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第81話 アニオタの乱⑬
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『なんと言う事じゃ……。こやつ、こんどこそ……心の隙きを完全に埋めよった……そ、それも異常なまでに強固な精神力で……。くっ……これではさしもの妾も取り憑くこと敵わんわい……』
ルナの魔法(?)により鉄壁のメンタルを復活させたアニオタ。
そんな彼を見て口惜しげにそう呟くと、玉藻前《タマモノマエ》はアルテマたちには何も告げず、闇夜にす~~っと消えていった。
「か……帰って行ったか……?」
「ああ……取り憑く手段が無いとみて、興味を失ったんだろう……。やれやれ、手強い相手だったが、なんとか撃退できたようだな……」
いまだ警戒している元一だが、アルテマはもう大丈夫だと力を抜いた。
とたん、ヘナヘナと座り込んでしまう。
『だ、大丈夫ですか!? みなさん??』
ジルが心配して声をかけてくる。
座り込んでしまったのはアルテマだけじゃない。アニオタ以外の全員も疲れ果て地面にひっくり返ってしまった。
その後、
窮地を救ってくれたジルとルナにお礼を言って、別れを泣き叫ぶアニオタを押さえつけながらアルテマは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の門を閉ざした。
「んのぉぉぉぉぉぉぉおぉぉう!! ル、ル、ル、ルナちゅわぁぁぁぁぁん!! 僕の、僕のルナちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
『あ……あの、で、ではこれで、アニオタ様、ご健闘をお祈り申し上げております』
「ゔぃや~~!! そこはおにいちゃんって言って欲しいでござる~~行かないでほしいでござるぅぅぅぅ!! せめて、せめてもう一度にゃん言葉で話してほしいでござるぅ~~~~~~~~~~っ!!!!」
「ええい、うるさいわい。また今度開いた時に話をさせてやる!! いまはまだそれどころじゃないんだ!! まだあと二人、正気にさせねばならないやつがいるんだからな」
言って暴れるアニオタの頭を押さえつけるアルテマ。
閉ざされる魔法の向こう側で、困りながら手を振っているルナ小隊長。
アニオタはそんな彼女の可愛らしい姿を、最後の一瞬まで目に焼き付けようと消えていく映像を涙も拭かずに見つめていた。
そんなアニオタの赤く腫れた皮膚をさすって、アルテマは一転、申し訳無さそうな顔をする。
「ぐす……ル、ルナちゃん……また、いつか必ず――――て、いたたたた!? あれ、なんか体中が痛いでござるぞ!??」
「……今頃気付いたのかこいつ……お前いま全身大火傷を負っているんだぞ?」
あきれて言う六段。
アルテマの黒炎竜刃《アモン》が焼いた怪我なのだが、しかしあの状態のアニオタを目覚めさせるにはこうするしかなかった事はみんなわかっていた。
だが、仕方なかったとはいえ、恩人の一人に手荒な真似をしてしまった不義理は、アルテマの心をひどく荒立てさせていた。
「……おのれ偽島組……。この私に身内を攻撃させるとは……この礼、後でたっぷりと返してくれるぞ……」
ごごごごご……と怒りの炎を背負い、この騒ぎの原因を作った偽島組とあの営業課長に密かに復讐を誓った。
「あ、でも、少し赤くなってるだけで全然大したことなさそうだよコレ」
アニオタの肌をつんつん突いて、ぬか娘は火傷の具合を確かめる。
六段も皮を引っ張りながら、
「ほんとじゃの。こんなもの、海の砂にでも寝転べばすぐにこうなるわい」
「なんだかんだ言って、ちゃんと手加減してくれてたんだね、よかったねアニオタ」
「まったくじゃ、大げさに痛がりおって」
二人は笑うと、思いっきりアニオタの背中を叩いてやった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 痛い、痛いでござる~~~~~~~~っ!!」
山を下りると、そこにいるはずの飲兵衛と占いさんの姿はどこにもなかった。
「む? ……あいつら見張っておれと言ったのにどこに……」
元一が訝しむと、地面の真ん中に一枚の紙切れが小石を重しに置かれていた。
「書き置きか、どれどれ……」
六段がそれを拾い上げ読んでみる。
そこには飲兵衛の字で、
『モジョとヨウツベが外で暴れ始めたので封印してくる』
「封印? なんじゃそりゃ??」
何のことだと顔を見合わせるアルテマたち。
と――――、
カッ!! バリバリバリバリッ!!!!
