39 / 262
第38話 限界突破バケツリレー
しおりを挟む
「さ……砂金、砂金んんんん~~~~ぐふぐふぐふふ」
目に¥の記号を浮かべ、アニオタが涎を垂らしている。
送っている水の対価として設定している金が、送った水の分だけ砂金となってこちらに送られてきているのだ。
今度は土に返したりはしないぞと、放水の下に寝転んで、さらさらと流れ落ちてくる砂金を器用にカレー皿に受け止めていた。
「う……う、うほうほ……どんどん……どんどん溜まるぞ……こ、これを換金すれば、ら、ら、ら、来月発売の魔法男の娘リリカル正太くんの着せ替えモデルが、よ、よ、よ、予約できるかも~~~~!!」
目を光らせて興奮するアニオタだが、
「馬鹿野郎、そんなものよりGOポロⅫを買うんだよ。これからスクープがバンバン撮れるんだからな!!」
ヨウツベがそれに待ったをかける。
「だから、動画を売るなって言ってるんでしょが!!」
ぬか娘がそんなヨウツベの横腹をつねる。
「い、痛でででで!! う、売るなんて言ってないだろ、記録、あくまで記録!!」
「……どうでもいいが、お前ら水道代のこと忘れるなよ?」
わちゃわちゃ騒いでいる若者たちに元一がボソリと忠告した。
「……は? 水道代とは」
目を点にするアニオタとヨウツベ。
「……あれのことだよ」
校舎の壁に設置されている水道メーターを指差しモジョが答える。
メーターはぐるぐるぐるぐると、かつて見たことがない速さで高速回転していた。
「い、いやいやいやいや、でもこれは、みんなから異世界への援助では?」
「だれもそんなことは言っとらんわ。等価交換だと言っておるんだ。この水の代金は送られてきた砂金で補うからな。街に行ったついでにでも、ワシが円に替えてきてやるわい」
「……そ、そんなぁ~~~~……」
せっかくの臨時収入と思い、あれこれ欲しいものを思い浮かべていた二人は、がっかりと力が抜けて、その場にパッタリと突っ伏した。
『さ、あなたたち、どんどん、どんどん運び出すのですよ!!』
思っていた百倍の勢いで送られてくる異世界の水。
ずぶ濡れになったジルは、服が透けるのもいとわず王宮を駆け巡り、大臣、兵士、使用人、とにかく目につく人間をかき集めてバケツリレーを組み上げる。
ほとんどの者が、何がどうなっているのか事情がわからず、目を白黒させてその繋がりに加わっていた。
『な、なんだこの水は!? 一体どこからこんな大量の水が湧いて出ている!??』
『知らん、なんでもジル様が鉱泉掘り当てたらしいぞ!!』
『城の中でか? それにジル様の法具部屋は上階にあるはずだろう!??』
『なんでもいい、とにかく貴重な水だ!! 石床に吸わせる前にとにかく運べ!!』
次々と送られてくる水が満たされた木桶。
城の者たちは、立場、役職、関係なく協力し、城の地下にある貯水槽にまで列を繋げ水を運んでいた。
いつか来るかもしれない籠城戦に備えて備えられていた貯水槽も、すでに空になっていたが、そこに異世界からの水道水がどんどんと溜まっていく。
その様を、尽きかけていた命運と重ねて涙ぐむ城の者たち。
『や、やったぞ……こ、これだけあれば、皆も乾きから開放される』
『待て、我々よりも先に前線の兵士だ。彼らに届けるんだこの水を!!』
『ああ、そうだな。どんなエールよりもこれはありがたいな!!』
自分たちも、飛び込みたいほどに乾いているが、それよりももっと過酷にさらされている仲間がいる。
彼らは誰一人、それを盗み飲む真似などせず、ただひたすら大事に運搬に専念していた。
「う……うぬぅぅぅぅぅぅ……」
水を送り初めてから30分ぐらい経っただろうか?
