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第16話 伝説のアイテム
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「……べつに、わたしたちも全く働いてないってわけじゃないぞ」
出来上がった即席うどんに粉末スープを入れながら、モジョは言い訳気味に口を尖らせた。
(――――うまっ!???)
先に仕上げてもらったうどんを啜りながら、アルテマはその美味さに感動して背筋を震わせる。
お湯を沸かした携帯釜戸もそうだが、この即席麺とやらもとんでもないアイテムじゃないか!? これだけの少ない手間で、これほどの美味を作り出せるとは……!?
「……週二くらいで畑仕事を手伝っているし、それぞれ独自の小遣い稼ぎもやっている。そうでなければ、さすがに生きてはいけないからな……」
栄養価も高く、日持ちもし、何より軽い!!
これを我が軍隊の兵糧として運用することが出来れば、帝国軍の戦力は飛躍的に強化されることは間違いない。
そうすれば聖王国のクソどもから領地を取り戻し、国民を貧困から開放してやることも夢の話ではない。
もし帝国に戻ることが出来るのならば、この即席麺とやらの製法はぜひ持ち帰りたい。いや、それ以前に開門揖盗《デモン・ザ・ホール》が使えれば、戻れなくとも伝えることが出来る。
――やはり、何とかして魔力を取り戻さねば。なんとしてでも。
「あ、これも食べる? アルテマちゃん♡」
いつの間にか拘束から抜け出したぬか娘が、なにやら小皿を持ってきてアルテマに差し出した。
上には萎びた野菜が乗っている。
「……? こ、これは何だ?」
「ぬか漬けだよ。元一さんや集落の人からよく野菜をもらうからさ、食べ切れない分はこうやって漬物にしておいてるんだ」
――――婬眼《フェアリーズ》。
『きゅうりをぬかで漬けた物。発酵食品。しょっぱいけどクセになるぞ』
「ほぉ、発酵食品? チーズみたいなものか?」
「ち~~~~ず……とはちょっと違うかな~~? っていうか異世界にもチーズってあるの?」
「ああ、ある。こっちの世界と同じものかどうかはわからんがな」
そうして出されたぬか漬けを一口ポリポリ食べてみる。
「ん!? んまい!!」
独特の香りがするが、ほどよい塩気と、熟成された旨味が口いっぱいに広がる。
なるほど、これは後引く味だとアルテマは立て続けにポリポリポリポリと口に放り込む。
「でしょ、私もこれ大好物なんだ~~。毎日丹精込めてぬか床育ててるんだよ? でもその匂いが染み付いちゃってさ、それでみんなからは『ぬか娘』って呼ばれてるんだ、えへへ。他にも色んな漬物つけてあるからまたご馳走するね♡」
嬉しくも照れくさそうに笑うぬか娘。
素朴な三つ編みと大きな丸メガネの下に、純粋で透き通った笑顔が浮かぶ。
……普通にしてくれれば可愛い娘なんだがな、とアルテマは勿体なさそうにその天使のような笑顔を見つめてもう一口食べた。
「……これは一体何なのだ??」
うどんとぬか漬けを平らげて、アルテマは側に置いてある妙な小物に興味を示した。
途端にモジョの目がキュピンと光る。
「ほほう……それに興味を持ったか、なかなかお目が高いな?」
「灰色の箱から線が伸びて、テレビとやらに繋がっているが?」
「そいつはゲーム機……今から約40年ほど前に作られた伝説のSGシリーズだよ」
「……伝説?? レアアイテムなのか!?」
「ああ、1980年代から始まるTVゲーム戦争の火付け役になった……わたしたちゲーマーの神とも言える存在。白い木馬と並ぶ神機だよ!!」
「……ちょっと何言ってるかわかんないが?」
とりあえず――――婬眼《フェアリーズ》。
『テレビゲーム機。玩具。大人も夢中だよ』
「……なんだ、玩具か」
アルテマの何気無い呟きに、
「玩具って言うなーーーーっ!! マシンって言えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
普段にはない、物凄い剣幕で怒り散らすモジョ。
何やら地雷を踏んでしまったようである。
それから半日ほど――――。
アルテマはそのゲーム機の素晴らしさをたっぷりと聞かされた上に、実際に遊ぶ羽目になってしまい気が付けばすっかり時間を立つのも忘れて没頭してしまっていた。
羽根の生えた卵を操作して進む横スクロールシューティングとやらをさせてもらったのだが、これがまた思いのほか楽しかった。
ぱーーぱーーぱっぱぱぱーーぱっぱぱぱっぱ~~~~ぱっぱ~~ぱ、ぱっぱ~~ぱ、ぱっぱ~~ぱ~~♪
という軽快な音楽も頭に張り付いて離れない。
「……異世界の遊びというものは……かくも摩訶不思議で……楽しきものだな」
真っ赤に充血した目でコントローラーを握るアルテマにモジョはすっかりご満悦で、
「そうだろうそうだろう。ゲームというのはな、もう一つの人生と同じだ!! これを知らずして世を語るなかれ!! そしてゲームを語るならSGシリーズを知らずして語るなかれ!!」
「いや、何言ってるかわからないが……とにかくこの『7WAYSHOT』とやらは買っておけばいいのか?」
ゲーム内店舗の商品を指差しアルテマが訊くと、階下から誰かが上がってくる足音が聞こえた。
「あ、あああ、あの~~ちょっといいかな~~……?」
階段の途中から人を呼ぶ声が聞こえる。
「あ~~!! 駄目だよ!! 二階は男子禁制なんだからね、そこまで!! そこまでだからねっ!!」
ぬか娘が部屋から顔を出して叫ぶ。
階段からひょっこりと顔だけだしてこちらを呼んでいたのはアニオタだった。
「なに、アニオタさん。……アルテマちゃんだったら貸さないわよ」
「い、い、いや……そのことなんだけど、セツさんがアルテマちゃんが帰って来ないって、ししし心配して探し回ってたらしくてさ。モ、モ、モ、モジョたちと遊んでるよって言ったら、ゲンさんと一緒に、い、い、いますぐ行くって……」
見ると外はすっかり暗くなっていた。
グラウンドには、目を三角にしてプンスカ歩いてくる元一と節子の姿が見えた。
出来上がった即席うどんに粉末スープを入れながら、モジョは言い訳気味に口を尖らせた。
(――――うまっ!???)
先に仕上げてもらったうどんを啜りながら、アルテマはその美味さに感動して背筋を震わせる。
お湯を沸かした携帯釜戸もそうだが、この即席麺とやらもとんでもないアイテムじゃないか!? これだけの少ない手間で、これほどの美味を作り出せるとは……!?
「……週二くらいで畑仕事を手伝っているし、それぞれ独自の小遣い稼ぎもやっている。そうでなければ、さすがに生きてはいけないからな……」
栄養価も高く、日持ちもし、何より軽い!!
これを我が軍隊の兵糧として運用することが出来れば、帝国軍の戦力は飛躍的に強化されることは間違いない。
そうすれば聖王国のクソどもから領地を取り戻し、国民を貧困から開放してやることも夢の話ではない。
もし帝国に戻ることが出来るのならば、この即席麺とやらの製法はぜひ持ち帰りたい。いや、それ以前に開門揖盗《デモン・ザ・ホール》が使えれば、戻れなくとも伝えることが出来る。
――やはり、何とかして魔力を取り戻さねば。なんとしてでも。
「あ、これも食べる? アルテマちゃん♡」
いつの間にか拘束から抜け出したぬか娘が、なにやら小皿を持ってきてアルテマに差し出した。
上には萎びた野菜が乗っている。
「……? こ、これは何だ?」
「ぬか漬けだよ。元一さんや集落の人からよく野菜をもらうからさ、食べ切れない分はこうやって漬物にしておいてるんだ」
――――婬眼《フェアリーズ》。
『きゅうりをぬかで漬けた物。発酵食品。しょっぱいけどクセになるぞ』
「ほぉ、発酵食品? チーズみたいなものか?」
「ち~~~~ず……とはちょっと違うかな~~? っていうか異世界にもチーズってあるの?」
「ああ、ある。こっちの世界と同じものかどうかはわからんがな」
そうして出されたぬか漬けを一口ポリポリ食べてみる。
「ん!? んまい!!」
独特の香りがするが、ほどよい塩気と、熟成された旨味が口いっぱいに広がる。
なるほど、これは後引く味だとアルテマは立て続けにポリポリポリポリと口に放り込む。
「でしょ、私もこれ大好物なんだ~~。毎日丹精込めてぬか床育ててるんだよ? でもその匂いが染み付いちゃってさ、それでみんなからは『ぬか娘』って呼ばれてるんだ、えへへ。他にも色んな漬物つけてあるからまたご馳走するね♡」
嬉しくも照れくさそうに笑うぬか娘。
素朴な三つ編みと大きな丸メガネの下に、純粋で透き通った笑顔が浮かぶ。
……普通にしてくれれば可愛い娘なんだがな、とアルテマは勿体なさそうにその天使のような笑顔を見つめてもう一口食べた。
「……これは一体何なのだ??」
うどんとぬか漬けを平らげて、アルテマは側に置いてある妙な小物に興味を示した。
途端にモジョの目がキュピンと光る。
「ほほう……それに興味を持ったか、なかなかお目が高いな?」
「灰色の箱から線が伸びて、テレビとやらに繋がっているが?」
「そいつはゲーム機……今から約40年ほど前に作られた伝説のSGシリーズだよ」
「……伝説?? レアアイテムなのか!?」
「ああ、1980年代から始まるTVゲーム戦争の火付け役になった……わたしたちゲーマーの神とも言える存在。白い木馬と並ぶ神機だよ!!」
「……ちょっと何言ってるかわかんないが?」
とりあえず――――婬眼《フェアリーズ》。
『テレビゲーム機。玩具。大人も夢中だよ』
「……なんだ、玩具か」
アルテマの何気無い呟きに、
「玩具って言うなーーーーっ!! マシンって言えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
普段にはない、物凄い剣幕で怒り散らすモジョ。
何やら地雷を踏んでしまったようである。
それから半日ほど――――。
アルテマはそのゲーム機の素晴らしさをたっぷりと聞かされた上に、実際に遊ぶ羽目になってしまい気が付けばすっかり時間を立つのも忘れて没頭してしまっていた。
羽根の生えた卵を操作して進む横スクロールシューティングとやらをさせてもらったのだが、これがまた思いのほか楽しかった。
ぱーーぱーーぱっぱぱぱーーぱっぱぱぱっぱ~~~~ぱっぱ~~ぱ、ぱっぱ~~ぱ、ぱっぱ~~ぱ~~♪
という軽快な音楽も頭に張り付いて離れない。
「……異世界の遊びというものは……かくも摩訶不思議で……楽しきものだな」
真っ赤に充血した目でコントローラーを握るアルテマにモジョはすっかりご満悦で、
「そうだろうそうだろう。ゲームというのはな、もう一つの人生と同じだ!! これを知らずして世を語るなかれ!! そしてゲームを語るならSGシリーズを知らずして語るなかれ!!」
「いや、何言ってるかわからないが……とにかくこの『7WAYSHOT』とやらは買っておけばいいのか?」
ゲーム内店舗の商品を指差しアルテマが訊くと、階下から誰かが上がってくる足音が聞こえた。
「あ、あああ、あの~~ちょっといいかな~~……?」
階段の途中から人を呼ぶ声が聞こえる。
「あ~~!! 駄目だよ!! 二階は男子禁制なんだからね、そこまで!! そこまでだからねっ!!」
ぬか娘が部屋から顔を出して叫ぶ。
階段からひょっこりと顔だけだしてこちらを呼んでいたのはアニオタだった。
「なに、アニオタさん。……アルテマちゃんだったら貸さないわよ」
「い、い、いや……そのことなんだけど、セツさんがアルテマちゃんが帰って来ないって、ししし心配して探し回ってたらしくてさ。モ、モ、モ、モジョたちと遊んでるよって言ったら、ゲンさんと一緒に、い、い、いますぐ行くって……」
見ると外はすっかり暗くなっていた。
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