山とは反対側の方角から、まばゆいピンクの光が飛んできて辺りを照らした。
あっちにはぬか娘たちの住処である鉄の結束荘がある。
「な……なんじゃあ……あの妙な光は……ま、まさか、占いさんか?」
「……? ……あ、あれは封魔の結界!?」
光が落ち着き、半円形のドーム状に収束していくのを見て、アルテマが驚愕する。
「封魔の結界?? なにそれアルテマちゃん」
「我が国の暗黒魔法の一つで、文字通り悪魔を封印し行動不能にする秘術だ。しかしなぜそれを占いさんが……??」
「ともかく行ってみよう、二人が心配じゃ」
堕天の弓を構え直し、早歩きで進み出す元一。
皆もそれに続き、
「アニオタよ、お前は怪我人なのだからここに残って休んでいろ」
アルテマが振り返り、そう気遣うが、
「じょじょじょ、冗談じゃないよ。ふ、ふ、ふ、二人の事は、ぼ、僕も心配だからついていくでござるよ。……役に立たないかもしれないでござるが……」
下山までに事の顛末を聞いたアニオタは、残された二人をいたく心配していた。
変態だが、根は優しく仲間思いな彼を見て、
「すまんな、この詫びは事が落ち着いたら必ずさせてもらうからな」
アルテマはあらためて頭を下げた。
しかしアニオタは何のことだと目を丸くして、
「お、お、お詫び?? いやいや、ぼ、ぼ、僕は感謝しているのでござるよ? だってルナちゃんに会わせてもらったのでござるからな。ぼ、ぼ、ぼ、僕はアニメ以外の女の子を好きになったのは生まれて始めてなのでござる!! もういまは天にものぼる気持ちなのでござる。火傷とかどうでもいいでござるよ~~~~!!」
そしてパタパタ空を飛ぶ真似をする。
その半分はアルテマを気遣ってのことだと、アルテマ本人も、皆も気付いて苦笑いした。
ルナの魔法(?)により鉄壁のメンタルを復活させたアニオタ。
そんな彼を見て口惜しげにそう呟くと、玉藻前《タマモノマエ》はアルテマたちには何も告げず、闇夜にす~~っと消えていった。
「か……帰って行ったか……?」
「ああ……取り憑く手段が無いとみて、興味を失ったんだろう……。やれやれ、手強い相手だったが、なんとか撃退できたようだな……」
いまだ警戒している元一だが、アルテマはもう大丈夫だと力を抜いた。
とたん、ヘナヘナと座り込んでしまう。
『だ、大丈夫ですか!? みなさん??』
ジルが心配して声をかけてくる。
座り込んでしまったのはアルテマだけじゃない。アニオタ以外の全員も疲れ果て地面にひっくり返ってしまった。
その後、
窮地を救ってくれたジルとルナにお礼を言って、別れを泣き叫ぶアニオタを押さえつけながらアルテマは開門揖盗《デモン・ザ・ホール》の門を閉ざした。
「んのぉぉぉぉぉぉぉおぉぉう!! ル、ル、ル、ルナちゅわぁぁぁぁぁん!! 僕の、僕のルナちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
『あ……あの、で、ではこれで、アニオタ様、ご健闘をお祈り申し上げております』
「ゔぃや~~!! そこはおにいちゃんって言って欲しいでござる~~行かないでほしいでござるぅぅぅぅ!! せめて、せめてもう一度にゃん言葉で話してほしいでござるぅ~~~~~~~~~~っ!!!!」
「ええい、うるさいわい。また今度開いた時に話をさせてやる!! いまはまだそれどころじゃないんだ!! まだあと二人、正気にさせねばならないやつがいるんだからな」
言って暴れるアニオタの頭を押さえつけるアルテマ。
閉ざされる魔法の向こう側で、困りながら手を振っているルナ小隊長。
アニオタはそんな彼女の可愛らしい姿を、最後の一瞬まで目に焼き付けようと消えていく映像を涙も拭かずに見つめていた。
そんなアニオタの赤く腫れた皮膚をさすって、アルテマは一転、申し訳無さそうな顔をする。
