上 下
22 / 274

第21話 暗黒騎士の実力③

しおりを挟む
 ズンズンズンズン……!!

 悪魔の足音が通り過ぎていく。
 アルテマとぬか娘は、通りすがりの空き家へと入り込み、息を殺していた。

「行ったか……」
「……みたい」
「よし、今のうちに魔素が吸収できる物を探すんだ」

 アルテマは埃にまみれた部屋の中を色々物色し始める。

「探すったって……私には魔素なんてわかんないよ?」

 言われてアルテマは少し考え、

「魔素は人の感情からも生まれる。怒り、悲しみ、憂い、喜びなど様々な気持ちからな。そう言った思いが込められた物ならば、たいてい魔素は吸収出来る」
「……なるほど、それで占いさんの道具から?」
「そうだ。占いや祈りの対象になる物には特に溜まりやすい。信仰系のアイテムとかな。そういうのは無いか?」
「それなら仏壇とか」
「仏壇……祭壇の一種か? いいぞ、それはどこにある?」
「え~~~~と……多分、奥の座敷かなぁ? 私もこの家、入ったことないからわかんないけどさ」
「そういえばここに家主はいないのか? 随分、埃が溜まっているが……」
「昔は人が住んでたみたいだけど、もう何年も前に空き家になったみたい。この集落はそんな家がいっぱいあるよ?」

 座敷を探し、部屋を移動しながらぬか娘は言った。

「いっぱいだと? それは人が途絶えていると言うことか?」
「うん……昔はこの集落にも結構人がいたらしいんだけど、いまは私たちだけ」
「お前たちが住んでいるのも、かつての学び舎だったな……。どうして人が減っているのだ? 呪いか? それとも襲撃にでもあったか?」
「違う違う」

 おかしな解釈にぬか娘は苦笑いを浮かべて否定する。

「たんに田舎が不便だからとか、仕事を求めてとか……色んな理由でみんな都会に住みたがってるの。だからこんな山奥の村じゃどこでも人が減っていっているのよ」
「こんなに豊かな土地があってもか!?」
「だよね。そこんとこの価値がわからない人が多いのよコッチの世界って」

 やがてお座敷を見つけると、埃をかぶったままの仏壇もそこにあった。

「あった、あった。供養されてない、ラッキ~~♡ どうこれ、使えそう? ごほごほっ!!」

 フーーーーッと埃を吹いて自滅しながら、ぬか娘が聞いてくる。

「おお……うむ。魔素よ、我が元に集まれ」

 さっそくアルテマが手をかざすと、ほわっと弱い光が現れ、手に吸い込まれる。

「やった、すごいすごいっ!! いまのが魔素吸収?? これでオッケー? 戦えそう??」

 期待に胸膨らませ聞いてくるぬか娘だが、

「……いや、全然ダメだ……この程度では何の足しにもならん」
「あっちゃ~~……。さてはここの主人、いいかげんに信心してたなぁ……」
「……だろうな。他には無いか? べつに宗教に関係無くても構わないぞ。思い入れが強い物なら何でもいい」
「じ~~~~~~~~~~……」
「な、なんだ、私の顔をじっと見て。お、おい、やめろくっつくな!! スリスリするなっ!!」
「だってぇ~~私の気持ちも『思い』だよ。どうアルテマちゃん、感じる? 私の魔素、感じる??」
「や、やめろォ~~~~っ!!」

 しかし悲しきかな、ぬか娘の身体からホワホワと魔素の光が溢れ出す。

「げえぇ!?」
「あ~~~~やっぱりそうだ。見て見て、私のアルテマちゃんに対する思いが形になってる~~~~♡」

 そしてさらにちゅっちゅとアルテマの頬にキスをするぬか娘。
 するとさらに大きな光がその唇から現れる。

「どう? アルテマちゃん、どう? 私の思い、吸収してほら、吸収して!!」
「だからやめろぉ~~~~~~~~~~っ!!!!」

 段々と興奮して、いろいろ変なところを弄ってくるぬか娘。
 ドタバタと、暗闇でもつれ合う変態女性とイタイケな幼女。
 これはこれで大問題な話だが、いまは別の大問題が近づいて来ていた。

 ――――ズンズンズンズンっ!!!!

 悪魔の足音が徐々に大きくなってくる。
 どうやら騒ぎを察知されたらしい。

「まずいっ、は、離れろっ!!」
「あふんっ♡」

 ヨダレをたらし始めているぬか娘バカを蹴っ飛ばし、離れ、床に転がるアルテマ。
 その直後、

 ドカンッ――――バキバキバキャキャッ!!!!

 壁を破壊して悪魔ザクラウが飛び込んできた!!

『ちょこまかと見苦しいぞ暗黒騎士。観念して業火に……――――て、待てぃ!!』

 追い詰めたぞ、と勝ち誇る悪魔だが、すぐにその目が怒りに釣り上がる。
 目当ての暗黒騎士が、娘を置き去りにしてとっととその場から逃げ出していたからだ。

「ああんっ!! アルテマちゃん冷たい~~~~っ!!」
「悪魔よ、私の代わりにその娘をくれてやる!! 業火の贄にでも何にでも自由にするがいい!!」
『見くびるな!! 悪魔に妥協も代案もない!! 私の獲物はお前一人だ暗黒騎士よ!!!!』

取り残されたぬか娘を無視し、アルテマだけを追いかけていくザクラウ。

「だろうな。やはりコッチでも悪魔は堅物か!!」

 叫ぶと、アルテマは自らを囮とするように走った。

『我の魔力が欲しいのだろう? ならばかかって来ぬか、痴れ者よ!!』

 言われながらも、アルテマは自分の残存魔力を確認する。

 ――――まだだ、まだ全然足りない。

 奴を倒すにはまだまだ魔力が必要だ。
 どこかに、どこなにないか??
 深く、強い思いが積もったアイテムが!!

 やがて元一の家が見えてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖人様は自重せずに人生を楽しみます!

紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。 人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。 そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。 助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。 裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く! 『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』 ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。

七彩 陽
ファンタジー
 異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。  しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?  この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。 『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。  実はヒロインも転生者!  クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?  クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?    そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!  異世界転生、痛快ラブコメディ。 どうぞよろしくお願いします!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...