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第59話 偽島組①
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……ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご。
激しい振動とともに荒いエンジン音が聞こえてくる。
ガシャンガシャンという金属がぶつかり合う音と「オーライオーライ!!」と、遠慮のない作業員の叫び声も響いてきて、昨夜も徹夜でネット対戦をしていたモジョはうるさそうに寝返りをうつ。
時刻は朝の8時を少し回った頃。
側のオンボロソファーで寝ていたぬか娘もしばらく耳を塞いでモゾモゾ蠢いていたが、
「…………?…………っ!?」
やがて異変に気が付くと、ガバッっと飛び起き窓に張り付いた。
「……な、な、な…………!?」
窓から見える校庭には、いつの間にかコンクリートや鉄筋資材が山ほど積まれ、クレーン車など工事用重機がグラウンドの土を巻き上げながら移動していた。
「ちょちょちょ、ちょっとモジョ、起きて起きて、大変、大変だよ!!」
その光景に驚き、すっかり目を覚ましてしまったぬか娘はペシペシペシとモジョの頬を連打して夏布団をめくる。
「……んぁ~~~~ぁんだぁ? アンジュルージュのやつらがぁ……リベンジしてきたのかぁ……いいだろうよ~~……やってやんよぉぉぉぉぉぉ……」
転がり寝ぼけ起きたモジョは、枕元に常設してあるマウスとキーボードに両手を置いて臨戦態勢を整えた。
「違う違う、そりゃ昨日あんたがボコボコにしてたフランスのチームでしょう? そうじゃなくて校庭が大変なのよ、なんか知らない人たちが色んなモノ運んで来てるのよ!!」
「ちょっとちょっと、何ですかこれは!? 急に敷地内に入ってきて勝手に何やってるんですかあなた達はっ!?」
騒音に起きたのはモジョたちだけではなかった。
ヨウツベとアニオタも寝ぼけ眼をこすりながら校庭に出てきていた。
奮然と文句を言ってくるパジャマ姿の男二人に、黄色いヘルメットをかぶった現場監督らしき中年男が振り向く。
「……ああ、おはようございます。こちらの住人の方ですね? お知らせしました通り、今日から1ヶ月間、こちらの広場を作業用資材置き場に使わせて頂きますのでよろしくお願いします」
満面の笑みを浮かべて握手を求めてきた。
「え、あ、はい……よ、よろしくお願いしますぅぅぅぅぅ~~~~~~じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!」
危うくつられて握手をしそうになったヨウツベは、ギリギリのところでその手を振り払った。
監督は『?』な顔でヨウツベを見る。
「そうじゃなくて!! 勝手に何やってんですかって言ってるんですよ!! ここは僕たちの共同住まいの土地なんで、無断で勝手なことしてもらっちゃ困ります!!」
ヨウツベの剣幕に『ああ、またこの手のクレームか』とうんざりした顔で監督はため息を吐くと、
「そう言われましてもねぇ、こっちも契約に従って動いているんですよ。苦情は依頼主の方にお願い出来ませんかねえ?」
と、聞く耳を持たない態度でそっぽを向いた。
「依頼主って……」
「村長さんですよ、あなた方の」
そう答えたのは現場監督ではなく、昨日の席にいたあの七三髪の営業マンだった。
その男は眼鏡をキラリと光らせると、
「この土地を資材置き場に使うことは、昨日お渡しした契約書に書いてあったはずです。……承知されているはずですか?」
ヨウツベたちをバカにしたように半笑いを浮かべる。
「承知も何も……そんなことどこにも書いてなかったし、そもそも契約自体、僕たちは承諾してませんよ!!」
「おやぁ? そうですか……おかしいですねぇ。まぁ、昨日用意したのは原本ではなく、適当にまとめた資料でしたからいくつか漏れがあったのでしょうね。しかし、向こう1ヶ月間、この広場の使用権はたしかに我々にあります。これは町議会及び村長と交わした正式な契約です。必要とあらば後でいくらでも確認しておいてください」
淡々と一方的な説明をし、七三眼鏡は懐から名刺を取り出す。
「申し遅れました。私、株式会社『偽島組《ぎしまぐみ》』営業課長の偽島 誠《まこと》と申します。以後よろしくお願い致します」
丁寧にそれを差しだすと、形だけは礼儀正しく深く頭を下げた。
ヨウツベとアニオタはその名前を唖然と見つめながら、
「い、いや、だけど契約って……ここに住んでいる僕らになんの話も許可もなく、そんな事を言われても納得できないですよ、あまりに横暴だ!!」
食い下がり、文句を言うヨウツベに『やれやれ面倒臭い』というため息を隠そうともせず偽島は言った。
「……あなた方、確か……ここにはタダ同然で住んでいらっしゃるとお聞きしましたけれど?」
「そ、そ、そうですが。それが何か? 関係あるんですか!?」
「いえ……ただ、そんなあなた方に援助をしておられるNPO法人……そちらの方とも、なんならお話してもいいかなと思いましてね?」
「どういうことですか?」
ヨウツベの強張った顔を見て偽島はクククと笑う。
「いえね、メガソーラーの管理室も建てなければいけないんですが……こちらの建物……かなり傷んでいますが、その程度なら使えるかなと思いましてね」
「な、な……!?」
「築何十年ですかねえ? 新たに小屋を作る金額を考えれば……充分買い取れると思いますよ? 補修費を込めてもお釣りが来るかも知れません。さて、そうなるとここの住人には出ていってもらわねばいけなくなりますが?」
笑いをそのままに、ヨウツベに態度の改善を目で要求する偽島。
「……ひ……卑怯だぞ……」
相手の出方を理解し、自分たちではとうてい太刀打ちできない事も悟ったヨウツベは悔しさに肩を震わせ唇を噛む。
その負け犬顔を眺めて偽島は満足げにバカにした笑いを深めるが―――そこに、
「どうした、ヨウツベ。戦う前から押されていては勝てる戦も勝てなくなるぞ?」
赤黒いオーラをメラメラと纏《まと》ったアルテマが怒りの表情とともに現れた。
激しい振動とともに荒いエンジン音が聞こえてくる。
ガシャンガシャンという金属がぶつかり合う音と「オーライオーライ!!」と、遠慮のない作業員の叫び声も響いてきて、昨夜も徹夜でネット対戦をしていたモジョはうるさそうに寝返りをうつ。
時刻は朝の8時を少し回った頃。
側のオンボロソファーで寝ていたぬか娘もしばらく耳を塞いでモゾモゾ蠢いていたが、
「…………?…………っ!?」
やがて異変に気が付くと、ガバッっと飛び起き窓に張り付いた。
「……な、な、な…………!?」
窓から見える校庭には、いつの間にかコンクリートや鉄筋資材が山ほど積まれ、クレーン車など工事用重機がグラウンドの土を巻き上げながら移動していた。
「ちょちょちょ、ちょっとモジョ、起きて起きて、大変、大変だよ!!」
その光景に驚き、すっかり目を覚ましてしまったぬか娘はペシペシペシとモジョの頬を連打して夏布団をめくる。
「……んぁ~~~~ぁんだぁ? アンジュルージュのやつらがぁ……リベンジしてきたのかぁ……いいだろうよ~~……やってやんよぉぉぉぉぉぉ……」
転がり寝ぼけ起きたモジョは、枕元に常設してあるマウスとキーボードに両手を置いて臨戦態勢を整えた。
「違う違う、そりゃ昨日あんたがボコボコにしてたフランスのチームでしょう? そうじゃなくて校庭が大変なのよ、なんか知らない人たちが色んなモノ運んで来てるのよ!!」
「ちょっとちょっと、何ですかこれは!? 急に敷地内に入ってきて勝手に何やってるんですかあなた達はっ!?」
騒音に起きたのはモジョたちだけではなかった。
ヨウツベとアニオタも寝ぼけ眼をこすりながら校庭に出てきていた。
奮然と文句を言ってくるパジャマ姿の男二人に、黄色いヘルメットをかぶった現場監督らしき中年男が振り向く。
