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第57話 不気味な光
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家の裏にある小さな山。
山というか丘と言ってもいい程の、その小さな頂上付近に龍穴の祠(アルテマが転移してきた場所にあった祠)がある。
その側にある大樹に登り、アルテマはこの世界をあらためて見回していた。
360度パノラマに見える景色は元一たちの集落はもちろん、隣の集落やそのまた遠くの街まで山の隙間から見渡すことが出来た。
それを観察するに、周りを川に囲まれ、馬の蹄のように丸く型どられたこの土地がいかに特殊な地形かがよくわかる。
占いさんが言っていた。
ここはこの世界の『気』が集まる場所なのだと。
なるほど……確かに意味深げな形をしている。
神秘的と言ってもいい。
私がこの場所へ導かれたのも偶然ではないのだろう。
となれば、やはり元の世界に帰るには、この祠の秘密から調べる必要があるなとアルテマはあらためて思った。
しかし……。
「あそこのギラギラ……また増えているように見えるな……」
アルテマは先日、元一が面白く無さそうに説明してくれた『ソーラーパネル』とやらを観察してつぶやいた。
どうもこのあいだ見たときより規模が大きくなっている気がする……。
山の斜面を削って作られているソレは、下の小さな集落を見下ろすように偉そうに立っていて、その周辺で蠢いている作業機械とやらも含めて、何ともいけ好かない。
「お~~~~い、アルテマよ、そんな所にいつまでもいたら危ないぞ。そろそろ降りてこい。帰って昼飯にしよう」
元一が下から呼んでいる。
背中には異世界から送られてきた堕天の弓が背負われていて、手には三羽のウサギが握られていた。
「なんだもう狩ったのか? 隨分と早いじゃないか」
「うむ、この弓は不思議だな……引いて念じれば勝手に魔法の矢が装填されて、しかもそれが狙ったところに勝手に照準を合わせてくれる。あっという間にこれだけの獲物を仕留めてしまったわ」
「ああ、それは魔竜の本能がまだ残っているからな。標的を勝手に追って狙いを補助してくれるのだ……我が国でも高級品とされる魔法武具だ」
「……すごいな……こんな物はこっちの世界ではとても作れん。異世界の技術も大したものじゃな」
「なに、その代わりに薬は作れん。お互い様だ」
「そうだな。……で、アルテマよ。そのアミュレットの使い勝手はどうなのじゃ?」
ズルズルと降りてきたアルテマの首に光っている首飾りを指さして元一が聞く。
アルテマは今日も巫女服姿(ツノはハチマキで隠してある)で、その首には細かい装飾を施された鎖がぶら下がっていた。
「ああ、これか。……良いぞ、今日も午前中二人の悪魔憑きを除霊してやった。その魔力もきっちり収まっているぞ」
アルテマが異世界から送ってもらった物。
それは『吸魔《すいま》のアミュレット』であった。
これは吸収した魔素を術者の代わりに溜めておける魔法具で、これによりアルテマは自分の許容量の限界を超えた魔素をアミュレットの中に入れて持ち歩く事ができるようになった。
異世界へ薬を送って丸一日。
いまだジルからの連絡はないが、そんなに早く効果が確認できるものでもない。
それまでに、自分が抱えている問題を解決せねばとアルテマは考えていた。
「……モジョと一緒にやったゲームの中のアイテム『E缶』を使ってみて必要性を感じたのだ。これを身に着けて普段からコツコツ溜めておけばいざという時いくらでも魔法を使うことができるからな」
「そうじゃな。それに占いさんも随分とあの杖が気に入っているようじゃな?」
「ああ、あの退魔の杖もなかなかの魔法具じゃからの。しかし、いきなり使いこなすとは思わかなったぞ」
午前中の除霊では、出てきた悪魔の一匹を占いさんが倒してみせた。
いきなりアルテマの知らない呪文のようなものを唱え『悪霊退散!!』と叫ぶと、どこからか現れた桜吹雪とともに悪魔が消えたのだ。
相手が低級悪魔だったとはいえ、こちらの世界の者が、自分の補助無しに悪魔を倒してみせるなど……正直びっくりした。
「あれでも界隈じゃ有名な実力者じゃったらしいからな。……ワシにはさっぱりわからんが、こちらの世界にも妖怪や悪霊の類を退治する術もあるにはある。占いさんがそれを使いこなせたとしても……不思議じゃないのう」
「ただ……直接戦闘は得意じゃないそうだから、強い悪魔が出るようなときは元一や六段に助っ人を頼むことになるかも知れん。その時はまた頼むぞ」
「婆さんも歳だじゃからな、激しい戦いは無理だろう。少しでも危険じゃと思ったら遠慮するな。ワシが仕留めてやるわい」
アルテマに頼られたのが嬉しかったのか、元一は満面の笑みを浮かべてウサギを持ち上げてみせた。
「……その動物は食ったことがないが、うまいのか?」
「ああ、美味いとも。最近の若いもんは食わなくなったが、味はかしわ肉に似ているな。蛋白でどんな料理にも使えるが、ワシは大根と一緒に煮込むのが好きだ。三羽も捕れたし一羽は後でぬか娘にでも持っていってやってくれ。あいつらなら喜んで食うだろう」
「わかった。代わりにぬか漬けでも貰ってくれば良いのか?」
「わかっておるじゃないか。……あいつの漬物は美味いからな、上手に言ってたくさん貰ってきてくれ」
「わかった、ふふふ……こっちでも等価交換か。最近はこればっかりだな」
「ははは、そうじゃな。しかし金を使うよりこっちの方が好きじゃな。……何というか心が通い合う気がする」
ほのぼのと山道を並んで降りていく二人。
そこに、
「お~~~~い、ゲンさんよ~~!!」
道の先から元一を呼ぶ声が聞こえた、六段の声である。
「なんじゃーーーー?」
元一が大声で返事すると、しばらくして道を上がってきた六段が文句を言う。
「携帯ぐらい持って歩かんか!!」
「狩りに出ていたんだ。あんな玩具《オモチャ》懐に入れておいたらすぐ壊れてしまうわい」
しばらく探していたんだろう六段は、しょうがないなとムクレた顔で、汗だくになった額を拭う。
「まあいい、そんなことよりゲンさんに客じゃ。なんでも集落《ここ》の代表と話がしたいと言っておる」
「話し? ……誰がじゃ」
聞き返す元一に、六段は黙って遠い後ろを指差した。
その先には、先ほどアルテマが見たソーラーパネルが不気味な色を放って光っていた。
山というか丘と言ってもいい程の、その小さな頂上付近に龍穴の祠(アルテマが転移してきた場所にあった祠)がある。
その側にある大樹に登り、アルテマはこの世界をあらためて見回していた。
360度パノラマに見える景色は元一たちの集落はもちろん、隣の集落やそのまた遠くの街まで山の隙間から見渡すことが出来た。
それを観察するに、周りを川に囲まれ、馬の蹄のように丸く型どられたこの土地がいかに特殊な地形かがよくわかる。
占いさんが言っていた。
ここはこの世界の『気』が集まる場所なのだと。
なるほど……確かに意味深げな形をしている。
神秘的と言ってもいい。
私がこの場所へ導かれたのも偶然ではないのだろう。
となれば、やはり元の世界に帰るには、この祠の秘密から調べる必要があるなとアルテマはあらためて思った。
しかし……。
「あそこのギラギラ……また増えているように見えるな……」
アルテマは先日、元一が面白く無さそうに説明してくれた『ソーラーパネル』とやらを観察してつぶやいた。
どうもこのあいだ見たときより規模が大きくなっている気がする……。
山の斜面を削って作られているソレは、下の小さな集落を見下ろすように偉そうに立っていて、その周辺で蠢いている作業機械とやらも含めて、何ともいけ好かない。
「お~~~~い、アルテマよ、そんな所にいつまでもいたら危ないぞ。そろそろ降りてこい。帰って昼飯にしよう」
元一が下から呼んでいる。
背中には異世界から送られてきた堕天の弓が背負われていて、手には三羽のウサギが握られていた。
「なんだもう狩ったのか? 隨分と早いじゃないか」
「うむ、この弓は不思議だな……引いて念じれば勝手に魔法の矢が装填されて、しかもそれが狙ったところに勝手に照準を合わせてくれる。あっという間にこれだけの獲物を仕留めてしまったわ」
「ああ、それは魔竜の本能がまだ残っているからな。標的を勝手に追って狙いを補助してくれるのだ……我が国でも高級品とされる魔法武具だ」
「……すごいな……こんな物はこっちの世界ではとても作れん。異世界の技術も大したものじゃな」
「なに、その代わりに薬は作れん。お互い様だ」
「そうだな。……で、アルテマよ。そのアミュレットの使い勝手はどうなのじゃ?」
ズルズルと降りてきたアルテマの首に光っている首飾りを指さして元一が聞く。
アルテマは今日も巫女服姿(ツノはハチマキで隠してある)で、その首には細かい装飾を施された鎖がぶら下がっていた。
「ああ、これか。……良いぞ、今日も午前中二人の悪魔憑きを除霊してやった。その魔力もきっちり収まっているぞ」
アルテマが異世界から送ってもらった物。
それは『吸魔《すいま》のアミュレット』であった。
これは吸収した魔素を術者の代わりに溜めておける魔法具で、これによりアルテマは自分の許容量の限界を超えた魔素をアミュレットの中に入れて持ち歩く事ができるようになった。
異世界へ薬を送って丸一日。
いまだジルからの連絡はないが、そんなに早く効果が確認できるものでもない。
それまでに、自分が抱えている問題を解決せねばとアルテマは考えていた。
「……モジョと一緒にやったゲームの中のアイテム『E缶』を使ってみて必要性を感じたのだ。これを身に着けて普段からコツコツ溜めておけばいざという時いくらでも魔法を使うことができるからな」
「そうじゃな。それに占いさんも随分とあの杖が気に入っているようじゃな?」
「ああ、あの退魔の杖もなかなかの魔法具じゃからの。しかし、いきなり使いこなすとは思わかなったぞ」
午前中の除霊では、出てきた悪魔の一匹を占いさんが倒してみせた。
いきなりアルテマの知らない呪文のようなものを唱え『悪霊退散!!』と叫ぶと、どこからか現れた桜吹雪とともに悪魔が消えたのだ。
相手が低級悪魔だったとはいえ、こちらの世界の者が、自分の補助無しに悪魔を倒してみせるなど……正直びっくりした。
「あれでも界隈じゃ有名な実力者じゃったらしいからな。……ワシにはさっぱりわからんが、こちらの世界にも妖怪や悪霊の類を退治する術もあるにはある。占いさんがそれを使いこなせたとしても……不思議じゃないのう」
「ただ……直接戦闘は得意じゃないそうだから、強い悪魔が出るようなときは元一や六段に助っ人を頼むことになるかも知れん。その時はまた頼むぞ」
「婆さんも歳だじゃからな、激しい戦いは無理だろう。少しでも危険じゃと思ったら遠慮するな。ワシが仕留めてやるわい」
アルテマに頼られたのが嬉しかったのか、元一は満面の笑みを浮かべてウサギを持ち上げてみせた。
「……その動物は食ったことがないが、うまいのか?」
「ああ、美味いとも。最近の若いもんは食わなくなったが、味はかしわ肉に似ているな。蛋白でどんな料理にも使えるが、ワシは大根と一緒に煮込むのが好きだ。三羽も捕れたし一羽は後でぬか娘にでも持っていってやってくれ。あいつらなら喜んで食うだろう」
「わかった。代わりにぬか漬けでも貰ってくれば良いのか?」
「わかっておるじゃないか。……あいつの漬物は美味いからな、上手に言ってたくさん貰ってきてくれ」
「わかった、ふふふ……こっちでも等価交換か。最近はこればっかりだな」
「ははは、そうじゃな。しかし金を使うよりこっちの方が好きじゃな。……何というか心が通い合う気がする」
ほのぼのと山道を並んで降りていく二人。
そこに、
「お~~~~い、ゲンさんよ~~!!」
道の先から元一を呼ぶ声が聞こえた、六段の声である。
「なんじゃーーーー?」
元一が大声で返事すると、しばらくして道を上がってきた六段が文句を言う。
「携帯ぐらい持って歩かんか!!」
「狩りに出ていたんだ。あんな玩具《オモチャ》懐に入れておいたらすぐ壊れてしまうわい」
しばらく探していたんだろう六段は、しょうがないなとムクレた顔で、汗だくになった額を拭う。
「まあいい、そんなことよりゲンさんに客じゃ。なんでも集落《ここ》の代表と話がしたいと言っておる」
「話し? ……誰がじゃ」
聞き返す元一に、六段は黙って遠い後ろを指差した。
その先には、先ほどアルテマが見たソーラーパネルが不気味な色を放って光っていた。
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