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第69話 アニオタの乱①
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「チサトたぁ~~~~ん……メイペルたぁ~~~~ん……き、き、き、君たちに会えないと、ぼぼぼ、僕のピーーがピーーになってピーーがピーーのぴるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるうんっ!!!!」
そしてギッコンバッタン。
訳のわからない台詞を喚き散らし、古校舎の板張り廊下を飛び跳ね泳ぐアニオタ。
腹で床板を弾いて手足をバタつかせるそれはバタフライのつもりだろうか? それとも別の何かだろうか? 人生経験の浅いぬか娘はとりあえず前者と解釈した。
そんな判断を心底どうでもいいと頬を引くつかせながら、六段はその光景を見ていた。
六段とぬか娘、そしてアルテマは鉄の結束荘の玄関に集まり顔を見合わせている。
「これは……思った以上に荒んどるの……」
「うん……たぶん好きな深夜アニメが見れなくなったからその影響だと思う」
「CA放送チャンネルか?」
「うん。ここ田舎だからケーブルTV無しじゃ4局しか入らないんだよね。アニオタの観たいアニメはほとんどCA放送になるから……」
「で、あの有り様か?」
「聞きたいのだが、なぜそのアニメとやらを観れないと床を飛び跳ねねばならなくなるのだ? これはこの世界独特の奇病か、それとも呪いの一種か?」
真剣な顔でアルテマが二人に尋ねるが、
「んなわけないわい」
「絶対違うよ?」
即座に否定されてしまう。
「テレビがダメなら携帯で観られんのか? ほれ、今流行の『鯖すく』とやらがあるだろうが?」
「サブスク、ね。そうなんだけど、私たち貧乏だからお金払えないんだよ。ケーブルTVの料金も四人で割り勘してるくらいだしね」
二人の会話についていけないアルテマ。
何も出来ぬまま、奇声を上げて跳ね去っていくアニオタを静かに見送った。
するとそれと入れ替わるように、廊下の奥からヨウツベが幽霊のごとくトボトボと現れた。
「……ど、動画……を……編集……しないと……でも、繋がらない……観れない……上げれない……コメントも返せない……ごめんなさい……ごめんなさい」
ブツブツと呟きながら、夢遊病患者のように身体を壁にこすりつけている。
そしてなぜが顔中がベタベタで、そこかしこにキスマークが付いていた。
その意味はさっぱり解らないが、ともかく普段はこいつが一番まともだと密かに評価していたアルテマだが、この様子を見るとその順位も変更せねばなるまい。
「で、あいつはどうしてこうなった?」
呆れの汗を流しつつ、ぬか娘に聞いてみるアルテマ。
「ヨウツベさんは動画投降が趣味でね。その編集もネット回線を通じてやってるんだけど……繋がらなくなったせいで何も出来なくなったみたいなの。投稿仲間との連絡や視聴者へのコメント返しも全部出来なくなって人生詰んだって叫んでた」
「……最近の若いもんは、それしきで人生が終わるのか」
呆れ九割、同情一割の目で見る六段。
その頭上に「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」と言う叫声ともにバンバンと何かを叩く音、そしてその振動で舞い落ちてくる埃が降ってきた。
「……今度はモジョか……やれやれ本当に最近の若いもんは……」
「モジョはゲームだね。MMORPGやFPS対戦がモジョの生き甲斐でアイデンティティーだったから、それを絶たれて暴れてるのよね」
「いや、意味がわからん」
「いまのモジョは魂の抜かれた抜け殻。彼女の理性は回線の向こう側に置き去りになって、それを連れ戻すにはもう一度世界との扉を開く必要があるわ」
「謎掛け風に言うな。普通でもわからんのに余計わかりづらいわ」
頭を抱える六段に、深く同意するアルテマ。
彼女に至ってはこの状況が終始理解できない。
ただ一つわかることは。
ジルの元へと送らねばならない数百人分の薬剤は、アニオタの手を借りないと手に入れられないということだけだ。
いや、後先を考えなければ方法はいくらでもあるのだが、それだとこちらの世界の色々な規則に触れてしまう恐れが出てくるので、ことを穏便かつ円滑に進めるにはアニオタの隠匿スキルが必要なのだという。
「まあ、ほかの二人はほっとくとして。アニオタだけは正気に戻さねばならん。その為の策があると言っていたが?」
そう言って見上げてくるアルテマに「まかせて」と胸を叩くぬか娘。
そして背中から長い釣り竿をヌッと引き抜くと、
「六段、アレ持ってきてくれた?」
「う……うむ。持ってはきたが……」
六段は苦い顔をして懐からソレを取りだす。
それはチャック付きのビニール袋に入った一枚の布切れ。
前回、開門揖盗《デモン・ザ・ホール》でジルと交換した『猫耳美少女の脱ぎたてパンツ』だった。
「……そ、そんなものまだ持っていたのか」
水色しましまの可愛い美少女パンツと、いかつい強面顔の六段。
その不釣り合いな絵面にドン引きするアルテマ。
「仕方ないだろう、ふしだらだが異世界の品だ。不用意に捨てるわけにはいかん。だから止む終えずこうして厳重に保管しておったのだ」
武人の恥とばかりに鼻にシワを寄せまくり、言い訳をする六段。
アニオタが望み、即座に没収した品だが、廃棄することもできず厳重にラップに包んで袋に保管していたようだ。
おかげで状態はすこぶる良好(?)そうである。
「おっけ~♪ これこれ、これが欲しかったのよ~~♪」
その花の香がただようお宝を開封し、おもむろに釣り針を通し始めるぬか娘。
「……なにをするつもりだ?」
とのアルテマの質問に、
「そりゃあ、ここまできたらわかるでしょ?」
と、にっこり笑ってウインクする。
そして竿を振りかぶり、
「えい」
ひるるるるるるるるる――ポテ。
勢いよく振ると猫耳美少女の脱ぎたてパンツは廊下の真ん中に神々しく鎮座した。
そしてギッコンバッタン。
訳のわからない台詞を喚き散らし、古校舎の板張り廊下を飛び跳ね泳ぐアニオタ。
腹で床板を弾いて手足をバタつかせるそれはバタフライのつもりだろうか? それとも別の何かだろうか? 人生経験の浅いぬか娘はとりあえず前者と解釈した。
そんな判断を心底どうでもいいと頬を引くつかせながら、六段はその光景を見ていた。
六段とぬか娘、そしてアルテマは鉄の結束荘の玄関に集まり顔を見合わせている。
「これは……思った以上に荒んどるの……」
「うん……たぶん好きな深夜アニメが見れなくなったからその影響だと思う」
「CA放送チャンネルか?」
「うん。ここ田舎だからケーブルTV無しじゃ4局しか入らないんだよね。アニオタの観たいアニメはほとんどCA放送になるから……」
「で、あの有り様か?」
「聞きたいのだが、なぜそのアニメとやらを観れないと床を飛び跳ねねばならなくなるのだ? これはこの世界独特の奇病か、それとも呪いの一種か?」
真剣な顔でアルテマが二人に尋ねるが、
「んなわけないわい」
「絶対違うよ?」
即座に否定されてしまう。
「テレビがダメなら携帯で観られんのか? ほれ、今流行の『鯖すく』とやらがあるだろうが?」
「サブスク、ね。そうなんだけど、私たち貧乏だからお金払えないんだよ。ケーブルTVの料金も四人で割り勘してるくらいだしね」
二人の会話についていけないアルテマ。
何も出来ぬまま、奇声を上げて跳ね去っていくアニオタを静かに見送った。
するとそれと入れ替わるように、廊下の奥からヨウツベが幽霊のごとくトボトボと現れた。
「……ど、動画……を……編集……しないと……でも、繋がらない……観れない……上げれない……コメントも返せない……ごめんなさい……ごめんなさい」
ブツブツと呟きながら、夢遊病患者のように身体を壁にこすりつけている。
そしてなぜが顔中がベタベタで、そこかしこにキスマークが付いていた。
その意味はさっぱり解らないが、ともかく普段はこいつが一番まともだと密かに評価していたアルテマだが、この様子を見るとその順位も変更せねばなるまい。
「で、あいつはどうしてこうなった?」
呆れの汗を流しつつ、ぬか娘に聞いてみるアルテマ。
「ヨウツベさんは動画投降が趣味でね。その編集もネット回線を通じてやってるんだけど……繋がらなくなったせいで何も出来なくなったみたいなの。投稿仲間との連絡や視聴者へのコメント返しも全部出来なくなって人生詰んだって叫んでた」
「……最近の若いもんは、それしきで人生が終わるのか」
呆れ九割、同情一割の目で見る六段。
その頭上に「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」と言う叫声ともにバンバンと何かを叩く音、そしてその振動で舞い落ちてくる埃が降ってきた。
「……今度はモジョか……やれやれ本当に最近の若いもんは……」
「モジョはゲームだね。MMORPGやFPS対戦がモジョの生き甲斐でアイデンティティーだったから、それを絶たれて暴れてるのよね」
「いや、意味がわからん」
「いまのモジョは魂の抜かれた抜け殻。彼女の理性は回線の向こう側に置き去りになって、それを連れ戻すにはもう一度世界との扉を開く必要があるわ」
「謎掛け風に言うな。普通でもわからんのに余計わかりづらいわ」
頭を抱える六段に、深く同意するアルテマ。
彼女に至ってはこの状況が終始理解できない。
ただ一つわかることは。
ジルの元へと送らねばならない数百人分の薬剤は、アニオタの手を借りないと手に入れられないということだけだ。
いや、後先を考えなければ方法はいくらでもあるのだが、それだとこちらの世界の色々な規則に触れてしまう恐れが出てくるので、ことを穏便かつ円滑に進めるにはアニオタの隠匿スキルが必要なのだという。
「まあ、ほかの二人はほっとくとして。アニオタだけは正気に戻さねばならん。その為の策があると言っていたが?」
そう言って見上げてくるアルテマに「まかせて」と胸を叩くぬか娘。
そして背中から長い釣り竿をヌッと引き抜くと、
「六段、アレ持ってきてくれた?」
「う……うむ。持ってはきたが……」
六段は苦い顔をして懐からソレを取りだす。
それはチャック付きのビニール袋に入った一枚の布切れ。
前回、開門揖盗《デモン・ザ・ホール》でジルと交換した『猫耳美少女の脱ぎたてパンツ』だった。
「……そ、そんなものまだ持っていたのか」
水色しましまの可愛い美少女パンツと、いかつい強面顔の六段。
その不釣り合いな絵面にドン引きするアルテマ。
「仕方ないだろう、ふしだらだが異世界の品だ。不用意に捨てるわけにはいかん。だから止む終えずこうして厳重に保管しておったのだ」
武人の恥とばかりに鼻にシワを寄せまくり、言い訳をする六段。
アニオタが望み、即座に没収した品だが、廃棄することもできず厳重にラップに包んで袋に保管していたようだ。
おかげで状態はすこぶる良好(?)そうである。
「おっけ~♪ これこれ、これが欲しかったのよ~~♪」
その花の香がただようお宝を開封し、おもむろに釣り針を通し始めるぬか娘。
「……なにをするつもりだ?」
とのアルテマの質問に、
「そりゃあ、ここまできたらわかるでしょ?」
と、にっこり笑ってウインクする。
そして竿を振りかぶり、
「えい」
ひるるるるるるるるる――ポテ。
勢いよく振ると猫耳美少女の脱ぎたてパンツは廊下の真ん中に神々しく鎮座した。
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