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第94話 ここがお前の居場所じゃろ
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「ばかもの、いまさらなにを遠慮臭いことを言っているんじゃ!!」
いつも自分には優しい元一が、はじめて険しい顔で怒鳴ってきた。
アルテマにしてみれば、まさかこんなに怒られるとは思っていなくて思わず首を引っ込めてしまう。
目の前には今日も美味しそうな朝食が並べられ、爽やかな朝日にほかほかご飯の湯気がキラキラと輝いていた。
朝起きるなり、昨晩のジルとの相談事を二人にも話してみたのだ。
そして、いましばらくこの世界に留まることになりそうだとも。
そうすると当然、きちんとした住処(大使館的な)が必要となってくるのだが、それを準備するほどにはアルテマはまだこの世界で力を持っていない。
資金や国交樹立に関しての取り決めなども、皇帝とこの世界の代表とで話し合い、決めてもらわねばならない。それまではどうか、あつかましいかもしれないがこの家に寝泊まりさせてもらいたい。と、あらためて頼み込んだ。
したらこの剣幕である。
「ずっとこの家に居ていいといったじゃろう!? お前の立場が今後どうなるかわからんが、なにをするにしてもこの家に住むが良い、出ていくなんて許さんぞ!!」
首に縄でもつけられそうな勢いでいきり立つ元一。
「そうですよアルテマ。出ていくなんて……そんな悲しいこと言わないでちょうだい……。せっかく明るくなったこの家が……またくすんでしまうわ」
泣きそうな顔でアルテマを見つめてくる節子。元一はフンとそっぽを向いて新聞を広げた。
「た……たしかに、拾ってもらった当初はそう言ってもらえて、行為に甘えてきたが……しかし、国家公認の大使という立場を受けてしまっては、いつまでも現地の家庭に居候というのも、甘えが過ぎるというか……格好が悪いというか……」
「格好じゃと?? この家のどこが格好悪いというんじゃ!??」
またもやギロリと睨みつけてくる元一。
アルテマは慌ててそういう意味じゃないと首を振り、
「この邸宅は素晴らしいものだと思う、それはお世辞でもなければ礼儀でもなく本心でそう思う。暖かな畳に柔らかな布団。清潔な台所にトイレに浴室。そしてなにより永遠に流れ出てくれる水道に、光と熱と力を生み出す『コンセント』。まだまだ言っても足りない。ここは帝国のどの住処よりも贅沢で機能的で美しい」
「だったら遠慮などつまらん真似せずにずっと済んだらええんじゃ!! メシもタダで食わせてやる。家賃もいらんわ!!」
「い……いや、食事も今後はタダと言うわけには……」
それではまるでホントにここの娘みたいになるではないかと、困り顔を作るアルテマだが二人の温かな優しさに、建前とは別にこみ上げるものがきて、思わず遠慮の言葉も飲み込んでしまう。
「節子や、あの~~……あれ、半紙、向こうの棚に半紙と墨汁があったじゃろ? あれを取ってくれい」
と、元一がなにやら思いついた顔で、節子になにかを持ってくるように頼む。
「はいはいわかりましたよ」
半紙?? はて、なにをするのだろう? と用意された一式を眺めていると。
「こんな物はなあ……こうしてこうして、そりゃ、ここに貼り付ければ」
言って元一は半紙にサササと筆を走らせると、それを飯粒でアルテマの部屋へとつながる襖にベンと貼り付けた。
そこには荒々しい達筆でこう書かれていた。
『異世界大使館』と。
「そりゃ、これでここがお前の執務室になった。集落の代表であるワシがこの部屋を大使館と決めたのじゃ。これでお前は出て行きたくとも行けなくなったぞ?」
「まぁ、おじいさんたら冴えてらっしゃる♡」
「い……いやいやいや……そんな無茶苦茶な……」
呆れるアルテマだったが、二人の好意は涙が出るほど嬉しかった。
正直、アルテマもこの二人とは離れたくないと思っていた。
