暗黒騎士様の町おこし ~魔族娘の異世界交易~

盛り塩

文字の大きさ
上 下
16 / 293

第15話 富と労働

しおりを挟む
「く……黒い炎だ……」
「マジか……驚きだな」

 ぬか娘は、はぁはぁと興奮し、モジョは額から汗を流して驚いている。
 黒い炎など現世には無いので当然である。
 その不思議な炎を見つめ、ぬか娘はさらに体をプルプルと震わせて感動し、

「す……すごい!! 私、魔法なんて見たの初めて~~~~!! ね、ね、教えて!! これ教えて~~~~!!」

 と、アルテマに抱きついてくる。

「むぐぉっ!? いや、お、教えてと言ってもなっ!! これは我が魔族にだけ伝わる神聖なる魔術で、それ以外の者に教えることは出来んのだ!!」

 おっぱいに押しつぶされながら藻掻くアルテマ。

「え~~~~そんなつれないこと言わないで~~!! 私、魔法使いになるのが夢だったの~~~~!!」
「い、いや、それに勉強と修練に何年もかかるものだし――――ぐぉ、むおぃ!!」

 興奮極まってスリスリと頬ずりしてくるぬか娘に背筋がゾゾゾと震える。

「おい、やめてやれ。キモがられてる」

 言って、デュクシッとぬか娘の脇腹にデュクシを決めるモジョ。

「あうぅっ!!」

 ビクリと跳ねて転がるぬか娘を蹴り飛ばし、アルテマは青ざめつつ胸を押さえてゼイゼイと息をついた。

「すまんな。根はいいヤツなんだがファンタジー的なものになると我を忘れる癖があってな」

 モジョがぬか娘へんたいを縛り上げながらアルテマに謝る。

「さっきは可愛いものを見るとかって、言ってなかったか!?」
「可愛くてファンタジーなモノに目が無いと言うことだ。つまりアルテマはこの女にとって、どストライクな意中の存在ということだな」

 猿ぐつわまで噛まされたぬか娘は、いまだムームー騒ぎつつ、つま先だけをピョコピョコ暴れさせている。
 その姿にゾッとしながらも、アルテマは今度は逆にモジョへと質問を返してみる。

「さ、さっき下で……ええと、ヨウツベとやらに聞いたのだが、お前たちは働かないで生活しているらしいな」
「おっと、そうか……聞いてしまったか。まぁ……自己紹介でも謎のニート集団とかこいつが言っていたからな。……で、それに何か文句でもあるのか?」

 ドロドロドロ……と、怨念めいたオーラを滲ませながらモジョが威嚇する目付きでアルテマを睨みつけてきた。
 あまり触れられたくない話題みたいだが……。

「いや、この世界での人の暮らしに意見するつもりはない。……ただ、私がいた世界では、そんな暮らしは余程大きな貴族くらいしか出来なかったものだからな……。失礼ながらお前たちはそこまで裕福な階級に見えない。なのに働かずに生きていけるとは……一体この世界はどれほど裕福なのだど……その、純粋に興味を持っただけだ」
「ほう……そうか」

 そう言われて少しオーラを引っ込めるモジョ。
 そして少し考えて、

「べつにこの世界の人間がみんな働いていないわけじゃない……むしろ働きすぎなくらい働いている。まぁ……そちらの世界と比べてどうかはわからんがな。ただ、わたしたちはそういう暮らしに疑問を持って主義を変えただけだ」
「……疑問?」
「……働くために生きるのか、生きるために働くのか。という問題だ」

 アルテマも少し考えて答える。

「……そんなもの、生きるために働くに決まっているだろう? 何かの謎掛けか?」

 首をかしげるアルテマにモジョは満足げに微笑むと、

「正解だ。……簡単な問題だろう? でもな……この世界にはこんな簡単な問題が解けない奴がわんさかいるんだ」
「?? わからんな? どういうことだ?」
「……食い物も、着るものも、住む場所も、充分あるのにまだ金を欲しがって……働き、浪費し、壊し、搾取するってことだよ」

 聞いて、アルテマは聖王国の貴族どもを思い出した。
 奴らも充分な富を持っているくせに、際限なく金を集めていた。それこそ今日にでも飢えて死ぬ貧乏人を蹴りつけてでも。

「なるほど、つまりお前らは欲を捨てて生きていると言うことか?」
「お? ……理解が早いなぁ~~……そういうことだよ。……人間生きていくのに米は三合、畳は一畳あればいいってな。…………それ以上を望むとろくなことにならない。……それにわたしたちは気付いたんだなぁ~~……」

 機嫌が良くなり、袖をパタパタと振って鼻を鳴らすモジョ。

「労働も、浪費も最小限にぃ~~……。あとは遊んでストレスいらず。地球にも環境にも優しく、人生も充実。……こんないい生き方が他にあろうか?」
「……確かに、それで生きていけたら最高なのだろうが……しかし、それはやはり国が豊かではないと出来ない相談ではないのか? そしてその豊かさを維持するのに労働と言うのはやはり必要なのではないのか? ……つまりお前たちはそんな豊かさに甘えて――――と、す、すまない。余計なことを言っているか?」

 ドロドロドロ……と、またもや怨念をにじみ出すモジョにアルテマは慌てて口をつむぐ。

「ぅぁあ~~……ぁ、え~~と、それでもその主義とやらは理解したぞ? 必要以上の贅沢は不幸しか生まないからな。食われる者も、最小限でいい。そういうことだろう? ならばそれは私も大賛成だ」

 ――――ぷしゅ~~ん……。

 その言葉を聞いて、またしぼんでくれるモジョ。
 ぬか娘もキツイがこの娘も大概だなと、アルテマはやれやれと汗を拭った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...