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第79話 アニオタの乱⑪

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『邪魔だぞえ』

 ――――バキャンッ!!
 立ちふさがるアルテマを、その尻尾で軽々なぎ払う玉藻前《タマモノマエ》。

「ぐぅ!?」
「アルテマ!?」

 吹き飛ばされたアルテマはその一撃を何とか竹刀で受け止め、直撃だけはまぬがれたが竹刀にかけてあった加護のオーラは砕け散ってしまった。
 茂みのクッションに受け止められ、怪我なく着地したアルテマだったが、消された加護を見て無念に歯を食いしばる。

 ――――くそう!! やはりいまの私では玉藻前《こいつ》を止めることは出来んか!?

 勝てないことを悟ったアルテマと、その思いを見抜いた玉藻前《タマモノマエ》。
 玉藻前《タマモノマエ》は竦《すく》んでしまっているアルテマの隙きを付いて、眠っているアニオタへと滑るように近づき、

『では、頂くぞえ♡』
 
 ぶちゅっ。
 舌なめずりをペロリ、アニオタの口へと吸い付いた。
 するとその接点を中心に、玉藻前《タマモノマエ》とアニオタの身体が徐々に同化していく。

「くっ!! まずいっ!!」

 竦んでしまった足を殴りつけ、アルテマは二人に飛びかかった。

 このまま同化させてしまっては、アニオタの意識は奴に取り込まれてしまい二度と目覚めさせることはできなくなる。そして実体を得た玉藻前《タマモノマエ》はアニオタの身体を使って己の欲望を晴らしまくるだろう。
 その体が壊れるまで。

 ……アニオタにしてみれば、もしかすると本望なのかもしれないが。

「だがそんなことは絶対にさせん!! ――――魔呪浸刀《レリクス》!!」

 アニオタを心配、というかその被害に合う誰かのおなごためにアルテマは玉藻前《タマモノマエ》の背中に組み付いた。

 バキ、ドカ、ドスンッ!!

『無駄じゃ無駄じゃ、妾は一度吸い付いたら絶対に離れんぞえ? このまま此奴の魂、吸い付くしてくれようぞ!!』

 組み付いたまま、再び加護を纏った拳で足で殴る蹴るを続けるアルテマだが玉藻前《タマモノマエ》の体には一筋の傷さえつかない。

 やはりレベルの差は歴然か。

 ならばと考えを変え、アルテマはその標的をアニオタへと変える。
 彼の腕をぶにょんと握ると、

「少々手荒くやらせてもらうぞ、目を覚ませアニオタよ!! 黒炎竜刃《アモン》!!」

 ――――ゴッ!!!!
 唱え、ゼロ距離で発動する黒炎魔法。
 瞬時に黒い炎に包まれるアルテマにアニオタ、そして玉藻前《タマモノマエ》。

「「アルテマ!?」」

 突然の自爆攻撃に元一と六段は慌て、近寄ろうとするが、その業火の熱に阻まれ立ちすくむ。
 偽島組の連中に放ったそれよりも、さらに一段階、熱が上がっている。

「バカな!? 何をしとるんじゃアルテマ!??」

 業火の中にいるアルテマに呼びかけるが、彼女からの返事はない。
 まさか、自身を道連れに退治するつもりか!??
 しかし、

『ほっほっほっほ、なんじゃこのチンケな炎は? こんなもので妾を仕留めるつもりかえ? 無駄じゃ無駄じゃ、無駄だと言っておるのじゃ、こんなもの、夏の夜風の方がまだ熱いわ。ほ~~~~~~ほっほっほ』

 代わりに聞こえてきたのは玉藻前《タマモノマエ》の余裕の笑い声。
 炎に滲んでよく見えないが、その体はもうほとんどアニオタと同化しているように見えた。

「くそっ!!」

 一か八か、弓を引き絞る元一。
 アルテマの剣撃と魔法をくらっても、まるで効果のない相手に自分の弓が通用するとは思えない。しかし黙って見てもいられない。
 だけどもその時、

「ぎ……? ぎやぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!??? あ、熱い!?? 熱い!! 熱いでござるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!???」

 業火の熱に気がついて、アニオタが目を覚ました。
 同時に、

「いまだ、師匠!! 例のものを!!」

 これまでズッと固唾を飲んでいたジルに、業火の中のアルテマが呼びかけた!!

『はい、待ってましたよアルテマ!! ではお入りなさい!!』

 さあ出番だとばかりに準備していたモノを呼び込むジル。
 すると――――世界を隔てた向こうの部屋に、一人の可憐な少女が現れた。

「なっ!?」
「なっ!??」
「さあ、見ろ!! 見るんだアニオタよ!!」

 何が始まると困惑する元一と六段。
 炎に包まれながらアルテマは、叫ぶアニオタの首を無理やりその少女の方へ向け、目を開かせる。

「ぎ、ぎ、ぎ、ぎゃあぁぁぁあ熱いでござるぎやあぁぁ――――って、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ????????」

 アニオタの目に映ったその少女は、年の頃なら16,7歳。
 くるりとカールのかかった茶色い巻き毛に、形の良い豊満な胸、キュッと上がったお尻にくびれたウエスト。
 そして何より最強アイテム。

『はい、ご要望の品、猫耳(尻尾付き)美少女です。アニオタ様、どうかお納め下さいませ』

 怪しいお店の女将の如く、丁寧に三指立ててお辞儀するジル。
 恥ずかしそうにおずおずと、上目遣いでか弱くあざとく、その娘は正面に立つと、

『ア、アニオタ様、お初に……あ、いえ…え~~と……その……。お、お、おにーちゃん、わたし猫耳族のルナだよ、はじめまして……です、だにゃん♡』

 と、真っ赤な顔でぎこちなく笑った。
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