なんだか不思議な懐かしさを感じるからだ。
遠い昔、まだ孤児になる前の記憶……その中で自分は確かに感じていた。
いまと同じような暖かさを。
「えええええええええええええええええええええええええい、いまいましいっ!!」
未完成の仮説橋梁の側、完成したプレハブの中で偽島誠は力一杯悔しがっていた。
道を封鎖してもダメ。橋を通そうとしてもダメ。ネットを遮断し情報隔離しようとしてもダメ。
なにかしようとする度に、ことごとくあの魔法まがいのおかしな術?手品?で抵抗されてしまう。
窓の外にはボートに揺られてやってくる、老人たちの姿が見える。
噂ではあの集落で、これまた妙な祈祷が行われていると聞いた。
年老いた婆婆とその助手の幼巫女が『万病に効く厄払い』と称して商売しているらしいがこれがめっぽう評判らしく、道が崩れていようが、橋が途切れていようが、近隣の老人たちがありとあらゆる手段を用いてあの集落へと詰めかけている。
その中にはソーラーパネル工事をめぐる我々とのトラブルを愉快に思っていない者達も混じっていて、手に野菜やら肉やらなにやら陣中見舞い的な差し入れを持ってくる者も少なくない。
なのでいまや、忌まわしき蹄沢集落は封鎖する以前よりも遥かに活気に満ちていた。
「いらっしゃいませどうぞ~~~~!!」
桟橋(仮)の側で自家製の漬物を売りさばこうとしている眼鏡娘を睨みつけながら偽島は頭を悩ます。
「くそう……このままではいつまでたっても工事は進まん!! 親父の我慢もそろそろ限界だというのに……かくなる上は、もう一度強硬手段で突撃してみるか……いや、しかし……そんなことをしてもまた、あの怪しげな巫女がおかしな術を使って邪魔してくるだろうしな!!」
バンバン!!
八つ当たり気味に机を叩く偽島と、それを面倒くさそうに見ている現場監督。
そんな二人がいるプレハブ部屋に、
「すまんが……その巫女とやらの話、聞かせてくれないか?」
一人のやたらハンサムな若者が入ってきた。
その男は興奮を秘めた面持ちで軽く挨拶すると、クロードと名乗った。
いつも自分には優しい元一が、はじめて険しい顔で怒鳴ってきた。
アルテマにしてみれば、まさかこんなに怒られるとは思っていなくて思わず首を引っ込めてしまう。
目の前には今日も美味しそうな朝食が並べられ、爽やかな朝日にほかほかご飯の湯気がキラキラと輝いていた。
朝起きるなり、昨晩のジルとの相談事を二人にも話してみたのだ。
そして、いましばらくこの世界に留まることになりそうだとも。
そうすると当然、きちんとした住処(大使館的な)が必要となってくるのだが、それを準備するほどにはアルテマはまだこの世界で力を持っていない。
資金や国交樹立に関しての取り決めなども、皇帝とこの世界の代表とで話し合い、決めてもらわねばならない。それまではどうか、あつかましいかもしれないがこの家に寝泊まりさせてもらいたい。と、あらためて頼み込んだ。
したらこの剣幕である。
「ずっとこの家に居ていいといったじゃろう!? お前の立場が今後どうなるかわからんが、なにをするにしてもこの家に住むが良い、出ていくなんて許さんぞ!!」
首に縄でもつけられそうな勢いでいきり立つ元一。
「そうですよアルテマ。出ていくなんて……そんな悲しいこと言わないでちょうだい……。せっかく明るくなったこの家が……またくすんでしまうわ」
泣きそうな顔でアルテマを見つめてくる節子。元一はフンとそっぽを向いて新聞を広げた。
「た……たしかに、拾ってもらった当初はそう言ってもらえて、行為に甘えてきたが……しかし、国家公認の大使という立場を受けてしまっては、いつまでも現地の家庭に居候というのも、甘えが過ぎるというか……格好が悪いというか……」
「格好じゃと?? この家のどこが格好悪いというんじゃ!??」
またもやギロリと睨みつけてくる元一。
アルテマは慌ててそういう意味じゃないと首を振り、
