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第14話 鉄の結束団③
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「ようこそアルテマちゃん、私の住まいへ~~~~♡」
拉致られて放り込まれたのは『六年生』と表札が掲げられた広めの部屋だった。
部屋の壁には大きな黒板があり、対面の壁には簡素な机と椅子が山積みにして積まれている。
空いた床には畳が四枚ほど敷かれ、その上には畳まれた布団や何やらごちゃごちゃと生活用品が散乱している。
畳の隣にはボロボロのソファーが置かれていて、その上に毛布に包まれた大きなイモムシが寝転がっていた。
「……私の……じゃ、ないだろ。私たちの……だ」
イモムシがもぞもぞと蠢き、文句を言ってくる。
「あ、ごめ~~んモジョ。起こしちゃった?」
「ちゃったもクソも……なんの気も使ってない登場だっただろうが……。ん? なんだ、さっそく遊びに来たのかアルテマ……ほぁ~~~~ぁ……んふ……」
充血した目をこすりつつ、寝癖だらけのボサボサ髪で腹を掻き、大あくびをしながら聞いてくる。
「いや……その、そんなつもりは無かっだんだが」
アルテマが仏頂顔で答えると、モジョは全てを悟った顔で苦笑いした。
「あ~~~~……拉致られてきたのかぁ……。それはすまんかったなぁ……なにせウチの子は可愛いモノを見ると何でも持って帰る癖があってなぁ……」
「ちょっと、人を犬みたいに言わないでくれる!?」
「だったら隣の教室のガラクタを片付けたらどうだ? 捨てられたぬいぐるみやら玩具やら、どこかのクスリ屋の人形やらブリキの看板やら……埃臭くてしょうがないんだが……。一体どこからあんなモノ盗んでくるんだ……」
「あれは全部、私の宝物よ!! 手ぇだしたらモジョのゲームカセット全部中古屋に売るからねっ!!」
「お前それは人一人を殺すに値する行為だぞ……?」
「どうでもいいが、帰ってもいいか?」
バチバチと視線をぶつけ合う二人に、呆れ顔でアルテマが言うと、
「だめっ!!」
「まぁ茶でも飲んでけ」
と、同時に頭を押さえつけられた。
「朝飯を食うが、一緒にどうだ?」
「顔ぐらい洗ってきなさいよ、寝ぼけ顔がひどいわよ」
「寝不足はいつものことだ、昨日もずっと対戦プレイで……ろくに寝ていない」
言って、長いアホ毛を揺らしながら、ゆら~~りと白い箱をアルテマに渡してくるモジョ。
「? これは何だ?」
「カップ麺だよ。異世界の住人には珍しいだろう?」
「……食い物なのか?」
「ああそうだよ、これをな……こうして」
モジョはカップ麺の上蓋を剥がしてアルテマに中身を見せる。
「おお、これは確かに食べ物の匂い……しかし隨分と硬そうだな」
「このままだとな……でも、ここにお湯をかければ……」
モジョはキャンプ用のクッカーとバーナーで沸かしたお湯をそこに注ぐ。
「これで大体……五分待って出来上がりだ」
「ほぉ……?」
蓋を開けてお湯を注いだだけだぞ?
そんなもので一体どんな食い物が出来るというのだろうか?
それにお湯を沸かした道具も気になる。
――――婬眼《フェアリーズ》。
『野宿用携帯釜戸。可燃性のガスを燃やす。ポケットに入るよ』
『即席麺。うどん。後のせサクサクよりも先のせクタクタのほうが美味しいぞ』
まぁ……あまり有効な情報は得られなかったな。
しかし、携帯釜戸とは……帝国の兵士に渡したら泣いて喜ぶ一品だな。
などと考えていると。
「で!! アルテマちゃん、昨日の話の続きなんだけど!!」
ぬか娘が目をハートマークにして迫ってきた。
「お、お、お……おう……??」
「アルテマちゃんのいた世界ってどんなとこ!? 異世界なんでしょ!? やっぱり剣とか魔法とかドラゴンとかいるの!??」
今日は六段爺さんもいないので、これ幸いと聞きまくってくるぬか娘。
アルテマは若干引き気味になるが、しかし自分もこの世界のことをもっと知りたかったところなので、ここは情報交換も兼ねてひとつ話しをしてみようと思った。
「あ、ああ……あるぞ。……タブレットで調べたが、この世界の『異世界』にまつわる解釈は、だいたい私のいた世界の感じと似ている。政治体制や宗教、地域による特殊文化などは言ってもキリがないから省くが、お前の言う、いわゆる『剣と魔法の世界』というのが私のいた世界『ラゼルハイジャン』の平均的世界観と言って問題ないだろう」
「ま、ま、ま、ま、ま、魔法って使える!??」
間を血走らせ、はぁはぁ興奮しながらぬか娘はずいずいとアルテマに密着してくる。
「んむぐぐぐ……ちょ、ちょっと……」
抱きしめられ、お互いのほっぺたがくっつき合う。
その不快感にアルテマは鳥肌を立てて震え上がった。
「おい、止めてやれこの変態女。通報するぞ」
見かねたモジョが引き剥がしてくれて、なんとか開放されたアルテマはゼイゼイと肩で息をしながらとりあえずこの変態女との距離を取る。
「ああん、アルテマちゃ~~ん」
「すまん。こいつは私が押さえておくから話を続けてくれ」
「ああ、わ、わかった……」
モジョに羽交い締めにされ、身動きが取れなくなっているぬか娘。
安全を充分確認したアルテマは気を取り直し、続きを話し始めた。
「ま、魔法は……ここではほとんど使えない。この世界には魔素がほとんど無いみたいでな……唯一使えるのが探索系魔法くらいなのだが、これは残念ながら人に形として見せられるモノではなく、説明が難しい……」
言いながらもアルテマは人差し指を二人の前に突き出す。
「微小すぎて魔法と言うのも悲しいが、それでも見せられるモノと言ったら、今はこのぐらいしかない――――黒炎竜刃《アモン》!!」
アルテマは自分が使える唯一の攻撃呪文を唱えた。
すると――――ぽん。
可愛い音を立てて、黒色の炎がアルテマの指先にひとつ、灯された。
「……こんな炎では羽虫程度しか殺すことは出来んが……どうだろうか?」
ああ、情けない……と、落ち込みながら感想を聞くアルテマだが、しかしその炎を見る二人の目は驚きに見開かれていた。
拉致られて放り込まれたのは『六年生』と表札が掲げられた広めの部屋だった。
部屋の壁には大きな黒板があり、対面の壁には簡素な机と椅子が山積みにして積まれている。
空いた床には畳が四枚ほど敷かれ、その上には畳まれた布団や何やらごちゃごちゃと生活用品が散乱している。
畳の隣にはボロボロのソファーが置かれていて、その上に毛布に包まれた大きなイモムシが寝転がっていた。
「……私の……じゃ、ないだろ。私たちの……だ」
イモムシがもぞもぞと蠢き、文句を言ってくる。
「あ、ごめ~~んモジョ。起こしちゃった?」
「ちゃったもクソも……なんの気も使ってない登場だっただろうが……。ん? なんだ、さっそく遊びに来たのかアルテマ……ほぁ~~~~ぁ……んふ……」
充血した目をこすりつつ、寝癖だらけのボサボサ髪で腹を掻き、大あくびをしながら聞いてくる。
「いや……その、そんなつもりは無かっだんだが」
アルテマが仏頂顔で答えると、モジョは全てを悟った顔で苦笑いした。
「あ~~~~……拉致られてきたのかぁ……。それはすまんかったなぁ……なにせウチの子は可愛いモノを見ると何でも持って帰る癖があってなぁ……」
「ちょっと、人を犬みたいに言わないでくれる!?」
「だったら隣の教室のガラクタを片付けたらどうだ? 捨てられたぬいぐるみやら玩具やら、どこかのクスリ屋の人形やらブリキの看板やら……埃臭くてしょうがないんだが……。一体どこからあんなモノ盗んでくるんだ……」
「あれは全部、私の宝物よ!! 手ぇだしたらモジョのゲームカセット全部中古屋に売るからねっ!!」
「お前それは人一人を殺すに値する行為だぞ……?」
「どうでもいいが、帰ってもいいか?」
バチバチと視線をぶつけ合う二人に、呆れ顔でアルテマが言うと、
「だめっ!!」
「まぁ茶でも飲んでけ」
と、同時に頭を押さえつけられた。
「朝飯を食うが、一緒にどうだ?」
「顔ぐらい洗ってきなさいよ、寝ぼけ顔がひどいわよ」
「寝不足はいつものことだ、昨日もずっと対戦プレイで……ろくに寝ていない」
言って、長いアホ毛を揺らしながら、ゆら~~りと白い箱をアルテマに渡してくるモジョ。
「? これは何だ?」
「カップ麺だよ。異世界の住人には珍しいだろう?」
「……食い物なのか?」
「ああそうだよ、これをな……こうして」
モジョはカップ麺の上蓋を剥がしてアルテマに中身を見せる。
「おお、これは確かに食べ物の匂い……しかし隨分と硬そうだな」
「このままだとな……でも、ここにお湯をかければ……」
モジョはキャンプ用のクッカーとバーナーで沸かしたお湯をそこに注ぐ。
「これで大体……五分待って出来上がりだ」
「ほぉ……?」
蓋を開けてお湯を注いだだけだぞ?