「……ああ、おはようございます。こちらの住人の方ですね? お知らせしました通り、今日から1ヶ月間、こちらの広場を作業用資材置き場に使わせて頂きますのでよろしくお願いします」
満面の笑みを浮かべて握手を求めてきた。
「え、あ、はい……よ、よろしくお願いしますぅぅぅぅぅ~~~~~~じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!」
危うくつられて握手をしそうになったヨウツベは、ギリギリのところでその手を振り払った。
監督は『?』な顔でヨウツベを見る。
「そうじゃなくて!! 勝手に何やってんですかって言ってるんですよ!! ここは僕たちの共同住まいの土地なんで、無断で勝手なことしてもらっちゃ困ります!!」
ヨウツベの剣幕に『ああ、またこの手のクレームか』とうんざりした顔で監督はため息を吐くと、
「そう言われましてもねぇ、こっちも契約に従って動いているんですよ。苦情は依頼主の方にお願い出来ませんかねえ?」
と、聞く耳を持たない態度でそっぽを向いた。
「依頼主って……」
「村長さんですよ、あなた方の」
そう答えたのは現場監督ではなく、昨日の席にいたあの七三髪の営業マンだった。
その男は眼鏡をキラリと光らせると、
「この土地を資材置き場に使うことは、昨日お渡しした契約書に書いてあったはずです。……承知されているはずですか?」
ヨウツベたちをバカにしたように半笑いを浮かべる。
「承知も何も……そんなことどこにも書いてなかったし、そもそも契約自体、僕たちは承諾してませんよ!!」
「おやぁ? そうですか……おかしいですねぇ。まぁ、昨日用意したのは原本ではなく、適当にまとめた資料でしたからいくつか漏れがあったのでしょうね。しかし、向こう1ヶ月間、この広場の使用権はたしかに我々にあります。これは町議会及び村長と交わした正式な契約です。必要とあらば後でいくらでも確認しておいてください」
淡々と一方的な説明をし、七三眼鏡は懐から名刺を取り出す。
「申し遅れました。私、株式会社『偽島組《ぎしまぐみ》』営業課長の偽島 誠《まこと》と申します。以後よろしくお願い致します」
丁寧にそれを差しだすと、形だけは礼儀正しく深く頭を下げた。
ヨウツベとアニオタはその名前を唖然と見つめながら、
「い、いや、だけど契約って……ここに住んでいる僕らになんの話も許可もなく、そんな事を言われても納得できないですよ、あまりに横暴だ!!」
食い下がり、文句を言うヨウツベに『やれやれ面倒臭い』というため息を隠そうともせず偽島は言った。
「……あなた方、確か……ここにはタダ同然で住んでいらっしゃるとお聞きしましたけれど?」
「そ、そ、そうですが。それが何か? 関係あるんですか!?」
「いえ……ただ、そんなあなた方に援助をしておられるNPO法人……そちらの方とも、なんならお話してもいいかなと思いましてね?」
「どういうことですか?」
ヨウツベの強張った顔を見て偽島はクククと笑う。
「いえね、メガソーラーの管理室も建てなければいけないんですが……こちらの建物……かなり傷んでいますが、その程度なら使えるかなと思いましてね」
「な、な……!?」
「築何十年ですかねえ? 新たに小屋を作る金額を考えれば……充分買い取れると思いますよ? 補修費を込めてもお釣りが来るかも知れません。さて、そうなるとここの住人には出ていってもらわねばいけなくなりますが?」
笑いをそのままに、ヨウツベに態度の改善を目で要求する偽島。
「……ひ……卑怯だぞ……」
相手の出方を理解し、自分たちではとうてい太刀打ちできない事も悟ったヨウツベは悔しさに肩を震わせ唇を噛む。
その負け犬顔を眺めて偽島は満足げにバカにした笑いを深めるが―――そこに、
「どうした、ヨウツベ。戦う前から押されていては勝てる戦も勝てなくなるぞ?」
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