超能力者の私生活

盛り塩

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第250話 捕縛作戦㉒

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「……な、何を……!? オジサマは椿に何をさせる気なのじゃっ!??」

 膨れ上がる威圧感に気圧されながら、百恵はそれでも逃げることなくその場にとどまった。

「……お、お、お大西所長は……椿どのを……その肉体までファントムに食わせるつもりでご、ごご、ござる」
「――――肉体を……じゃと!? そんな話は知らんぞ!! ファントムが肉を食らうなどありえん!!」

 精神体のファントムが物理的に人間を襲うことはない。
 精神を食らい、乗っ取った肉体を通じて危害を加えてくることはあってもファントム自体が噛みついてくることなど出来はしないのだ。

「い……いい、生贄……で、ござる」
「生贄じゃと!?」
「こ……古来より…………神格に至った霊体はその乱気を鎮めるため、人の血肉を欲したでござる……正しくは、欲するのは肉ではなく……魂のほうでござる」
「魂? 魂を食らうと言うのか!? 食らってどうなると言うのじゃ!??」
「く、くく、食らうと……神は気を鎮め、あ、あ、あるべく姿に戻るでござる……」

 膝をつき身をくねらせ、もがき始める椿。
 自我が崩壊していたはずの彼女の顔には表情が戻り、そこにはっきりと恐怖の色が浮かび上がっていた。
 そして湧き上がる強烈な冷気。
 バキバキバキと次々と凍りついていく部屋の内部。

「な、なんじゃ!? 攻撃してくるのか!?」

 咄嗟にガルーダを準備する百恵だが、もう精気がほとんど残っていない。ほんの小さな爆弾しか作れそうにない。
 これでは攻撃にも迎撃にも使えない。

 できるとすれば爆発を推進力利用した高速移動くらい。
 ならば銀野の言う通り、ここはいったん退避するべきか?
 しかし重傷の銀野を背負ってどこまで飛べるか?
 そう思案し、窓の外を見た百恵の目が驚きに引きつった。

「な、なんだ……これは……?? なにが起こっている!??」

 外は一面猛吹雪が荒れ狂っていた。
 見渡す一体が銀世界に覆われ、道も建物も、全てが凍りつこうとしている。

「あ……ああ、あ、あるべき姿……そそそ、それは万物の自然へと帰ること……山神は山に……海神は海へと変わるでござる…………そ、そして椿のファントムは氷の化身……その姿は氷へと戻るでござる、神の規模を以て……」
「神の……規模じゃと??」

 ビルどころじゃない。
 見渡す限りすべて――――地域レベルで凍りついていくその様に、百恵は言葉を失った。
 つまり椿のファントム『雪女郎』はマステマによって神格化し、そしていま椿の魂を生贄に自然の姿へと戻ろうとしているのか??
 そこにいる全てを巻き込んで!!

「百恵どの……逃げるでござる。少しでもここから離れて……結界で身を守るでござる。せ、せ、拙僧は……この傷……も、もう結界を張る力も残ってござらん…………く、悔しいでござるが、大西殿にしてやられたでござるよ」

 と、椿の背中からマステマがその姿を現した。

「――――!? オジサマっ!?」
『さあ、そろそろお別れだよ百恵くん。キミを残していくのは惜しいが銀野くんを仕留められたんだ、まあ良しとするよ。彼女の命を犠牲にした最後の攻撃だ、彼が言う通りキミだけはどうか逃げて生き残ってくれたまえよ?』

 そして再び椿の中へと消えるマステマ。
 入れ替わるように雪の神が現れて、その両腕を雄々しく広げる。
 冷気が一層強くなり、銀野の体が凍り始めた。

「……ぐっ!?」

 百恵は結界を張ってかろうじて耐えていたが、このままではすぐに耐えられなくなるだろう。
 くそ……どうする!? 逃げるか? それとも――――。

「あ、あああっ!! ……た、助け……て……!!」
 
 そのとき、喋るはずのない椿の口から言葉が発せられた。
 恐怖の涙とともに絞り出されたのは、助けを求める言葉。
 殺される直前に目覚めてしまうとは、それも神の悪戯なのだろうか。

 しかしその涙を見た瞬間、百恵は己の行動と覚悟を決めた。




「ぐ、あ、あちちちちちちっちいぃぃぃぃっ!!!!」

 灼熱と言うにはまだ足りない、ほとんど火あぶりのような業火の中、私は目を覚ました。
 ここはどこだと言うよりも、とにかく熱い!!
 わけがわからず無我夢中にその場から転がり出る私。

「――――!??」

 火の外に出た私はそこでようやく自分が炎上中のガソリンスタンドにいると理解してますます理解が追いつかない。
 しゅうしゅうと火傷した身体が回復していく。

『きゅぅ~~』

 ラミアが心配そうに頬ずりしてくる。
 彼女の姿は元の小さなマスコットに戻っていた。

「そうか……私、椿に凍らされて……意識を失ってたんだ」

 ドミニオンが消えていることで、逆になんとなく事態を察する。

「でもなんで私……こんなところで燃やされてたの?? っていうか椿は? エロ饅頭は???」

 慌てて立ち上がり、状況を理解しようと周囲を見渡すが、

 ――――ぐらり。
 視界が反転した。

 どしゃっと倒れる私。

「あ……れ、なんか力が……入らない……」
『きゅ~~~~~~~~……』

 ラミアが申し訳なさそうにうつむく。
 そうか……いまの回復で精気を使い果たしたのか。
 よくみると身体はガリガリにやせ細っていた。
 炎に焼かれ服も燃えてしまっている。

「……やばいぞ、このままじゃ素っ裸の衰弱死体の出来上がりだ」

 焼死体よりはマシかもしれないが、これはこれで嫌である。
 私はなんとか吸収できるモノがないか辺りを見回した。
 と、

「ど、どこに潜んでいるんじゃ貴様はーーーーーーーーーーっ!!!!」

 遥か上から、えらくご立腹な百恵ちゃんの叫びが聞こえてきた。
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