しだいにアルテマの顔色が悪くなってきた。
「ちょ、ちょっとアルテマちゃん大丈夫? ……なんか苦しそうだけど??」
「う……む、そろそろ魔力が尽きかけてきている……」
青い顔に玉の汗を浮かべながら苦しげに返事するアルテマ。
それを心配そうに見ているぬか娘、
「お、おい!! あまり無理をしてはいかんぞ!!」
「そうですよ、アルテマ。無茶だけはやめてちょうだいね」
節子が心配げにアルテマに寄って、元一がノズルを支えてやる。
「う……む、すまない。し、しかし、帝国の兵士はもっと辛い目に耐えているのだ、近衛騎士たる私がこれしきのことで参るわけにはいかん……!! しぼれるだけ、しぼりだす!!」
『ありがとうアルテマ。小さくなってしまった身体で、本来の力も出せないでしょうに、無理をさせていますね。……しかし、あなたの頑張りは、確かに皆を救っていますよ』
「し、師匠……!!」
ジルの嬉しい言葉に、いくぶんか救われた思いがしたアルテマ。
異なる世界へ落ちてなお、帝国のために働ける。
これほど名誉な事はない。
……どうだ、聖騎士クロードよ。
私はまだ生きて……お前たちに、いまも牙を剥いているぞ。
いずれこの身も返り咲き、今度はその喉元に牙を立ててやる。
ペテンな神にでも祈って、その時を待っていろ。
そう誓った瞬間――――ぶつ。
アルテマの意識が暗転した。
アルテマちゃん、アルテマちゃんと、呼ぶ声が遠くに聞こえる。
温かい感触に包まれながら、アルテマは深い眠りへと沈んでいった。
目に¥の記号を浮かべ、アニオタが涎を垂らしている。
送っている水の対価として設定している金が、送った水の分だけ砂金となってこちらに送られてきているのだ。
今度は土に返したりはしないぞと、放水の下に寝転んで、さらさらと流れ落ちてくる砂金を器用にカレー皿に受け止めていた。
「う……う、うほうほ……どんどん……どんどん溜まるぞ……こ、これを換金すれば、ら、ら、ら、来月発売の魔法男の娘リリカル正太くんの着せ替えモデルが、よ、よ、よ、予約できるかも~~~~!!」
目を光らせて興奮するアニオタだが、
「馬鹿野郎、そんなものよりGOポロⅫを買うんだよ。これからスクープがバンバン撮れるんだからな!!」
ヨウツベがそれに待ったをかける。
「だから、動画を売るなって言ってるんでしょが!!」
ぬか娘がそんなヨウツベの横腹をつねる。
「い、痛でででで!! う、売るなんて言ってないだろ、記録、あくまで記録!!」
「……どうでもいいが、お前ら水道代のこと忘れるなよ?」
わちゃわちゃ騒いでいる若者たちに元一がボソリと忠告した。
「……は? 水道代とは」
目を点にするアニオタとヨウツベ。
「……あれのことだよ」
校舎の壁に設置されている水道メーターを指差しモジョが答える。
メーターはぐるぐるぐるぐると、かつて見たことがない速さで高速回転していた。
「い、いやいやいやいや、でもこれは、みんなから異世界への援助では?」
「だれもそんなことは言っとらんわ。等価交換だと言っておるんだ。この水の代金は送られてきた砂金で補うからな。街に行ったついでにでも、ワシが円に替えてきてやるわい」
「……そ、そんなぁ~~~~……」
せっかくの臨時収入と思い、あれこれ欲しいものを思い浮かべていた二人は、がっかりと力が抜けて、その場にパッタリと突っ伏した。
『さ、あなたたち、どんどん、どんどん運び出すのですよ!!』
思っていた百倍の勢いで送られてくる異世界の水。
ずぶ濡れになったジルは、服が透けるのもいとわず王宮を駆け巡り、大臣、兵士、使用人、とにかく目につく人間をかき集めてバケツリレーを組み上げる。
ほとんどの者が、何がどうなっているのか事情がわからず、目を白黒させてその繋がりに加わっていた。
『な、なんだこの水は!? 一体どこからこんな大量の水が湧いて出ている!??』
『知らん、なんでもジル様が鉱泉掘り当てたらしいぞ!!』
『城の中でか? それにジル様の法具部屋は上階にあるはずだろう!??』
『なんでもいい、とにかく貴重な水だ!! 石床に吸わせる前にとにかく運べ!!』
次々と送られてくる水が満たされた木桶。
城の者たちは、立場、役職、関係なく協力し、城の地下にある貯水槽にまで列を繋げ水を運んでいた。
いつか来るかもしれない籠城戦に備えて備えられていた貯水槽も、すでに空になっていたが、そこに異世界からの水道水がどんどんと溜まっていく。
その様を、尽きかけていた命運と重ねて涙ぐむ城の者たち。
『や、やったぞ……こ、これだけあれば、皆も乾きから開放される』
『待て、我々よりも先に前線の兵士だ。彼らに届けるんだこの水を!!』
『ああ、そうだな。どんなエールよりもこれはありがたいな!!』
自分たちも、飛び込みたいほどに乾いているが、それよりももっと過酷にさらされている仲間がいる。
彼らは誰一人、それを盗み飲む真似などせず、ただひたすら大事に運搬に専念していた。
「う……うぬぅぅぅぅぅぅ……」
水を送り初めてから30分ぐらい経っただろうか?
しだいにアルテマの顔色が悪くなってきた。
「ちょ、ちょっとアルテマちゃん大丈夫? ……なんか苦しそうだけど??」
「う……む、そろそろ魔力が尽きかけてきている……」
青い顔に玉の汗を浮かべながら苦しげに返事するアルテマ。
それを心配そうに見ているぬか娘、
「お、おい!! あまり無理をしてはいかんぞ!!」
「そうですよ、アルテマ。無茶だけはやめてちょうだいね」
節子が心配げにアルテマに寄って、元一がノズルを支えてやる。
「う……む、すまない。し、しかし、帝国の兵士はもっと辛い目に耐えているのだ、近衛騎士たる私がこれしきのことで参るわけにはいかん……!! しぼれるだけ、しぼりだす!!」
『ありがとうアルテマ。小さくなってしまった身体で、本来の力も出せないでしょうに、無理をさせていますね。……しかし、あなたの頑張りは、確かに皆を救っていますよ』
「し、師匠……!!」
ジルの嬉しい言葉に、いくぶんか救われた思いがしたアルテマ。
異なる世界へ落ちてなお、帝国のために働ける。
これほど名誉な事はない。
……どうだ、聖騎士クロードよ。
私はまだ生きて……お前たちに、いまも牙を剥いているぞ。
いずれこの身も返り咲き、今度はその喉元に牙を立ててやる。
ペテンな神にでも祈って、その時を待っていろ。
そう誓った瞬間――――ぶつ。
アルテマの意識が暗転した。
アルテマちゃん、アルテマちゃんと、呼ぶ声が遠くに聞こえる。
温かい感触に包まれながら、アルテマは深い眠りへと沈んでいった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。
それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。
もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。
そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。
普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。
マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。
彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる