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第257話 捕縛作戦㉙
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「どど、ど、どういうことでござるか、百恵どの!??」
再び活動し始めた雪の神に慌てながら、銀野は百恵に状況を確認する。
「どうもこうも……結界が足らん!! このままではコイツを押さえきれなくなるぞ!!」
リングのヒビがますます増えていって、いまにも砕け散りそうになっていた。
「吾輩も……よくわからんが、このリングには女将の結界が充填されていたらしい」
「なんと、あの女将の!?」
「ああ……女将の結界ならばJPAでも随一の強度じゃ。いかにマステマとはいえ抑え込めるとの姉貴の計算じゃろう。……じゃがこの雪の神…………それを遥かに上回るパワーを持っているようじゃ!!」
「し、し、ししし……神格化している最中ですからな!! 常識レベルの力などとうに超えているでござろうよ!!」
パキパキパキと、再び身を凍らせ銀野が叫ぶ。
つまり想定外の高出力にリングが破壊されかかっているということだ。
「な、ななな、ならばどうすればいいでござる!??」
雪の神のオーラが爆発的に上がってきた。
もはやリングは破壊寸前。
これが破壊されてしまったら、もう自分たちには対抗する手段がなくなってしまう。
「だからドミニオンじゃ!! このリングは充填式で、強い結界を込めさえすれば強度はそれだけ上がる!! 吾輩が進化し、結界を込め直す!! 先の火の鳥のパワーならば雪の神を凌ぐ結界を作り出せるはずじゃ!!」
「し、ししし、しかしこれ以上百恵殿に無理をさせたら、その身体、壊れてしまうでござるよ!!」
百恵は頭の良い少女だ。
そんなこと、いちいち言われなくてもわかっているだろう。
十分承知してなおドミニオンを使えと言っているのだ。
どのみちこのままでは全滅してしまう。
ならば自分一人を犠牲にこの場を収めろ、と。
銀野もその覚悟を理解したからこそ、確認はこの一回だけにした。
「かまわん、やれぃっ!!」
――――ドシュゥ!!!!
そう応える百恵の目にドミニオンが映った。
「すまぬでござる百恵殿!! エネルギー、送るでござる!!」
監視官の目になった銀野は早い判断を下す。
そして無慈悲に送られたその精神エネルギーは、
――――ドンッ!!!!
百恵の中で大きく弾けた!!
「ぐ……ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
百恵の顔が苦痛にゆがむ。
一度目の進化でボロボロになっていた肉体が悲鳴を上げる。
一瞬で意識が飛びそうになるが、
「――――ぬんっ!!」
唇を噛み抜くことでそれを無理やり引き戻す。
そして背中から紅に染まった翼が現れ、大きく羽ばたいた。
――――ゴッ!!!!
途端に巻き上がる熱波。
その灼熱に、部屋の氷は瞬時に消えてなくなる。
天敵の出現に怯《ひる》む雪の神。
「火の鳥……!??」
出現しかかったそれはしかし完全には現れてはこない。
それを受け入れられるほどの体力が百恵に残されていなかったからだ。
しかし百恵はそのまま結界術を使用する。
「ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
雄叫びとともに、青い光が炎となって燃え盛った!!
――――ブシッ、ブシッブシッ!!
全身の肉が裂け、血が吹き出す!!
しかし構わず崩れかかったリングを握りしめ、結界を注入した。
『グギャァァァァッァッ!!!!』
苦しみもがく雪の神。
リングが再び強度を取り戻し、束縛を深める。
外の吹雪も弱くなる。
しかし雪の神も大人しくはしていない。
椿の血肉をさらに取り込み、神格化を深めてきた!!
『グギュゥァァァァァァァァ!!』
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!!!」
リングが再び軋み始める!!
――――ダメか、これでもまだ足りないか!??
百恵は朦朧としながらも銀野を睨みつける。
「もっと……もっとだ……もっと吾輩に力を送れ…………」
「百恵殿……!!」
これ以上は本当に無理だ!!
もう崩壊しかかっているその小さな身体に、これ以上、一滴でも精神エネルギーを注入しようものなら――――その身体は霧散し、きっと跡形も残らなくなる。
かつて――――その経験が銀野にはあった。
その者は一瞬にして霧となり、魂さえも蒸発してしまった。
百恵の覚悟を理解したつもりの銀野だが、しかしここから先に踏み込む勇気が、冷酷な判断を下しきれないでいる。
「何をしている、送れっ!!」
「無理でござる!! これ以上はただ死ぬだけでは済まないでござるよ!??」
「――――くぅ!??」
その言葉にさしもの百恵も一瞬だけ恐怖の顔を作ってしまうが、
「て……」
椿の呻きが聞こえてきた。
彼女は泣きながら百恵を見ていた。
そして言っていた、
かすかな意識を使って、絞り出すように――――逃げて、と。
「吾輩はどうなってもかまわん!! いいから送れーーーーーーっ!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、反射で叫んでいた。
きっと、JPA戦闘班としての使命がそうさせたのだろう。
助けを求める者、仲間を逃がそうとする者を見捨てるなど、最初っから彼女の選択肢にはない。
『コォォォォォォォォォォォォォォォォ……』
徐々に徐々に、進んでくる雪の神の神格化。
飲み込まれていく椿。
リングの耐性も限界に達していた。
――――バキッ!!!!
鈍い音が走る。
「送れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「百恵殿っ!!」
彼女を犠牲にするしかないのか!?
一瞬の時間、銀野は苦悶に悶えた。
答えなど解りきっている。
彼女を犠牲にしようが、しまいが。
全滅するか、しないか、の差だけで百恵が死んでしまう結果に変わりはないのだ。
だから逃げろと言ったのだ。
足りないのは自分の覚悟だけ。
筆頭監視官という肩書きを持ちながら、覚悟で部下に負けていた。
「……面目なかったで……ござる」
銀野はようやくここで本当に覚悟を決めた。
再び活動し始めた雪の神に慌てながら、銀野は百恵に状況を確認する。
「どうもこうも……結界が足らん!! このままではコイツを押さえきれなくなるぞ!!」
リングのヒビがますます増えていって、いまにも砕け散りそうになっていた。
「吾輩も……よくわからんが、このリングには女将の結界が充填されていたらしい」
「なんと、あの女将の!?」
「ああ……女将の結界ならばJPAでも随一の強度じゃ。いかにマステマとはいえ抑え込めるとの姉貴の計算じゃろう。……じゃがこの雪の神…………それを遥かに上回るパワーを持っているようじゃ!!」
「し、し、ししし……神格化している最中ですからな!! 常識レベルの力などとうに超えているでござろうよ!!」
パキパキパキと、再び身を凍らせ銀野が叫ぶ。
つまり想定外の高出力にリングが破壊されかかっているということだ。
「な、ななな、ならばどうすればいいでござる!??」
雪の神のオーラが爆発的に上がってきた。
もはやリングは破壊寸前。
これが破壊されてしまったら、もう自分たちには対抗する手段がなくなってしまう。
「だからドミニオンじゃ!! このリングは充填式で、強い結界を込めさえすれば強度はそれだけ上がる!! 吾輩が進化し、結界を込め直す!! 先の火の鳥のパワーならば雪の神を凌ぐ結界を作り出せるはずじゃ!!」
「し、ししし、しかしこれ以上百恵殿に無理をさせたら、その身体、壊れてしまうでござるよ!!」
百恵は頭の良い少女だ。
そんなこと、いちいち言われなくてもわかっているだろう。
十分承知してなおドミニオンを使えと言っているのだ。
どのみちこのままでは全滅してしまう。
ならば自分一人を犠牲にこの場を収めろ、と。
銀野もその覚悟を理解したからこそ、確認はこの一回だけにした。
「かまわん、やれぃっ!!」
――――ドシュゥ!!!!
