崩したのはあいつの仕業じゃないだろうな」
六段もやってきてクロードを遠目で睨みつけた。
アルテマはハッと我に返って汗を拭うと、
「半分は正解だ……だが、やつは偽島組の人間なんかではない。……やつは私と同じ異世界の者。聖王国ファスナの聖騎士……クロードと呼ばれる者だ」
アルテマの言葉に、元一と六段はもちろん、びしょ濡れでへたり込んでいたぬか娘たちも驚き目を丸くする。
「な、なんじゃと!? 異世界の聖騎士じゃと!? なぜそんな者がここに……? お前を追ってきたじゃと!?」
「らしいな……。どうやってこの世界に転移してきたかは分からぬが……そして多少意味不明なことも言っているが……どうやらそうらしい。この事故もやつの魔法『ラグエル』によって引き起こされたものよ」
「ラグネル? なんじゃそれは!?」
元一の焦りにクロードは得意げに笑って、
「ふふふふ……実践で唱えるもの久しぶりだがな。……この15年……人目をしのぎ、溜めに溜めまくったこの魔法力――――」
――――バババ……バチバチバチッ!!!!
クロードの右腕から魔法力が弾け出る。
広げた手の上には橋桁を破壊したあの光が、こんどはさらに大きく練り上げられていた。
「まずい、さがれ元一!!」
「くらえっ、そして無力になれアルテマよ!! ――――ラグエル!!」
結びの言葉と同時に空気が揺れる。
そして――――ゴッっという唸りとともに、鋼鉄さえも塵に返す究極聖魔法がアルテマに向かって一直線に放たれた!!
アルテマの背丈をまるまる飲み込もうかというまでに巨大化したラグエルは砲弾のごとき迫力でアルテマに迫る!!
「くっ!? ――――アモ――――んっ!?」
咄嗟に対抗魔法を唱えようとするアルテマだが、それを発動するより一瞬早く、
「だめ!! アルテマちゃん!!」
アルテマの危機を察し、ぬか娘が飛び込んできた。
彼女は全身でアルテマを守ろうと両手両足を広げ、ラグエルの前に立ち塞がる。
「なにっ!?」
「おいっ!!」
「……死ぬきか……」
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬか娘さん!??」
「無茶だっ!!」
無謀な行動に悲鳴があがる。
そして光はぬか娘に直撃する。
――――バシュゥッ!!
刹那の間、破壊の光の中で、
「……アルテマちゃん……ごめん。最後まで一緒にいてあげられなくて。短い間だったけれど……私……楽しかっ……た」
そう涙を散らせ、消えていくぬか娘――――。
「「ぬか娘ーーーーーーーーーーっ!!!!」」
みなの痛ましい叫びが響く中、彼女は光に飲み込まれていく。
そして突き抜けた残光は、校舎の一部も破壊し、校庭の砂利に止められ消滅した。
「ば……馬鹿な……ぬか娘……お、お前……なんて無茶なことを」
六段の悲痛の声。
やがて光の尾が弱まり視界がひらける。
と、そこには彼女を飲み込んだ無の空間が広がっていると思いきや、
「……あちゃあ~~……」
目を覆うアルテマと、
「――――ん??」
スッポンポンになったぬか娘がいろんなモノをさらけ出して立っていた。
「……なんじゃこれは?」
予想外すぎる光景に、事態が把握できないで戸惑う元一と六段。
「ぎゃあぁぁっっぁぁあああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁあぁっ!???」
一瞬の沈黙のあと、爆発したように叫ぶぬか娘。
アニオタは鼻血を流し、ヨウツベはさり気なくカメラをぬか娘に合わせる。
そしてモジョは何が起こったのかなんとなく理解して頭を掻き、アルテマは大きなため息をついて、
「やつの得意魔法『ラグエル』は神の理に外れる物――――人の生み出した加工物をことごとく破壊する神聖魔法。その光に触れた物はたとえ鍛え抜かれた剣であっても、伝説の鎧であっても全てを塵に返す。……むろん衣服も、自然の産物である生身を残して綺麗さっぱり剥ぎ取られる」
「いやあぁぁぁぁぁ!! み、み、み、見るな、撮るな馬鹿者ーーーーーーっ!!」
元一の背に隠れ、真っ赤になって騒ぎまくるぬか娘。
モジョは遠くに見えるクロードをジッと見つめて、
「……いろんな意味で恐ろしいやつが現れたな……」
と、自分だけはそそくさと、そこらの葉っぱを体中に貼り付けた。
ラフなジーンズにジャケットはまるっきりこちらの世界の青年だが、隠しきれない魔法力と特徴的な長耳は、彼がこの世界の者ではないと物語っている。
っていうかアルテマは彼のことを知っていた。
忘れたいが、忘れるわけにいかない相手。
「……聖騎士……クロード……か?」
信じられないもをの見る目で、アルテマはそう男の名をつぶやいた。
普通の者ではとうてい聞き取れないほど離れた距離だが、耳の良いエルフ族には容易に聞き取れる。
聖騎士と言う名で呼ばれるのは実に15年ぶり……。
クロードは懐かしさと感動で、そしてなにより、失いかけていた誇りを思い出させてくれるその言葉にしばし酔いしれ身を震わせる。
やがてイカンイカンと首を振ると、
