上 下
60 / 274

第59話 偽島組①

しおりを挟む
 ……ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご。

 激しい振動とともに荒いエンジン音が聞こえてくる。
 ガシャンガシャンという金属がぶつかり合う音と「オーライオーライ!!」と、遠慮のない作業員の叫び声も響いてきて、昨夜も徹夜でネット対戦をしていたモジョはうるさそうに寝返りをうつ。

 時刻は朝の8時を少し回った頃。
 側のオンボロソファーで寝ていたぬか娘もしばらく耳を塞いでモゾモゾ蠢いていたが、

「…………?…………っ!?」

 やがて異変に気が付くと、ガバッっと飛び起き窓に張り付いた。

「……な、な、な…………!?」

 窓から見える校庭には、いつの間にかコンクリートや鉄筋資材が山ほど積まれ、クレーン車など工事用重機がグラウンドの土を巻き上げながら移動していた。

「ちょちょちょ、ちょっとモジョ、起きて起きて、大変、大変だよ!!」

 その光景に驚き、すっかり目を覚ましてしまったぬか娘はペシペシペシとモジョの頬を連打して夏布団をめくる。

「……んぁ~~~~ぁんだぁ? アンジュルージュのやつらがぁ……リベンジしてきたのかぁ……いいだろうよ~~……やってやんよぉぉぉぉぉぉ……」

 転がり寝ぼけ起きたモジョは、枕元に常設してあるマウスとキーボードに両手を置いて臨戦態勢を整えた。

「違う違う、そりゃ昨日あんたがボコボコにしてたフランスのチームでしょう? そうじゃなくて校庭が大変なのよ、なんか知らない人たちが色んなモノ運んで来てるのよ!!」




「ちょっとちょっと、何ですかこれは!? 急に敷地内に入ってきて勝手に何やってるんですかあなた達はっ!?」

 騒音に起きたのはモジョたちだけではなかった。
 ヨウツベとアニオタも寝ぼけ眼をこすりながら校庭に出てきていた。
 奮然と文句を言ってくるパジャマ姿の男二人に、黄色いヘルメットをかぶった現場監督らしき中年男が振り向く。

「……ああ、おはようございます。こちらの住人の方ですね? お知らせしました通り、今日から1ヶ月間、こちらの広場を作業用資材置き場に使わせて頂きますのでよろしくお願いします」

 満面の笑みを浮かべて握手を求めてきた。

「え、あ、はい……よ、よろしくお願いしますぅぅぅぅぅ~~~~~~じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!」

 危うくつられて握手をしそうになったヨウツベは、ギリギリのところでその手を振り払った。
 監督は『?』な顔でヨウツベを見る。

「そうじゃなくて!! 勝手に何やってんですかって言ってるんですよ!! ここは僕たちの共同住まいの土地なんで、無断で勝手なことしてもらっちゃ困ります!!」

 ヨウツベの剣幕に『ああ、またこの手のクレームか』とうんざりした顔で監督はため息を吐くと、

「そう言われましてもねぇ、こっちも契約に従って動いているんですよ。苦情は依頼主の方にお願い出来ませんかねえ?」

 と、聞く耳を持たない態度でそっぽを向いた。

「依頼主って……」
「村長さんですよ、あなた方の」

 そう答えたのは現場監督ではなく、昨日の席にいたあの七三髪の営業マンだった。
 その男は眼鏡をキラリと光らせると、

「この土地を資材置き場に使うことは、昨日お渡しした契約書に書いてあったはずです。……承知されているはずですか?」

 ヨウツベたちをバカにしたように半笑いを浮かべる。

「承知も何も……そんなことどこにも書いてなかったし、そもそも契約自体、僕たちは承諾してませんよ!!」
「おやぁ? そうですか……おかしいですねぇ。まぁ、昨日用意したのは原本ではなく、適当にまとめた資料でしたからいくつか漏れがあったのでしょうね。しかし、向こう1ヶ月間、この広場の使用権はたしかに我々にあります。これは町議会及び村長と交わした正式な契約です。必要とあらば後でいくらでも確認しておいてください」

 淡々と一方的な説明をし、七三眼鏡は懐から名刺を取り出す。

「申し遅れました。私、株式会社『偽島組《ぎしまぐみ》』営業課長の偽島 誠《まこと》と申します。以後よろしくお願い致します」

 丁寧にそれを差しだすと、形だけは礼儀正しく深く頭を下げた。
 ヨウツベとアニオタはその名前を唖然と見つめながら、

「い、いや、だけど契約って……ここに住んでいる僕らになんの話も許可もなく、そんな事を言われても納得できないですよ、あまりに横暴だ!!」

 食い下がり、文句を言うヨウツベに『やれやれ面倒臭い』というため息を隠そうともせず偽島は言った。

「……あなた方、確か……ここにはタダ同然で住んでいらっしゃるとお聞きしましたけれど?」
「そ、そ、そうですが。それが何か? 関係あるんですか!?」
「いえ……ただ、そんなあなた方に援助をしておられるNPO法人……そちらの方とも、なんならお話してもいいかなと思いましてね?」
「どういうことですか?」

 ヨウツベの強張った顔を見て偽島はクククと笑う。

「いえね、メガソーラーの管理室も建てなければいけないんですが……こちらの建物……かなり傷んでいますが、その程度なら使えるかなと思いましてね」
「な、な……!?」
「築何十年ですかねえ? 新たに小屋を作る金額を考えれば……充分買い取れると思いますよ? 補修費を込めてもお釣りが来るかも知れません。さて、そうなるとここの住人には出ていってもらわねばいけなくなりますが?」

 笑いをそのままに、ヨウツベに態度の改善を目で要求する偽島。

「……ひ……卑怯だぞ……」

 相手の出方を理解し、自分たちではとうてい太刀打ちできない事も悟ったヨウツベは悔しさに肩を震わせ唇を噛む。
 その負け犬顔を眺めて偽島は満足げにバカにした笑いを深めるが―――そこに、

「どうした、ヨウツベ。戦う前から押されていては勝てる戦も勝てなくなるぞ?」

 赤黒いオーラをメラメラと纏《まと》ったアルテマが怒りの表情とともに現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。

七彩 陽
ファンタジー
 異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。  しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?  この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。 『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。  実はヒロインも転生者!  クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?  クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?    そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!  異世界転生、痛快ラブコメディ。 どうぞよろしくお願いします!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...