そんなもので一体どんな食い物が出来るというのだろうか?
それにお湯を沸かした道具も気になる。
――――婬眼《フェアリーズ》。
『野宿用携帯釜戸。可燃性のガスを燃やす。ポケットに入るよ』
『即席麺。うどん。後のせサクサクよりも先のせクタクタのほうが美味しいぞ』
まぁ……あまり有効な情報は得られなかったな。
しかし、携帯釜戸とは……帝国の兵士に渡したら泣いて喜ぶ一品だな。
などと考えていると。
「で!! アルテマちゃん、昨日の話の続きなんだけど!!」
ぬか娘が目をハートマークにして迫ってきた。
「お、お、お……おう……??」
「アルテマちゃんのいた世界ってどんなとこ!? 異世界なんでしょ!? やっぱり剣とか魔法とかドラゴンとかいるの!??」
今日は六段爺さんもいないので、これ幸いと聞きまくってくるぬか娘。
アルテマは若干引き気味になるが、しかし自分もこの世界のことをもっと知りたかったところなので、ここは情報交換も兼ねてひとつ話しをしてみようと思った。
「あ、ああ……あるぞ。……タブレットで調べたが、この世界の『異世界』にまつわる解釈は、だいたい私のいた世界の感じと似ている。政治体制や宗教、地域による特殊文化などは言ってもキリがないから省くが、お前の言う、いわゆる『剣と魔法の世界』というのが私のいた世界『ラゼルハイジャン』の平均的世界観と言って問題ないだろう」
「ま、ま、ま、ま、ま、魔法って使える!??」
間を血走らせ、はぁはぁ興奮しながらぬか娘はずいずいとアルテマに密着してくる。
「んむぐぐぐ……ちょ、ちょっと……」
抱きしめられ、お互いのほっぺたがくっつき合う。
その不快感にアルテマは鳥肌を立てて震え上がった。
「おい、止めてやれこの変態女。通報するぞ」
見かねたモジョが引き剥がしてくれて、なんとか開放されたアルテマはゼイゼイと肩で息をしながらとりあえずこの変態女との距離を取る。
「ああん、アルテマちゃ~~ん」
「すまん。こいつは私が押さえておくから話を続けてくれ」
「ああ、わ、わかった……」
モジョに羽交い締めにされ、身動きが取れなくなっているぬか娘。
安全を充分確認したアルテマは気を取り直し、続きを話し始めた。
「ま、魔法は……ここではほとんど使えない。この世界には魔素がほとんど無いみたいでな……唯一使えるのが探索系魔法くらいなのだが、これは残念ながら人に形として見せられるモノではなく、説明が難しい……」
言いながらもアルテマは人差し指を二人の前に突き出す。
「微小すぎて魔法と言うのも悲しいが、それでも見せられるモノと言ったら、今はこのぐらいしかない――――黒炎竜刃《アモン》!!」
アルテマは自分が使える唯一の攻撃呪文を唱えた。
すると――――ぽん。
可愛い音を立てて、黒色の炎がアルテマの指先にひとつ、灯された。
「……こんな炎では羽虫程度しか殺すことは出来んが……どうだろうか?」
ああ、情けない……と、落ち込みながら感想を聞くアルテマだが、しかしその炎を見る二人の目は驚きに見開かれていた。
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