「この邸宅は素晴らしいものだと思う、それはお世辞でもなければ礼儀でもなく本心でそう思う。暖かな畳に柔らかな布団。清潔な台所にトイレに浴室。そしてなにより永遠に流れ出てくれる水道に、光と熱と力を生み出す『コンセント』。まだまだ言っても足りない。ここは帝国のどの住処よりも贅沢で機能的で美しい」
「だったら遠慮などつまらん真似せずにずっと済んだらええんじゃ!! メシもタダで食わせてやる。家賃もいらんわ!!」
「い……いや、食事も今後はタダと言うわけには……」
それではまるでホントにここの娘みたいになるではないかと、困り顔を作るアルテマだが二人の温かな優しさに、建前とは別にこみ上げるものがきて、思わず遠慮の言葉も飲み込んでしまう。
「節子や、あの~~……あれ、半紙、向こうの棚に半紙と墨汁があったじゃろ? あれを取ってくれい」
と、元一がなにやら思いついた顔で、節子になにかを持ってくるように頼む。
「はいはいわかりましたよ」
半紙?? はて、なにをするのだろう? と用意された一式を眺めていると。
「こんな物はなあ……こうしてこうして、そりゃ、ここに貼り付ければ」
言って元一は半紙にサササと筆を走らせると、それを飯粒でアルテマの部屋へとつながる襖にベンと貼り付けた。
そこには荒々しい達筆でこう書かれていた。
『異世界大使館』と。
「そりゃ、これでここがお前の執務室になった。集落の代表であるワシがこの部屋を大使館と決めたのじゃ。これでお前は出て行きたくとも行けなくなったぞ?」
「まぁ、おじいさんたら冴えてらっしゃる♡」
「い……いやいやいや……そんな無茶苦茶な……」
呆れるアルテマだったが、二人の好意は涙が出るほど嬉しかった。
正直、アルテマもこの二人とは離れたくないと思っていた。
なんだか不思議な懐かしさを感じるからだ。
遠い昔、まだ孤児になる前の記憶……その中で自分は確かに感じていた。
いまと同じような暖かさを。
「えええええええええええええええええええええええええい、いまいましいっ!!」
未完成の仮説橋梁の側、完成したプレハブの中で偽島誠は力一杯悔しがっていた。
道を封鎖してもダメ。橋を通そうとしてもダメ。ネットを遮断し情報隔離しようとしてもダメ。
なにかしようとする度に、ことごとくあの魔法まがいのおかしな術?手品?で抵抗されてしまう。
窓の外にはボートに揺られてやってくる、老人たちの姿が見える。
噂ではあの集落で、これまた妙な祈祷が行われていると聞いた。
年老いた婆婆とその助手の幼巫女が『万病に効く厄払い』と称して商売しているらしいがこれがめっぽう評判らしく、道が崩れていようが、橋が途切れていようが、近隣の老人たちがありとあらゆる手段を用いてあの集落へと詰めかけている。
その中にはソーラーパネル工事をめぐる我々とのトラブルを愉快に思っていない者達も混じっていて、手に野菜やら肉やらなにやら陣中見舞い的な差し入れを持ってくる者も少なくない。
なのでいまや、忌まわしき蹄沢集落は封鎖する以前よりも遥かに活気に満ちていた。
「いらっしゃいませどうぞ~~~~!!」
桟橋(仮)の側で自家製の漬物を売りさばこうとしている眼鏡娘を睨みつけながら偽島は頭を悩ます。
「くそう……このままではいつまでたっても工事は進まん!! 親父の我慢もそろそろ限界だというのに……かくなる上は、もう一度強硬手段で突撃してみるか……いや、しかし……そんなことをしてもまた、あの怪しげな巫女がおかしな術を使って邪魔してくるだろうしな!!」
バンバン!!
八つ当たり気味に机を叩く偽島と、それを面倒くさそうに見ている現場監督。
そんな二人がいるプレハブ部屋に、
「すまんが……その巫女とやらの話、聞かせてくれないか?」
一人のやたらハンサムな若者が入ってきた。
その男は興奮を秘めた面持ちで軽く挨拶すると、クロードと名乗った。
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