暗黒騎士様の町おこし ~魔族娘の異世界交易~

盛り塩

文字の大きさ
上 下
89 / 296

第88話 精霊召喚

しおりを挟む
「――で、早速ですがお師匠……こちらの件も解決していただけますか?」

 栄典の儀もそこそこ、アルテマは言いにくそうに一本のケーブルを懐から取り出した。
 取引は終わっていない。まだ一つ残っているのだ。

『そ、そうですね……じゅるん。そちらの仕事もさせてもらわねばなりませんね。わかりました、ではアルテマ、現場への移動をお願いいたします』
「はい、ではお師匠こちらへ」

 アルテマが歩を進めると開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の映像も一緒についてくる。
 向かったのは、結界に包まれ歪んでしまっている校舎の裏側。
 そこから延びる電線その他のケーブルが繋がった電柱の側だった。

「あちらが問題のケーブルでございますお師匠」

 見上げる電柱にはいくつもの線が繋がっているが、アルテマはアニオタに教えてもらった一本をジルに指し示す。

『はぁ…………これが異世界の科学を支える『でんちゅう』と『でんせん』なのですね。随分と遠くまで延びているようですが一体どこまで繋がっているのでしょう?』

 画角から見えるだけの遠方を覗き見て、ジルは感嘆のため息をもらした。

「は、調べたところによれば遥か彼方、この国の端から端まで余すことなく張り巡らされているようすです」
『端から端……!? そちらの国『日本』とは、もしかしてあまり大きくない国なのですか?』
「いえ、面積は我が帝国の五倍はあり、人民は100倍近く住んでいるもようです」
『そ、そうですか……そんな強大な国家の端から端まで……余すことなく……。それは……にわかには信じ難い話しですが、あなたが嘘をつくはずはありません。きっと事実なのでしょう……』

 一本の電線から日本の実体を垣間見て、ジルは冷や汗を流し、ルナに至ってはいろいろ想像してしまい震え上がってしまっている。
 もし、何かの誤解で敵対関係に陥ってしまったらとか考えているのだろうか?

「というか、せっかく薬も届けられたんじゃし、こっちの要件は後日でも良いんじゃないかアルテマよ。ジルさんも一刻も早く治療に向かいたいじゃろうしな」

 異世界の現状を心配し、そう提案してくれる元一だが、

「いや、申し出はありがたいが、これは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》に誓った厳粛な契約なのだ。これをせずして魔法を閉じてしまえば契約違反とみなされ、司る魔神の怒りを招いてしまう」

 アルテマは厳しい顔で説明した。

「司る魔神? ……怒りに触れるとどうなるんじゃ?」
「開門揖盗《デモン・ザ・ホール》を司るのは魔神ヘケト。時空と重力を操る超級悪魔だ。彼女の怒りを呼び起こしたが最後、不履行を働いた術者は一瞬のうちに万力の力に巻かれ、時空の彼方へと飛ばされてしまうだろう」
「そ、そ、そ、それって……ぺしゃんこに押しつぶされてブラックホールへと吸い込まれちゃうってこと……?」

 説明を聞いていたぬか娘がガクガクブルブルと震え上がる。

「うむ、まあそんなところだな。平たく言えば即死だな」

 あっさり言い切るアルテマと、静かにうなずくジル。

「ぜ、全力で力を貸してくだされジルさんや!!」
「そ、そ、そうねそうね、さ、さ、さっさと約束を済ませましょう!! そうしましょう!! てか物騒過ぎない!? 開門揖盗《デモン・ザ・ホール》って!!」
「そりゃ、帝国でも指折りの秘術だからな。術が強力ならその代償も大きいのは世の理《ことわり》よ。本来、そうそう簡単に使って良い術ではないのだ。事態が事態だけにいまは頻繁に使っているが、私も師匠もそれなりに命を張っている」
「そ、そうか……ではこれからは極力使用を控えねばならんな……」

 アルテマの身を案じ、元一が険しい顔で言ってくる。
 その後ろでは節子もその通りだと深く頷いているが、

「もちろん乱用はしない。しかしいましばらくは使っていかねばならないだろう。なに心配するな、要は使い方だ。無茶な約束や、不慮の事故でもない限りそうそう魔神の怒りを買うようなヘマはしないさ」

 アルテマは二人を安心させるように、努めてお気楽に満面の笑みを浮かべて見せる。そして再びケーブルを指差し、

「ささ、師匠、皆に心配をかけぬよう早く契約を済ませてしまいましょう」
『そうですね、大丈夫ですよ皆さま。私とて死にたくはありませんからね、出来もしない約束など軽々しく誓ったりはいたしません。この程度の仕事、たやすくこなして見せましょう』

 微笑むと、ジルは画面の向こうで空間を丸く撫でる。
 と、その軌跡にそって異世界の言葉だろうか、それとも魔法固有の言語なのだろうか、見たこともない文字が光りの帯となり浮かび上がる。

『地の獄に蠢く土の精霊よ、いまこの精を贄に目覚めよ。司りし従属を従え、我の願いに奉ずることを命ずる――――いでよ、ゴーレム』

 ジルが呪文を唱え終わると、光の帯は魔法陣の形を成し、まばゆい緑の光を生み出した。そしてその光は開門揖盗《デモン・ザ・ホール》を介して現世へと通過し、彼女の指し示すケーブルへと絡み始めた。

「「おお……」」

 初めて見るジルの呪文に感動の声を上げる元一たち。
 異世界から時空を越えて届いている事実にも感動する。

 ――――ぱあぁぁぁぁぁぁぁぁ……。

 魔法を受け緑の光を纏ったケーブルは、懐かしのネオン光のように派手に輝き、その瞬きは猛スピードで、遥かに延びる彼方へと川の向こうへと消えていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...