「ふふふ……ふはははははは……はーーはっはっはっはーーーーっ!! 見つけたぞ、とうとう見つけたぞ我が宿敵アルテマよ!! 落ちたこの奈落の世界で……それでも貴様がここにいると信じ、探し続けること15年……おかしな幻術で正体を隠しているつもりだろうが、その程度で俺の目はごまかされんぞ!!」
やけに芝居がかった大げさな動きでアルテマに指を突きつける。
アルテマはあまりに意外な珍客に言葉を失い、目を見開いている。
そこに、若者たちの無事を確認し終わった元一がやってきて、
「おい、アルテマ。あの頭の悪そうな馬鹿は何者なんじゃ、変質者か?」
「……偽島組のプレハブにいるってことは組員か? ……まさか橋を崩したのはあいつの仕業じゃないだろうな」
六段もやってきてクロードを遠目で睨みつけた。
アルテマはハッと我に返って汗を拭うと、
「半分は正解だ……だが、やつは偽島組の人間なんかではない。……やつは私と同じ異世界の者。聖王国ファスナの聖騎士……クロードと呼ばれる者だ」
アルテマの言葉に、元一と六段はもちろん、びしょ濡れでへたり込んでいたぬか娘たちも驚き目を丸くする。
「な、なんじゃと!? 異世界の聖騎士じゃと!? なぜそんな者がここに……? お前を追ってきたじゃと!?」
「らしいな……。どうやってこの世界に転移してきたかは分からぬが……そして多少意味不明なことも言っているが……どうやらそうらしい。この事故もやつの魔法『ラグエル』によって引き起こされたものよ」
「ラグネル? なんじゃそれは!?」
元一の焦りにクロードは得意げに笑って、
「ふふふふ……実践で唱えるもの久しぶりだがな。……この15年……人目をしのぎ、溜めに溜めまくったこの魔法力――――」
――――バババ……バチバチバチッ!!!!
クロードの右腕から魔法力が弾け出る。
広げた手の上には橋桁を破壊したあの光が、こんどはさらに大きく練り上げられていた。
「まずい、さがれ元一!!」
「くらえっ、そして無力になれアルテマよ!! ――――ラグエル!!」
結びの言葉と同時に空気が揺れる。
そして――――ゴッっという唸りとともに、鋼鉄さえも塵に返す究極聖魔法がアルテマに向かって一直線に放たれた!!
アルテマの背丈をまるまる飲み込もうかというまでに巨大化したラグエルは砲弾のごとき迫力でアルテマに迫る!!
「くっ!? ――――アモ――――んっ!?」
咄嗟に対抗魔法を唱えようとするアルテマだが、それを発動するより一瞬早く、
「だめ!! アルテマちゃん!!」
アルテマの危機を察し、ぬか娘が飛び込んできた。
彼女は全身でアルテマを守ろうと両手両足を広げ、ラグエルの前に立ち塞がる。
「なにっ!?」
「おいっ!!」
「……死ぬきか……」
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬか娘さん!??」
「無茶だっ!!」
無謀な行動に悲鳴があがる。
そして光はぬか娘に直撃する。
――――バシュゥッ!!
刹那の間、破壊の光の中で、
「……アルテマちゃん……ごめん。最後まで一緒にいてあげられなくて。短い間だったけれど……私……楽しかっ……た」
そう涙を散らせ、消えていくぬか娘――――。
「「ぬか娘ーーーーーーーーーーっ!!!!」」
みなの痛ましい叫びが響く中、彼女は光に飲み込まれていく。
そして突き抜けた残光は、校舎の一部も破壊し、校庭の砂利に止められ消滅した。
「ば……馬鹿な……ぬか娘……お、お前……なんて無茶なことを」
六段の悲痛の声。
やがて光の尾が弱まり視界がひらける。
と、そこには彼女を飲み込んだ無の空間が広がっていると思いきや、
「……あちゃあ~~……」
目を覆うアルテマと、
「――――ん??」
スッポンポンになったぬか娘がいろんなモノをさらけ出して立っていた。
「……なんじゃこれは?」
予想外すぎる光景に、事態が把握できないで戸惑う元一と六段。
「ぎゃあぁぁっっぁぁあああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁあぁっ!???」
一瞬の沈黙のあと、爆発したように叫ぶぬか娘。
アニオタは鼻血を流し、ヨウツベはさり気なくカメラをぬか娘に合わせる。
そしてモジョは何が起こったのかなんとなく理解して頭を掻き、アルテマは大きなため息をついて、
「やつの得意魔法『ラグエル』は神の理に外れる物――――人の生み出した加工物をことごとく破壊する神聖魔法。その光に触れた物はたとえ鍛え抜かれた剣であっても、伝説の鎧であっても全てを塵に返す。……むろん衣服も、自然の産物である生身を残して綺麗さっぱり剥ぎ取られる」
「いやあぁぁぁぁぁ!! み、み、み、見るな、撮るな馬鹿者ーーーーーーっ!!」
元一の背に隠れ、真っ赤になって騒ぎまくるぬか娘。
モジョは遠くに見えるクロードをジッと見つめて、
「……いろんな意味で恐ろしいやつが現れたな……」
と、自分だけはそそくさと、そこらの葉っぱを体中に貼り付けた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる