超能力者の私生活

盛り塩

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第252話 捕縛作戦㉔

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 ぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっと精気を充填する。
 周囲に点在していた数十体の骸から、少しずつかき集めたものだ。

「……ふう……なんとか、生き返ったわ……」

 おデブさんフルチャージまでには回復出来なかったが、何とか標準体型くらいにまでは回復した。
 代わりにミイラ化してしまった一般の人たちに感謝の合掌をし、立ち上がった。

「う……」

 そういえば服が燃えてしまって素っ裸だった。

 なにか着るものがないかと周囲を見回す。
 しかし周辺の建物には服屋らしき店がない。
 あるとすれば、いま精気をいただいたミイラさんたちの衣服だが……しかし、精気を頂戴した上に身ぐるみまで剥いでしまっては……それはもうただの盗賊と変わらない。
 勝手な自己満足かもしてないが、その一線だけは超えたくなかった。

「あ、百恵ちゃん」

 遠くに百恵ちゃんの姿が見えた。
 そしてその前には、うずくまった椿の姿も見えた。

 椿はいつの間にか姿までベヒモスへと変わっていて、能力も進化していたようだが、それでも百恵ちゃんの力には及ばなかったようだ。
 怯えた狂犬のように威嚇しつつ、縮こまっている。

「――――菜々ちんは!?」

 あっちは百恵ちゃんに任せておけばいいだろう。
 私は菜々ちんの姿を探した。
 さっきの超高温照り焼き攻撃。
 もし菜々ちんがまだこの辺りに留まっていたのなら、彼女もきっとそれに巻き込まれているはず。

「…………あ!!」

 菜々ちんが乗っていたアメリカンバイクを見つける。
 火の鳥の熱にさらされタイヤが溶けてパンクしていたが、そこに菜々ちんはいなかった。でも、バイクがそこにあるってことは菜々ちんも遠くには行っていないはず。
 私は裸のままそのバイクの元へと走り出した。
 側までくると、混乱で事故停車しているバスの影に見知った足が横たわっているのが見えた。

「……あれは、菜々ちんのローファー?」

 間違いない、彼女がいつも履いている学校指定のもの。
 そこに慌てて走っていく。

「菜々ちん!?」

 焼けて、いまだに熱を持っているバスを回り込み、そこにうつ伏せになって倒れている彼女を見つけた。

「――――っ!??」

 彼女はやはり全身に大火傷を負っていた。
 制服はそのほとんどが焼け、開いた穴からは化繊と同化した皮膚が見える。
 髪の毛も熱で巻き上がり、全身は赤黒色に変色していた。

「菜々ちん!!」

 肩を抱き、顔を上に向ける。
 ――――っ!!
 顔も火傷を負っていて、とても見ていられる状態じゃない。

 息を確認する。
 僅かだが呼吸はあった。
 しかし火傷の具合から見てもそう長く持ちそうにない。

「ラミア!! 回復術、いますぐ菜々ちんを助けて!!」
『きゅるうぅぅぅぅ……』

 咄嗟にラミアに頼むが、しかし彼女は『それでいいのか?』と言った表情で私を見てくる。

 言いたいことはわかっている。

 回復術はあと一回……ギリギリ使える。
 しかしそれを使ってしまったら、私の精気はほとんどなくなってしまい、心身ともに動けなくなってしまうだろう。
 そうなると回復した菜々ちんの行動に、私は抗う術がない。

 いまの彼女は――――敵。

 きっと事情があるのだろうと信じているが、しかし立場的に敵対していることに変わりはない。
 もしいま、私が自分を犠牲に彼女を助けてしまったら……彼女は私を拉致するだろう。そして所長の元へと連れて行かれ、私は彼の野望の玩具にされるかもしれない。
 あの菜々ちんが私にそんなことをするとは考えたくないが、でも事実、私は運ばれかけていたから。
 だからいま彼女を助けるのは所長たちの軍門に降るのと同じことなのだ。

「――――くっ!??」

 他にまだ吸収できる素材がないか見回す。

 しかしここは繁華街のど真ん中。
 草木や樹木もありはしない。
 街路樹や雑草も、火の鳥の影響で全て燃えてしまっている。
 追加の精気はどこにもなかった。

 ならばまた二択だ。

 菜々ちんを救うか、見捨てるか。

 救えば私は敗北する。
 でも救わなければ、私は一生、その罪に身を焦がされることだろう。

 ――――破滅《ゲームオーバー》か? 懺悔《バットエンド》か?

 また天秤が現れた。

 どっちだ? どっちの地獄を選ぶんだと問うように。

 私は笑った。
 悩まなかった。
 そんなときどうすればいいか、私は知っていたからだ。
 破滅か、懺悔か? いや、違う。

 迷うべきはそこじゃない。

 菜々ちんのことが『好きか』『嫌いか』だ。

 そう、こんな時は――――バカになればいいのだ。
 そんなバカな私の答えは言わずもがな。

「ラミア、いいから回復術。もう後先なんてどうでもいいわ。私は彼女に死んで欲しくない!!」
『きゅう~~~~~~~~っ!!』

 一蓮托生とばかりにラミアも納得してくれた。
 そして私に頬ずりもしてくれた。
 彼女もこんなバカな私だからこそ好きでいてくれているみたいだ。

 黄金の光が菜々ちんを包んだ。
 みるみる火傷が治っていく。
 無茶苦茶になった髪の毛も、元のサラサラに戻り、ほとんど消えかかっていた呼吸も大きな波を取り戻していった。

 代わりに私の意識が昏倒し始める。

 身体からは一気に力が抜け、そして――――どしゃりと地面に崩れ落ちた。
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