「ぐす……ル、ルナちゃん……また、いつか必ず――――て、いたたたた!? あれ、なんか体中が痛いでござるぞ!??」
「……今頃気付いたのかこいつ……お前いま全身大火傷を負っているんだぞ?」
あきれて言う六段。
アルテマの黒炎竜刃《アモン》が焼いた怪我なのだが、しかしあの状態のアニオタを目覚めさせるにはこうするしかなかった事はみんなわかっていた。
だが、仕方なかったとはいえ、恩人の一人に手荒な真似をしてしまった不義理は、アルテマの心をひどく荒立てさせていた。
「……おのれ偽島組……。この私に身内を攻撃させるとは……この礼、後でたっぷりと返してくれるぞ……」
ごごごごご……と怒りの炎を背負い、この騒ぎの原因を作った偽島組とあの営業課長に密かに復讐を誓った。
「あ、でも、少し赤くなってるだけで全然大したことなさそうだよコレ」
アニオタの肌をつんつん突いて、ぬか娘は火傷の具合を確かめる。
六段も皮を引っ張りながら、
「ほんとじゃの。こんなもの、海の砂にでも寝転べばすぐにこうなるわい」
「なんだかんだ言って、ちゃんと手加減してくれてたんだね、よかったねアニオタ」
「まったくじゃ、大げさに痛がりおって」
二人は笑うと、思いっきりアニオタの背中を叩いてやった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 痛い、痛いでござる~~~~~~~~っ!!」
山を下りると、そこにいるはずの飲兵衛と占いさんの姿はどこにもなかった。
「む? ……あいつら見張っておれと言ったのにどこに……」
元一が訝しむと、地面の真ん中に一枚の紙切れが小石を重しに置かれていた。
「書き置きか、どれどれ……」
六段がそれを拾い上げ読んでみる。
そこには飲兵衛の字で、
『モジョとヨウツベが外で暴れ始めたので封印してくる』
「封印? なんじゃそりゃ??」
何のことだと顔を見合わせるアルテマたち。
と――――、
カッ!! バリバリバリバリッ!!!!
山とは反対側の方角から、まばゆいピンクの光が飛んできて辺りを照らした。
あっちにはぬか娘たちの住処である鉄の結束荘がある。
「な……なんじゃあ……あの妙な光は……ま、まさか、占いさんか?」
「……? ……あ、あれは封魔の結界!?」
光が落ち着き、半円形のドーム状に収束していくのを見て、アルテマが驚愕する。
「封魔の結界?? なにそれアルテマちゃん」
「我が国の暗黒魔法の一つで、文字通り悪魔を封印し行動不能にする秘術だ。しかしなぜそれを占いさんが……??」
「ともかく行ってみよう、二人が心配じゃ」
堕天の弓を構え直し、早歩きで進み出す元一。
皆もそれに続き、
「アニオタよ、お前は怪我人なのだからここに残って休んでいろ」
アルテマが振り返り、そう気遣うが、
「じょじょじょ、冗談じゃないよ。ふ、ふ、ふ、二人の事は、ぼ、僕も心配だからついていくでござるよ。……役に立たないかもしれないでござるが……」
下山までに事の顛末を聞いたアニオタは、残された二人をいたく心配していた。
変態だが、根は優しく仲間思いな彼を見て、
「すまんな、この詫びは事が落ち着いたら必ずさせてもらうからな」
アルテマはあらためて頭を下げた。
しかしアニオタは何のことだと目を丸くして、
「お、お、お詫び?? いやいや、ぼ、ぼ、僕は感謝しているのでござるよ? だってルナちゃんに会わせてもらったのでござるからな。ぼ、ぼ、ぼ、僕はアニメ以外の女の子を好きになったのは生まれて始めてなのでござる!! もういまは天にものぼる気持ちなのでござる。火傷とかどうでもいいでござるよ~~~~!!」
そしてパタパタ空を飛ぶ真似をする。
その半分はアルテマを気遣ってのことだと、アルテマ本人も、皆も気付いて苦笑いした。
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