上 下
14 / 274

第13話 鉄の結束団②

しおりを挟む
「学校……?」

 アルテマが不思議な表情を浮かべ、そのプレートを眺めていると、

「ああ、元々ここは小学校だったんですよ。もうずいぶん前に廃校になって廃墟になっているところを僕たちが借り入れたんです」
「ほお?」
「僕たちって言うか、まあ、手配してくれたのはNPO法人の方なんですけどね」

 NPO……何のことだかわからないが、ともかく学び舎だった建物を拝借して住処に使っていると言うことか?
 まあ、使わなくなった施設を他に利用するというのは良いことだと思うが……しかし学び舎が必要なくなるとはどういうことだ?

 そういえば、ここの集落には子供の姿が見えない。

 タブレットで読んだ『少子化』とかいう現象なのだろうか?
 貧しい帝国の村ならばいざしらず、こんな豊かな世界で子孫を増やせないというのは一体どういうことだ?

 アルテマは深く首を傾げつつ、玄関へと入った。

「さ、どうぞどうぞ。あ、埃がひどいんであまり壁とか触らないほうがいいですよ」
「なに!?」

 サンダルを脱ぐため、無意識に下駄箱に手をついていたアルテマは、真っ白になった手を見て微妙な顔になった。

「すいませんね。なんせみんなズボラで適当なんで、自分の部屋以外は掃除しないんですよ」
「……お前たちは一体どういう集団なんだ??」

 用意されたボロボロのスリッパに履き替え、アルテナは尋ねた。

「昨日、ぬか娘も言っていたと思うんですけど、僕たちはみんなニートなんですよ」
「ニート??」
「ええ。……まぁ……何ていうか……。社会から離脱したというか……世捨て人というか……まぁつまり、働くのを放棄した若者のことなんですけどね」

 ちょっとバツが悪そうに説明するヨウツベ。
 それを聞いたアルテマはますますわからないといった顔で、

「働かない!? ……それでどうやって生きているんだ??」

 濁りのない素直な質問をぶつける。
 と言うのも帝国の場合ほとんどの民は、大の大人が朝から晩まで汗を流したとて、家族分の食いぶちすらもまともに稼げず、幼い子どもも教育を放棄して家族のために働いているくらいだ。
 貴族ならばいざしらず、どう見ても平民らしきこの者たちが不労働生活をしているなど、アルテマにとっては呆れるを通り越して不思議でしょうがない。

「う~~~~ん……まぁみんな、それぞれ少しは蓄えを持っているみたいですし、それを切り崩しながら……。あとは適当に気が向いた日にだけアルバイトですかね」
「……気が向いた日にだけ働く……だと?? それで生きていけるのか??」
「まぁ、ギリギリですね。みんな食べ物以外は極力お金を使いません。服とかアクセサリーとか化粧品とか、とにかくギリギリまで生活を切り詰めて……そのかわりストレスの無い穏やかな生活を送っているんです。僕たちはそういう生き方を選んだ人種の集まりなんですよ」

 言ってヨウツベは手にしている箱をアルテナに向ける。

「これはデジカメって言いまして。僕はこれで動画を取ってお小遣いを稼いでます」
「???」
「いいですねぇ~~アルテマさん。可愛いですね~~!! もうちょっと笑顔でお願い出来ますか?」

 と、カメラをアルテマの下から上へ、舐めるように這わせるヨウツベ。

 すると――――どどどどどどどどどどっ!!!!
 二回へ伸びる階段から、けたたましい足音が猛スピードで近づいてきた。

「何だ? ――――っ!?」 

 そちらを振り向くよりも早く、一つの影がアルテマの脇をすり抜け、

「アルテマちゃんにヤラしいカメラを向けんな、この変態チューバーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 叫びとともに、ヨウツベの首に渾身のラリアットが炸裂した!!

「ぐっはぁぁぁぁっ!!!!」

 吹き飛ばされるヨウツベ。
 そのお腹にさらに2,3発ケリを食らわしたその影はアルテマへと振り返ると、

「ようこそアルテマちゃ~~ん。どうしたのぉ? 遊びに来てくれたのぉ? あ~~ん、言ってくれたら迎えにいったのにぃ~~~~♡」

 と、アルテマに抱きつき頬ずりしてきた。
 黒髪三つ編み丸メガネ。ヨレたシャツに着古したジーンズ。
 ぬか娘である。

「こ……こら、き、きさま……アルテマさんは年上の貴族様だぞ……た、タメ口は止めんか……失礼だろうが――――ぐふ……」
「うっさい、ぺっ!!」

 息絶えるヨウツベに、ぬか娘はトドメのツバを吐きかけると、

「いいんでちゅもんね~~、アルテマちゃんは子供でちゅもんねぇ~~♡ ささ、お姉さんの部屋に行って遊びまちょうね~~~~♡」

 ぎゅ~~っとアルテマを抱きしめるとそのまま階段を上がっていく。

 突然の展開に身が固まってしまったアルテマは、青ざめた顔もそのままに、なすがままズルズルと拉致られていくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢の兄になったのですが、どうやら妹に執着されてます。そして何故か攻略対象からも溺愛されてます。

七彩 陽
ファンタジー
 異世界転生って主人公や何かしらイケメン体質でチートな感じじゃないの!?ゲームの中では全く名前すら聞いたことのないモブ。悪役令嬢の義兄クライヴだった。  しかしここは魔法もあるファンタジー世界!ダンジョンもあるんだって! ドキドキワクワクして、属性診断もしてもらったのにまさかの魔法使いこなせない!?  この世界を楽しみつつ、義妹が悪役にならないように後方支援すると決めたクライヴは、とにかく義妹を歪んだ性格にしないように寵愛することにした。 『乙女ゲームなんて関係ない、ハッピーエンドを目指すんだ!』と、はりきるのだが……。  実はヒロインも転生者!  クライヴはヒロインから攻略対象認定され、そのことに全く気付かず義妹は悪役令嬢まっしぐら!?  クライヴとヒロインによって、乙女ゲームは裏設定へと突入! 世界の破滅を防げるのか!?    そして何故か攻略対象(男)からも溺愛されて逃げられない!? 男なのにヒロインに!  異世界転生、痛快ラブコメディ。 どうぞよろしくお願いします!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...