そう応える百恵の目にドミニオンが映った。
「すまぬでござる百恵殿!! エネルギー、送るでござる!!」
監視官の目になった銀野は早い判断を下す。
そして無慈悲に送られたその精神エネルギーは、
――――ドンッ!!!!
百恵の中で大きく弾けた!!
「ぐ……ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」
百恵の顔が苦痛にゆがむ。
一度目の進化でボロボロになっていた肉体が悲鳴を上げる。
一瞬で意識が飛びそうになるが、
「――――ぬんっ!!」
唇を噛み抜くことでそれを無理やり引き戻す。
そして背中から紅に染まった翼が現れ、大きく羽ばたいた。
――――ゴッ!!!!
途端に巻き上がる熱波。
その灼熱に、部屋の氷は瞬時に消えてなくなる。
天敵の出現に怯《ひる》む雪の神。
「火の鳥……!??」
出現しかかったそれはしかし完全には現れてはこない。
それを受け入れられるほどの体力が百恵に残されていなかったからだ。
しかし百恵はそのまま結界術を使用する。
「ぬうぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
雄叫びとともに、青い光が炎となって燃え盛った!!
――――ブシッ、ブシッブシッ!!
全身の肉が裂け、血が吹き出す!!
しかし構わず崩れかかったリングを握りしめ、結界を注入した。
『グギャァァァァッァッ!!!!』
苦しみもがく雪の神。
リングが再び強度を取り戻し、束縛を深める。
外の吹雪も弱くなる。
しかし雪の神も大人しくはしていない。
椿の血肉をさらに取り込み、神格化を深めてきた!!
『グギュゥァァァァァァァァ!!』
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!!!」
リングが再び軋み始める!!
――――ダメか、これでもまだ足りないか!??
百恵は朦朧としながらも銀野を睨みつける。
「もっと……もっとだ……もっと吾輩に力を送れ…………」
「百恵殿……!!」
これ以上は本当に無理だ!!
もう崩壊しかかっているその小さな身体に、これ以上、一滴でも精神エネルギーを注入しようものなら――――その身体は霧散し、きっと跡形も残らなくなる。
かつて――――その経験が銀野にはあった。
その者は一瞬にして霧となり、魂さえも蒸発してしまった。
百恵の覚悟を理解したつもりの銀野だが、しかしここから先に踏み込む勇気が、冷酷な判断を下しきれないでいる。
「何をしている、送れっ!!」
「無理でござる!! これ以上はただ死ぬだけでは済まないでござるよ!??」
「――――くぅ!??」
その言葉にさしもの百恵も一瞬だけ恐怖の顔を作ってしまうが、
「て……」
椿の呻きが聞こえてきた。
彼女は泣きながら百恵を見ていた。
そして言っていた、
かすかな意識を使って、絞り出すように――――逃げて、と。
「吾輩はどうなってもかまわん!! いいから送れーーーーーーっ!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、反射で叫んでいた。
きっと、JPA戦闘班としての使命がそうさせたのだろう。
助けを求める者、仲間を逃がそうとする者を見捨てるなど、最初っから彼女の選択肢にはない。
『コォォォォォォォォォォォォォォォォ……』
徐々に徐々に、進んでくる雪の神の神格化。
飲み込まれていく椿。
リングの耐性も限界に達していた。
――――バキッ!!!!
鈍い音が走る。
「送れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「百恵殿っ!!」
彼女を犠牲にするしかないのか!?
一瞬の時間、銀野は苦悶に悶えた。
答えなど解りきっている。
彼女を犠牲にしようが、しまいが。
全滅するか、しないか、の差だけで百恵が死んでしまう結果に変わりはないのだ。
だから逃げろと言ったのだ。
足りないのは自分の覚悟だけ。
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