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第249話 捕縛作戦㉑
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「――――なにっ!??」
その映像を見て、百恵は青ざめた。
「銀野!! おい銀野っ!!」
念話で呼びかけてみるが応答がない。
というかドミニオンの憑依が解除されてしまったから、そもそも繋がっていない。
「くそっ!!」
状況を瞬時に理解して百恵ばビルへと飛び込んだ。
ドミニオンが最後に見せた景色、あれは刺される瞬間に銀野が飛ばしたSOSだったのだろう。
油断した。
百恵は舌打ちをする。
深手を負って逃げたものだと思いこんでしまった。
しかし、相手はベヒモス。
まともな判断と神経なんて持ち合わせていない。
自分を庇って逃走するなど人間的な行動を取るはずがない。
抜け殻となった椿はただマステマの指示に従うだけ。
オジサマが言っていた『椿の身体を犠牲にしてでも』と。
ならば椿の取る行動は一つだけ。
命を投げうっての玉砕である。
初めからそうだったはずだ、ただその標的が自分から銀野筆頭に変わっただけ。
おそらく自分のパワーアップを見て真に仕留めるべき人間は銀野だと判断を変えたのだろう。
そして自分の体からドミニオンが抜けたと言うことは、銀野にそれだけの余裕がなくなったってこと。
「くそっ!! やはり甘いことは考えるもんじゃないっ!!」
自分の未熟さと信念の緩さを悔いる。
自分は戦闘特化の能力者のはずだ。
一度敵と見定めたのなら何があってもブレるな!!
ゴンッ!!
頬を殴りつけながら百恵は走った。銀野の元へ。
銀野がいた女子更衣室の位置はだいたい感覚でわかっていた。
階段を駆け上がる。
上がりきった廊下を右に、そしてその先を真っ直ぐ辺りにあるはず!!
――――ぐにゃり。
「――――!?」
走る百恵の視界が、突然ゆがんだ。
「な、え? ……あっ!??」
足がもつれ、膝が上がらなくなる。
どしゃっ。
そして為す術もなく倒れ込んでしまう。
「――――う? な、なんだこれは……いきなり目眩が……体力もなくなって」
突如襲ってきた、ものすごい脱力感。
目が回り、全身の力が抜ける。吐き気もしてきた……。
「これは……まさか…………疲労……か?」
精神力までもが枯れて、強烈な眠気が襲ってくる。
百恵は直感で理解した。
――――これは反動だ、と。
ドミニオンから精神エネルギーを提供され一時的な進化をしたのはいいが、しかしその能力の上昇に百恵自身の器《たいりょく》がついて来られなかったのだ。
太陽フレアを転移させる。
そんな無茶苦茶な能力、たとえそれを行使するエネルギーを供給されていたとしても、それだけの出力をコントロールするのは自分の精神なのだ。
まだ未成熟なこの体で『火の鳥』などと分不相応だったということ。
いや、それこそがドミニオンの弱点なのだろう。
ほんの一時の進化を提供するその代償がこれなのだ。
「奴《ドミニオン》が憑依してから…………だいたい、5分……か、ふざけるなよ……そういうことは……先に言っておけ……」
ふらつく体を壁に預け、なんとか百恵は立ち上がる。
少し気を抜けば、たちまち気を失いそうになるほどの疲労感が襲ってきているが、こんなところで眠ってしまうわけにもいかない。
ズルズルと身を擦り付け、なんとか歩を進める。
たどり着いた先にオフィスがあった。
その先辺りに、あの阿呆が不法侵入しているはずの更衣室があるはずだ。
壁に身をつけ、よろめきながらそのオフィスへと踏み入る百恵。
その部屋の奥、とあるデスクの影に折り重なって倒れている二人の影があった。
「銀野……!?」
よろよろと、重い体を引きずりながら百恵はそちらへと向かう。
「百恵……殿」
百恵の姿を認めた銀野は彼女が疲労困憊なことに気付き、首を横に振った。
「ダ……メでござる。いま……すぐ、ここから逃げるでござるよ……ごふっ!!」
そう告げながら血を吐き出した。
見ると椿の両手に抱えられた大きな氷柱は銀野の胸を貫いていた。
そして百恵の気配に気付いた椿はその手を離し、ゆらりと立ち上がった。
『ふ、ふふふふふふふふ……やあ百恵くん、一足遅かったようだね』
『――――っ!? オジサマ』
念話で語りかけてくる大西に百恵は険しい顔で応答する。
『キミをぜひ仲間として迎えたかったんだがね……どうやらそれはもう叶わないようだよ』
『どういう意味ですか!?』
その質問には答えず、身体をくの字に折り曲げ唸りだす椿。
銀野は、大西が椿を使って何をするつもりなのか察する。
そして百恵に向かって叫んだ。
「だ、だだ、ダメでござる百恵殿……いますぐ、この部屋……いやビルから避難するでござるよっ!!」
「な、何を?? おヌシその怪我は!?」
「ぶ、ぶぶ、ぶ無様でござる……格好いいことを言っておきながらやられたでござる……すまぬ百恵どの、どうやら拙僧が甘すぎたみたいでござる……ごふっ」
唸りを上げる椿の身体がより大きく肥大化する。
皮膚はその膨張に耐えられなくなり、裂けて肉をはみ出させ血を吹き上がらせる。
そのただならぬ気配に、百恵は最大限の警戒《アラート》を背筋に走らせ身構えた。
その映像を見て、百恵は青ざめた。
「銀野!! おい銀野っ!!」
念話で呼びかけてみるが応答がない。
というかドミニオンの憑依が解除されてしまったから、そもそも繋がっていない。
「くそっ!!」
状況を瞬時に理解して百恵ばビルへと飛び込んだ。
ドミニオンが最後に見せた景色、あれは刺される瞬間に銀野が飛ばしたSOSだったのだろう。
油断した。
百恵は舌打ちをする。
深手を負って逃げたものだと思いこんでしまった。
しかし、相手はベヒモス。
まともな判断と神経なんて持ち合わせていない。
自分を庇って逃走するなど人間的な行動を取るはずがない。
抜け殻となった椿はただマステマの指示に従うだけ。
オジサマが言っていた『椿の身体を犠牲にしてでも』と。
ならば椿の取る行動は一つだけ。
命を投げうっての玉砕である。
初めからそうだったはずだ、ただその標的が自分から銀野筆頭に変わっただけ。
おそらく自分のパワーアップを見て真に仕留めるべき人間は銀野だと判断を変えたのだろう。
そして自分の体からドミニオンが抜けたと言うことは、銀野にそれだけの余裕がなくなったってこと。
「くそっ!! やはり甘いことは考えるもんじゃないっ!!」
自分の未熟さと信念の緩さを悔いる。
自分は戦闘特化の能力者のはずだ。
一度敵と見定めたのなら何があってもブレるな!!
ゴンッ!!
頬を殴りつけながら百恵は走った。銀野の元へ。
銀野がいた女子更衣室の位置はだいたい感覚でわかっていた。
階段を駆け上がる。
上がりきった廊下を右に、そしてその先を真っ直ぐ辺りにあるはず!!
――――ぐにゃり。
「――――!?」
走る百恵の視界が、突然ゆがんだ。
「な、え? ……あっ!??」
足がもつれ、膝が上がらなくなる。
どしゃっ。
そして為す術もなく倒れ込んでしまう。
「――――う? な、なんだこれは……いきなり目眩が……体力もなくなって」
突如襲ってきた、ものすごい脱力感。
目が回り、全身の力が抜ける。吐き気もしてきた……。
「これは……まさか…………疲労……か?」
精神力までもが枯れて、強烈な眠気が襲ってくる。
百恵は直感で理解した。
――――これは反動だ、と。
ドミニオンから精神エネルギーを提供され一時的な進化をしたのはいいが、しかしその能力の上昇に百恵自身の器《たいりょく》がついて来られなかったのだ。
太陽フレアを転移させる。
そんな無茶苦茶な能力、たとえそれを行使するエネルギーを供給されていたとしても、それだけの出力をコントロールするのは自分の精神なのだ。
まだ未成熟なこの体で『火の鳥』などと分不相応だったということ。
いや、それこそがドミニオンの弱点なのだろう。
ほんの一時の進化を提供するその代償がこれなのだ。
「奴《ドミニオン》が憑依してから…………だいたい、5分……か、ふざけるなよ……そういうことは……先に言っておけ……」
ふらつく体を壁に預け、なんとか百恵は立ち上がる。
少し気を抜けば、たちまち気を失いそうになるほどの疲労感が襲ってきているが、こんなところで眠ってしまうわけにもいかない。
ズルズルと身を擦り付け、なんとか歩を進める。
たどり着いた先にオフィスがあった。
その先辺りに、あの阿呆が不法侵入しているはずの更衣室があるはずだ。
壁に身をつけ、よろめきながらそのオフィスへと踏み入る百恵。
その部屋の奥、とあるデスクの影に折り重なって倒れている二人の影があった。
「銀野……!?」
よろよろと、重い体を引きずりながら百恵はそちらへと向かう。
「百恵……殿」
百恵の姿を認めた銀野は彼女が疲労困憊なことに気付き、首を横に振った。
「ダ……メでござる。いま……すぐ、ここから逃げるでござるよ……ごふっ!!」
そう告げながら血を吐き出した。
見ると椿の両手に抱えられた大きな氷柱は銀野の胸を貫いていた。
そして百恵の気配に気付いた椿はその手を離し、ゆらりと立ち上がった。
『ふ、ふふふふふふふふ……やあ百恵くん、一足遅かったようだね』
『――――っ!? オジサマ』
念話で語りかけてくる大西に百恵は険しい顔で応答する。
『キミをぜひ仲間として迎えたかったんだがね……どうやらそれはもう叶わないようだよ』
『どういう意味ですか!?』
その質問には答えず、身体をくの字に折り曲げ唸りだす椿。
銀野は、大西が椿を使って何をするつもりなのか察する。
そして百恵に向かって叫んだ。
「だ、だだ、ダメでござる百恵殿……いますぐ、この部屋……いやビルから避難するでござるよっ!!」
「な、何を?? おヌシその怪我は!?」
「ぶ、ぶぶ、ぶ無様でござる……格好いいことを言っておきながらやられたでござる……すまぬ百恵どの、どうやら拙僧が甘すぎたみたいでござる……ごふっ」
唸りを上げる椿の身体がより大きく肥大化する。
皮膚はその膨張に耐えられなくなり、裂けて肉をはみ出させ血を吹き上がらせる。
そのただならぬ気配に、百恵は最大限の警戒《アラート》を背筋に走らせ身構えた。
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