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第19話 暗黒騎士の実力①

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「言われた通り、あるだけ持ってきたが……これでいいのか?」

 アルテマに頼まれて、占いさんの商売道具を全部持ってくる六段。
 数珠に筮竹《ぜいちく》、御札に妙な石ころなどなど。
 ごちゃごちゃと箱に詰められているそれを見て、アルテマはさっそく品定めを始める。

「よし……いける、魔素を感じるぞ……」

 その全てから大小様々な魔素を感じ、ニヤリと微笑むアルテマ。
 そして、

「魔素よ、我が元に集まれ」

 短く、力の言を唱える。
 すると様々な道具から光が現れ、それが玉となりアルテマの手に吸い込まれていく。

「な、なんじゃそれは!??」

 六段が不思議そうにその光景を見つめ、息を呑んだ。

「これは我々、暗黒騎士団の職業スキルで魔素吸収《ソウル・イート》と言う。魔素を放出する魔法とは逆で、魔素が込められたものからその力を拝借する秘術だ」
「ほぉ……よくわからんが、それでお前の魔法力が回復すると言うことか?」
「そう。しかしこの程度ではまだまだ……。だがその水晶玉は別格だ。それを使い、悪魔を召喚することが出来れば、元の世界と通信出来るほどの魔力が手に入るかもしれん」

「ならば、なぜそれをせんのだ?」
「さっきも言っただろう? 呪いにより使用制限が掛かっているのだ」
「どういうことだ?」
「呪いには様々あるが……これは悪魔との契約不履行の時に付けられる烙印の呪いだ。これを付けられるとその召喚魔道具は機能しなくなる。おそらくだが、占いさんは、かつて悪魔との契約に失敗し、枷をはめられた。そして悪魔側から関係を断つ宣言として烙印の呪いを掛けられたのだろう」
「……そんなことが……」

 いつの間にやらたくさんの猫が集まってきて、占いさんの膝を取り合っている。
 その光景を見るに、とてもそんな危険な儀式を行っていた人物には見えないが……。

「ともかく、この水晶玉の呪いを解除するぞ。広場に移動しよう」



 そんなこんなでアルテマは『鉄の結束荘』前の広場にやってきた。
 雑草がちらほら生えている整備不足の校庭の真ん中に、例の水晶玉を置いてその前に仁王立つ。

「なんだなんだ、何をやるきだ?」
「なに? 悪魔召喚??」
「……なんでも、水晶に呪いをかけた悪魔を呼び出して退治するらしいですよ」
「マジですか!! これは動画に収めないと!!」
「あんた、それ公開したら味噌漬けにして焼いてやるからね」

 校舎からワラワラと若者メンバーも野次馬に集まってくる。
 六段は、ことの経緯をみなに説明すると、彼らは興奮してそれぞれに記録道具を用意して、その奇跡のイベントを今か今かと待ちわびる。

 アルテマの手には、占いさんの家から借りてきた一本の包丁が握られている。

「では悪魔祓いの儀を始めるぞ」

 水晶玉を前にして、アルテマはその包丁を天高く掲げ、呪文を唱えると、一同からどよめきが生まれた。

「魔神アルハラムに命ずる。汝、その御力の欠片を刃とし万物を滅する威を示せ――――魔呪浸刀《レリクス》」

 と、その呪文を受けて、包丁が赤黒い光を放ち始めた。

『おおおおお~~~~!!』
「す、凄い凄い!! アルテマちゃん、それなんて魔法!?? どんな魔法!?」

 興奮したぬか娘が六段に首根っこを摘まれながらワチャワチャ藻掻いている。

「これは魔法剣を作り出す付与魔法だ。この光を纏った剣は、時として岩をも断ち、時として魔神さえも穿つことが出来る」
「……魔の付加を付けたのか……」

 モジョが呟く。

「その通り。一時の間だが、この借り物の包丁は魔剣へと昇華したのだ。名付けるならば、魔剣ええと……えっちゅうび…てんもりまる?」

 包丁に掘られている名を読もうとしたが複雑でよくわからなかった。

「何でもいいが、大丈夫か? いくら強化したとてそんな包丁で悪魔と相対するなど……」

 六段が占いさんをおんぶしながら心配そうに聞いてくる。
 だがアルテマは自信たっぷりに胸を張って、

「大丈夫だ、私は暗黒騎士。悪魔の扱いなら慣れている。魔法剣さえあれば奴らなど恐れるに足らんわ」

 占い道具から吸収した魔素は、あと一回分の魔法を使う魔力しか生み出せていない。しかし魔法剣を装備したアルテマはそれで充分だと余裕を見せる。

「きゃーっ!! アルテマちゃんカッコいい!!」
「ふむ……いよいよ異世界暗黒騎士様の戦いというものが見られるというわけですね。これは、熱いですぞ……と、予備のバッテリーバッテリー!!」
「うむ、では始めるぞ」

 軽くうなずくと、アルテマは次の呪文を唱え始める。

「闇に紛れし魔の傀儡、その怨霊よ。姿を現し、その呪縛を火雷とともに溶かせよ。――――呪縛《スパウス》」

 解呪の魔法を唱えると、

 ――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

 地面が揺れ、水晶玉が宙に浮き始めた!!

「な、な、なんだこれは……」
「す、凄い……こ、こんなことが……」

 浮いた水晶玉はバチバチと稲妻のような火花を散らす。
 そしてその後ろに山羊の頭をした大きな悪魔の影が浮かび上がってきた。

 ――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

「あ……あれが……悪魔……!?」

 騒いでいたぬか娘もさすがにその禍々しい姿に身を縮め、迫力に冷や汗を流している。他の皆も同様。

 悪魔が言葉を思念にのせ、皆の頭へと響かせる。

『封印を解き……我を再び呼び出さんとする愚か者は貴様らか……?』
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 その威圧力と、目にした奇跡の光景に震え上がる人間たち。
 しかし、アルテマだけは不敵な笑みを浮かる。
 そして悪魔にこう返した。

「ああ、そうだ。ただし、愚かではない。我こそはサアトル帝国近衛暗黒騎士アルテマ・ザウザー。貴様を使役し、魂を食らう者よ」と。
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