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第71話 アニオタの乱③
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日もとっぷりと暮れた夜の初め。
裏山の登山口にはアルテマ、ぬか娘、六段、に加え元一と飲兵衛、それに占いさんまで集まって顔を見合わせていた。
あの後、アニオタを追って集落中を走り回ったアルテマだが、予想以上に早く逃げ回る彼になかなか追いつけず、とうとう裏山に逃げ込まれてしまった。
一旦の休憩と食事を取りに戻ったアルテマたちは他のメンバーに事情を説明し、夕飯の後、ここに集まったのだ。
「まったく……何をやっとるんじゃお前らは……」
事情を聞いた元一が何度目かのため息を吐き、山を見上げた。
アニオタが馬鹿なのは元より承知だったが、それと同レベルではしゃいでるこいつらも同類だと言いたげだ。
「いや、ワシは……その……反対したんじゃぞ?」
「私は……まだアニオタというモノの生態を掴みかねておったからな、とりあえず様子を見ていただけなのだが……」
「ひっどーい二人とも!! あたしだけのせいにしようとしている!!」
「事実そうだろうが」
「いやでもあの場合そうするしかなかったんだよ!! それともアニオタとキスする覚悟で取っ組み合いできたっていうの!?」
「……できるわけないだろう」
「まあまあ、そのへんにしときや。ここでモメとっても何にもならへん。それより早いとこあいつをとっ捕まえて、薬を手配させんとな……ヒック」
「うむ、その通りじゃ。こうしている間にもジルは汚れながらも待っているのじゃからな」
やいやいモメる三人を飲兵衛と占いさんがなだめにかかった。
占いさんに手には大事そうに退魔の杖が握られていた。
三人を大人しくさせると彼女はその杖で地面に不思議な古代文字を描き始める。
「なんだその文字は? 魔力? いや、法力か? が込められているようだが?」
見たこともない文字がつらつらと走り、やがて円を結ぶ。
その不思議な文字一つ一つに込められた魔力にも似た、しかし少しだけ違う力を感じ、アルテマは興味をもつ。
「……これは陰陽道の一つで『詮陣《せんじん》の円』という。大きな気配をもつ物の怪の居場所を探すのに用いられた古代日本の秘術じゃよ」
「陰陽道……こちらの世界の魔法か!?」
「……そうじゃな、そんなもんじゃ」
「占いさん、陰陽道なんて使えるの!?」
円陣と占いさんの顔を交互に見ておどろくぬか娘。
ボケた状態しか知らない彼女にとって、いまの占いさんはまるで別人に見えた。
「少しな。日本の占いと言えば古来より陰陽道が主導じゃからの。ほかの流派も多少はかじったが、やはりコレが一番使いやすい」
言って術を完成させると、文字で描かれた円が紫色に輝き始めた。
「な……なんじゃこれは、すごいな……占いさん、あんた昔でもここまでは出来んかったんじゃないか?」
元一と六段、飲兵衛も驚いてその術の光を覗き込む。
かつての占いさんも陰陽道《それ》らしいことをやってはいたが、こんなにはっきりと、目に見えるほどの不思議を作れるほどではなかった。それがいまの彼女はまるでアルテマの魔法でも見ているかのように見事な術を使いこなせている。
「……この杖のおかげじゃな。これを手にしていると……まるで二十代の頃のようにふつふつと力が湧き上がってくる。たいした値打ち物じゃよ、これは」
言って大切そうに退魔の杖をさする占いさん。
「うむ。その杖は術者の魔力を倍増させる効果のある希少な品だからな。帝国でも欲しがる魔術師はごまんといるぞ?」
「そうじゃろうそうじゃろう。だがもう返せと言われても返さんぞ? これはもう私の宝物じゃからな、かっかっか!!」
心底嬉しそうに笑う。
と、光る円の中にさらに光る星が一つ浮かび上がった。
「む? この印は?」
円の中のほぼ中央に浮き出てきた、赤い光りを目に映し尋ねるアルテマ。
「うむ。これは、この円がこの山全体を指す。そしてこの赤が物の怪……つまりアニオタの居場所となるのじゃ。この位置じゃと恐らく……あの龍穴の祠の辺りじゃろうな」
「物の怪って……」
ひどい言われようだなと困り顔をするぬか娘だが、しかしあれはそう言われても仕方がない暴走っぷりなので……まぁ納得する。。
「よし、居場所がわかったのならこっちのものじゃ。皆で囲って縛り上げるぞ。よいかお前たち!?」
堕天の弓を背負い、手には野獣捕獲用の網を持って元一が号令をかける。
「「おお!!」」
指をボキボキ鳴らしてそれに応える六段とアルテマ。
「占いさんと飲兵衛は、奴が逃げ出したときのためにここで待ち伏せていてくれ。いちおう護身用の武器は飲兵衛、おぬしに渡しておこう」
言って愛用の狩猟用ライフルを渡す元一。
「あ、あほか!! こんなもんワシはよう使わんし、使うわけにもいかんやろ!?」
「柄で殴れ。それだけでも充分威力がある」
「いやいやいやいや……酔いも覚めるわ……」
「……あのう……私も行くの……?」
おずおずと手を上げるぬか娘。
アルテマ、元一、六段の前衛戦闘トリオはわかるが、非力でか弱い私が行ってもしょうがないのでは……という目でうるうると元一を見つめる。
「この山を知り尽くしているワシと六段は、側面の獣道からヤツを追い詰める。お前はアルテマとともにこの登山道を上ってくれ。なにかあればこれを使え」
だが、元一は有無を言わさず木刀を渡してきた。
「えええ~~~~……」
占いさんの言う通り、異世界ではいまもジルが大変な思いをして待っている。
こんなところでマゴマゴもたついている場合ではないのだぞ、とのイラつきが伝わってくる。
それにこの暗い山道を幼姿のアルテマ一人で歩かせるのもなんだか不安というか……絵面がヤバい。
「うううぅぅぅ……わ、わかりましたよぉ~~……」
半べそをかきながらも、ぬか娘は観念して木刀を受け取った。
裏山の登山口にはアルテマ、ぬか娘、六段、に加え元一と飲兵衛、それに占いさんまで集まって顔を見合わせていた。
あの後、アニオタを追って集落中を走り回ったアルテマだが、予想以上に早く逃げ回る彼になかなか追いつけず、とうとう裏山に逃げ込まれてしまった。
一旦の休憩と食事を取りに戻ったアルテマたちは他のメンバーに事情を説明し、夕飯の後、ここに集まったのだ。
「まったく……何をやっとるんじゃお前らは……」
事情を聞いた元一が何度目かのため息を吐き、山を見上げた。
アニオタが馬鹿なのは元より承知だったが、それと同レベルではしゃいでるこいつらも同類だと言いたげだ。
「いや、ワシは……その……反対したんじゃぞ?」
「私は……まだアニオタというモノの生態を掴みかねておったからな、とりあえず様子を見ていただけなのだが……」
「ひっどーい二人とも!! あたしだけのせいにしようとしている!!」
「事実そうだろうが」
「いやでもあの場合そうするしかなかったんだよ!! それともアニオタとキスする覚悟で取っ組み合いできたっていうの!?」
「……できるわけないだろう」
「まあまあ、そのへんにしときや。ここでモメとっても何にもならへん。それより早いとこあいつをとっ捕まえて、薬を手配させんとな……ヒック」
「うむ、その通りじゃ。こうしている間にもジルは汚れながらも待っているのじゃからな」
やいやいモメる三人を飲兵衛と占いさんがなだめにかかった。
占いさんに手には大事そうに退魔の杖が握られていた。
三人を大人しくさせると彼女はその杖で地面に不思議な古代文字を描き始める。
「なんだその文字は? 魔力? いや、法力か? が込められているようだが?」
見たこともない文字がつらつらと走り、やがて円を結ぶ。
その不思議な文字一つ一つに込められた魔力にも似た、しかし少しだけ違う力を感じ、アルテマは興味をもつ。
「……これは陰陽道の一つで『詮陣《せんじん》の円』という。大きな気配をもつ物の怪の居場所を探すのに用いられた古代日本の秘術じゃよ」
「陰陽道……こちらの世界の魔法か!?」
「……そうじゃな、そんなもんじゃ」
「占いさん、陰陽道なんて使えるの!?」
円陣と占いさんの顔を交互に見ておどろくぬか娘。
ボケた状態しか知らない彼女にとって、いまの占いさんはまるで別人に見えた。
「少しな。日本の占いと言えば古来より陰陽道が主導じゃからの。ほかの流派も多少はかじったが、やはりコレが一番使いやすい」
言って術を完成させると、文字で描かれた円が紫色に輝き始めた。
「な……なんじゃこれは、すごいな……占いさん、あんた昔でもここまでは出来んかったんじゃないか?」
元一と六段、飲兵衛も驚いてその術の光を覗き込む。
かつての占いさんも陰陽道《それ》らしいことをやってはいたが、こんなにはっきりと、目に見えるほどの不思議を作れるほどではなかった。それがいまの彼女はまるでアルテマの魔法でも見ているかのように見事な術を使いこなせている。
「……この杖のおかげじゃな。これを手にしていると……まるで二十代の頃のようにふつふつと力が湧き上がってくる。たいした値打ち物じゃよ、これは」
言って大切そうに退魔の杖をさする占いさん。
「うむ。その杖は術者の魔力を倍増させる効果のある希少な品だからな。帝国でも欲しがる魔術師はごまんといるぞ?」
「そうじゃろうそうじゃろう。だがもう返せと言われても返さんぞ? これはもう私の宝物じゃからな、かっかっか!!」
心底嬉しそうに笑う。
と、光る円の中にさらに光る星が一つ浮かび上がった。
「む? この印は?」
円の中のほぼ中央に浮き出てきた、赤い光りを目に映し尋ねるアルテマ。
「うむ。これは、この円がこの山全体を指す。そしてこの赤が物の怪……つまりアニオタの居場所となるのじゃ。この位置じゃと恐らく……あの龍穴の祠の辺りじゃろうな」
「物の怪って……」
ひどい言われようだなと困り顔をするぬか娘だが、しかしあれはそう言われても仕方がない暴走っぷりなので……まぁ納得する。。
「よし、居場所がわかったのならこっちのものじゃ。皆で囲って縛り上げるぞ。よいかお前たち!?」
堕天の弓を背負い、手には野獣捕獲用の網を持って元一が号令をかける。
「「おお!!」」
指をボキボキ鳴らしてそれに応える六段とアルテマ。
「占いさんと飲兵衛は、奴が逃げ出したときのためにここで待ち伏せていてくれ。いちおう護身用の武器は飲兵衛、おぬしに渡しておこう」
言って愛用の狩猟用ライフルを渡す元一。
「あ、あほか!! こんなもんワシはよう使わんし、使うわけにもいかんやろ!?」
「柄で殴れ。それだけでも充分威力がある」
「いやいやいやいや……酔いも覚めるわ……」
「……あのう……私も行くの……?」
おずおずと手を上げるぬか娘。
アルテマ、元一、六段の前衛戦闘トリオはわかるが、非力でか弱い私が行ってもしょうがないのでは……という目でうるうると元一を見つめる。
「この山を知り尽くしているワシと六段は、側面の獣道からヤツを追い詰める。お前はアルテマとともにこの登山道を上ってくれ。なにかあればこれを使え」
だが、元一は有無を言わさず木刀を渡してきた。
「えええ~~~~……」
占いさんの言う通り、異世界ではいまもジルが大変な思いをして待っている。
こんなところでマゴマゴもたついている場合ではないのだぞ、とのイラつきが伝わってくる。
それにこの暗い山道を幼姿のアルテマ一人で歩かせるのもなんだか不安というか……絵面がヤバい。
「うううぅぅぅ……わ、わかりましたよぉ~~……」
半べそをかきながらも、ぬか娘は観念して木刀を受け取った。
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